乗っ取られてしまった彼女とのデート。
彼女の異変に気付いた彼氏は、
なんとか彼女を助けようとする…
-------------------------
「ーーー」
義弥と由香梨が、道路を歩いているー
由香梨と手を繋いでいる義弥ー
だが、その表情は険しいー
彼女と手を繋いでいるのにー
ちっとも嬉しそうではない。
それでどころかー
怒りの形相を浮かべているー
「--ねぇ、義弥」
由香梨が口を開く。
「わたしとのデート、楽しくないの?」
由香梨が悲しそうに呟くー
こいつはー
こいつは、由香梨じゃないー
身体は由香梨だけどー
今の由香梨は、由香梨じゃないー
義弥は悔しそうに頭の中でそう考えるー
でもー
身体は由香梨ー
由香梨っぽい仕草をされてしまうと、
頭では分かっていても、
もう、由香梨に見えてしまうー
「--僕が満足したら、この身体を返してやってもいい」
こいつは、本当に由香梨の身体を
返してくれるのだろうかー。
義弥は不安に思う。
その前に
”最後のデート、楽しみましょう?”とも言っていたー。
だからー
こいつがすんなり由香梨の身体を返すとは思えないー
こいつはー
由香梨の身体を弄んでー
彼氏を苦しめて、優越感を感じているだけだー
「--もっと楽しそうにして!」
由香梨が頬を膨らませるー
ふざけるなー
勝手に由香梨の頬を膨らませるなー
そんな風に思いながら、
義弥は由香梨を見るー
由香梨に憑依した男は”田中孝雄”と名乗ったー。
今までの言動から、こいつは、
ただ、人を苦しめて喜んでいるようなー邪悪なやつだ。
だがー、
名前を名乗ったのは、ミスだと思うー。
いざとなれば、田中孝雄を調べれば、なんとかー
45歳とも名乗っていたー
”45歳の田中孝雄”を見つけ出すのはー
”偽名”でなければー
「---楽しそうにしろっていってんだよ」
由香梨が乱暴な口調で呟くー
「---くっ…」
義弥が苦しそうに言うと、由香梨は
「あ~~、つまんね~デートだなぁ~」と
大声を出し始めるー
「-別れちゃおっかな~?」
ちらちら義弥を見ながら言う由香梨ー
「ふ、、ふ、、ふ……ご、、、ごめん由香梨…」
ふざけるな、と言うのを抑えて
義弥は引きつった笑みを浮かべたー
「ぎゃはははははは!バカな男!」
由香梨はそう言うと、ご機嫌そうに歩き出したー
「なぁ…教えてくれ…由香梨に何の恨みがあるんだ!」
義弥が悲しそうに叫ぶ。
由香梨を乗っ取って、こんな風にしてー
何のーーー
「--恨み?ふふふ…
そんなものないよ。
わたしが可愛かったから、身体奪われちゃっただけ♡」
嬉しそうに言う由香梨ー。
”誰でもよかったー”
義弥はその言葉に、激しい怒りを感じたー
けれどー
それでも、どうすることもできないー
「--さ、早く、デートの続きを楽しもー!」
由香梨に言われて、苦しい表情を歪める義弥ー
必ずー
必ず、なんとか由香梨を助ける方法を
見つけだ無くてはー
”今日のデートが終わるまで”
にー。
由香梨がゲームショップに入っていくー
迷うことなくアダルトコーナーに入って
美少女キャラが描かれたパッケージを嬉しそうに見つめるー
「ふへへ…かわいい~!」
パッケージに描かれたキャラの胸をべたべた触りー
パッケージのニオイまで嗅ぐ由香梨ー。
アダルトゲーム売り場で、しゃがみこんで、
由香梨は顔を真っ赤にしながら興奮しているー
「---」
義弥は、田中孝雄はオタク系の男なのだと内心で考えるー
別にオタクに偏見はないー
だがー
オタク趣味と分かっていれば、田中孝雄のことを
突き止めやすいー。
「ーーーあぁぁぁぁ~いいなぁ…女の子いいなぁ…
はぁ…はぁ…」
下心丸出しの表情を浮かべる由香梨ー
義弥は黙って横に立っているー
「あ、今は僕も美少女か!?ぎゃはははははは!」
嬉しそうに笑うと、
5、6本のアダルトゲームを手に抱えて、
由香梨はレジに向かうー
女の子が、アダルトゲームをまとめ買いしようとしている
光景に店員は少し驚いた様子を浮かべたがー
そのまま会計を進めるー
「ねぇ、お兄さん」
由香梨が店員に声をかけるー
「-わたし、こういうゲームやりながら
”実演”するんです」
店員が戸惑っているー
「おい!」
義弥が由香梨を止めようとするー
「エッチなシーン、わたしの身体なら、
同じこと、実演できるでしょ?
ゲームのシーンと同じシーンを
わたしの身体でー」
「-由香梨!」
義弥が叫ぶー
店員が驚くー
「ご、ごめんなさい。ちょっと、、その、すみません」
義弥が由香梨の言葉を遮って店員に謝罪すると、
そのままさっさと会計を終わらせて
店の外に出たー
「やめてくれないか!
由香梨の身体でああいうことするの!」
義弥が言う。
だが、由香梨は反省の色を全く見せていないー。
「-そうだ、次は」
由香梨は洋品店を指さすー
「ばれちゃったから、もう隠す必要はないもんな?」
由香梨はそう言うと、そのままお店の中に入っていくー
義弥に大量のアダルトゲームを持たせたままー
服が並ぶその場所ー
由香梨は、何やら服を物色してー
そしてーー
試着を始めたー
義弥は不安そうに、少し離れた場所から
由香梨の様子を確認しているー
「----」
義弥は、スマホで「田中孝雄」と検索するー
出て来るはずはないがー、
どうにか、どうにかーーー
”変死体発見”
「----!」
義弥が表情を歪めるー
ニュースサイトの記事には
都内の独身男性が、
自宅で倒れているのが発見されたー
と、書かれているー
その犠牲者の名前がー
”田中孝雄”
「--あいつ…亡霊?」
義弥は一瞬そう考えたー
だがー
”憑依”
ーーもしも、意図的に幽体離脱することが
できるのだとしたらー?
あいつは、自分の身体を捨てて、
他人を乗っ取って生きようとしているのかー?
何らかの原因で死んだ田中孝雄が由香梨に憑依したのかー
それとも、死ぬ以外の方法で幽体離脱し、自分の身体を捨てて由香梨に憑依したのかー
いずれにせよー
”帰るべき身体がない”
という状態はーー
”危険”だと、義弥は判断したー
田中孝雄の身体が既に死んでいるとなればー
やつが由香梨の身体を解放することはー
やつは身体を失うことを意味するー
もしも自分が田中孝雄の立場だったらどうかー?
由香梨の身体から出たら自分が消えるのならー
やはり…出ないかもしれないー。
それにー
田中孝雄の身体が既に死んでいるならー
警察沙汰にするのも難しいー
「くそっ!」
義弥は表情を歪めるー
由香梨が、試着を終えて出て来るー
アイドルのようなキラキラした衣装ー
とても可愛らしい由香梨ー。
だが、とても外を歩く格好じゃないし、
太ももを晒したミニスカートの短さも気になるー
「これ、買います」
由香梨が嬉しそうに店員に言う。
店員は戸惑うー
”買うこと”にではない。
そのまま由香梨が店内から出て行こうとしていることに、だ。
「-おい、まさかその格好で…」
義弥が言うと、由香梨は「かわいいでしょ?」と即答したー
そしてー
由香梨は、アイドルのような衣装のまま、
街を歩き始めたー
周囲の目線が集まるー
地下アイドルか何かと思って
記念に、と写真を撮る通行人まで出て来るー
由香梨はゾクゾクしていたー
”写真を撮られている”ことにー。
「--…」
表情を曇らせる義弥ー
由香梨は続けてカラオケ店を指さすー
「ぎゃはははは!一度女の子の声でアニソン歌いたかったんだよなぁ!」
由香梨はそう言うと、
義弥は聞いたこともないようなアニソンを歌いだすー
超ノリノリで、アイドルの衣装をふわふわさせながら、
身体を動かす由香梨ー
アニソンを満面の笑みで歌う由香梨は
とても、楽しそうだー
本物の由香梨は、助けを求めているだろうー
だが、どうすることもできないー
アニソンを歌い続ける由香梨ー
だんだんハイテンションになってきて、
身体の動きも激しくなってきているー
「--由香梨…」
義弥は”好き放題”されている由香梨を見て、
怒りを感じ続けているー
由香梨の可愛い歌声を聞きながらも、
義弥は震えるー
自分の身体が引きちぎれてしまいそうなぐらいの
激しい、怒りをー。
由香梨は、身体も心も奪われてこんなことをさせられているのにー
由香梨はとっても楽しそうにノリノリだー。
きっと、由香梨は助けを求めているのにー
表面上はとても楽しそうにしているー
他人の身体を乗っ取るなんてーーーー
怒りのあまり、唇から血が出るほどに
口を噛みしめていると、
由香梨が「あ~、汗かいちゃった!」と
楽しそうに、椅子に座ったー
時計を見る由香梨ー
「あ~そろそろ時間だね~
ぎゃははははは!」
笑いながらジュースを飲むと、
「そろそろデート終わりにしよっか!」と笑みを浮かべたー
カラオケから出る義弥と由香梨ー
すると、由香梨はにっこり微笑んだー
「次は、ラブホに行こっか」
とー。
「は?」
義弥が表情を歪めるー
「--わたしと、エッチさせてあげる。
いっぱい、エロい声で喘いであげるー
義弥を気持ちよくさせてあげるー
ふふ、いいでしょ?」
由香梨の言葉に、
義弥は顔を真っ赤にして叫んだー
「いい加減にしてくれ!」
とー。
「--ふぅん?
でも、ほら、身体は正直」
由香梨が、義弥の少しだけ勃起したアレを
指さしながら笑うー
「どうせ、お前も僕の、、いいや、わたしの身体目当てでしょ?
ぎゃはははははは!
素直になりなよ」
由香梨が義弥に身体を密着させるー
「さっき、チャイナドレスとか、バニーガールの服とか
いろいろ買ったから、い~っぱい、ドキドキさせてあげる。
ラブホ、いこ♡」
甘い声で言う由香梨ー
義弥は叫んだー
「-俺は!!!!
俺は、身体目当てなんかじゃない!!
由香梨の中身が大好きなんだ!!!
今のお前は、由香梨なんかじゃない!!
だから、俺はお前となんて絶対にラブホにいかない!!
俺は、由香梨の性格とか、優しいところとか
気遣いができるところとか、
そういう中身のところに惚れたんだよ!」
義弥の言葉に、
由香梨は「ぷっ」と笑ったー
そしてー
「--ふ~ん、じゃあ、デートはここで終わりだな」
由香梨はそう言うと、
義弥が「由香梨を返してくれ!」と叫ぶー
「ああ。返してやるよ」
由香梨はそう言うと、突然「おぇ”」と、変な声を出したー
「由香梨!?」
おぉぉぉぉぉヴヴヴぉぉぉぉ・・・
由香梨が奇声を上げながらー
体液と、何かを吐き出すー
嘔吐!?
義弥がそう思っていると、
由香梨が苦しそうに何かを吐き出してー
そして笑みを浮かべたー
由香梨が吐き出したものはー
白く光る謎の人魂のようなものだったー
「–”中身”に惚れたんだろ?
だったら、中身だけ返してやるよ」
由香梨が言うー
「え…ちょ…?」
義弥が戸惑うー
由香梨が吐き出したのはー
”由香梨本人の魂”
「--僕はこれから、月川由香梨じゃなくて、
田中由香梨として生きるんだ…
くく、ふふふ、ぎゃははははははははは!」
狂ったように笑う由香梨ー
そして、由香梨は義弥に背を向けるー
「あ、そうそう、
魂ってさ~
身体がないと、数日で腐っちゃうんだってさ」
由香梨の冷たい口調ー
義弥が由香梨の魂を拾うー
「お、、おい!ふざけるな!!ふざけるな!!
由香梨を返せ!!!」
義弥が叫ぶー
「-だからぁ、中身好きなんだろぉ?
中身と一緒にイチャイチャしてればいいじゃねぇか。
わたしはもう月川由香梨じゃないの。
わたしは、田中由香梨…
くく、、ぎゃぎゃ、、ぎゃぎゃ、、ふふふ、ぎゃははははははは!!!!」
由香梨は狂ったように下品な笑い声を出しながら
そのまま立ち去ってしまうー
「おい!!!おい!!由香梨!おい!待て!おい!!!」
義弥が大声で叫ぶー
しかしー
由香梨は立ち止らなかったー
由香梨の人魂を拾い、
義弥が涙をこぼすー
「くそっ…くそっ、くそっ…
ごめん由香梨…ごめん…」
どうすることもできないー
「あ、そうそう、
魂ってさ~
身体がないと、数日で腐っちゃうんだってさ」
悪魔のような言葉を思い出すー
「う…うぁああああああああああ!」
義弥の悲痛な叫びが、その場に響き渡ったー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
8月最初のお話、ラストデートの完結でした~!
恐ろしい結末ですネ…!
お読み下さり、ありがとうございました☆
コメント
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
田中孝雄の身体は一応死んだとはいえ魂が入ればまだ生き返ることは可能そうですね。
とすれば空っぽになった田中孝雄の身体に由香梨の人魂を入れればひとまず延命される!?でもいくら中身が大好きな彼女といっても身体がおっさんだと彼氏はキツイですね…。
身体を奪い返すべく2人で奮闘するのも続きのお話として面白そう!
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
コメントありがとうございます~!
田中孝雄の肉体は既に、何も飲まず、食べず、放置され続けていて
この世には…笑
でも、続きは書けそうですし、機会があれば
後日談を書いてみたいですネ~!