乗っ取った相手の”良いところ”だけ
奪い続けた男は、
ついに”乗り換え”を決意するー。
長年潜み続けた、彼女の身体を解放し、
別の身体へと乗り換えようとする男は、
最後に”お楽しみ”をしようとしていたー。
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「----ふふふん♪」
シャワーを浴びる美里ー
もちろん、シャワーを浴びる最中は、美里に潜む男が
美里を完全に乗っ取っているー
身体を撫でまわすように触りながらー
長い黒髪を洗って、
ゾクゾクするー
鏡で身体を見つめて、嬉しそうに笑うー
胸を異常なまでに入念に洗うー
「ひひひひ…♡ もうすぐお別れだなぁ…♡♡」
お別れと思ったら名残惜しくなってきたー
胸をひたすら揉みまくる美里ー
「へへへへへっ♡ へへへへへへっ♡」
汚らしい笑みを浮かべながら、美里は笑うー
結婚して同居している夫・真人も
まさか美里がずっと前から乗っ取られていたなんて
夢にも思わないだろうー。
真人と結婚したのも、美里に潜んでいる男が
美里自身に真人への好意を植え付けたからにすぎないー
「さ~て」
お風呂から上がった美里は、身体を拭き終えると、
”ちょっと休むか”と、そのまま美里に身体を返したー
「あれ…」
美里が周囲を不思議そうに見渡すー
「わたし…やっぱり、変だよ…」
美里が不安そうに呟くー
どうしてー
どうして今まで疑問に思わなかったんだろうー
とー。
1日に意識が何回も何回も飛んでいるー
なのに、周囲は普通に接してくるー
意識が飛んでいる間も、
わたしは、倒れているわけではないー?
美里はそんな風に考えるー
夫の真人の方を見るー
真人は、「どうした?」と、美里の方を笑いながら見るー
真人は、とても優しいー
でもー
”わたし、真人のこと…別に好きじゃない…?”
美里は首を傾げたー
どうして結婚したのー?
どうして今の会社に就職したのー?
どうしてわたしは、意識が飛ぶことを気にしていなかったのー?
美里は、いろいろなことを考えて、混乱するー
”へへへへ”
美里の中に潜んでいる男は笑みを浮かべたー
”良い場面”だけ乗っ取って奪い続ければ、
当然、乗っ取られている側は、
自分の意識が飛ぶことを疑問に思い始めるー
高校時代、乗っ取られたばかりの美里がそうだったー
男が昼休みや放課後の自由時間、
場面場面だけ美里を完全に乗っ取っていたことで、
美里は強い不安を覚えて、そして、悩んでいた。
だからー
男は美里の中でポジティブな感情を爆発させてー
美里の思考にも影響を与えたー
乗っ取っていない状態でも、美里の脳に巣くっている男は、
美里の思考に影響を与えることができることに気づいた。
それを利用してー
美里が、完全に乗っ取られている間も、不安を感じないようにしー
真人への好意もコントロールし、
就職や一人暮らし、大学生活にまで影響を与えてきたー
強く脳内で念じることで、
美里を乗っ取らずとも、美里本人にも影響を与えることができたー
しかしー
男は、”それ”をやめたー
美里の中に潜んでいるときに、
美里の思考に影響を与える行為をやめたのだー
「---わたし…」
美里は自分の部屋で悩みだすー
”くくくくく…最後に楽しませてもらうぜ”
男は来月になったら、美里から抜け出し、
別の身体に移るつもりだったー
だが、その前に
美里が”今までの人生、奪われ続けたこと”を自覚したら
どうなるのか、それを見てみたかったー
”どうせ、俺が身体から抜ければ、この女は、
今までの人生”穴だらけ”であったことを自覚するんだ。
俺がいるうちに、自覚させてやったほうが、
この女のためでもあるんだ”
男はそう言いながらも、
単に美里が”今まで乗っ取られていたことを自覚したら”
どうなるのか、それを見てみたかっただけだー
「----」
美里は部屋で頭を抱え込んでいるー
今までは男によって”気にならないように”されていたー
だが、それが無くなった今ー
美里は、自分の人生の”記憶がない部分”が多すぎることで、
頭を抱えていたのだー
真人との初エッチの記憶もー
大学の入学式も卒業式もー
楽しい行事もー
毎日のお風呂もー
会社や学校での昼休みもー
記憶がおぼろげで、飛んでいるー
「--……あ、、あの」
美里は、夫の真人に声をかけたー
「--わたし、実は時々記憶が抜けてる…
っていうか、毎日日常的に記憶が抜けてるんだけど…」
美里の言葉に、
真人は「え?」と首をかしげるー
「--わたし…意識を失ったりしてないよね?」
美里の言葉に、真人は「え?あ、あぁ…いつも元気そうだよ」と笑顔で答えたー
「そうー」
美里は不安そうにうなずくー
”自分の記憶がない”のに、
美里は、その間も”行動している”ということはー…
”夢遊病”
”二重人格”
美里の中に、いくつかの候補が浮かび上がるー
”お~お~”
美里に憑依している男は、美里の中でそれを聞きながら笑うー。
「----意識がないって、どういうこと?
調子でも悪いのか?」
真人が心配して尋ねる。
美里は「ううん、なんでもない」と
無理に明るく振舞って、自分の部屋に戻ったー
美里は「今日はもう寝よう…」と呟いて
寝る準備をすると、布団に潜って目を閉じたー
その直後、美里が震えるー
そして、布団を放り投げた
「まだねませ~ん!エッチた~いむ♡」
乗っ取られた美里が笑いながら
布団から飛び起きると、部屋に隠してある
大人のおもちゃを使って喘ぎ始めたー
・・・・・・・・・・・・・・・・
男は、容赦しないー
相変わらず美里の”良いところ”だけを奪い続けたー
会社の昼休みの時間ー
仕事が終わったあとの時間ー
夫とのエッチー
お風呂の時間ー
夜の時間ー
”良いところだけ”を、だ。
今までそれを”気にしないよう”思考を染められていた美里ー
しかし、その”染める行為”を男がやめたことにより、
美里は悩んでいたー
手帳を見つめるー
美里は、自分の意識が飛んでいるタイミングを
記録していたー
「-----…」
美里は感じ取るー
”自由な時間”ばかりが奪われていることをー
「---どういうこと・・・?」
戸惑う美里は、何かを熱心に調べ始めたー
美里は元々、頭の良い優等生だったー
それは、美里にずっと潜んでいた男もよく知っているー
”ほ~~~”
美里が調べていることを、美里の目を通じて
察知する男
”乗っ取られている”
”憑りつかれている”
”憑依”
美里は、そんなワードをネットで手当たり次第調べていたー
”案外、かしこいじゃねぇか”
男はそう思いながら、
ちょっとしたいじわるを思いつくー
”ま、ネットに憑依薬の情報なんて、簡単には載っちゃいねぇよ”
男は「圧倒的有利」な立場にいるー
何故なら、憑依などというものには、そう簡単には
たどり着けないからだ。
仮に、男が美里に憑依するために使った”手段”に
気付いたとしても、
意味がないー
男の身体は既に死んでおり、
男は”実体”としてこの世に存在しないのだから
美里にどうすることもできない。
いざとなれば、美里を完全に乗っ取って
どうにだってできるし、
美里から抜け出して、そのまま逃亡することだってできるー
”いいね”
男は笑ったー
”その努力に免じて、全部、教えてやるとするか”
男は、抜け出す前に、
美里に全部、教えてあげる決意をしたー
今まで、乗っ取っていたこと、全てを、だー
その日の夜ー
美里は部屋に隠していたバニーガールのコスチュームを
身に着けて、何やら映像を自撮りし始めた。
「--ふふふ♡ 驚いた?
わたし、エッチでしょ?」
カメラに向かって足を組みながらほほ笑む
バニーガール姿の美里ー
「驚いてる?わたしがこんな格好してるの。
ふふふ…
最近、意識が飛ぶことを疑問に思ってるでしょ?
その答えを教えてあげようと思ってー」
美里は、わざと甘い声で呟きながら、
答えを口にしたー
「ひ・ょ・う・い♡ うふふふふふっ♡」
嬉しそうに、甘い声で言う美里ー
美里はカメラの前で足を組みなおすと、
高校時代の美里に憑依してー
そして”良いところ”だけを奪い続けてきたことー
今まで美里がそのことを気にしなかったのは
男が美里の脳内で、”気にならないように”
染め上げていたことー
そして、じきに”次の身体”に移るため、
染め上げる作業をやめたことなど、
全てを打ち明けた。
「あ~~?びっくりして声も出ない~?
ふふふふ」
美里はそう言うと、
バニーガールの服を乱暴に脱ぎ始めたー
「いい身体だったよぉぉ~~~?
えへへへへへ♡」
挑発的に笑うと、
半裸状態の美里は
「エッチな身体、ごちそうさまでしたぁ♡」と
笑いながら、カメラの前でお辞儀したー
「俺は来週には、抜けるからさ、
ちゃんと身体は返却するよ、
お疲れさん」
そう呟き、美里はカメラの映像を止めたー
その映像を、ベットのすぐそばに置き、
”見なさい”とだけ書いて、
美里は、そのまま眠りについたー
・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
正気を取り戻した美里がその映像を見るー
美里は、黙って、”乗っ取られた自分”からの
ビデオメッセージを見つめていたー
「------」
美里は涙を流したー
そういう、ことだったんだー…
とー。
虚しさー
悔しさー
悲しさー
色々な感情がこみあげてくるー
美里は、泣きながらー
「--ひどい…」と呟いた。
男は笑みを浮かべるー
美里の中に潜む男はー
”でも、俺は優しいほうなんだぜ?”と、
静かに呟いたー
何故ならー
憑依薬を使う人間の中には
相手を完全に乗っ取ってしまう人間もいるしー
乗っ取った身体で犯罪を犯すものもいるー
もっとひどいやつは、そのまま死に至ら占めるやつもいるー。
美里は、何やら手紙を書いているー。
夫となった真人に対する手紙ー
男は、愉悦に浸っていたため、
その内容を見ることはできなかったがー
”ごめんなさい”の文字だけは見えたー
家出でもするのだろうか。
まぁ、勝手にすればいいー
美里が苦しむ様子を見たら
”次の身体”を探すとしようー。
俺はー紳士だ。
完全に乗っ取ることもしないし、
美里の身体で犯罪行為も一度もしていないー
もちろん、美里の身体を殺すこともなく
ちゃんと返ーーー
ーーー!?!?
男はハッとするー
気付けば、美里が、近くの山奥の断崖絶壁に立っていたー
”え…?”
男は唖然とするー
「--…わたしのような思いをする人は…
もう二度と出させない」
”は?”
男は、混乱したー
こんな場所にやってきて何をー?
美里は目から涙をこぼしているー
このまま、”生きる”選択肢もあるー
けれどー
高校・大学・そして、結婚までもー
あらゆる人生を奪われた絶望ー
悔しさ、怒りー
”負けず嫌い”の気持ちー
このままやられっぱなしなのも納得がいかないー
そしてー
ここで、こいつを逃がしたら
きっとこいつは、自分以外の誰かに憑依して
同じことをするー
だったらー。
真人には、全てを打ち明けた手紙を残したー
真人を悲しませてしまうことは申し訳ないと思うー
けれど、それでもー
”や…やめろ…!バカ女が!”
男は、ようやく美里がしようとしていることを悟ったー
美里は、男もろとも”自殺”しようとしているのだー
美里を乗っ取ろうとする男ー
「うっ…」
美里がビクンと震えるー
「--はぁ…はぁ…馬鹿が…」
乗っ取られた美里がそう呟くー
しかしー
「--わた…」
ー!?
「わたしはもう、あんたの好きにはさせない…!」
美里の口が、男の意志とは関係なく開いたー
激しい怒りが男の支配を打ち消しー
美里が叫ぶー
”く、、くそっ!”
男は、予定を変更して、美里から抜け出そうとしたー
”こんな女、もうどうでもいい!
一人で死にやがれ!”
「--逃がさないーー!」
ー!?!?!?
男は唖然としたー
”抜け出せない!?”
美里の激しい怒りがー
男を、美里の身体に”縛り付けた”
男は、憑依から抜け出すこともできず、
もがくー
美里は、背後の海の音を聞きながら
涙を流すー
「みんな、ごめんねーーー」
絶対の正解なんて、ないー
でもー
美里は
今の美里にできるのはー
これが、最良だと思うからー
”や…やめろおおおおおお!”
美里は、
目を瞑りー
そのまま絶壁に身を投じたー
「良いところを奪うならー
悪いところも、悲しいところもー、一緒よ!」
美里の身体が、途中の木の枝にぶつかり、
音を立てて、濁流に飲み込まれていくー
それ以降ー
美里の姿を見かけたものは、いなかったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
3年後ー
「----クスッ」
彼氏とのデートを楽しむ女が、静かにほほ笑んだー
「----良いところだけ、俺のものー」
とー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
良いところだけ奪う憑依でした~!
全然紳士じゃない気がしますネ~笑
お読み下さりありがとうございました!!
コメント
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これはかなり質が悪いやり方ですね。
まだ普通に完全に乗っ取られた方がマシなのでは?
それにしてもこの憑依してる男、調子に乗りすぎですね。
いい気になって全部教えたせいで思わぬピンチになっててとんだ愚か者ですね。
最後のオチを見る限り、男はどうにか美里の体か逃げられたっぽいみたいですけど、美里は人生のいいとこを奪われまくった上に犬死にで本当にお気の毒です。
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コメントありがとうございます~!
かなり質の悪い憑依人でした~汗
最後のシーンは
彼が逃げたのか
”同じような人が別にいるのか”
あえて、ぼかしてあります~!