彼女の様子がおかしいー。
彼女が憑依されたことを知らない彼氏は、
”最後のデート”とも知らずに、
彼女のことを気遣うも…?
---------------–
「----チッ」
由香梨が舌打ちをするー
「--どこがいいかな~」
彼氏の義弥が、
由香梨が喜びそうなお店を
探しているー
お昼ご飯を食べるお店を探しているのだー
だがー
「--」
由香梨は義弥の背後で腕を組んで
イライラしながら貧乏ゆすりしているー
”早く決めろよ、僕は腹減ってるんだからよ”
由香梨は、完全に乗っ取られたまま
イライラしているー
いつも、彼氏の義弥とダラダラとお昼のお店を
探すことが多かったがー
今日は、違うー
由香梨は、完全に孝雄という男に乗っ取られているからだー。
「--あのさぁ」
由香梨がついに声を上げるー
「ん?」
義弥が由香梨の方を見る。
「そこでいいよ。さっさと食べよ」
由香梨が愛想無く言う。
由香梨が指をさしたのはラーメン屋だったー。
「え?ラーメン?
由香梨、あんまり好きじゃなかったんじゃ?」
義弥が言うと、
由香梨は「わ、わたしだって、食べたくなることぐらいあるもん!」と
顔を赤くしながら言ったー
”ラーメン喰わねぇのかよこの女”
由香梨は義弥と一緒にラーメン屋に向かいながらそう呟くー
”ま、いいさ、これからは、わたしは田中由香梨だもん。
ラーメンもいっぱい喰ってやるぜ”
勝手に苗字を改名してゾクゾクする由香梨ー
ラーメン屋に入ると、由香梨は「とんこつ大盛と餃子!あとビールも!」と
店主に声をかけたー
「--は、ははは」
義弥は”ずいぶん豪快だな”と思いながら
醤油のラーメンを注文して、
ラーメンが出てくるのを待つー
由香梨がテーブルに肘をつきながら
スマホをいじっているー
「---…」
義弥はそんな由香梨の様子を見ながら不安を覚えるー
”明らかにいつもと違う”
そんな気がしてならないのだ。
「--あ、、あのさ…?何かあった?」
義弥が言うと、
由香梨は「ん?」とスマホから義弥の方に視線を向ける。
「--ふふふ…べ・つ・に」
由香梨はそう呟くと、
水を飲んで、義弥の方を見たー
「ねぇ、今日のデートが終わったら、お別れしよ?」
由香梨が笑いながら言うー
「え…?」
義弥は思わず凍り付いてしまうー
「ど、どういうこと?」
義弥が言うと、
由香梨は笑ったー
「-これが、最後のデート。
終わったら、お別れー
ふふふふ…
いいでしょ?」
義弥は混乱したー
え?どうして?
昨日までの由香梨の言動から、
少なくとも義弥は、由香梨との間にトラブルなんて
全くないと思っているし、
由香梨も、義弥も、お互いのことが大好きだったー。
将来、結婚するかのような話までお互いにしているー
それが、どうしてー
「え…?俺、何か怒らせるようなこと…したか?」
義弥が言う。
由香梨は「べ・つ・に」と呟くー。
貧乏ゆすりをしている由香梨ー
しきりに店主の方を見ているー
”遅い”と言いたげにー
義弥はそんな由香梨の様子に戸惑うー
”あれか?”
義弥は、生理前か何かでブルーになってるのか?だとか、
友だちと喧嘩でもしたのか、だとか、
何か悩み事でもあるのか、だとか
色々なことを考えるー
二重人格ー?
挙句の果てに、とんでもないことまで考えてしまうー
頭の中でごちゃごちゃと混乱した義弥は
戸惑い、困惑したー
「---はぁ????」
由香梨が声をあげたー
義弥が我に返ると、
ラーメンを運んできた店員に、由香梨が鬼のような形相を
浮かべていたー
「-わたし、とんこつ頼んだよな???
何これ?味噌じゃん???
ねぇ、舐めてんの?ねぇ!」
由香梨が机をバンバン叩くー
「ちょ!やめろよ!」
義弥が慌てて由香梨を止めるー
由香梨は「早くとんこつ持ってこい!」と
店員を怒鳴ると、そのまま不愉快そうに
腕を組んで、机に指をトントンし始めたー
明らかに不機嫌だー
「--ちょ、、由香梨、、ほんと、、どうしたんだよ?」
義弥が言うー
だが、由香梨は、
「これが最後のデートだ」
と低い声で言うと、そのままスマホをいじりはじめてしまったー
醤油ラーメンが先に運ばれてくるー
由香梨の方をちらちら見ながら
気まずそうにラーメンを食べる義弥ー
ビールと餃子が運ばれてきて、
由香梨がビールを飲み始めるー
「は~~~!うめぇ」
由香梨がビールを飲みながら
まるでおっさんのように叫ぶー
やがて、酔ってきたのかー
スカートがめくれることも気にせずー
膝を立てるようなだらしない格好をし始めたー
ようやくとんこつラーメンが運ばれてきて
それを食べ始める由香梨ー
「うめぇなこれ、な?」
由香梨が義弥に言うー
まるで、別人ー
「ゆ…由香梨…」
義弥は震えたー
”本当に、由香梨なのかー?”
そう聞かずにはいられなかったー
それを、口にする義弥ー
「クスッ」
由香梨が笑ったー
「---わたしはね…
月川 由香梨を今日でやめるの」
「え?」
義弥は戸惑うー
「僕は、田中 由香梨になるの♡ うっふふふふふ」
由香梨はそう言うと、残りのラーメンを食べ始めるー
汚らしく、ガツガツとラーメンを食べて
スープを飲み干すー
爪楊枝で口をいじりながら、
餃子を口に放り込み、
口の中に食べ物が入った状態で
べらべらと喋るー
「-た、、田中って?」
義弥は戸惑うー
由香梨は、ビールを飲み終えると、
服をはだけさせて、手をうちわにして仰いでいるー
「--だ、、誰かと結婚するってことか?」
義弥が真顔で聞くー
苗字が変わる…となると
そんなことぐらいしか思い浮かばなかったー
「---……ぷっ!!ぎゃははははははは!」
由香梨が大声で笑うー
「結婚~~~?しねぇよ、、あは、ぎゃ、ぎゃはははははははは!」
下品な声で笑いまくる由香梨ー
義弥は、周囲の視線を気にしながら、
ラーメン屋の店主に慌てて会計を済ませると、
そのまま由香梨を連れて店の外に出たー
近くの広場を歩くー
いつも通り、綺麗な由香梨ー
笑顔が可愛い由香梨ー
でも、いつもとは違う雰囲気のー
男を誘うような感じの由香梨ー
自然の中を散歩しながらー
義弥は戸惑うことしかできないー
「-----誰だ」
義弥が呟いたー
「--あ?」
由香梨が振り返るー
笑顔ー
でも、
それは、由香梨の優しい笑顔じゃないー
悪魔のようなー
人を見下す笑みー
「---お前は…誰だ…?」
義弥は、由香梨を見つめながらそう呟いたー
どう、考えてもおかしいー
田中由香梨とはなんだ?
義弥は、
”彼女が二重人格だった”ということなのだとー
そう思ったー
そんな素振りはなかったし、
二重人格の人と今まで出会ったことはなかったし、
義弥は映画やアニメのような二重人格は実在しないのではないか、と
そう考えていたー
けど、今日の由香梨は、おかしすぎるー。
見た目は由香梨でもー
どう考えても”中身”が由香梨じゃないー
二重人格ー
そうでなければ、双子か、
由香梨そっくりさんかー
「----」
由香梨がほほ笑むー
「---いいよ。教えてやるよ」
由香梨が口を開いたー
「---……わたしね…」
由香梨がにっこりとほほ笑むー
「身体も、心も、他の人に乗っ取られちゃったのー」
「-!?!?!?!?!?」
義弥が表情を歪めるー
「あ…?信じてないでしょ?くく」
由香梨はそう言うとー
口を開いたーーー
「--!?」
義弥が驚くー
由香梨の口からーーー
人魂のようなものが出てきてー
由香梨がだらり、と立ったまま気を失ったような状態になるー
「---僕は、、田中孝雄ーーー
45歳独身、非モテのハゲでデブなおっさんさ」
由香梨を乗っ取る前に、由香梨にした自己紹介と
同じことを言う人魂ー
「---…う、、嘘だ…」
義弥が由香梨の方を見るー
だが、由香梨は、ぐったりとした様子で
立ったまま気を失っているかのようなー
そんな、不気味な状態になってしまっている。
「---ゆ、、由香梨…!おい、しっかりしろよ!」
由香梨の方に向かって、声をかける義弥。
だがー
由香梨は虚ろな目のまま、呆然と立ったままー
「--くくくくく…」
由香梨と、人魂が同時に口を開くー
「--由香梨は、僕のものだー」
由香梨がうつろな目のままニヤリと笑うー
人魂からも同じ言葉が聞こえるー
「ふ…ふざけるな!おい…由香梨!」
由香梨の肩を叩いて、由香梨に呼びかける義弥ー
だが、由香梨は虚ろな目のままー
「ぐへへへへ…」
人魂が由香梨の中に入って行って、
由香梨がビクンと震えるー
「--僕は田中由香梨だー
ぎゃははははははは!
この女は身も心も全部全部僕のものだ!
ぎゃはははははは!ぎゃははははははは!」
由香梨がはち切れそうな声で笑うー
「ゆ…由香梨…!」
義弥が震えるー
下品な笑い声で狂ったように笑う由香梨ー
由香梨は、本当に乗っ取られているー?
「--ふふふふ、今日まで月川由香梨として
あんたと付き合ってあげるぅ♡
最後のデート、楽しみましょ?くくくくく」
由香梨がニヤニヤしながら笑う。
完全に、義弥のことを馬鹿にしている笑みー
「--ふ、、、ふざけるな!!!由香梨を返せ!」
由香梨の胸倉をつかむ義弥ー。
由香梨に対しての怒りはないー
由香梨を乗っ取っているという孝雄とかいうやつへの怒りー。
「–殴れば?」
由香梨が鼻で笑うようにして、挑発的に義弥を見るー
由香梨の凍り付くような、見下す目ー。
ゾクッ、と恐怖すら感じてしまうー
こんな表情を由香梨がー
と、動揺していると、由香梨は続けた。
「殴れよ?ん???わたしが憎いんでしょ?
殴ればいいんじゃん?ほら?」
由香梨が笑みを浮かべるー
「--くそっ…」
義弥が拳を震わせるー
「--殴っても、痛いのは”わたし”だけどね?」
由香梨がクスクスと笑うー
「くっ…うぅぅぅぅぅぅぅ」
義弥が拳をさらに激しく震わせるー
今にも由香梨を殴りそうな義弥ーー
「--義弥…痛いよ…」
由香梨が目を涙ぐませながら言うー
「--ゆ、ゆかり!?」
慌てて義弥が由香梨から手を離すー
「ばーか!」
由香梨が義弥を思いっきりビンタするー
「ぐあぁっ!」
義弥が悲鳴を上げるー
「--ぎゃはははははははははは!
バカな彼氏だぜ!
ぎゃははははははは!」
由香梨の声でそんな台詞を言われていることに
義弥は激しい怒りを感じるー
ビンタされて地面についた義弥の手を踏みにじる由香梨ー
「ぎゃはははははは!
僕が最後にデートしてあげるっていってるんだよ?
彼女との最後の1日、楽しみなよ!」
義弥が怒りの形相で由香梨を見つめるー
「---……」
由香梨が義弥の方を睨むー
「--ほら、デートの続き、しようよ」
由香梨がクスクス笑いながら言うー
「ふざけるな…誰がお前なんかと…由香梨を返せ!」
義弥がなおも叫ぶと、由香梨は呟いたー
「--わたしとデートしてくれないなら、
わたし、悲しくなって、そこら中の男とヤッちゃうかも???
くく…ぎぎ、、ぎゃははははははは!」
由香梨の言葉に
頼むからやめてくれ!と叫ぶ義弥ー
「だったらー」
由香梨が義弥の胸倉をつかんで、
義弥に顔を近づけて言うー
可愛らしい顔ー
でも、今は”悪魔”にすら見えるー
「-わたしとデートしろよ?あ?
”最後のデート”をよー。」
由香梨はそう言うと、さらに続けたー
「僕がせっかく”お情け”でお前を最後に1日だけ
楽しませてやろうとしてるんだ。
僕の善意を素直に受け取れよ?」
その言葉にー
「--デートすれば……由香梨を返してくれるのか?」
と、義弥が言うー
「--僕が満足したら、この身体を返してやってもいい」
由香梨は笑ったー
「-その言葉、忘れるなよ」
義弥は由香梨を睨みながら立ち上がったー
全ては、由香梨を助けるためー
ぎゃははは、と笑う由香梨を睨みながらー
義弥は静かに歩き出したー
③へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・
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次回が最終回デス~!
今日もありがとうございました!!
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