<憑依>砕け散る絆①~仲良し姉妹~

あるところに、仲良しの姉妹がいたー。

だが、”憑依”が、その姉妹の絆を引き裂こうとするー

”絆”を打ち砕くのは簡単なことー。
スマートフォンの画面のようにー。

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高校2年生の姉・菜津(なつ)が、妹の雅美(まさみ)と
楽しそうに雑談しているー

中学3年生の雅美と、姉の菜津は、大がつくほどの
仲良しで、今でも休日に二人で買い物に行くぐらいの間柄ー
今までに一度も喧嘩したことすら、ないー。

両親も、仲良しな二人を見て
いつも微笑ましい気持ちになっていたー。

「--あ、そろそろ行かなくちゃ!」
姉の菜津が言う。

雑談が盛り上がりすぎて、あやうく遅刻するところだったー。

「あ、わたしも!」
妹の雅美も言う。

二人は慌てて学校に向かう準備をして、
そのまま玄関から飛び出すのだったー

「ははは、騒がしいな。気を付けろよ~!」
玄関から出ていく二人を父親の晴信(はるのぶ)が見送るー

「俺もそろそろ準備するか」
晴信が立ち上がると、
妻の辻子(つじこ)が頷くー。

「---でも、あの二人、本当に仲良しだよなぁ」
晴信がスーツに着替えながら呟くー

「--そうね~、本当に」
辻子の言葉に、
晴信は苦笑いする。

「俺なんて兄貴と喧嘩してばっかだったから、
 ある意味、羨ましいよ」
とー。

晴信には兄がいるー
最近は年に1、2回会う程度だが、
昔はよく喧嘩ばっかりしていたのだと言う。

「--ふふ、まぁ、仲良しなのはいいことよね」
妻の辻子がそう呟いたー

・・・・・・・・・・・・・・・・

姉妹の絆は、これからも永遠に続くはずだったー

姉の菜津と
妹の雅美はー
二人がこの先、実家を出ることになっても、
”永遠”に続きー
お互いが結婚したあとも、
お互いの家族ぐるみで、付き合いは続くー

そのはずだったー。

だがー
その”運命”すらを捻じ曲げるものが、
そこにはあったー

それがー
”憑依薬”

この世に決して存在してはいけないはずの
”全てを捻じ曲げる力”

本来進むべきではない、未来に
人を、進ませてしまう”悪魔の力”

それが、そこにはあったのだー。

「----人間の絆は、脆い」
男が笑うー

”絆”なんて、存在しない。
そんなものは幻想だ。

友情、家族、恋愛ー
反吐が出るー。

人間の絆など、
偽りで塗り固められた”幻”だー

ちょっと、刺激してやれば
そんなものはすぐに壊れるー。

男は、持っていたスマホを床に叩きつけたー

スマホの画面にヒビが入る。

「脆いよな」
男が笑うー

そう、人の絆は脆いー
この、スマホの画面と同じようにー

脆く、

壊れやすいー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「---また明日~!」
高校の友人と別れて、姉の菜津が家に向かって歩くー

菜津は、とても優しそうで穏やかな風貌ー
守ってあげたくなるようなそんな雰囲気を
漂わせているのだがー
妹の雅美を守っているからか
見た目に反して、しっかり者で、案外、心も強いー。

そんな菜津の反対側から、男がやってきていたー

”絆は脆いー”

菜津は男に気づかずに、普通に歩き続けているー。

”絆など、簡単に壊れてしまう”

男は菜津に近づいていくー

そしてー
「---すみません」
男は、菜津に声をかけたー

「はい?」
菜津が振り返った
その直後ーーー

男はガスのようになって、菜津の口に飛び込んだー

「--ひぅっ!?」
菜津がビクンと震えてー
そして、凶悪な笑みを浮かべたー

「--絆なんて…簡単に壊れる…ククククク」
低い声で笑うと、菜津はそのまま家に向かって歩き出したー

・・・・・・・・・・・・・

妹の雅美が、中学での授業を終えて帰宅するー。

いつものように、
何事もなく、
過ぎ去るはずだった日常ー

だが、この日ー
姉妹の運命は変わってしまうー

「-----おかえり」
先に帰宅していた姉の菜津が、腕を組みながら廊下で
待っていたー

いつもと違う、トゲトゲしい雰囲気を漂わせながら…

「あ!お姉ちゃん!ただいま~!」
無邪気な雅美は、そう呟いたー。

「--ちょっと…話があるんだけど」
姉・菜津は露骨に不機嫌そうに
妹の雅美を睨むー

「あ!ちょうどよかった!わたしも話があって~!」
雅美はいつものように、嬉しそうに笑うー。

姉・菜津は
”何者か”に憑依されているー

雅美はそんなこと夢にも思わず、
菜津の部屋に入っていくー

菜津は笑みを浮かべたー

”くくく…今から姉妹の絆を滅茶苦茶にしてやるぞ”

「----」
菜津が振り返る。
妹の雅美が
「それで、話って?」と、にっこり微笑むー

「--うっぜぇんだよ!」
菜津が急に怒鳴り声を出して、
妹の雅美を猛烈な勢いでビンタしたー

部屋に音が響き渡るー

「え…」
突然ビンタされた妹の雅美が
驚きで目を見開くー

菜津は、ビンタした手を
じんじんさせながら、
雅美の方を睨んだー

これまで、人に暴力を振るう目的で
使われたことなどないであろう
この綺麗な手でー
最愛の妹に対して暴力を振るったー

菜津を乗っ取っている者は、
ゾクゾクしながら笑みを浮かべるー

「ーーあんたさぁ、いつもいつも調子に乗ってるでしょ?」
菜津の狂暴な口調に、
雅美は、「お、、お姉ちゃん!?急に、なに!?」と
困り果てた表情を浮かべているー。

「--だから、うっぜぇんだよ!」
菜津が、今まで出したこともないであろう
怒鳴り声を出して、雅美を蹴り飛ばすー

スカートがふわっとなって、
菜津は興奮しながらも、雅美の制服を掴んで
睨みつけたー

「--あんた、お姉ちゃんのこと舐めてんでしょ?」
菜津が言うー

あまりにも理不尽な暴行に、雅美は
困り果てているー

「な、、、舐めてなんかないってば…
 急にどうしたの?」
雅美は困惑しながらそう呟くー。

「---うぜぇ!そういうところがうぜぇ!」
菜津の怒鳴り声ー

喉が傷んでしまいそうなほどの声を、
菜津は無理やり出さされているー

雅美にもう一度ビンタを食らわせると、
菜津は「二度とわたしに話しかけんな!」と
雅美を睨みつけて、
ようやく手を離した。

雅美の目の前で
机に飾ってあった雅美との写真を
ぐしゃぐしゃに丸めて
それを踏みつぶすー

何度も、
何度もー

菜津の突然の豹変に戸惑う雅美ー。

”くくく”
菜津は心の中で笑うー

いやー
笑っているのは菜津を乗っ取った人間ー

菜津の身体は無理やりゾクゾクさせられながらー
笑みを浮かべたー

”この出来事をきっかけに
 姉妹の絆をボロボロにしてやる”

既にー
”ヒビ”は入った状態ー
ヒビが入った状態の”絆”というものを
砕くのは、いとも、たやすいー

菜津に憑依した人間はー
”家族仲”が悪かったー

だから、絆なんて、信じないー
絆を破壊するために、
手に入れた憑依薬で、絆を破壊して
回っているー

大事な存在をこの手で汚し、
そして、絆を引き裂く瞬間は、実に美しいー。

信じていた存在に裏切られてー
愛が、憎悪に変わる瞬間はー
まさに、一つのドラマだ。

愛と憎は、
表裏一体ー

まさに、そこにはーー

「--あ、それでね」
雅美が口を開いた。

「ア?」
菜津は不機嫌そうな声を出したー

「-わたしからもお話があるんだけどって
 さっき言ったよね?」

雅美の言葉にー
”こいつ、姉に急にビンタされて暴力を振るわれたのに
 どういう神経してるんだ?”
と、首をかしげるー。

「---そ…その…あのね」
雅美が顔を赤らめながら言うー。

「---?」
菜津は表情をさらに歪めたー

姉が大好きな雅美は
にっこりとほほ笑みながら、
ある漫画を手にして、
あるページを開いたー

そこには、
漫画内の姉妹が、抱き合って
イチャイチャしている様が描かれていたー

「こ、、この…この、、ね」
雅美は顔を真っ赤にしながら、
勇気を振り絞って叫んだー

「--お、、お姉ちゃんとも…やってみたいなぁ…って」
雅美が顔を真っ赤にしながら、
恥ずかしそうに言うー。

「-ーーーは?」
菜津は声を上げたー

意味が分からないー

姉妹の絆を砕こうと、菜津に憑依したのに、
なんだー?

”今まで”に憑依してきた連中はー
”最初の攻撃”で関係が悪化してー
そのままズブズブと絆を砕くことができたー

だがー
”さっきの暴力”を雅美は、全く気にしていないー?

「--は?うぜぇって言っただろ!?」
菜津が怒鳴り声をあげるー。

雅美はにこっ、とほほ笑んだー

”こいつーー?
 超がつくほど天然なのか!?”

菜津は戸惑うー

姉に急に理不尽な暴力を振るわれたのに
全く気にしている素振りがないー

「お姉ちゃん!お願い!ぎゅー!しようよ!」
雅美が顔を赤らめながら言う。

菜津に憑依している男は、
屈辱を味わったー
今まで数々の絆を打ち砕いてきた男に
砕けない絆はないー。
少なくとも、彼はそう思っていた。

なのに、この雅美という妹は、
姉に叩かれても、それを気にするような素振りさえ
見えないー

一体、どういうことだ?

「----うざっ」
菜津は思わずつぶやいたー

雅美の表情から笑顔が消えるー。

「--うざいうざいうざいうざいうざいうざいうざい!」
怒り狂った演技をしながら、菜津の喉が
イカれてしまいそうなぐらいに声を出すー

そして、机のペンを雅美に向かって投げつけるー

雅美の頬に当たったペンが、
音を立てて床に落ちるー

「--お姉ちゃん…」
雅美が悲しそうにしているー

”そうだー!”
”泣け!”
”喚け!”

絆が壊れる瞬間はー
実に美しいー!

菜津は、この上ないぐらいの興奮を覚えながらー
グーで雅美を殴りつけると、
そのまま悲鳴を上げて倒れた雅美を
蹴り飛ばしたー

菜津の身体がさらにゾクゾクと興奮するー

”へへ、すっげぇ興奮するなこの身体”
菜津に憑依している男は思うー

”本当はこのお姉ちゃんも、妹のこと、嫌いだったんじゃねぇのか?”
とー。

そんなことお構いなしに、綺麗な足を
乱暴に振って、倒れた雅美を蹴りつけるー

最後にー
泣き始めてしまった雅美に
唾を吐き捨てると、
菜津は「これが本当のわたしよ!」と叫んだー

妹から姉への信頼は、これで壊れたー

あとはー

”姉から妹への信頼”を壊すことだー。

男は笑うー
泣いている雅美は、
姉に対する菜津への信頼を失っただろうー

だが、このまま憑依から抜け出せば、
”何が起きたのか”を知らない姉の菜津は、
妹の雅美を信頼したままだー。

下手をすると、姉の菜津が妹の雅美に
何度も何度も謝り続けることでー
姉妹の絆が修復されてしまうかもしれない。

「-くくく…片方を壊したら、もう片方だ」
菜津が凶悪な笑みを浮かべて小声でつぶやくー

”二人の絆”を壊すにはー

片方の絆を壊した後に、
もう片方の絆も、壊す必要があるー

そうー
今度は妹の雅美に憑依して、
正気を取り戻した姉の菜津を
傷めつけてやるのだー

お互いを憎しみ遭った姉妹の絆が修復されることは、もう、ないー

それが、菜津に憑依した男の目指すー
芸術ー
”絆”が叩きのめされる、瞬間ー

「–お姉ちゃん」
泣きながら雅美が立ち上がったー

「---お願い!これ、やろ!」
暴力を振るわれながらも、雅美は、さっきの漫画を手に、
”お姉ちゃんとイチャイチャしたい!”と、頼み込むようにした叫んだー

「---は~~~~~????」
菜津は不機嫌そうに叫んだ。

「--わたしは、あんたのことなんて大っ嫌いなの!」
そう叫ぶ菜津ー

しかしー
「わたしは、大好きだよ!」

妹の雅美は、姉・菜津の豹変を前にしてもー
揺らぐことなくそう叫んだー

②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・

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姉妹の絆は砕かれてしまうのでしょうか~?
それとも…?
続きは明日デス~!
 

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