<憑依>ボーリングポゼッション②~愛~(完)

ボーリングに異常なまでの愛を持つ男ー

彼は、ボーリングを普通に楽しんでいた
大学生グループに憑依したー。

彼の異常な愛から、逃れることはできるのか…?

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ずっとずっと、一人で生きてきた自分にとって、
ボーリングこそが、恋人のような存在だった。

学校では、誰からも相手にしてもらえない自分を、
ボーリングは、いつも出迎えてくれた。

ボーリング場の中だけがー
自分にとって、安らぎを感じることのできる空間だったのだ。

学校が終わってから、毎日のようにボーリング場に
足を運ぶ毎日。
両親は無駄に金だけは持っていたから、
ボーリングをやりたい!と言えば、
お金だけは渡してくれた。

彼は、毎日毎日ボーリングに明け暮れたー

そして、いつしか、
彼には、”聞こえた”のだー。

”痛い”
という声がー。

ボーリングの球を投げるたびに、聞こえるー
”痛い”という声ー

ボーリングの球が当たり、ピンが音を立てて
倒れながらー”いたいよぅ”と嘆く声が聞こえるー

彼には、ボーリングの声が聞こえるようになったー。

彼は、初めてボーリングの声を聴いてから
三日三晩泣き続けたー。

自分にとっては楽しいことでも、
ボーリングのピンや球たちにとっては
本当に辛いことであったのだと、彼は知るー。

その日以降、彼はボーリング場に
足を運ばなくなった。

だが、ある日、
ボーリングの夢を見たー。
ピンと球が泣いている。

”どうして、来てくれなくなっちゃったの?”
とー。

彼は、”きみたちが痛そうだから”と答えたー。

だが、
”痛いけど、痛いけど、遊んでくれるのは嬉しいんだよ”と
ピンは笑いながら答えたー

それを聞いた彼は、
ボーリングにさらにのめり込んでいったー

そしてー
ボーリングの球とピンに感謝をするようになった。

ボールを投げる際には深々とお辞儀をし、
毎日、家に帰ると、マイボールといっしょに
1時間かけてお風呂に入るー。

一緒にご飯を食べて、
一緒の布団に入って寝るー。

「---ーーー狂ってる」
優海が呟いたー

レーンで倒れていた啓介も起き上がってーー
ボーリング場の女性スタッフの方を睨んでいるー

ボーリング場の女性スタッフはー
五郎に憑依されたー

最初に憑依された美代に続いて、
今度は異変を察知して駆けつけたスタッフが
憑依されてしまったのだ。

女性スタッフの口で、
自分は2つ隣のレーンでボーリングを楽しんでいた五郎で
あること、自分は他人に憑依できること、そして、
ボーリングに対する思いを全て語った。

それを聞いた啓介と優海が
「狂ってる…」と口にしたのだった。

ボーリングの球にも
ボーリングのピンにも、
感情なんてものは存在しない。

それが聞こえるということはつまりー

この男は”精神的にどこか、崩壊している”

ことを意味しているー

聞こえるはずのない言葉が、
聞こえているー。

「---…」
啓介が、レーンの上で
崩れ落ちている遼太郎を見つめるー

眼鏡男子の遼太郎は
啓介たちの方に酔ってきた直後、
五郎に憑依された女性スタッフに
背後からボーリングの球で思いっきり頭を殴られて、
その場に倒れ込んだままー

どうにかー
どうにかしなくてはならないー

「---は、、、、ぐ…ぁ…」
最初に憑依された啓介の彼女・美代が、
苦しそうにうめいているー
意識はまだ戻らない。

「-ーボーリングの球とピンはねぇ、
 毎日痛がってるんだ。
 その上で、俺たちを楽しませてくれてる」
女性スタッフが、ニヤニヤしながらそう呟くー。

「--……あ、、あんた…頭おかしいんじゃないのか!」
啓介が叫ぶー

「---おかしいのはお前たちだ!」
女性スタッフは怒鳴り声をあげて反論したー

”話が通じない”
啓介はそう思って、
優海に下がるように言うと、
警察と救急車に連絡を入れるー

女性スタッフに抵抗されるかと思ったが、
そんなことはなかったー。

警察と救急車を呼び終えた啓介が、
女性スタッフの方を見ると、
女性スタッフは、既に気を失っていたー

「--!」
啓介は周囲を見渡すー

”あいつー
 また、誰かに憑依するつもりじゃ…?”

憑依能力なんてものが現実に存在するとは思えないー

けれどー
彼女の美代が
ボーリング場で突然全裸になって、
笑いながらピンに激突しに行くなんてこと
絶対にするわけがないー

憑依は実在するー。

そう思わずにはいられなかった。

「--んふぅっ♡」

「-!?」
啓介が振り返ると、優海が甘い表情で
ボーリングの球を舌でペロペロと舐めていたー

「--ゆ、優海ちゃん!?」
啓介が驚くー

だが、優海は夢中になってボーリングの球を
舐めていたー。

「--いつも楽しませてくれてるんだもん…
 少し綺麗にしてあげなくちゃ」

クチュクチュ音を立てながら球を舐める優海ー

「くそっ!優海ちゃんから出て行け!」
啓介が叫ぶー

だが、優海は無視してボーリングの球が
置かれている場所に歩いていくと、
次々と色々な球をペロペロと舐め始めたー

他の利用客が唖然としているー
憑依された女性スタッフ以外のスタッフも戸惑っているー

「----えへへへへへへ♡」
おいしそうにボールを舐めまくる優海ー。

啓介は優海を止めようとするも、
優海に殴られてしまうー。

啓介を殴った優海は、笑いながら、
その場に倒れるー

「-!」
啓介が慌てて起き上がって周囲を見渡すー

”なんだこいつは”

”なにがしたいんだ?”

啓介は必死に考えるー
だが、分かるはずがないー

何故ならー
憑依能力を持つ男・五郎は、
”常人では理解できないほどに”
精神が壊れているのだからー。

啓介がいくら考えても、
”ボーリングの声が聞こえる”などと
言っている五郎の目的を、
理解など、できるはずもない。

「---お前たちはぁ」

「-!」
啓介が振り返ると、倒れていた美代が
いつの間にか立ち上がっていたー

裸のままピンが立っている場所の側を歩く美代。

隣のレーン、また隣のレーンと歩きながら
全ての利用客に語り掛けるー

「お前たちは、ボーリングに感謝したことはあるかぁ?」
美代が大声で叫ぶー
利用客もスタッフも困り果てているー。

「--聞こえないか?ボーリングの、声が!」
普段大声なんて出さない美代の
喉は大丈夫だろうかー

啓介は、そんなことを心配しながら、
「おい!美代!」と叫ぶー

しかし、その言葉は乗っ取られている美代には
届かないー

美代は、笑いながら
ボーリングへの愛を語り続けるー

他の利用客の怒鳴り声が上がるー

全裸で、プレイの邪魔をする美代に
怒鳴り後声を上げるのは当然だったー

「そうかそうか」
美代は、怒号の嵐の中、静かに頷いた。

「誰一人、ボーリングに感謝しているやつは
 いない…そういうことだな」

それだけ呟くと、
美代は口元を歪めて呟いたー

「--”万死に値する”」
とー。

「--!?」
啓介が戸惑っていると、
美代が倒れたー

そして、他のレーンでプレイしていた家族の母親が
突然子供2人の頭をボールで殴りつけたー

「--ひっ!?!?」

「きゃあああああ!!」

「な、、何してるんですか!?」

悲鳴が上がるー

逃げ出す利用客もいるー

啓介は唖然としていたー

やがてー
逃げようとしていた利用客が笑いだすー。

ボーリングの球を持った男が、
逃げようとする利用客をの頭を次々と殴りつけていくー

逃げようとしていた女が
笑いながら戻ってきて、
自らレーンの方に走っていくー

外部に助けを求めようとした、
先ほどとは別の女性スタッフが、突然ボーリングの球を
自分の頭にたたきつけるー

「な、、なんだ…なんだこれ…」
啓介は、地獄のような光景を見ながら震えていたー

利用客も、スタッフも、みんなみんな狂っているー

”これが、ボーリングの怒りだ”
場内に館内放送が響き渡るー
女性の声が、狂気に歪んでいるー

「くそっ…」
啓介は戸惑うー

友達3人を助けたいー。

だがー
この状況ー

既に頭を殴られた人は
生きているのか、死んでいるのかもわからないー

外に出て、助けを求めるかー
それとも警察が駆けつけるまで耐えるのか。

「---」
啓介は周囲を見渡す。

どうやら”複数の人間”に同時に憑依できるのだろうか。
何人もおかしな行動に走っているー

ボーリングのピンで強引にエッチし始める女がいるー

ボーリングのピンを男のアレに見立てて優海が美味しそうに先端部分を
ペロペロと舐めているー。

「--優海ちゃん!」
啓介は優海を止めようとするー

しかし、他の利用客が、それを阻むー

「こうなったらーー!」
啓介は叫ぶ。

元凶は、あのボールを投げた後にお辞儀してた
変なやつだ!
自分たちが遊んでいたレーンの隣の隣にいたはず。

そいつをどうにかすれば…!

「---いた!」
啓介は、他の人に憑依して回っているために
意識を失っている五郎に襲い掛かろうとするー

だがー

ズキッ!

啓介の頭に激しい痛みが走ったー。

”ボーリング大好き”と
身体にマジックで刻んだ全裸の女が
啓介の背後から、啓介の頭を
ボーリングのボールで叩いたー

激しい痛みとめまいを感じて
その場に倒れた啓介ー

「ボーリングに感謝しろ!」
「これがボーリングの球とピンの痛みだ!」
「感謝しろ!感謝しろ!」

周囲に憑依されて乗っ取られている利用客たちが
集まってくるー

啓介は
”完全に狂ってる”
と、そう思いながらー

頭を殴られ続けてー
そのまま意識が途切れたー

”ボーリングに感謝を”

”ボーリングに感謝を”

五郎に一度でも憑依された人間は、
五郎の意のままに動くー。

駆けつけた警察官や救急隊員もボーリングの球で
自ら頭を殴りつけて
全員がその場で犠牲になったー

「---ありがとうございます」

誰も動かなくなったその場で、
五郎は静かに頭を下げるー

ボーリングへの、感謝の気持ちを込めてー

狂気に支配されている彼は、
その場で自らの頭をボーリングの球で殴りつけて
ニヤニヤしたまま倒れたー

・・・・・・・・・・・・・・

「ふ~~~」
”五郎”は自宅で目を覚ましたー

ボーリング場には、いつも”他人の身体”で遊びに行くー。

自分が逮捕されでもしたら、
ボーリングを楽しめなくなるからだ。

「早く…早く、みんながボーリングに感謝する世の中になればいいのに」
五郎は笑みを浮かべながら、
一人暮らしの散らばった部屋の中を歩き始めたー

流れっぱなしのテレビでは、
ボーリング場での大量死事件が
報じられているー。

突然乱闘が始まり、
多数の自殺者が出たと、アナウンサーが伝えているー

これで、”ボーリング場での変死事件は今年3回目”だとー。

「---クク」
五郎は、”ボーリングのピンと球も同じぐらいの痛みを味わってるんだぞ”と
つぶやきながら、そのままテレビを消したー

狂気に染まった人間に渡ってはいけない力ー

それが”憑依”

狂気を持つ者がー
憑依能力を手に入れたとき、
そこには必ず”悲劇”が生まれるー。

おわり

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コメント

ボーリング場で憑依を絡めようとした理由が
書いている私にもよく思い出せませんが(笑)
無事に(?)完結できてよかったデス!

今日もありがとうございました~!

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