<憑依>恨みを晴らします③~掟~(完)

恨みを抱いて死んだ人間の代わりに、
その遺体に憑依して、恨みを晴らす死神ー

”掟”を破ってまで、
彼が、突き進む理由はー?
その先に待つものは…?

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真希子に憑依している死神は、
戸惑っていたー。

”いじめー”
自分はーー。

「----」
恨みを抱いたまま死んだ人間の遺体に憑依して
代わりに恨みを晴らすー

ただの退屈しのぎのつもりだったー

けれどー

”いじめ”という言葉を聞くたびにー
何か、心に突っかかるー。

そもそも、自分はいつから死神になったー?
元々の自分は、何者だったー?

そんなことを真希子の身体で考えているとー
錯乱した麗依菜が襲い掛かってきたー

真希子はそんな麗依菜を投げ飛ばすー

麗依菜が悲鳴を上げるー

「--わたしを自殺に追いやっておいて
 のうのうと生きるなんて、絶対に許さないー

 地獄を…味わえ」
真希子が低い声でそう呟くー

真希子に憑依していた死神はー
麗依菜の両親に憑依して自殺させたー

使用人たちに憑依して、記憶を消したー

麗依菜の父親の会社にも、”罠”を仕掛けたー
まもなく倒産するだろうー。

徹底的にー
麗依菜を孤立させるために
あらゆる細工をしたー

「--あんたには、もう、何もないー」
真希子が笑うー

他人から全てを奪うならー
自分が全てを奪われる覚悟も出来ているのだろう?

真希子に憑依した死神は、そう呟きながらー
立ち去って行ったー

”すべてを失った麗依菜は勝手に死ぬ”

真希子は笑うー

案の定ー
麗依菜は、数日後に失意のうちに自ら命を絶ったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あと、ふたりー」
真希子は月を見上げながら呟くー

ネットいじめの明日香と、
真希子を裏切った幼馴染の、愛唯ー

その二人をーーー

「---!」
真希子の周囲に、気付けば、
先日のツインテールの少女と、
別の男女ー
合計4人の人の気配がするー。

「----貴様は”掟”を破った」
ツインテールの少女が呟くー

他の3人も、真希子の方を見ているー

「-----…」

”掟”
死神たちの世界の掟を破れば
”永遠の闇”が待っているー

”退屈しのぎ”で始めた、
死んだ人間の恨みを晴らす行為ー

それは”死神が現世に干渉してはならない”という
掟を破ることに他ならないー

「-----貴様を”処分”する」
ツインテールの少女が目を赤く光らせるー。

他の3人も、真希子の方に手をかざすー

「---わ、、分かった!分かった!」
真希子が両手を上げて”降参”の態度を示すと
ツインテールの少女たちの動きが止まったー

「--…わかった。罰は受けるー。
 でも、、あと、、あと1日だけ待ってくれないか」
真希子が言うー

”いじめ”の残り二人を、なんとしても、始末したいー

「--」
ツインテールの少女が、真希子を睨むー

真希子に憑依していた死神は、
自分が、掟を破ってまで、見ず知らずの人間のために、
恨みを晴らそうとしている理由が
もはや、自分でもわからなくなっていたー

ただの退屈しのぎー?
いや、退屈しのぎで、自分の危険を冒すようなやつはいないー。

”俺は、何がしたいんだ?”
真希子に憑依している死神は戸惑うー

真希子の恨みを晴らしたところで何になるー?
自分がいじめられたわけでもないのに、どうしていじめっ子に怒りを抱くー?
退屈しのぎなら、こんなリスクを冒す必要はないのにー?

「---ダメだ。”長”がお怒りだ」
ツインテールの少女が言うー

真希子に憑依している死神は
”間違いなく”罰を受けることになるー

「----」
真希子は、走ったー
”追手の死神たち”から逃れるためにー

ガクガクと震える身体ー。
死神の力を持って抑え込んではいるものの、
真希子の身体は遺体ー
そろそろ限界が近づいているー

とにかくー
とにかく、あと二人ー
真希子をいじめていた二人を、始末したいー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「-----!」
いじめっ子のひとりー
明日香がスマホを見て表情を歪めるー

自殺したはずの真希子から、
鬼のような数のLINEが届いていたからだー

”呪”

”怨”

”恨”

恐ろしいメッセージが次々と送られてくるー

「は…はは…なにこれ…?」
明日香は戸惑う。

真希子は自殺したはずー
その真希子からLINEが届いているー

「だ…誰かのイタズラかなぁ…」
明日香がそんな風に呟きながら、
高校から下校しているとーー
突然、誰かに口をふさがれてー
近くの空き倉庫に連れ込まれたー

「----!?!?!?」
口をふさがれたままもがく明日香ー

空き倉庫の中に投げ飛ばされた明日香はー
自分を掴んだ人物を見て、驚くー

「ま、、、真希子!?」
明日香が悲鳴に似た声を上げるー

「----」
真希子の顔色は真っ青だー

明らかに”幽霊”と言わんばかりにー

「---……よくもわたしを殺したね…」
真希子が呟くー

声も、不気味に震えているー

真希子の身体の崩壊が進んでいるー
”死神の世界”の追っても迫っているー

もう、時間がないー

「---ひっ!?」
明日香がおびえるー

「--ネットを使ったいじめって、最低だよね」
真希子の憎しみのこもった言葉に、
明日香は反論するー

「--わ、、わたしは関係ないもん!」
とー。

明日香は主張したー
”真希子のフリをして、炎上発言をしたり
 真希子の恥ずかしい写真をネットに投稿したのは事実”

でもー
それを見て、誹謗中傷を繰り広げたり、
真希子のことを拡散させたのは、わたしじゃない、とー

「-悪いのはネットのやつらよ!
 わたしは、ただ、載せただけだもん!
 
 それを全部、わたしのせいにされたって…!」

見苦しい言い訳を続ける明日香ー

「もういいから」
真希子は呆れた様子でそう呟くと、
明日香にキスをしたーー

「---!?!?!?」
真希子に憑依していた、死神が、明日香に憑依したー

・・・・・・・・・・・・・・

「---ふふ」

後日ー
真希子は笑みを浮かべていたー

憑依された明日香は、自らエッチな自撮りや
動画をネット上に投稿したー

動画はたちまち拡散されー
そして、炎上もしたー

”-悪いのはネットのやつらよ!
 わたしは、ただ、載せただけだもん!”

そう、メモを書き残して、
真希子の身体に戻り、明日香をそのまま放置したー

明日香はもう、終わりだー

ネットいじめをしていた明日香が、
ネットに殺されるー

報いを受けることになるー

「--あと、一人」
真希子の身体は激しく痙攣していたー。

もう、時間がないー

「---!」
真希子に向かって、紫色の光が飛んでくるー

ツインテールの少女ー
”死神の世界”からの追手に憑依されている少女だー。

「---くそっ!」
それを回避する真希子ー

「--!」
別の死神たちに憑依された人間が、10人以上姿を現すー

”掟破り”に
”長”が激怒したー

全力で、真希子に憑依した死神を捕獲しにかかっているー。

「----俺は…俺はまだ!」
真希子はそう叫ぶと、必死に逃げ出したー

”あんたなんか、死んじゃえ”

いじめから助けてくれた真希子を裏切りー
挙句の果てに、自分をいじめていた麗依菜たちと仲良くし始めて
真希子をいじめ、真希子にとどめの言葉を言い放った
真希子の幼馴染ー愛唯。

一番の元凶とも言えるその存在をー
死神は許せなかったー

自分のことではないのにー

腐敗が進む真希子の身体ー

もうー
時間は残されていないー

朝ー
高校に登校しようと歩いている愛唯の前に、
真希子は姿を現したー

「真希子…」
愛唯が、真希子を見て少しだけ、驚いたー

「------」
真希子は、愛唯の反応を待つー。

だがー
愛唯はー

”わたしの身代わりになって、
 いじめられてくれて、ありがとうー”

と、クスッと、笑いながら耳打ちすると、
”成仏してね”とだけ、続けてー
そのまま立ち去って行こうとするー

「---------!!」
真希子に憑依していた死神は、
ハッとしたー

遠い昔ーーー

”俺の代わりになってくれて、サンキューな。
 あとは、、、好きに自殺でもなんでもしてくれよ”

ーーー

遠い昔ー
自分はーーー

死神は、”自分”が何者なのか、
どうして”死んだ人間の恨みを晴らそうとするのか”
どうして”いじめ”に固執したのかー
なんとなくわかった気がしたー
おぼろげな記憶ー

自分はーー
たぶんーー
元々は人間でーー

そしてーー

飛び降りたイメージが頭に浮かぶ死神ー

”そうかー
 俺自身も、いじめで”

そんな風に思いながらー
真希子は、隠し持っていたナイフで、
愛唯の首を切裂こうとしたー

本当は、時間をかけて復讐したいところだが、
もう、時間が、ないー

”もう、、やめて!”

ーー!?

愛唯の背後から、襲い掛かろうとしていた真希子は、
その言葉に、手を止めた。

”なぜだ!?”
真希子に憑依している死神は、真希子の意識に語り掛けたー

真希子が、泣いているー

”もう、十分ー”

とー。

真希子は、これまでの3人が始末される様子を
あの世の狭間から見ていたー

だがー
心優しい真希子には、もう耐えられなかったー

例え、自分をいじめていた相手であっても
ここまで無残に殺されることがー

それにー

”愛唯は、わたしの…わたしの大事な…友達なの”

真希子は、
自分を裏切った相手をー
まだ、”友達”と呼んだー

だがーーー

「ーーー黙れ!あともう少しなんだー!」
真希子が叫んだー
死神は、真希子の身体を乗っ取ったままー
愛唯に襲い掛かるー

愛唯が驚いて振り返るー

とっさに真希子のナイフを避ける愛唯ー

愛唯の腕に傷が出来るー

「--ひっ…な、、、何するの!」
愛唯が叫ぶー

「--いじめ…いじめは許さないー」
真希子がよろよろと歩きながら、
愛唯に近づいていくー

怯える愛唯ー
憎しみの目で、愛唯を睨む真希子ー

いつの間にかー
死神は”他人の恨みを晴らす”のではなくー
”私怨”で動き始めていたー

”ただの退屈しのぎ”
そう思って始めた”復讐”

でも、違ったー。

「--俺はお前をゆるさないぃぃぃぃ」
怨念を発しながら真希子が叫ぶー

「ひぃぃぃぃ!?」
愛唯が悲鳴を上げるー

だがー
真希子の身体は取り押さえられたー

他の死神たちにー

”掟破りー”

取り押さえられてー
無理やり真希子の遺体から、
引きはがされそうになる死神ー

愛唯が、驚いて、真希子の方を見ているー

”死神”自体は、愛唯には見えないー

何かに引きずられていく真希子の身体を見てー
愛唯は、ひらすら驚いているー

”俺はー”
死神は、思うー

自分が、何者なのか、
少しだけ、思い出したー

自分が、死んだ人間の恨みを、憑依で晴らしていたのはー
特に”いじめ”関係に敏感に反応していたのはー
きっとーー

自分も、いじめを苦にした、人間だからー

死神は、そう思ったー

”死神”たちは、大半が元人間だー。
”特定の条件”を満たした人間の魂が、
死神へと転生するー
元々の記憶はないがー
かすかにー
おぼろげに残っていたそれがー
この死神を、”憑依を使った復讐”に走らせたー

掟なんてどうでもいいー
永遠の闇なんてどうでもいいー

死神は、真希子の身体で叫ぶー

「お前はぁぁああああああああああ
 絶対に許さないぃぃぃぃぃぃぃ!

 助けてくれた友達を裏切って
 いじめっ子たちと一緒になって、、
 その子を自殺に追い込むなんて

 俺は…俺は、、ぜったいぁああ…」

真希子の身体が、崩れ落ちるー

他の死神によって、強引に
真希子に憑依していた死神は引きずりだされたー

愛唯が笑いだすー

「ーーーは、、はははは!
 許さない!?何が出来るの?
 死人に!」

愛唯が叫ぶー

死神は、真希子の身体に今一度包囲してー
せめて、この悪魔のような女だけはー

と、狂ったように叫ぶー

だがーー
それは叶わなかったー

真希子に憑依していた死神は、
他の死神に、引きずられて、”長”の前に差し出されー

そのまま
”永遠の闇”へと葬られてしまったー

”永遠の闇”

死神は、思うー

何も行動することも、
何も感じることもできないその空間ー

ルールが、
弱きものを助けー

ルールが、
弱きものを苦しめるー

悪が全部平等に裁かれる世界など、あり得ないー

時に、ルールは
愛唯のような悪党をも、助けてしまうー。

”復讐”は、正しいことではないのだろうー
復讐をすれば、更なる憎しみを生むー

でも、
それが正しいことでなかったとしても
”奪われた側”の怒りは、復讐でしか果たせないー

「---------」
死神は、永遠の闇に幽閉されながら
そんなことを考えたー

だが、自分が考えたところで、もうどうにもならないー

自分はー
死神としての務めを果たすこともできず、
掟を破りー
最後の最後で、恨みを晴らすこともできずー

全てにおいて中途半端だったー

「クク…中途半端な…死神か」
死神は、そう呟いて、静かに目を閉じたー

どうせもう、何もできないのならー
もうーー
何も考えることは、ないー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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ずいぶん前に浮かんだネタのひとつなのですが、
別作品を優先したために没になっていたネタを
8月に書きます!と予告したものを少し早めに書き終えてしまったので、
書いてみました!!

8月の更新はこれで最後デス!
明日からの9月も、もちろん毎日更新していきますので
お楽しみくださいネ~!

(明日は「わたしの身体はどこ?(入れ替わり)」の後日談デス!)

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