<女体化>女体化したのにブスだった③~未来~(完)

念願の女体化を果たした先に待っていたのは、

この世の”過酷”な一面ー。

こんなはずではなかったー。
そう思いながらも、彼は…

※作品の演出上、容姿に関する過激な表現が含まれます。
 苦手な方や、トラウマのある方はご注意ください!


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「----おい!ゾンビ!適当にやるんじゃねぇよ!」

”人”とはー
醜いものだー。

男性研究員から、
”ゾンビ”と呼ばれて、提出したデータの入ったUSBメモリーを
投げつけられる翔也ー

女体化した翔也は、祥子と名乗り、別人のフリをしながら
この研究所で働いているー

恋愛に縁のなかった翔也は、いつしか
それなら自分が女になればいいじゃないか、と思いつき
”女体化”するための研究を秘密裏に行っていたー

友人の研究員・良治の協力も得ながら、
ついに完成させることに成功した、女体化の研究ー。

しかし、その先に待っていたのは、過酷なゴール。

女体化した彼の容姿はー
”ブス”だったのだー。
どう表現していいか分からないぐらいの顔立ちー。
周囲の研究員に勝手につけられたあだ名・”ゾンビ”が
今の顔を表しているのかもしれないー

”人間は見た目じゃない”
と、世の中は綺麗事を言うー

でもー
それは”ある一定のライン”までー。

ある一定のラインを超えればーー
いじめが起きるー。

そして、その”いじめ”は中身をも、歪めてしまうー

人間は中身?
その中身すら、外見のせいで周囲のやつらに歪められてしまうのだからー、
そんな言葉、綺麗事でしかないー。

「----わかりました」
翔也は、ふて腐りながら、投げつけられたUSBメモリーを拾う。

この”内容”に問題はないー

容姿の差で、いやがらせを受けているのだー

何故なら”翔也”であるころに何度もやっている仕事で、
上司からも太鼓判を貰っている内容であったからだー。

”同じ仕事”をしたのにー

”顔”でー、
こうまでも態度が違うとはー

「はははっ…ははははははははっ!」
部屋に戻った翔也は、胸を触りながら、
怒り狂ったように笑っていたー

「--顔、顔、顔、顔」
だんだんムカついてきた翔也ー

翔也は今まで、ブスがどうとか、あまり興味がなかったー

だが、こうして自分が蔑まれる立場になって、
負けず嫌いで頑固な性格でもある翔也は
逆にムカついてきたー。

最初は激しく落ち込んでいたが、
翔也は、もう開き直りつつあったー

「んあっ…♡ 鏡を見なければ……なんかこう…いい感じぃ…♡」
このところ、夜になると自室でエッチなことばかりを
繰り返しているー

そうでなければー
この”激しいストレス”に押しつぶされそうに
なってしまうからー

女体化してー
おしゃれしてー
周囲からチヤホヤされてー
エッチしてー

そんな風に”幻想”を抱いていたー

女になったけど、男っぽい行動をして
アタフタしてしまったりー

漫画やアニメのような、
そういうこともやってみたかったし、

男として恋愛を経験できなかった翔也は、
美女になれば恋愛できると、そう思っていたー

女性として生きてー
辛いことも楽しいことも全部含めて
男としては経験できなかったことを経験し、
そして可能であればいつか好きな人と出会い、
その人と結ばれて、子供も産んでみたいー

翔也はそんな風に思っていた。

でも、それは、叶わぬ夢ー

「はぁ…はぁ…♡」呟きながら鏡を見つめて
”現実”に引き戻されるー

現実は、こうも冷たいー……。

自分の顔を見て自虐的に笑う翔也ー

「ゾンビ…か」
翔也の目は涙ぐんでいたー

確かにー
容姿のことで、毎日毎日毎日こんな風に、
蔑まれていれば
精神的にもおかしくなるだろう。

自分は、何も悪くないのにー
好きでこの顔に生まれてきたわけではないのにー

そう思っている人間も、たくさんいるだろうー

「---ま、俺の場合は、女体化装置で女体化したから…
 ある意味好きでなったのかもしれねぇけど」
不機嫌そうにそう呟くと、
翔也は”不慣れ”なトイレに向かったー

男として20年以上も生きてきた翔也にとって、
女性としてのトイレは、難関だー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

「---------」
翔也の友人・良治は研究を終えると、
「お疲れさまでした」と仲間に告げて、
そのまま研究所内の自室に戻るー

一人暮らしの良治は、最近、自分の家に帰っていないー

「---------」
良治は、通りすがりに、翔也の部屋を見つめるー

翔也は、最近、一人で部屋に閉じこもることが
多くなったー

”何か”をやっているのだー

「--よ」
ノックして、翔也の部屋に入ると、
髪をボサボサにした翔也が、そこにはいたー

翔也は笑うー
「容姿は…努力次第とか言うけどさ、
 この顔じゃ、何しても周囲のやつらが笑うから
 何にもできねぇよな」

翔也は自虐的に
”おしゃれすら許されないとか、笑うよ”と、呟くー。

「---…翔也」
良治は椅子に座るー

女体化した翔也の顔は、生理的にちょっと無理で
エッチは断った良治だったが、
そのあとも、翔也との関係は続いていたー

友人としての関係だー

「気を遣わなくていいよ。俺の顔、苦手だろ?」
翔也がそう言うと、
良治は「まぁ…苦手っちゃ苦手だけどさ」と呟くー

良治は、表情を暗くしているー

「---俺の妹もさ、今のお前みたいに、
 悩んでたんだ。顔のことでさ」

良治が言うと、
翔也は表情を歪めたー

「まぁ、お前とは違って、妹は、好きでそういう顔に生まれたんじゃない。
 俺は必死に、妹のことを励ましたり、
 なんとかしてあげようと思ったけどさー

 本当に…”顔”で何か言われちまうと、
 どうにもならねぇんだよ。
 わかんねぇやつにはわかんねぇと思うけど」

良治はそこまで言うと、
「でもー」と付け加えた。

「--俺も女体化したお前を見て、思い知ったよ…」
と、暗い表情で良治は言うー

「--お前のこと…正直、気持ち悪いって思っちゃったし…
 エッチもする気…なくなっちまった…

 妹が顔に悩んでいて、
 その辛さも、身近で見てきたはずなのによー」

良治は、そう呟くとー
「---”顔”って残酷だなー」と付け加えた。

「--何も、本人は、悪くないのによー…」
そう呟く良治は、とても悲しそうにしていたー

「----お前…」
翔也は呟くー

”妹”が、どうなったのか、良治は語らなかったー
だが、良治の目は少しだけ涙ぐんでいるようにも見えたー

もしかすると”妹”はー

「---翔也」
良治が立ち上がるー

「--俺、必死に考えたんだ」

「え?」
翔也が首をかしげるー

翔也の背後には”男体化”と書かれた書類のようなものが
広がっているー

それを見て、良治は思う。

ここ数日、翔也が部屋に閉じこもっていたのは、
”再び男に戻る”研究をしていたからだー

その書類に良治が視線を送っていることに気づいた翔也は
苦笑いするー

「身勝手だろ?
 女になりたい、って散々研究しておきながら
 顔のことでこんな状況になったらー
 また男に戻りたい、なんてさ」

翔也は”男”に戻って、
再び翔也として研究所に復帰ー
そう考えていたー

男体化したところでー
”元の顔”に戻れるとは、
限らないのにー。

「---翔也…お前がそれでもいいなら、それでもいい」

”逃げる”

追い詰められて、追い詰められて
ボロボロにされてしまったらー
人は、最後に”逃げる”しか、無くなるー

立ち向かう気力すら、奪われてー
絶望のどん底に堕とされた人間の気持ちはー
その、本人にしか、分からないー

”お兄ちゃんには、分からないよ”

それが、妹との、最後の会話ー

ボロボロに、ズタボロにー
心を傷つけられてー

最後にはーーー

「でも、俺はーーー
 俺は、負けず嫌いのお前に、戦ってほしいー!」

苦しんでいる相手に”戦って”なんて、無責任ー

だからー
「俺も一緒に、戦うからー!
 お前のこと、ゾンビゾンビ、みんなが言うなら、
 もう、ゾンビになってやろうぜ???

 お前らよりすごいゾンビになってやったぞ!って、
 自慢してやろうぜ!」

叫ぶ良治ー

「な、、何言ってたんだお前…?
 みんなを食えってのか?」

翔也は苦笑いするー

「違うよ!これだ!!!!!」
良治は、何かを机に叩きつけたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「----えっ…」

所長は唖然としたー。

良治と翔也が揃って辞表を叩きつけたからだー。

「--…そうか」
他人に興味がない所長は、最初は突然の辞表に
驚いた様子だったが、しばらくすると頷き、
すぐに淡々とそれを受け入れたー。

「----今まで、お世話になりました」
翔也と良治は揃って頭を下げるー。

研究所から立ち去る準備をする二人ー

周囲がヒソヒソと色々なことを噂しているー

”ゾンビと良治が退職?”
”ゾンビ女、何の役にもたたなかったな”
”まさか良治のやつ、あのゾンビと結婚でもするのか?”

「----」
翔也が唇を噛みしめるー。

良治は「--ほっとけ」と小声でつぶやいたー

どうせ、もう、ここを立ち去るんだー
ここを立ち去れば
”関係のない人間”

外野の言葉など、気にする必要はない。

良治と翔也は荷物をまとめると
そのまま研究所から立ち去ったー

・・・・・・・・・・・・・・・

それからー
時は流れー
研究所のメンバーも良治と翔也のことを
忘れかけていたー。

特に、翔也が女体化した姿=祥子のことは
すっかり忘れ去られていた。
それもそのはず、女体化してからの在籍期間が
短かったために、忘れられてしまっても、
ムリはないー。

だが、ある日ー
研究所内のひとりが叫んだー

「お、、おい!これ見ろよ!」
スマホを他の研究員に見せつける男ー

そこには
”ヴァンパイア&ゾンビ”というコンビがー
人気急上昇中、という記事が書かれていたー

「-なんだこれ?」
他の研究員がそのニュースの写真を見つめるとー
そこには、顔に特殊メイクを施した良治と、
研究所内で散々”ゾンビ女”と罵られていた
祥子…女体化した翔也がいたー。

相変わらずの、特徴的な顔立ちだがー
その顔はとても楽しそうだったー

「--あの女、いつの間にこんなに有名に!?」
世間から離れている研究者たちは、
戸惑いを隠せないー

馬鹿にして、下に見ていた女が、
今や”人気者”になっているー

お笑いを中心にネット上から活動を始め、
次第に知名度を上げていき、
ついにテレビ放送デビューまで果たした…

「-ーーおつかれさまでした~!」
テレビ局のスタッフが言うー。

「---ふ~、疲れたな」
翔也が言うー
男っぽく控室で座る翔也を見て
良治が「あ、おい!誰か見てるかもしれないだろ!」と
呟いて、慌てて修正させたー。

あの日ー
研究所内で悩める翔也に叩きつけたのは
”二人でコンビを組み、有名になるプラン”だったー。

”ブス”と呼ばれるような姿に女体化してしまった翔也を
どうすれば救い出すことができるかー。

周囲の人間に分かってもらおうー
…と、いうのはムリだ。
現実は甘くはない。
翔也の”女体化した顔”を見れば
どの職場に行こうと、必ず”いじめ”のような行動を
するやつが出て来る。

良治がどんな綺麗事を叫んでも、人間とはそういうものだー。

かと言って
このまま元に戻るために男体化の研究をしても、
元に戻れる保証はなく、男に戻っても”顔”がどうなるか分からないー

良治が翔也のために、頭をフル回転させて考え付いた結果がーー

これだったー

二人で、お笑いの活動をするー。

もちろん
これが、正しい選択かは分からないー
自分の顔をもネタにすることが、正しい選択なのかはー

だが、良治が提案し、翔也がそれに乗ったー。
本人たちが、納得しているのであれば、
他人に口出す権利はないー

「ーーしっかし、想像以上にヒットしてて怖いぜ」
良治が言うと、
翔也は「俺のおかげかな?」と笑ったー

落ち込んでいた翔也はー
みるみる元気になり、
今では”この顔にも愛着が湧いて来たぜ”
などと、言い出すようになったー

”お前は元男だし、結婚はさすがにちょっと”と
良治は言いながらも、
”最高の相棒”としてー
翔也に新しい生き方を教えてくれたー

やがてー
彼らは、テレビで引っ張りだこになるレベルにまで
人気になりー、

女体化した翔也を”ゾンビ女”などと蔑んでいた
研究員たちを遥かに超える収入・名声を手に入れることになったー

観客たちの前で、お笑いを披露するふたりー

翔也はふと、研究所の仲間だった男の姿を数名、
観客たちの中に見つけたー

そして、心の中で呟くー

”お前らよりすごいゾンビになってやったぞ”

とー。

おわり

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コメント

元には戻れませんでしたが、
生きていく道を見つけることができたようですネ~!

お読み下さりありがとうございました!!

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