<憑依>恨みを晴らします①~怨念~

”恨み”を抱いたまま、死ぬー。

そんな人間が、この世にはたくさんいるー。

”彼”は戯れのために、
そんな人間たちの恨みを晴らしていたー

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死神の世界は”退屈”だー。

あの世へと向かう人間を、案内するー。
ただ、それだけのことだー。

死神の命は、永遠だー
だが、永遠と言うのも、退屈だー。

もう何百年ー、
いや、何千年ー?

死んだ人間たちをあの世へと案内し続けているー

何のためにー?
それすらも分からなくなるほどの気の遠くなるような時間ー。

死神に”死”は、ないー

”掟”を破らない限りー。

”掟”を破れば、
その死神は、永遠の闇に幽閉されることになるー。

退屈とは言え、
死ぬこともできず、何もすることもできない”永遠の闇”よりかは、
今の状況の方がマシだ、
と、掟を破るものは存在しないー

だがーー
”彼”は”掟”を破っていたー

「---お前を…許さないー」
女子大生が、交際相手だった男に向かって歩いていくー

「ひっ…!?な、、なんで…!?お前…どうして!?」
交際相手の男が後ずさるー。

男は、恐怖していたー

何故なら、目の前にいる女子大生はー
数日前に、”自分が殺した”はずの交際相手なのだからー

「---お前を…許さない…!」
女子大生は目を赤く光らせながら
逃げまどう交際相手の男を追いかけるー

交際相手の男が、森の中に逃げ込むー

(くそっ!花江(はなえ)が何で生きてるんだ!?)
森に逃げ込んだ交際相手の男・益男(ますお)は怯えていたー

益男は、浮気をしていたー
”花江”は遊び相手だったー
そのことがばれてしまい、花江が、益男の本命の女に
連絡を取ろうとしたため、益男はとっさに
花江を殺してしまったのだー。
遺体は、そのまま遺棄したはずなのにー
どうしてー?

”許さない…許さない…”
花江の声がするー

「--く、、くそっ…亡霊なのか!?」
益男が、周囲を見渡すとー
花江と目が遭ってしまったー

「--わたしはお前を、許さないー」
花江は、益男の方に向かって走って来るー

死んだ時と同じ白いワンピース姿で、ものすごい勢いで走って来るー

花江が、こんなに早く走れるはずがー…
と思いながら益男は慌てて、逃げ出そうとするー

だが、木の枝に躓いて転倒ー
益男は、怯えた様子で花江の方を見つめたー

「ま、、待ってくれ…!待ってくれ!」
益男が悲鳴を上げるー

花江は、目を赤く光らせながら
綺麗だった黒髪をボサボサにしながら、益男を見つめるー

「---お前は、わたしを殺したー」
花江が、低い声で言うー

「-ひぃ…や、、やっぱり、幽霊…!?」
益男の言葉に、花江は不気味な笑みを浮かべたー

「幽霊ではないー」
花江は静かに呟き、益男に近づいていくー

そしてー
”死神だ”
と、呟いて、益男の首をへし折ったー

「---はぁ…はぁ…」
動かなくなった益男を背に、花江はよたよたと歩き出すー。

花江の身体は”遺体”だー。
既に、生きてはいないー

だが、死神が、花江の遺体に憑依することによって
疑似的に身体機能を回復させ、
こうして、花江として、行動することが出来ているー。

「-----」
月を見つめる花江ー。

花江から、霊体のようなものが抜けていくー

それと同時に、糸が切れたように花江の身体が
崩れ落ちるー。
全ての身体機能が停止した花江の身体は、
もう動くことはなかったー

・・・・・・・・・・・・・・・

「--ありがとうございました」
花江が優しく微笑むー

「---ただの暇つぶしだ」
”死神”が愛想無く答えるー

「--でもーー
 ありがとうございます」
花江は嬉しそうに、
それと同時に悲しそうに頭を下げたー

ここは”死後の世界”

死後の世界では
”天使”と”死神”が、
死者をあの世に案内しているー

普通に死んだ人間は”天使”がー
悪人と、何らかの恨み・未練を残して死んだ人間は”死神”が、案内しているー。

「-----ーーー」
この死神は”掟”を破っているー。

”現世に干渉してはいけない”という掟をー。

いつからだっただろうかー。
暇を持て余したこの死神は、
戯れに、恨みを抱いたまま死んだ人間に憑依しー
その人間に代わって恨みを晴らしたー

最初は、一度きりのつもりだったー

だがー
恨みを晴らして、戻ってくると、
”感謝”されたー

”わたしの代わりに、ありがとうございます”

とー。

人間に感謝されてもー
別にどうということはないー

だがー
暇つぶしに、と、それ以降、この死神は
”恨みを抱いたまま死んだ人間の遺体に憑依し、
 代わりに、その人間の恨みを晴らす”
ということを繰り返していたー

「--満足したか…?
 とっとと行け」
死神はそう呟くと、
花江は寂しそうに、頭を下げたー

恨みを晴らしてやっているのは、
情などではない。
ただの、暇つぶしに過ぎないー
花江に対してもそうだし、
これまでに恨みを晴らしてきてやった人たちに対してもそうー。

何の感情もないー

ただ、暇つぶしのために、恨みを抱いて死んだ人間の遺体に憑依し、
その遺体を使って、恨みを代わりに晴らすー。

それだけのことだー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

そんな生活を続けていたある日ー
死神は”長”から呼び出されたー

”掟”を破っていないかどうかー?

とー。
”長”は彼に告げた。

彼は悟ったー
彼が、死んだ人間に憑依して
その人間の代わりに恨みを晴らしている
”退屈しのぎ”を、”長”に悟られたのだと。

そして、これは”遠まわしな、最後の警告”

”掟”を破れば永遠の闇に葬られることになるー

死ぬわけはないー
今以上の退屈がそこにはあるー
何もすることができない無の空間に
自我だけが残った状態で幽閉されるー

それは、まさに本当の地獄ー

「--潮時だな」
死神は”退屈しのぎ”を止めることにしたー

元々、どうして退屈しのぎなど始めたのか
自分でもよくわからないー

ただ、いじめで自殺して、この世界にやってきた
少女を見ていたら、無意識のうちに
掟を破り、少女の遺体に憑依してー
気付いた時には、少女をいじめたやつらを
葬り去っていたー。

”自分は、何者なのだろうか”
死神は、たまに、そう思うことがあるー

気付いた時には、死神として、ここにいたー
いつ、生まれたかもはっきり覚えていないー

これは、この死神だけではなく、
他の死神にとっても、同じことだー。

だが、どんなに考えても答えは見つからないし
他の死神たちも”答え”を知らないー

彼は”退屈しのぎ”をやめたー。
自分が永遠の闇に葬られるリスクを冒してまで
退屈しのぎをする必要はないー

ただただ、退屈な時間だけが過ぎていくー
そんな、日々が再び始まったー

だが、
ある日ー。
”死神”の前に一人の女子高生がやってきたー

「---お前が、死んだ」
女子高生の前に、この死神がいつも言う”お決まりの言葉”を告げるー

死神によっては、
死んだ人間に配慮した台詞をいうモノも多いのだが
この死神は、シンプルに、そう告げていたー

「そっか…」
女子高生が、悲しそうに呟くー

「------」
死神が、淡々と女子高生を案内しようとするー

だが、女子高生はその場で涙をこぼし始めたー

「いじめって…辛いよね」
とー。

「--」
死神は立ち止る。

”いじめ”
これまでにも何度も聞いた言葉ー

この死神は特に、”いじめ”で死んだ人間の恨みを
晴らしてあげることが多かったー

恨みを晴らしてあげるもー
そのままあの世に案内するも、この死神の気分次第ー。

死神は返事をしないー
もう”恨みを晴らしてあげる”のはやめたー。

死神が黙って”あの世”に案内しようとすると
女子高生はボタボタと涙をこぼし始めたー

「-----」
恨みを抱き、死んだ人間を見ると、何故か胸が苦しくなるー。
特に、”いじめ”で死んだ子を見るとー

何故だろうかー
死神はそんな風に思いながら、
口を開いたー

「---恨みを晴らしたいか?」
ーと。

「--え?」
泣いていた女子高生が顔を上げるー。

「--お前を、いじめていたやつらに、恨みを晴らしたいか?」
死神の言葉に、
女子高生は涙を流しながら呟くー

”どういう意味?”
とー。

死神は、自分が、恨みを抱いて死んだ人間の
恨みを晴らしてやっている、と説明するー
女子高生は、黙ってその話を聞いていたー。
死神の話が終わると、
女子高生は口を開くー

名前は茂森 真希子(しげもり まきこ)-
高校1年生の時に、いじめられていた幼馴染を
助けたことからいじめられるようになったー

とー

真希子の話は悲惨だったー。

いじめグループの陰険な女子三人組に
徹底的ないじめを受けたー、と。

死神は同情することなく、黙ってその話を聞くー

それでも、真希子は懸命に立ち向かっていたー、
とー。

でも、ある時”心が折れた”のだと言うー。

それはーー…
いじめが始まって半年ー
2年生になってから起きた出来事ー

”真希子が最初に助けた幼馴染”がー
いつの間にか”いじめっコ”たちと仲良くなりー
真希子をいじめ始めたのだったー。

”あんたなんか、死んじゃえ”
幼馴染の子はー
自分を助けてくれた真希子にそう言ったー

いじめ女子3人と一緒に、ゲラゲラと笑いながらー

「----」
死神は、話を聞き終えると、
何故だか自分のことのように怒りが湧いてきたー

”退屈しのぎ”
自分にいつもそう言い聞かせてきたが、
死神はー
いつも、
”理不尽なこと”に怒りを感じていたー。

いじめを受けて死んだこの少女の命は
もう、戻ることはないー

けれどー
いじめていたその女たちは
今ものうのうと、表向きだけは反省しているかもしれないが
裏ではゲラゲラと笑って、
普通に生きているー。

「---ーーー」
”死神”は”掟”のことを考える。

これ以上掟を破り、
現世に干渉すれば、自分は永遠の闇に葬られるかもしれないー

「---」
目の前でただ泣いている少女を見つめるー

この子は、本当に辛かったのだろうー。

死神は、しばらく考え込んだあとに、”わかった”と呟いたー

掟を破る身の危険を顧みず、
死神は「ここで見てろ」と少女に向かって呟きー
そしてー
現世へと向かったー。

そんな死神を、”長”がじっと見つめていたー

”死神”も、それに気づいたがー
それでも、掟を破って、現世へと向かったー

恨みを、晴らすためにー

②へ続く

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コメント

今月書きます!と予告したお話を全部書き終えて、
今月も残り3日残っていたので、
1年前?ぐらいにネタだけ浮かんで書いてなかった作品の一つ
「恨みを晴らします」を書くことにしました~!

ちょっと、独特すぎる?感じなので、書かずに
封印していたのですが、せっかくなので…笑

お読み下さりありがとうございました~!

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