”恨み”を抱いたまま、死ぬー。
そんな人間が、この世にはたくさんいるー。
”彼”は戯れのために、
そんな人間たちの恨みを晴らしていたー
--------------------–
死神の世界は”退屈”だー。
あの世へと向かう人間を、案内するー。
ただ、それだけのことだー。
死神の命は、永遠だー
だが、永遠と言うのも、退屈だー。
もう何百年ー、
いや、何千年ー?
死んだ人間たちをあの世へと案内し続けているー
何のためにー?
それすらも分からなくなるほどの気の遠くなるような時間ー。
死神に”死”は、ないー
”掟”を破らない限りー。
”掟”を破れば、
その死神は、永遠の闇に幽閉されることになるー。
退屈とは言え、
死ぬこともできず、何もすることもできない”永遠の闇”よりかは、
今の状況の方がマシだ、
と、掟を破るものは存在しないー
だがーー
”彼”は”掟”を破っていたー
「---お前を…許さないー」
女子大生が、交際相手だった男に向かって歩いていくー
「ひっ…!?な、、なんで…!?お前…どうして!?」
交際相手の男が後ずさるー。
男は、恐怖していたー
何故なら、目の前にいる女子大生はー
数日前に、”自分が殺した”はずの交際相手なのだからー
「---お前を…許さない…!」
女子大生は目を赤く光らせながら
逃げまどう交際相手の男を追いかけるー
交際相手の男が、森の中に逃げ込むー
(くそっ!花江(はなえ)が何で生きてるんだ!?)
森に逃げ込んだ交際相手の男・益男(ますお)は怯えていたー
益男は、浮気をしていたー
”花江”は遊び相手だったー
そのことがばれてしまい、花江が、益男の本命の女に
連絡を取ろうとしたため、益男はとっさに
花江を殺してしまったのだー。
遺体は、そのまま遺棄したはずなのにー
どうしてー?
”許さない…許さない…”
花江の声がするー
「--く、、くそっ…亡霊なのか!?」
益男が、周囲を見渡すとー
花江と目が遭ってしまったー
「--わたしはお前を、許さないー」
花江は、益男の方に向かって走って来るー
死んだ時と同じ白いワンピース姿で、ものすごい勢いで走って来るー
花江が、こんなに早く走れるはずがー…
と思いながら益男は慌てて、逃げ出そうとするー
だが、木の枝に躓いて転倒ー
益男は、怯えた様子で花江の方を見つめたー
「ま、、待ってくれ…!待ってくれ!」
益男が悲鳴を上げるー
花江は、目を赤く光らせながら
綺麗だった黒髪をボサボサにしながら、益男を見つめるー
「---お前は、わたしを殺したー」
花江が、低い声で言うー
「-ひぃ…や、、やっぱり、幽霊…!?」
益男の言葉に、花江は不気味な笑みを浮かべたー
「幽霊ではないー」
花江は静かに呟き、益男に近づいていくー
そしてー
”死神だ”
と、呟いて、益男の首をへし折ったー
「---はぁ…はぁ…」
動かなくなった益男を背に、花江はよたよたと歩き出すー。
花江の身体は”遺体”だー。
既に、生きてはいないー
だが、死神が、花江の遺体に憑依することによって
疑似的に身体機能を回復させ、
こうして、花江として、行動することが出来ているー。
「-----」
月を見つめる花江ー。
花江から、霊体のようなものが抜けていくー
それと同時に、糸が切れたように花江の身体が
崩れ落ちるー。
全ての身体機能が停止した花江の身体は、
もう動くことはなかったー
・・・・・・・・・・・・・・・
「--ありがとうございました」
花江が優しく微笑むー
「---ただの暇つぶしだ」
”死神”が愛想無く答えるー
「--でもーー
ありがとうございます」
花江は嬉しそうに、
それと同時に悲しそうに頭を下げたー
ここは”死後の世界”
死後の世界では
”天使”と”死神”が、
死者をあの世に案内しているー
普通に死んだ人間は”天使”がー
悪人と、何らかの恨み・未練を残して死んだ人間は”死神”が、案内しているー。
「-----ーーー」
この死神は”掟”を破っているー。
”現世に干渉してはいけない”という掟をー。
いつからだっただろうかー。
暇を持て余したこの死神は、
戯れに、恨みを抱いたまま死んだ人間に憑依しー
その人間に代わって恨みを晴らしたー
最初は、一度きりのつもりだったー
だがー
恨みを晴らして、戻ってくると、
”感謝”されたー
”わたしの代わりに、ありがとうございます”
とー。
人間に感謝されてもー
別にどうということはないー
だがー
暇つぶしに、と、それ以降、この死神は
”恨みを抱いたまま死んだ人間の遺体に憑依し、
代わりに、その人間の恨みを晴らす”
ということを繰り返していたー
「--満足したか…?
とっとと行け」
死神はそう呟くと、
花江は寂しそうに、頭を下げたー
恨みを晴らしてやっているのは、
情などではない。
ただの、暇つぶしに過ぎないー
花江に対してもそうだし、
これまでに恨みを晴らしてきてやった人たちに対してもそうー。
何の感情もないー
ただ、暇つぶしのために、恨みを抱いて死んだ人間の遺体に憑依し、
その遺体を使って、恨みを代わりに晴らすー。
それだけのことだー。
・・・・・・・・・・・・・・・・
そんな生活を続けていたある日ー
死神は”長”から呼び出されたー
”掟”を破っていないかどうかー?
とー。
”長”は彼に告げた。
彼は悟ったー
彼が、死んだ人間に憑依して
その人間の代わりに恨みを晴らしている
”退屈しのぎ”を、”長”に悟られたのだと。
そして、これは”遠まわしな、最後の警告”
”掟”を破れば永遠の闇に葬られることになるー
死ぬわけはないー
今以上の退屈がそこにはあるー
何もすることができない無の空間に
自我だけが残った状態で幽閉されるー
それは、まさに本当の地獄ー
「--潮時だな」
死神は”退屈しのぎ”を止めることにしたー
元々、どうして退屈しのぎなど始めたのか
自分でもよくわからないー
ただ、いじめで自殺して、この世界にやってきた
少女を見ていたら、無意識のうちに
掟を破り、少女の遺体に憑依してー
気付いた時には、少女をいじめたやつらを
葬り去っていたー。
”自分は、何者なのだろうか”
死神は、たまに、そう思うことがあるー
気付いた時には、死神として、ここにいたー
いつ、生まれたかもはっきり覚えていないー
これは、この死神だけではなく、
他の死神にとっても、同じことだー。
だが、どんなに考えても答えは見つからないし
他の死神たちも”答え”を知らないー
彼は”退屈しのぎ”をやめたー。
自分が永遠の闇に葬られるリスクを冒してまで
退屈しのぎをする必要はないー
ただただ、退屈な時間だけが過ぎていくー
そんな、日々が再び始まったー
だが、
ある日ー。
”死神”の前に一人の女子高生がやってきたー
「---お前が、死んだ」
女子高生の前に、この死神がいつも言う”お決まりの言葉”を告げるー
死神によっては、
死んだ人間に配慮した台詞をいうモノも多いのだが
この死神は、シンプルに、そう告げていたー
「そっか…」
女子高生が、悲しそうに呟くー
「------」
死神が、淡々と女子高生を案内しようとするー
だが、女子高生はその場で涙をこぼし始めたー
「いじめって…辛いよね」
とー。
「--」
死神は立ち止る。
”いじめ”
これまでにも何度も聞いた言葉ー
この死神は特に、”いじめ”で死んだ人間の恨みを
晴らしてあげることが多かったー
恨みを晴らしてあげるもー
そのままあの世に案内するも、この死神の気分次第ー。
死神は返事をしないー
もう”恨みを晴らしてあげる”のはやめたー。
死神が黙って”あの世”に案内しようとすると
女子高生はボタボタと涙をこぼし始めたー
「-----」
恨みを抱き、死んだ人間を見ると、何故か胸が苦しくなるー。
特に、”いじめ”で死んだ子を見るとー
何故だろうかー
死神はそんな風に思いながら、
口を開いたー
「---恨みを晴らしたいか?」
ーと。
「--え?」
泣いていた女子高生が顔を上げるー。
「--お前を、いじめていたやつらに、恨みを晴らしたいか?」
死神の言葉に、
女子高生は涙を流しながら呟くー
”どういう意味?”
とー。
死神は、自分が、恨みを抱いて死んだ人間の
恨みを晴らしてやっている、と説明するー
女子高生は、黙ってその話を聞いていたー。
死神の話が終わると、
女子高生は口を開くー
名前は茂森 真希子(しげもり まきこ)-
高校1年生の時に、いじめられていた幼馴染を
助けたことからいじめられるようになったー
とー
真希子の話は悲惨だったー。
いじめグループの陰険な女子三人組に
徹底的ないじめを受けたー、と。
死神は同情することなく、黙ってその話を聞くー
それでも、真希子は懸命に立ち向かっていたー、
とー。
でも、ある時”心が折れた”のだと言うー。
それはーー…
いじめが始まって半年ー
2年生になってから起きた出来事ー
”真希子が最初に助けた幼馴染”がー
いつの間にか”いじめっコ”たちと仲良くなりー
真希子をいじめ始めたのだったー。
”あんたなんか、死んじゃえ”
幼馴染の子はー
自分を助けてくれた真希子にそう言ったー
いじめ女子3人と一緒に、ゲラゲラと笑いながらー
「----」
死神は、話を聞き終えると、
何故だか自分のことのように怒りが湧いてきたー
”退屈しのぎ”
自分にいつもそう言い聞かせてきたが、
死神はー
いつも、
”理不尽なこと”に怒りを感じていたー。
いじめを受けて死んだこの少女の命は
もう、戻ることはないー
けれどー
いじめていたその女たちは
今ものうのうと、表向きだけは反省しているかもしれないが
裏ではゲラゲラと笑って、
普通に生きているー。
「---ーーー」
”死神”は”掟”のことを考える。
これ以上掟を破り、
現世に干渉すれば、自分は永遠の闇に葬られるかもしれないー
「---」
目の前でただ泣いている少女を見つめるー
この子は、本当に辛かったのだろうー。
死神は、しばらく考え込んだあとに、”わかった”と呟いたー
掟を破る身の危険を顧みず、
死神は「ここで見てろ」と少女に向かって呟きー
そしてー
現世へと向かったー。
そんな死神を、”長”がじっと見つめていたー
”死神”も、それに気づいたがー
それでも、掟を破って、現世へと向かったー
恨みを、晴らすためにー
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
今月書きます!と予告したお話を全部書き終えて、
今月も残り3日残っていたので、
1年前?ぐらいにネタだけ浮かんで書いてなかった作品の一つ
「恨みを晴らします」を書くことにしました~!
ちょっと、独特すぎる?感じなので、書かずに
封印していたのですが、せっかくなので…笑
お読み下さりありがとうございました~!
コメント