入れ替わった状態で過ごす、
痴漢冤罪の被害者と
痴漢被害者の女子大生ー。
二人の先に、待ち受ける未来とは…?
---------------—
「紗奈恵ちゃん、かわいい~~!」
茂の娘・勝美が拍手をするー
「--ちょ…ちょ…勝美…?」
紗奈恵(茂)が顔を真っ赤にしているー
ミニスカートやら
ワンピースやら、
ボーイッシュな格好やら、
太ももを露出した大胆な衣装やらー
色々なものを試着させられて
顔を真っ赤にしている紗奈恵(茂)。
「-ちょ…っちょ!中身は俺なんだから!」
紗奈恵(茂)が小声で言うと、娘の勝美も小声で返事をするー
「-でもね、お父さん。これからは、お父さんは
その紗奈恵ちゃんの身体で生きて行かなくちゃいけないんでしょ?
だったら、こういうことに慣れなくちゃ」
その言葉に、紗奈恵(茂)は言い返せない。
「ほら!紗奈恵ちゃん!かわいくピースして」
勝美の言葉に、
紗奈恵(茂)は顔を真っ赤にしながら
もじもじしているー
「ほら!女の子レッスンよ!早くピースして!」
女の子レッスンってなんだよ…
と、思いながらも、紗奈恵(茂)は真っ赤な顔でピースしたー。
酷い目に遭ったー
そう思いながらも、勝美に選んでもらった
女の子としての服の会計を済ませると、
そのまま店を出たー
「--じゃ、今日でジャージは卒業ね!紗奈恵ちゃん!」
勝美が嬉しそうに言うー
なんで、こんなに娘の勝美は嬉しそうなのだろうか。
そんな風に思いながらも
”お姉ちゃん”ができた感覚なのだろうかー
いや、”妹”かもしれないー
と、いろいろ考えてみるー
まぁ、とにかく、いずれにせよ、
あまり口をきいてくれなかった娘が、こんな積極的に
なったのだからー、
言うことはないー
帰宅すると、妻が、紗奈恵(茂)の方を見て
「あら、おかえりなさいー」と呟く。
勝美が手を洗いに洗面所に行っている間に、
妻は苦笑いしたー
「なんだか、娘が二人に増えた気分」
とー。
「--はは」
紗奈恵(茂)は、ソファーで足を組みながら
煙草に火をつけるー
もともと、茂は喫煙者で、
その癖は、今でも抜けていないー。
「---じゃあさ、お母さんって呼んでもいいか?」
紗奈恵(茂)が、妻に向かって冗談を言うー
「-だめです」
妻は笑いながらそう答えたー
なんだかんだで、家族とは上手くやっていけそうだー
問題はーー
やっぱり、会社のほうだろうかー。
「---色々大変だと思うけど…
あなたは、あなたらしくやりなさい。
見た目がどうだって、あなたは、あなたでしょ?」
妻が、真剣な表情でそう言ったー
そうだー
見た目に左右される必要はないー
この姿だと、当然、事情を知る人の前以外では
女として振舞う必要があるが、
それは、受け入れるしかないー
こうなった以上、
受け入れるべきところは受け入れて
けれどー自分が茂であるということは
決して忘れないようにして、生きていくしかないー
「ありがとな」
紗奈恵(茂)は、会社でのやり取りを思い出しながら決意するー。
”茂として”
会社で、自分が、どのようにあるべきかー。
それを、決意したー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
落ち込んだ様子で家に向かって歩く茂(紗奈恵)-
途中で疲れて、公園のソファーに座るーーー
「どうすればいいの…」
茂(紗奈恵)は落ち込むー
どんどん気持ちが後ろ向きになっていくー。
「---おや?」
横から、声がした。
茂(紗奈恵)が見ると、
そこには、入れ替わって、”痴漢の容疑者”として
茂になった紗奈恵を取り調べしていた
刑事・源吾郎の姿があった。
「あ…お久しぶりです」
茂(紗奈恵)が頭を下げる。
「--どうも」
源五郎は、自販機で買ったと思われる
お茶のペットボトルを2本持っているー
そして、そのうちの1本を飲み始めた。
「元気、なさそうだな」
源五郎が呟く。
「--…やっぱり…急にこの身体で
生きていくってなっても、いろいろ難しいなぁって…
現実は厳しいなぁ…って思っちゃって
ちょっと疲れちゃいました」
茂(紗奈恵)が苦笑いしながら呟く。
心底疲れてそうな様子が、源五郎にも伝わるー。
「------…そうか」
源五郎は呟く。
正直、”おじさんと入れ替わったまま生きていくことになった
女子大生”の気持ちなど、源五郎には想像できない。
刑事として、今まであらゆる事件を捜査し、
取り調べも行ったー
人間の心理を読み取る力には長けているつもりの
源五郎も、今の紗奈恵の心情を推し量ることはできなかった。
「---」
源五郎は、茂(紗奈恵)の方を見るー
弱弱しい笑みを浮かべて、
今にもー
そう、自殺してしまいそうな雰囲気にすら、見えるー
「--……らしくねぇな」
源五郎はお茶を飲みながら呟いたー
「--え?」
茂(紗奈恵)が源五郎の方を見るー
「--…取り調べのときのこと、覚えてるか?
君は、追及する俺に対しても、
一歩も退かなかったし、
常に自分の意思を変えようとしなかった。
正直、あの時俺は思ったんだよ。
”このおっさん、手ごわいな”ってな。
何を言っても「やってません」ばっかり。
意志の強さを感じたし、
刑事として厄介な野郎だな、ってそう思った」
源五郎は、あの時の茂(紗奈恵)の目を思い出すー
入れ替わってしまったことを主張し、
痴漢は冤罪であることを主張しー
一歩も退かなかった。
痴漢冤罪のおじさんと入れ替わってしまって
自分だって不安なはずなのに、
源五郎の取り調べに対して、退くことはなかったー
入れ替わりを知った後も
源五郎は”この子は、強いな”と
そう思ってたー
「--あの時の威勢の良さはどうした?」
源五郎が、うすら笑みを浮かべながら言う。
「--もう、無理ですよ。あの時は、必死でしたけど、
もう、、無理なんです」
落ち込みきってしまった茂(紗奈恵)-
ため息をつく源五郎ー。
「自分が、悪いとか、そんな風に思ってんだろ」
源五郎は、そう呟くと立ち上がるー
「え?」
茂(紗奈恵)が源五郎の方を見るー
茂になった紗奈恵は、
”あの時、自分が茂に冤罪を押し付けなければ”とか、
”こんな身体になって、みんなに迷惑かけちゃうよね”だとか、
そんな風にばかり思っていた。
マイナス思考に支配され、結果、暗くなり
オドオドして、大学でも上手く振舞えていないー
「君は、悪くないだろ。」
源五郎が呟くー
「悪いのは、あの時痴漢してたおばさんだ。
君じゃない。
ったく、あのおばさんも本当、余計なことしてくれたよな。
おかげで俺の仕事が増えちまった。
警察なめやがって」
一人、うんざりした様子で呟く源五郎。
「--自分を責めてんなら、やめとけ。
君が、間違って犯人じゃないおっさんを捕まえてしまったのも、
元はと言えば、痴漢のおばさんのせいだ。
痴漢おばさんがいなければ、君が、そのおっさんを
捕まえることもなかった。
違うか?」
源五郎の言葉に
茂(紗奈恵)は「それはそうですけど」と呟くー。
「--自分を責めるのは、やめにしておけ。」
源五郎がそこまで言うと、
少しだけ笑って口を開いたー
「-まぁ、ほら、いきなりおっさんになっちまった
女子大生の気持ちは、俺には分からねぇけどよ。
ほら、その、とにかく、元気出せってことだよ」
不器用な源五郎が、頭を掻きながら言うー
難しい紗奈恵の状況に、言葉を上手く伝えることが
できないながらも、源五郎は、なんとか紗奈恵を励まそうとしていたー
持っていたお茶のうち1本を、茂(紗奈恵)に渡す源五郎ー
「それ飲んで元気出せ」
お茶1本で、元気になるなら苦労しないよー
そう思いながらも茂(紗奈恵)は
必死に刑事・源五郎が励ましてくれていることを読み取り、
「ありがとうございます」と呟いたー
「--っ、俺が担当した事件の…なんつーか、被害者?が、
自殺でもしちまったら、本当、面倒だから、
頼むぞ?」
源五郎は、そう呟くと、敬礼をして、
そのまま立ち去って行ったー
言葉は不器用で、悪いが、
”とにかく元気出せ”と励ましてくれたのだろうー
茂(紗奈恵)は、
「うん…頑張る」と
少しだけ、前向きな気持ちになって、
笑顔を浮かべたー
「---あ」
源五郎は苦笑いするー
近くで張り込みをしている後輩刑事ー
あの時、痴漢冤罪事件を捜査していた釜井の分の
お茶を、茂(紗奈恵)に渡してしまったー
お茶は、源五郎の飲みかけの1本しかないー
「--ま、あいつなら俺の飲みかけでもいいだろ」
源五郎は、そう呟きながら、
後輩刑事が待つパトカーに向かって行ったー
・・・・・・・・・・・・・・・
黄川田専務の部屋で、
紗奈恵になった茂は、まっすぐと黄川田専務を見つめ
”俺は、そういうことはしません”と告げたー。
「--身体は女でも、中身は男です。
俺はこの身体を武器に使うつもりはありません。
ですので、そういうことは、お断りします」
紗奈恵(茂)の言葉に、
黄川田専務は不満そうな表情を一瞬浮かべた。
だがー、
紗奈恵(茂)のまっすぐな目を見て
諦めたのか、少しだけ表情を緩めて呟いたー
「-----……君は、一度決めたら、退かないやつだったな」
黄川田専務はそう呟くと、
昔のことを思い出す。
茂は、正しいと思ったことは、たとえ専務が相手でも社長が
相手でも真向から反論してくるー。
立場は違えど、茂と黄川田専務は長年、同じ会社で勤務している
仕事仲間でもあるー
お互いのことをあまり良くは思っていないものの、
その仕事能力は、お互い、評価している。
「-----好きにしろ」
黄川田専務は、そう呟いた。
紗奈恵(茂)は、頭を下げるー
この身体を生かす道もあるー
女として楽しむ道もあるー
自分が独身なら、そうしたかもしれないー
でもー
自分には妻も娘もいるー
だからー
身体は紗奈恵でも、
自分を見失うようなことは、したくなかったー
紗奈恵の身体になってしまったけれど、
できる限りは、茂としてー
今まで通りやっていくー。
そう簡単ではないだろうし、
これからもトラブルは起きるだろうけれど
それはなんとか乗り越えて見せるー。
紗奈恵(茂)はそんな風に思いながら
”胸があるっていうのは、何日たっても慣れないな”
と、苦笑いしたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”自分を責めるのはやめにしよう”
茂になってしまった紗奈恵は、
前向きな考えを取り戻していたー
友達からは”おっさん”と扱われー
親友には彼氏を奪われてー
その彼氏には別れを告げられた。
絶望のような状況だけど、
それでも、
”痴漢冤罪のおじさん”として
警察に取り調べを受けていたころよりは、マシだ。
「---よし」
茂(紗奈恵)は、後ろ向きなことを考えるのをやめて、
今日も大学に足を踏み入れるー
おじさんになってしまったことも受け入れて、
友達に積極的に話しかけていくー
キモイ、と言われながらも
それを笑い話にして、茂(紗奈恵)は
とにかく前向きな大学生活を送るー
元彼氏の源吾と親友の千乃のことも祝福したー。
複雑だったけれど、
身体がおじさんになってしまった紗奈恵を愛せないという
源吾の気持ちも、紗奈恵にも分からないでもなかったー。
紗奈恵は、茂の身体で、かっこいいおじさんスタイルを
目指して、みるみるおしゃれになっていき、
性格も元通り明るさを取り戻してー
いつしか、以前のように、楽しい学校生活を取り戻していたー
元には、もう戻れないかもしれないー
それでもー
茂になった紗奈恵の表情には、笑顔が戻っていたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
紗奈恵(茂)が、職場に向かうー
その最中ー
「---!」
紗奈恵(茂)は違和感に気づいたー
ズボンの上から、お尻を触られているー
”おいおい、中身おっさんだぞ”
茂は、そう思いつつも、
”まさか、俺が痴漢を受ける立場になるなんて”と
唖然とするー
なるほど、不愉快だー
紗奈恵(茂)はそう思う。
触られる感触も気分も良いものではないし、
正直、怖いー
自分の背後に立っているロン毛の男ー
紗奈恵(茂)は、恐怖と悪寒を感じながら、
目的の駅まで耐えたー
駅に到着すると、その男も電車から
降りようとするー
紗奈恵(茂)は、すぐに動いたー
「--おい!」
紗奈恵(茂)は、つい乱暴な口調になりながら、
ロン毛の男の腕をつかむ
「--!?」
「--この人、痴漢です!」
紗奈恵(茂)は叫んだー
こういう痴漢がいるからー
痴漢冤罪も起きるんだ。
間違った相手を捕まえるのも、もちろん良いことではないし
悪いことだがー
そもそもの元凶は”こういうやつらが”いることだー。
痴漢がいなければ、
痴漢と誤解されることも、ないー
茂は、自分が冤罪に巻き込まれたことから、
痴漢に対し、以前よりも激しい怒りを抱いていた。
しかしー
「いててててて お、、俺じゃねぇよ!」
ロン毛の男が叫んだー
「--!?!?」
紗奈恵(茂)が表情を歪めるー
「--お、、、俺じゃねぇってば!」
ロン毛の男が必死に叫ぶーー
”ま、、まさか”
紗奈恵(茂)が戸惑うー
痴漢と間違えられて、
自分を痴漢と言い放った女子大生と入れ替わってしまった挙句ー
今度は、その身体で、痴漢被害を受けてー
さらには、”関係ない男”を捕まえてしまった茂ー
新たな、痴漢 冤罪 が始まろうとしていたー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
痴漢X冤罪の後日談でした~!
この続きは(おそらく)もうないので、
想像の中でお楽しみくださいネ~!
ありがとうございました~☆
コメント
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源五朗さん待ってました‼
釜井さんが登場しなくて少し残念でした( ´△`)
源五朗さんと紗奈恵のコンビもいいですね‼
茂さんの奥さん理解あるいい人ですね(^^)
茂さんは娘さんともっと仲良くなれそうですね笑
この後も娘さんと出掛けたり買い物いったりするんですかね‼
まさか!?
ロン毛の人とまた入れ替わるんですか!?
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コメントありがとうございます~!
お楽しみ頂けて何よりデス~!
ロン毛の人と入れ替わってしまったら…
またまた大変なことになりそうですネ…笑
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面白かったです。
できれば、プランAも読みたいです。
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コメントありがとうございます~!☆
今から書くのは難しいかもしれませんが、
新作に生かすか何かで、書ければ、と思います~!