とある男子高校生は
学校でも、家でも上手くいかず、
苦しい日々を送っていた。
そんなある日、クラスの人気者の女子に
憑依してしまって…!?
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男子高校生の下田 昭夫(しもた あきお)は、
昼休みになると、
机に顔を伏せて、眠り始めたー
彼に、友達はいないー
軽いいじめも受けているー。
家では、両親が喧嘩ばかりしているし、
両親との関係も悪い。
弟もいるが、弟とも、仲が悪く、
最近は口もほとんど利かないような有様だ。
「---」
昭夫は、勉強も運動も苦手だ。
先生からも、”ダメなやつ”だと思われているー
「あ~~~」
昭夫はぶつぶつ何かを呟きながら
机に顔を伏せたまま頭を掻きむしり、
ボサボサの頭から、白い粉が降り注ぐー。
彼は、清潔感もなく、
おしゃれに興味がない…以前に
最低限の身だしなみにも興味がなかった。
性格は、完全に自己中心的であり、
その上で卑屈なために、
友達ができないことは
その性格も災いしていたー。
「---うん!ありがと~」
可愛らしい声が響き渡るー
同じクラスの紀里谷 晴美(きりや はるみ)-
学年でもトップクラスの美少女で、
成績優秀な上に、スポーツもそこそこできるー
性格もとても良くて、
自分の成績や容姿を自慢するようなそぶりも見せず、
誰にでも優しい、まさに”理想”の女子高生だー
家族もとても仲良しなようで、学校行事の際には
よく両親らしき人物や妹らしき人物と
仲良く話をしているー。
クラスメイトと話を終えた晴美が
教室の外に出て行くー
”あ~あ…いいよなぁ”
昭夫は内心でそう呟いたー
恵まれた容姿を持つ子はいいよなぁ、と
思わずにはいられないー
自分のような、気持ち悪がられるような容姿に
生まれた上に、ロクでもない家族の元に
生まれたとなれば、もう人生詰んでいるようなものだ。
”人間は見た目じゃなくて中身だよ”
なんていうやつもいるけれど、
そんなの綺麗ごとだ。
中身なんて、誰も見てくれやしないー。
昭夫は、激しく貧乏ゆすりをしながら
一人、イライラしているー
「ねぇ、あいつなにしてんの?」
「しっ!関わらないほうがいいよ」
昭夫が机をガンガン震わせるほどに
貧乏ゆすりをしているのに気づいた女子が
気持ち悪そうに昭夫の方を見る。
昭夫はそれに気づきながらも
気付いていないフリをしたー
”見た目”が可愛い子って
それだけで得だよな。
そんな風に思いながら昭夫は
不愉快そうに立ち上がるー。
”容姿”だけが問題ではないのだが、
昭夫はそれに気づくことはなかったー。
・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
昭夫は、昼休みになると、
昼に飲むジュースを買おうと
自動販売機に向かってダッシュしたー
階段を2段、時には3段飛ばしながら
駆け降りるー
まるで子供のように、嬉しそうに階段を
飛ばす昭夫ー。
周囲からはその行動も
「なんかきもい」と時々言われたりもしているが
本人は全く気にしていなかった。
しかしー
その日は”雨”だったー
雨によって廊下は濡れて
いつもより滑りやすくなっていたー。
昭夫はー
3段飛ばしで階段を下りている最中にー
”滑った”-。
「あっー!?」
昭夫が、やばっ!?と思った時には
手遅れだったー
派手に転びー
階段を転がり落ちるような感じでー
昭夫の身体に激しい衝撃が加わる。
昭夫は転がり落ちながら
”これって誰かとぶつかれば入れ替わるやつじゃん?”
と考えたー。
だがー
そんなに都合よく、誰かにぶつかることもなく
そのまま昭夫は意識を失った。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
気が付くと、昭夫は保健室で
幽体離脱していた。
”え…?”
昭夫は戸惑う。
自分の身体が宙に浮いている。
そして、保健室のベットで、
額を切ったのか、額に少し血の滲んだガーゼのようなものが
ついている昭夫の身体が眠っていたー
保健室の先生が心配そうに昭夫の方を
見つめている。
”えっと…”
昭夫は戸惑った。
自分の身体が下で眠っていて
自分が宙に浮いている。
この状況ってー
幽体離脱…?
いや、もしかして、死んだ?
”どうせクソみたいな人生だし”
昭夫は”死んじゃっててもいいや”などと
自暴自棄な考えを浮かべるー
誰からも必要とされていない自分。
容姿に恵まれず、生まれながらにして負け組になった自分。
いいや、この世の中がクソなんだ。
昭夫は<なんでも他人のせいにする>クセがあった。
だから、自分の性格の悪い部分にも気づくことができないし
改善しようという行動を見せることもない。
”あ~でも…”
昭夫は思う。
自分の身体に戻れば、意識を取り戻すことは
できるんじゃないか、と。
死んだ人間がどうなっているのかは分からないが、
少なくともこうして、幽霊のような状態で、
宙に浮いているということは
まだ、どうにかすることができる、ということを
意味しているのかもしれない。
そんな風に思った昭夫は、自分の身体に戻ろうとしたー
”あ、いや…待てよ?”
昭夫はそう呟くと、
自分の身体に戻ろうとしていた幽体を止めて考えたー
”せっかくこんな状態になれたんだから…”
昭夫はそう思いながら保健室から
扉をすり抜けて外に出るー
”こんな風に空を飛べるなんて”
と、廊下を漂いながら
昭夫は”それ”を探した。
そして、見つけたー
クラスの人気者・晴美の姿をー。
”紀里谷さん…”
昭夫は、晴美のことが好きだった。
晴美は、嫌われ者の自分にも
普通に話しかけてくれる優しい子だ。
だが、一方で、
容姿に恵まれている晴美を
”ずるい”とも思っていたー。
”僕だって、紀里谷さんみたいな容姿があれば
人気者なのに。
生まれた瞬間から
人生の格差があるって不公平だよな”
教室の座席に座る晴美を見つめながら
昭夫は思う。
”もしもー
もしも、今のこの状況で、晴美に身体を
重ねたらどうなる?”
昭夫は考えるー
”憑依”なんてできたりしないだろうか。
とー。
もしも、晴美の身体を自分のものにすることができれば
人生”大逆転”だー
クラスの端っこにいる自分のような人間が
一躍クラスの中心人物になることができる。
障害童貞だと覚悟していた自分がー
童貞を卒業することだってできるだろう。
人生、一気に薔薇色になるー
”ってー、女の子になるんだから、童貞とかじゃないな”
昭夫はそんな風に思いながら
晴美の方をもう一度見つめたー
”このまま死ぬ”
”このまま自分の身体に戻る”
どっちにしても、昭夫にとっては
ゲームオーバーみたいなものだ。
そのままゲームオーバーになるか、
どうせ何も起きないのにコンテニューして、ゲームオーバーになるか。
その違いでしかない。
”だったらー”
昭夫は目を見開くー
”紀里谷さんに、僕は、憑依するっっっ!”
昭夫がそう叫んで、
晴美の方に幽体を近づけたー
「---あっ!!」
晴美がビクンと震えて、
持っていた本を落とすー
「---!!!」
宙を漂っていたはずの自分が
急速に人間としての感覚を取り戻すー
「--だいじょうぶ?」
近くの座席に座っていた眼鏡の三つ編み女子・花澤 真生子(はなざわ まおこ)が
急に声をあげた晴美の方を、心配そうに見つめるー
「え…???あ、、、え…」
戸惑う晴美ー
”え…、
ほ、、本当に…”
口から出るのは晴美の声ー
見下ろすと、そこには胸の膨らみがー
自分がスカートを履いているー
”ほ、本当に僕…
紀里谷さんに憑依…”
「---え…あ、、、え…うゃ…」
晴美が挙動不審な返事をするー
友人の真生子が戸惑っているー
”女子と会話したことなんてほとんどない”
昭夫は、晴美の身体になっても、
真生子に急に話しかけられて
戸惑ってしまっていたー
「--え、、えへ、、だいじょうぶぅ」
顔を真っ赤にしながら挙動不審な対応をする
晴美を見て、真生子は戸惑いながらも、
それ以上は追求しなかったー
(ふ…ふふふふふ…ふふふふふふふ)
晴美の身体を手に入れた昭夫は
笑っていたー
心の中で笑っているのだが
晴美の身体も不気味な笑みを浮かべてしまうー。
無意識のうちに、晴美は「ククククク」と不気味な
笑い声を、小さく、周囲に響かせていた。
まるで、昭夫のようにー
昭夫はよく、好きな漫画のことを授業中に
思い出して、一人で笑うことがあったー。
その昭夫の状態と今の晴美の状態は
同じだー。
「--っと、いけないいけない」
晴美は、可愛い笑い声が響いていることに
気付いて、周囲を見渡したー
「僕が、僕が…人気者…」
晴美は小声でそう呟くー
晴美の可愛い身体をー
晴美の人気をー
晴美の頭脳をー
晴美の恵まれた家庭をー
全てを手に入れたー。
「僕は…ふふふふふふふ…」
晴美は思わず笑みを浮かべて
興奮してしまうー
晴美の身体に興奮した…というよりかは、
これからの自分の人生がばら色になることを
確信して、あまりの喜びに興奮してしまった感じだ。
そのまま5時間目が始まるー
晴美の頭には、さまざまな知識が入っていたー
今まで、昭夫に解けなかったような問題も
すいすいと解けていくー
黒板に問題の答えを書くために
立ち上がる晴美ー
スカートってこんな感覚なんだ・・・
と、ドキドキしながら
黒板に答えを書くー
胸に手が当たって、
思わず「あ、ごめん!」と叫んでしまう晴美ー
周囲が不思議そうな顔をするー
だがー
そうだー
今は、”自分の”胸なんだー。
「-あ、なんでもありません!」
先生に向かってそう言うと、
晴美は難しい問題を完璧に解いてみせたー
「やっぱり紀里谷さんはすごいな~!」
周囲の生徒たちが小声で言う。
先生も「さすがだな」と呟く。
「--あ、、あ、ありがとうございますっ」
気分爽快ー
晴美は、ゾクゾクしながら座席へと戻るー
今日から始まるー。
最高の第2の人生がー。
記憶は読めるー。
晴美が蓄えた知識や、晴美に関係ある人間のことは読み取れるー
ただ、”心の部分”までは分からないから
晴美が普段、こういうときにどんな風に考え、行動したかー
そういうことまでは分からないから、
最初は、晴美の普段の行動を思い起こして
行動するしかないー。
それにー
これからは、僕が晴美だー
晴美を少しずつ、僕色に染めてやるー
晴美に憑依した昭夫は
そんな風に思いながら笑みを浮かべたー
・・・・・・・・・・・・・・・・
帰宅した晴美ー
両親が「おかえりなさい」と優しく出迎えてくれる。
「うん。ただいま」
晴美は笑みを浮かべたー
昭夫の両親は仲が悪い。
帰宅すれば、喧嘩ばかりしている。
だがー
晴美の家はー
穏やかだった。
「お姉ちゃん!おかえり~!」
妹が声をかけてくるー
「あ~…」
晴美は記憶を探り、
この子が妹の智恵(ちえ)であることを理解する。
「あ、、え、、、え~っと」
妹の智恵もとても可愛い。
可愛い子に急に声をかけられることに
耐性のない昭夫にはドキドキだったが、
なんとか”ただいま”と答えて部屋に向かうー
鏡に、晴美の姿が写るー
恵まれた容姿ー
優れた頭脳ー
人気者としてのオーラ
平和な家族ー
「最高じゃん…」
晴美は口元を歪めたー
「--ぜんぶ、ぜんぶ、僕のものだぁ…」
晴美は低い声で笑うと、
そのまま、自分の身体をチェックし始めたー
②へ続く
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コメント
人気者の身体を奪った昭夫くん!
彼を待ち受けている運命は
どんな運命になるのでしょうか~?
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