<皮>わたしは、わたしじゃなかった①~幸せ~

幸せな日々を過ごす女子大生。

そんな彼女の元に
”1年前の自分”からメッセージが届いたー。

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「おはよ~!」
女子大生の藤江 朝香(ふじえ あさか)は、
楽しい学生生活をエンジョイしていたー。

今日も、親友の片原 園枝(かたはら そのえ)と談笑しながら、
大学内を歩くー。

「へ~、そうなんだ~」
園枝が、笑いながら言う。

趣味の話で盛り上がる朝香と園枝ー。

そんな二人に「今日も仲良しだな~」と笑いながら
男子大学生が近づいてくる。

「あ、健司(けんじ)!」
朝香が、嬉しそうに言う。

彼氏の栗田 健司(くりた けんじ)-
半年前から付き合い始めた彼氏で、
今も朝香とは良好な関係を続けているー。

「あ~栗田くん!ふふふ、羨ましいでしょ~」
園枝が笑いながら朝香の腕をつかむー。

健司を嫉妬させようとして、悪ふざけが好きな
園枝が笑いながら、朝香にべたべたくっついている。

「ははは~羨ましいけど、
 もし俺が女子だったら、朝香の彼氏にはなれないからな~」
健司が笑いながら言うと、
「わたしは、朝香の彼女になるもん!」と園枝が笑いながら言う。

「それって女の子同士の」
朝香が苦笑いしながら言う。

「--何よ~!彼氏と彼女がいたっていいじゃない」
園枝の言葉に、
朝香も健司も苦笑いしながら、
”そろそろ講義が始まる時間だな~”と、時計を見つめたー

幸せな学生生活ー
2年前、大学入学のために
一人暮らしを始めたときは、不安だったけれどー
今は友達や彼氏に囲まれて、
バイト先でもよくしてもらって、
幸せな日々を送っているー。

もちろんー
離れて暮らしている両親との関係も良好だ。

昼休み。
食堂でスマホを手にする朝香。

”色々届いたよ~!ありがと~!”
朝香がLINEで両親にメッセージを送るー

両親はよく、余ったものから、生活に必要なもの
時々仕送りなどなど、いろいろな支援をしてくれている。

朝香も欠かさず両親と連絡を取り合い、
逆に何かを送ったり、誕生日や父の日、母の日には
欠かさず贈り物をしているー。

”頑張ってね!”
母親から返事が届く。

朝香が”うん”と返事を返して、ほほ笑みながら
スマホをしまうと、
そこに彼氏の健司がやってきた。

「そういえば、来週の土曜日だけどさ」
健司が笑う。

「--あ、そうだったね~!」
来週の土曜日のデートの
待ち合わせの時間を9時にするのか10時にするのか?という話を
まだ保留にしたままだったことを思い出す朝香。

「前の日のバイトは、いつも通りあがれるようになったから
 9時で大丈夫だよ~!」
朝香が言うと、「わかった、じゃあ9時で!」と、彼氏の健司が答えたー。

健司は、カレーライスとカツ丼を並べて嬉しそうにしているー。

「-また、ダブル~?」
朝香が聞くと、健司は笑った。

「1つのものじゃなくて、2つ食べたほうがなんか、得した気分で」
健司は、”少な目”のメニューを2つ頼んで、2つの味を楽しむのが
好きだったー。

今日はカレーとカツ丼を食べているー

「--どうせ楽しむなら、二つの楽しみをまとめて味わえたほうが
 得だろ?」

健司の言葉に、朝香は「なぁに、それ~」と、ほほ笑んだー。

「--はは、高校時代の友人が言ってた言葉でさ~、
 そいつ、いつも言ってたんだよ。
 1つの楽しみを、2つ味わえたら最高だろ?ってさ。

 ま、そいつの言う通り
 確かに1回のお昼でカレーとカツ丼…2つ味わえたら
 最高だよな~」

健司の言葉に、
「それもそうかもね~」と答えた朝香。

今日も大学での時間が穏やかに終わるー。

友達の園枝と雑談しながら、
帰路で別れると、朝香は帰宅したー。

今日は、バイトは入っていない。
家で、のんびりしようと、郵便ポストを確認して、
封筒を取り出すー。

部屋の中に入った朝香は、
届いていた封筒を見つめたー。

「--なんだろう」

藤江 朝香

と、呼び捨ての宛名を見て、
首をかしげる。

封筒の裏を見つめると、
”超重要!”と書かれていたー

「なぁにこれ?」
朝香は苦笑いしながら、
少し警戒の表情を浮かべて
封筒を開く。

そこにはー
USBメモリーと、手紙、
そして、よく分からない謎のクリームのようなものが入った容器が入っていたー

「---…」
朝香はUSBメモリーを見つめる。

データを記録するメモリー。
パソコンなどで見ることができる。

朝香は、部屋の隅のノートパソコンを見つめると
「あ、先に手紙を読もうかな」と、
同封されていた手紙を見つめた。

そこにはー

”1年後の藤江 朝香さん”と
書かれていたー

「---…」
朝香が表情を歪める。

いったい、これは何だろう?
誰からー?

手紙を見つめる朝香。

”1年後の藤江 朝香さん
 元気に過ごしてるか?
 女子大生ライフ、エンジョイしてるか?

 今頃すっかり女子女子してるころだと思うけどさ、
 そろそろ十分だろ?

 ”皮”を着ると記憶が飛ぶっていうからさ、
 事前に1年後に届くようにしておいた”アレ”ー 送るぜ。
 って、言っても、思い出せないか。

 まぁ、ほら、こうやって色々書きまくっても
 仕方ないし、一緒に送ったUSB見てくれよ。

 本当に大事なモノだから、
 それ見て、思い出してくれよな”

「----」
朝香は不気味そうにその手紙を読む。

何を書いているのかよく分からない。
内容が理解できない。

「---ウイルス?」
朝香が表情を歪める。

意味不明な手紙と、何が入っているのか分からない
USBメモリー。
パソコンに挿した瞬間に、パソコンが壊れた!なんて
ことになってしまわないだろうか。

朝香は不安に思いながらも、
どうしても気になって、ノートパソコンを起動すると
そのUSBメモリーを挿入した。

幸い、ウイルスではなく、
表示されたのは、一つの動画ファイルだけだった。

そこには
”1年後の俺へ”と題された動画が入っているー

「--1年後の俺?」
朝香が首をかしげる。

「--送る相手、間違えてるのかなぁ…」
不安に思いながら、動画を再生する前に封筒を見つめる。

手紙の内容も全く理解できないし、
自分は、”1年後の俺”じゃない。
そもそも、男じゃないからー…

朝香はそんな風に思いながらも、
封筒の表面に書かれた
”藤江 朝香”の文字を見つめるー

間違えているようにも思えないー
だとすれば、中身でも間違えたのだろうかー。

「--とにかく」
朝香は、動画ファイルを再生するー

もしも、もしも違う人宛ての
見ちゃいけないような内容だったら
再生をやめて、忘れればいいー。

そう、思いながらー

映像を再生すると、
ソファーに、朝香と同じぐらいの年齢の男が映るー

知らない男だ。

だがーーー
周囲の風景は、朝香の家に見えるー。
たまたま、似ているだけだと思うけれど…

”よぉ”
映像の中の男は、笑いながら手をあげた。

”元気にしてたか、俺?”

その映像を見て、朝香は笑ってしまったー

「送る相手、間違えてんじゃん…」
とー。

再生を止めようとした朝香ー

しかし、それを”見透かしていた”かのように、
男は言うー

”あぁぁ、待て待て!相手間違えてると思って
 動画消そうとしてないか?”

録音された映像の言葉に、
朝香は”確かに”と思いながら映像を止めようとしていた手を
いったん止める。

”間違ってねぇよー
 俺はちゃんと、藤江 朝香さんに語り掛けてるんだ”

「---」
朝香は、不審そうな表情を浮かべて、
映像を見つめなおすー

”---どうせ今、頭の上に「?」いっぱい浮かべてるんだろ?
 まぁ、そりゃ無理もない。

 だって”皮”を着たら、俺の記憶は飛ぶってんだからな。”

その言葉にー
朝香は”皮”?と首をかしげる。

何を言っているのか、さっぱり分からないー

”って、あぁ~…皮、も分かんねぇかな。
 ま、いいや、
 1年後の俺ー。
 今から、ちゃーんと、説明してやるから、よーく見てろよ”

そう言うと、映像の中の男は説明し始めたー。

”まず、お前は、俺だ。
 今、喋ってる俺は、1年前の俺だ。

 「----…な、、、何言ってるの…?」
朝香は表情を歪めることしかできなかったー

何を言っているのか、さっぱり分からない。
映像の中の男が、1年前の自分ー

「---そんなわけないでしょ」
朝香はため息をついた。

1年前の自分が男だったなんて、あり得ない。
わたしはずっと生まれたときから女だ。
記憶もちゃんとあるし、
去年の今頃のことだって覚えてる

「---悪質ないたずらだなぁ…」
朝香は”やれやれ”という様子で今度こそ
映像を止めようとするー

しかしー

”じゃーん!”
映像の中の男が笑いながら、何かを取り出したー。

それを見た朝香が、
映像を止めようとしていた手を止めた。

「----え」
朝香が戸惑う。

映像にはーー
”着ぐるみのようにペラペラになった朝香”が
映っているー。

それを持った男がニヤニヤと笑みを浮かべているー

「---な、、なにこれ…?」

着ぐるみのようにー
そう、まるで、脱皮した昆虫の皮のように
ペラペラな朝香が、無表情で、まるで生気を感じない状態のまま
映像の中に男に持たれている。

”ははっ、今頃 俺 びびってんのかなぁ?”

映像の中の男が笑うー。

”お前は俺なんだよ。思い出せ!乗っ取る前のワクワクを”

男はそう言うと、自己紹介を始めた。

”俺は、杉谷 節夫(すぎや せつお)”

ー名前を聞いても、朝香に覚えはない。

”って、言っても記憶を失ってるんだもんな。
 思い出せないか。
 
 俺はな、この女とは別の大学に通ってるんだけどよ、
 文化祭で一目ぼれしてさぁ、告白したんだよ。

 でも、この女の返事はNoだった。

 それからさ、俺はどうやってこの女を手に入れるか
 ずっとずっと考えててさー
 それで、たどり着いたんだよー

 答えに”

映像の中の男、節夫が、笑みを浮かべながら言う。

”俺が、この女になればいいーってな”

節夫が、朝香の皮を持ちながら笑う。

”ネットで、見つけたんだよ。他人を皮にして
 乗っ取る薬をな。
 それをこの女に無理やりつけて、皮にしたんだ。
 へへへへ”

節夫はなおも笑っているー

朝香は、言葉も失ったまま、その映像を見つめるー

”でもな、”副作用”があってな。
 皮にした人間を着ると
 記憶を失っちまうんだとさ。

 俺が俺であったことも忘れちまう。

 だから、こうして、記憶を失う前に、
 1年後の俺に対して映像を残してるってわけ”

節夫の言葉に、
朝香は「うそ!うそよ!」と映像に向かって叫んだ。

”なんで1年後かって?
 1年間の間、俺としての記憶を失くして
 朝香として過ごすのも楽しいんじゃないかってさ、
 へへへへへ

 で、1年経ったら、俺としての記憶を思い出してー
 そこからは、エロ三昧だ!へへへへへっ”

とても楽しそうな節夫ー。

”これから俺は、この女の皮を着て、
 朝香になるー”

朝香の皮を掴む節夫ー。

”皮を着終わると、俺の記憶を失っちゃうみたいだから、
 ビデオメッセージはここまでだー
 俺はこのあと、これを1年後の俺に届くようにしてから、
 皮を着るぜ!

 へへへ

 あ…
 まだ疑ってんだろ?
 ”証拠”見せてやるよー

 手紙と一緒にクリームが入ってただろ?

 そうだな…それを
 後頭部のあたりに塗ってみなー。

 ”真実”が分かるはずだぜー”

映像は、そこで途切れたー

「----」
朝香は震えていたー

嘘ー

嘘だー

自分は、藤江 朝香だー

節夫なんかじゃないー

わたしは間違えなく、朝香だー。
ハッキリと断言できるー
小さいころからの記憶もあるー。

大体ー
映像を見ても、
”そうだ!俺は!”なんて風に思い出していないー

自分がもしも、この節夫という男なら、
この映像を見れば何か思い出すはずだー。

朝香はそう思いながらも、
クリームの入った容器を手にするー

 手紙と一緒にクリームが入ってただろ?

 そうだな…それを
 後頭部のあたりに塗ってみなー。

 ”真実”が分かるはずだぜー” 

映像の中の節夫の最後の言葉を思い出すー

朝香はーー
「そんなわけないから…」と
震えながらー
映像で言われた通り、そのクリームを
後頭部に塗ったー

するとーーー

朝香は、思い知ったー

パックリとーーー
自分が割れてーーー

中から、男が出てきたーーー
鏡に映るのはーー
映像の中に写ってた男ー

杉谷 節夫ー

「----」
唖然として膝をつくー

鏡に映る節夫も唖然としているーーー

記憶は、戻らないー

でもーーーー
朝香の皮をかぶっていた節夫は確信したーー
いや、するしかなかったー

「--わたしは…わたしじゃなかった…」

とー

②へ続く

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コメント

これまで、普通に生活してきたー
…と、思っていたら
実はそうじゃなかった…というお話ですネ~!

続きはまた明日デス~!

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