<皮>わたしは、わたしじゃなかった③~決断~(完)

1年前の自分からのメッセージで
衝撃の事実を知ることになってしまった朝香ー

苦悩の末に、朝香が選ぶ道は…?

---------------—

朝香は、クリームを頭に塗り付けるー
これを塗れば、自分は朝香を”脱ぎ”
節夫に戻ることができるー

そうすればーー
朝香も元に戻るのだろうか。

先日、初めてクリームを塗って
朝香の皮を脱いだ時ー
朝香は虚ろな目で、着ぐるみのように
床に横たわっていたー

しばらく時間が経てばー
朝香の身体は元に戻るのだろうか。

「---1年前の…わたし…
 説明足りなさすぎ!」
朝香はクリームを塗りながら、そう呟くー

”本当の朝香”を元に戻してあげることはできるのだろうかー
その説明が一切なかった。

いやー
1年前の自分は、
”1年後の自分”がこんな思いをするなんて
想像もしてなかったのだろうー。

「---…」
朝香はクリームを塗り終えると、ため息をつくー。
そして、後頭部がパックリ割れるー

朝香を脱いでーー
1年間、朝香として過ごした男・節夫は、
朝香の皮を優しくソファーに置くと
鏡を見つめたー

「これが……わたしだなんて…」
節夫は目から涙をこぼすー。

節夫としての記憶は、皮を着た時に完全に失ったー
そして、今の節夫には、朝香の
生まれてから今までの記憶しか、ないー。

たとえ、1年前に自分が朝香の人生を奪った節夫だとしてもー

今の彼にとっては
”朝香として生まれて、ずっと生きてきたのに、
 急に、”お前は朝香じゃないよ” とー言われた気分だった。

「-----」
朝香の皮の方を見つめるー

償わないといけないー
もしも、本当に自分が、この子の身体を無理やり乗っ取った悪党ならばー
償わなければ、いけないーーー…。

朝香が目を覚ましたらー
事情を説明して
土下座してー
許してもらえないとは思うけれどー
何でも、するー

警察に突き出されてもいいー
意識を取り戻した朝香が、死ねというなら自殺してもいいー。

とにかく、罪を、償いたいー

「------」
自虐的に笑う節夫ー

今でも自分は、朝香だと思っているー

けど、違う-
こうして、朝香を脱ぐことができるのが、
何よりの、証拠ー

皮のような状態で、横たわる朝香が、
元に戻るのを待ちながら
節夫は深くため息をついたー

だがーーーー

皮になった朝香は、元には、戻らなかったー

朝になってもー
次の夜を迎えてもー
また、その次の朝になってもー

まるで、脱がれたゆるキャラのように、
まったく動くことなくー
生気ない表情で、朝香の皮は虚空を見つめ続けているー

本当の朝香はーー
もう、いないのかもしれないー。

「---…ごめんなさい…」
節夫は、抜け殻のような状態の朝香の皮に向かって
泣きながら謝るー

一度、皮にされた人間は、もう、元には戻らないー

今の節夫が、どんなに朝香に身体を返したいと思ってもー
朝香は、もう、戻ってこないー
永遠にー

節夫には、償うことも許されないー

節夫は、泣きながら
ペンを取るー。

わたしは朝香ー
その記憶しかないけれどー
でも、自分は節夫なのだろうー。

1年前に、朝香を乗っ取り、
その際に節夫としての記憶を失い、
朝香の記憶を奪ったー

元の記憶を失って、
別人の記憶を得るー

今のわたしは、いったい何者なのだろうー?
と、節夫は考える。

節夫としての記憶がなく
朝香としての記憶しかないー

もはや、それは、朝香そのものなのではないかー…

色々な考えが頭を駆け巡るー

元々の自分は、他人を、
平気な顔して、乗っ取るような人間だったのか。

1年前の自分は、映像の中でヘラヘラしながら
これから朝香を乗っ取ることを嬉々として説明していたー。

「ゆるせない…」
節夫はそう呟くー

1年前の自分に会いに行って、殴ってやりたい気持ちになるー
けれど、それはできない。

今の自分にできるのはーーー

節夫は、ペンを置くー

彼が書いていたのはー
”遺言状”だったー。

1年前の自分がしたことー
1年前の自分が残したビデオメッセージー
今の自分の心境ー
何とかして皮になってしまった朝香を助けてあげてほしいという嘆願ー

そしてー
親友の園枝や友達、彼氏の健司、朝香の両親に対する謝罪ー

それらを書き記したー

彼はー
死ぬつもりだった。

「---これが、わたしにできる償い…」
節夫は、朝香の皮を見つめるー

「ごめんなさい…」
朝香の皮にそう語り掛けると、
節夫は出かける準備を始めるー

死にに行くー

その、準備だ。

節夫は、いろいろなことを考えるー。

と、言ってもーー
朝香としての記憶しかないー
だからー自分が本当はどのように生きてきたのかも
分からないー

外出する準備を終えるー。
男物の服はないから、
男でも着れそうな服を身に着けるー

寂しそうに家を見つめる節夫ー

自分の居場所は、ここではないー

自分の家だと思っていたらー
自分は泥棒だったー。

こんな、こんな気持ち、きっと、誰にも分からないー。

「ーーーさよなら」
節夫がそう呟いたその時ー
たまたま、スマホが鳴ったー

LINEの通知音だった。

「----」
節夫は、戸惑いながらスマホを見つめるー

そこにはーー

”朝香~!この前の誕生日の時の写真、送るの忘れてた~!”と、
親友の園枝からのメッセージと写真が届いていたー

1か月前、園枝の誕生日の時に撮影した写真だー。

楽しそうに写真に写る朝香と園枝ー
彼氏の健司や友達ーー

「--みんな…」
節夫は、それを見て目から大粒の涙をこぼすー

みんなは”事実”を知ったら何て言うだろうー?
酷く悲しんでー
酷く苦しんでー

そこには、悲しみと憎しみしか、生まれないかもしれないー

本当のことを告げて、自殺するー。
それは、本当に正しいことなのだろうかー。
自分が逃げて、自己満足するだけじゃないだろうかー。

もう、朝香は元には戻らないー

ならー
せめてー
周囲の人間を悲しませないようにー
朝香として振舞い続けることこそがーー
償いなのではないだろうかー。

いやー
それも、所詮は自己満足ー

真実を打ち明ければー
みんなは、真実を知るー。
そして、悲しみと怒りが始まるー

真実を打ち明けなければー
”少なくとも”みんなは、何も知らないまま
怒りも、悲しみもなく、そこには、笑顔があるー。
でもーー
朝香本人からしてみれば、それは、残酷で
何よりもつらいことだろうー

そこにーー
正解なんて、なかったー。

どっちを選んでもーーー

朝香が元に戻るなら、いいー
でも、元に戻らなければー
みんなは、ただ、悲しむだけー。

何日待っても、朝香は着ぐるみのように
床に横たわったまま微動だにしないー

朝香は、もう元には戻らないのだー

「----」
節夫は泣きながら、
”死”と”生”の境界線で揺らぐー

真実を打ち明けて死ぬかー
真実を打ち明けて生きて、罪を償い続けるかー
それとも、朝香として永遠に罪悪感に苦しみながら、生きるのかー

みんなが悲しんでもー
朝香が元に戻らなくても、
やっぱりーー
自分はーーーー

”来月の誕生日は、わたしが盛大にお祝いするね”

園枝から、追加でメッセージが届いたー

「---……園枝…」

節夫が、選んだのはーーーー

・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ーーー

「---ーーー」
朝香は、大学にやってきていたー

”今日、死ぬ”
決断を下してー

「----朝香」
彼氏の健司がやってくるー

「----」
健司の方を黙って見つめる朝香ー

健司はー
”節夫”と繋がっているのではないかー。
そんな、疑問が、頭をよぎったー

だがーー

「--杉谷節夫…知ってるよ」
健司はそう呟いた。

「この前言ったー
 ”2つの楽しみ”の言葉は、そいつの言葉だ」
健司が呟くー

「--高校卒業してからもさ、節夫とは
 交友があったんだ。
 
 朝香、去年、そいつに文化祭のあと、告白されてたろ?」

健司が言う。

1年前の自分が残した映像によれば
節夫は、朝香の大学の文化祭に遊びに来て
朝香に一目ぼれをして、朝香に告白し、振られて
朝香を皮にしたーー

そう言っていたし、
確かに、節夫らしき男から告白された記憶は
今のーー朝香を着た節夫にもちゃんとあるー。

「ーーそいつさ、朝香に振られたあとに俺に言ったんだよ
 ”どんな手段を使ってでも、朝香を手に入れる”ってさ」

健司と付き合い始めたのは半年前ー
その当時、朝香と健司の面識は、あまりなかったー。

「俺はその時、止めたんだ。
 節夫を。
 ”振られたんだからあきらめろ”ってさ」

健司が寂しそうに言う。

それでも、健司の言うことを聞かずに、
朝香を襲ってでも、と叫ぶ節夫を、健司は当時
殴りつけて酷くしかったのだと言うー。

そしてー
その数日後、節夫は消息を絶って、行方不明のままーー

健司は”自分が酷く叱ったことで節夫が自殺したのではないか”と
考えていて、それで先日、節夫の名前が出た際に動揺したのだったー。

「---」
朝香は思うー
健司は、”皮”の件とは無関係であるとー。

恐らくー
健司がきつく叱って、その数日後に節夫は朝香を皮にして、乗っ取ったのだろうー
消息不明になったのは、そのためー。

「---」
自分がその節夫…とは、朝香には言えなかったー

いやーー
言わないー

もう、”決めた”のだからー

・・・・・・・・・・・・・・・

休日ー

朝香は、岸壁にやってきていたー。
下では、海が波打っているー。

「------」

自分は今日、死ぬー。

「----」
朝香は、遠くを見つめるー。

これが、自分の出した答えー

どんなに出しても、正解は見つからないー

自分がこのまま朝香として生き続ければ、
本当の朝香に対する、冒涜…と言えるかもしれない。
健司や園枝を悲しませずに済むがー
その人たちを永遠に騙し続けることになるー

でも、真実を打ち明ければ
健司や園枝たちはひどく悲しみ、そして怒るだろう。
皮になった朝香は、おそらく元に戻ることのないまま、
周囲の人間は、悲しみ続けることになるー

正解は、”もう”ないー。
どんな未来を選んでも、
誰かが悲しみ、そして、苦しむー

自分が消えることは構わないー

でも、どの選択をしても、自分以外の誰かが傷つくことになるー

正解はーーー
”1年前の自分が、他人を乗っ取るなんてことをしない”
だったのだろうー。

自分が、朝香を乗っ取られなければー
朝香も、誰も、苦しむことはなかったのかもしれないー

けれどー
過ぎ去った時間は、もう戻らないー。
正解を手にすることは、もうできないー。

朝香は、クリームとUSBメモリー、そして1年前の自分からの手紙ー
全てを手にしたー

”わたしは、今日、死ぬー”

「---さよなら」

朝香は、そう呟くとー
USBメモリー、クリーム、1年前の自分からの手紙ー

それを、海に向けてーーー
放り投げたーーー

朝香を乗っ取った節夫が下したのはー
”杉谷 節夫としての、死”

クリームが無ければ、朝香の皮を脱ぐことはできないー
100%とは言い切れないー
けれど、この1年ずっとそうだったのだからー
この先もそうなのだろうー。

1年前の自分の映像も、手紙もーー
全て、海の中へと、消えていくー。

「--わたしは朝香…」
朝香を乗っ取った節夫はー
朝香として”永遠に苦しみながら”生きていく道を選んだー

自分の罪は、消えないー
乗っ取られた朝香の悲劇も消えないし、
謝っても、謝っても、その罪は償えないー

だったらせめてー
せめて、
周囲の人たちだけは、悲しませたくないー

それも、
自己満足かもしれないけれど、
それが、朝香を乗っ取った節夫の決断だった。

取ってしまったからこそせめて、
どんなに苦しくても、一生懸命生きて行かなくてはならない…と。

「---」
朝香は、1年前の自分の残したモノが、沈んだ場所を見つめると、
そのままその場を後にしたー

いつかー
自分が死んで、本当の朝香に会えるときが来たのならー

その時はーー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1週間後ー

大学では、
園枝や健司と一緒に楽しそうに笑う朝香の姿があったー

”この人たちを騙している”
その罪悪感は永遠に消えないー
苦しみ続けることになるー

1年前の自分に会いに行けたら、
殴ってでも、自分を止めたいー

けれど、それはできないからー

だから、せめて、
この人たちには、笑っていて欲しいー

「--どうしたの?朝香?」
考え事をしている朝香を見て
園枝がそう呟くと、
朝香は「なんでもないよ」と優しく微笑んだー

わたしは、わたしじゃなかったー

でも、

わたしは、わたしでありたいー。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

節夫は朝香として生きていく決断をしました…が、
皆様が節夫の立場だったら、
どうしますか~?

お読み下さりありがとうございました!

皮<わたしは、わたしじゃなかった>
憑依空間NEO

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