<憑依>それでも貴様は日本男子か!③~覚悟~(完)

戦時中の鬼教官に憑依されてしまった彼女ー

軍服を身に着けて一人でも戦うと叫ぶ彼女を
なんとか助け出さなくては…。

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「--おや?」
ホームセンターの店主が首をかしげる。

軍服姿の若い女が、ナイフをカウンターに
持ってきたからだ。

「--ーーー」
戦時中の鬼教官に憑依された真希は
”敵国の人間を一人でも道連れにしよう”と
ナイフを購入しようとしていたー

「--」
首を傾げながらも、店主はナイフを販売する。

「---チッ」
舌打ちをしながらナイフを受け取る真希。

貧弱な現代人どもを見ていると腹が立つ。
これが、あの戦いの結果か?
いつから日本国はこんなになったのだ??

戦時中の人間である彼にとって、
現代は理解しがたいものだった。

店内には、敵国の人間もいる。
楽しそうに平和そうにしている。

何故だ?

乗っ取られている真希の身体も
鬼教官の意志で、激しい怒りを
感じていたー

身体中が煮えたぎるほどの怒りー

「--俺は、一人でも、敵国のやつを
 あの世に送ってやるぞ」

ナイフを握りしめる真希。

店を出て、夜道を歩いていると、
そこには、茂がいたー

「--また貴様か」
真希が呟く。

軍服姿の真希には、とても違和感があるー
茂はそんな風に思いながら、
「やめて下さい」と呟く。

「---やめるものか。
 街にも敵国のやつらがたくさんいた。
 そいつらを一人残らず片付けてやる」

真希がそう呟くと、
茂は「今は、、今の時代は、もう敵国じゃないんです!」と
必死に叫ぶ。

「--ふざけるな。負け犬どもめ。
 日本男子の誇りを忘れたのか?」
真希が怒りの形相で呟くー。

「ーーーこの時代には、誰もやる人間がいないっていうなら、
 俺がやる。
 俺一人でも御国のために戦ってやる」

真希の言葉に、
茂は、黙って真希の行く手を遮るようにして立ち続けたー。

「--どけ」
真希が冷たい口調で言う。

「どきません」
茂が真希の方を見つめ返す。

「ーーどけ!」
真希が怒鳴り声をあげたー。

真希の大きな声にビクッとしながらも
茂は、真希を睨み返す。

「どかない!!!!」
茂が真希に向かって叫ぶー

「あなたから見れば
 この時代は貧弱かもしれないー

 でも、あなたがこれからしようとしていることは
 今の時代では犯罪なんだ!

 だから、僕は、どかない
 あなたにも、皆本さんにも、
 犯罪はさせない!」

茂が必死に叫ぶ。
真希の手にナイフが握られているのを見て、
”おそらく真希は、街を歩く外国人を襲うつもりだ”と
判断したー。

「----そんなこと、知ったことか。
 敵国のやつらを道連れにしたら
 俺も死んで、陛下にお詫びする」

真希が言う。

「--…----」
茂は、黙り込んでしまう。

今の真希を説得するのは困難だ。
真希を、なんとかして助けなくてはー

そう考えた茂は深呼吸してから呟くー

「だったら…だったら、僕の…
 僕の身体を使え」
茂が言う。

「---あ?」
真希が首をかしげる。

正直、真希に憑依している男が
他人の身体に移動できるかなんてわからない。
いいや、たぶんできないだろう。

それでも茂は、なんとかして真希を助けなくては、と
思っていたし、真希を犯罪者にするわけにはいかなかったー。

バーで酒を飲んでいたり
軍服をどこで手に入れたのかという不安はあったけれど
今の時点なら、まだ取返しがつかない状態ではないー。

「--女の子の身体で、敵と戦うつもりですか?」
茂が怒りの声で呟く。

「--…」
真希が自分の胸や髪を見つめるー

「仕方あるまい。無理やりにでもこの女の身体を使うしかー」

「そんなこと、絶対にさせないー」
茂は、真希の言葉を遮ったー

「--僕は、皆本さんを助けたい。
 助けるためならなんだってする。
 
 だから、僕は何を言われてもここをどかないし、
 あなたがどうしてもどうしても、戦うのをやめないつもりなら、
 僕の身体を皆本さんのために差し出す。」

「---………」
真希が茂を睨む。

「大体…、、、
 大体、女の子の身体を勝手に奪って
 使おうとするなんてーー」

茂は、恐怖で足を震わせながらも
必死に叫んだ。

「それでも貴様は日本男子か!!!!」

とー

真希が表情を歪めるー

茂に、逆にその言葉を言われるなんて思わなかったー

「貴様ぁ…」
真希は歯ぎしりをしながら茂を睨む。

「---僕の身体を使え。皆本さんの身体は使わせないー」

茂が両手を広げて真希の行く手を遮りながら言う。

「--ーー自分が、どうなってもか?」
真希が言う。

「---」
茂は、返事をせず、目で、”そうだ”と答えたー。

「----…これが、僕の誇りだ」
茂が、緊張しながら真希の目を見て
はっきりとした口調でそう呟くー

「-------」
真希は黙って茂を睨み続けるー

そして、
呟いたー

「---貴様も……日本男子だな」

とー。

「--え?」
茂が足を震わせながら
それを悟られないように、真希の方を見つめると、
真希はナイフをしまったー

「--ーー貴様の誇り、確かに受け取った」
真希はそれだけ呟くと、静かにほほ笑んだー。

茂は少しだけ安心すると、
真希が”話を聞いてやろう”というので、
スマホで、真希の両親に、真希を発見したことを伝えたー。

”ちょっとだけ時間を貰い”、真希を自分の家に連れて行き、
部屋の中で話をすることにしたー

20時10分ー。

夜にクラスメイトの女子を部屋に連れ込むのは
どうかとも思ったが
今はそんなことを言ってる場合じゃない。

「---なるほど」
軍服から、私服に着替えた真希が
腕を組みながら呟くー

茂は、真希に、歴史の教科書が光り、
真希が憑依されたときのことをしっかり説明した。

”元に戻るにはこれが鍵ではないか”
とー。

「----」

「----」

じーっと、見つめていると、歴史の教科書の写真が
再び光を放ち始めた。

原理は分からない。
だが、これで、また、元に戻ることができるのだろうー

「-----……」
真希がその写真を複雑そうに見つめているー

”ここに来る前”
真希に憑依している男は思う。
自分は、敵国の襲撃により、血まみれになっていたー

元の世界に戻れば、
自分に待っているのは、死だけかもしれない。

しかし、
それでもー。

真希は茂の方を見つめる。

この時代のことは、理解できないー
考え方が、まるで違う。

だがー
確かに、この貧弱そうな男にも
守るべきものがあったー。

男が御国を守ろうとしているのと同じく
茂は、真希を守ろうとしているのだろうー。

「----」
真希に憑依している男は、静かに決意したー。

「--俺は、戻る」
呟く真希。

「----」
茂は、真希の方を不安そうに見つめる。

「--元の時代に戻って、
 俺が、運命を変えてやるー」

負けた、というのが本当ならば、
俺が運命を変えてやるー
と、そう真希は呟いたー。

”変えられない”
それは、真希に憑依している男には分かっているー

戻ればきっと、自分は何もできないまま死ぬ。

だが、自分は最後まで
死んでいった部下や、
御国のために戦って、死ぬ。

その生き方しか、
彼は知らないからー。

「この時代ー…」
真希は静かに呟く。

「この時代に生まれるのも、
 悪くなかったかもな」

そう呟くと、
真希は真剣な表情で呟く。

「--だが、俺は自分が、
 陛下のために戦える時代に生まれたことを後悔していない」

それだけ言うと、
真希は歴史の教科書の写真から発される光を
黙って見つめたー。

光が強まるー。

「--あの…!」
茂が、真希に向かって言うー。

「あの、、、僕には、、あなたが生きていた時代のことは
 教科書でしか読んだことがありません。

 それなのに、偉そうなこと言ってすみませんでした」

茂がそう言うと、
真希も頭を下げた。

「俺の方こそ、この時代のことを知らずに
 怒鳴り散らして、悪かった。

 貴様の覚悟、確かに受け取ったぞ」

真希はそう言うと、
光に包み込まれてー
そして、意識を失ったー

・・・・・・・・・・・・・

それから、1か月ちょっとが経過したー。

真希は無事に意識を取り戻して、
今日も学校に登校しているー

「---それで、あれはどうなったの~?」
真希が友達と楽しそうに会話をしている。

茂はそんな光景を遠くから見つめながら
次の授業の準備を始めたー

次の授業は歴史ー。
”写真が光ったページ”を開いて
見つめる茂ー。

まさか、あんなことが起きるなんてー。
この世界には、まだ知らない不思議なことが
あるのかもしれないー。

真希とは、あの後も、当然
彼女彼氏の関係が続いているー。

今日も、学校が終わった後には、
真希と家で勉強をする約束をしている。

♪~~

真希がやってくる。

「兄貴~!彼女さん来たよ~!」
弟の幸喜に呼ばれて
インターホンのところに向かう茂。

やってきた真希が、茂の部屋に入ると
茂がため息をついたー。

ショートパンツに生足、
男っぽいジャケット姿の真希ー
ボーイッシュな感じで、
髪も短髪になっているー

「ーーそれにしても」
茂が呟く。

「-学校ではすっかり女子高生になってしまって」
茂が言うと、
真希が椅子に座りながら呟く。

「--こうなってしまった以上、仕方がないからな」
男のような座り方をする真希。

真希はーー
元には、戻れなかったー。

歴史の教科書が光って、
真希が意識を失ったー

これで、全てが解決したと、茂は思った。

だがーー
目を覚ました真希には
戦時中の鬼教官が憑依したままだったー。

あの光はなんだったのだろうー。

茂は
”真希本人の意識が、戦時中の方に行ってしまったのではないか”と
思いながらも、その答えは分からないままだったー

茂は真希と相談して
”元に戻れるまでの間、鬼教官が真希として生きる”という
ことになったー。

「-ーーーは~~…この世界も悪くはないな」
真希が買ってきたコーラを飲みながら呟くー

「--戻りたくなくなっちゃったとか・・・?」
茂が苦笑いしながら言うと
真希は「まさか」と笑う。

「-元に戻る方法は毎日考えているし
 この子に身体を返してあげたい。

 それに俺は、陛下のために戦いに戻らないといけないからな」

真希がコーラを飲みながらそう呟くー

そう、たとえ戦死する運命が決まっているのだとしても、
自分はーー

「---なんだか、どんどん男っぽくなっていくなぁ」
茂が真希を見ながら呟くー

髪はバッサリと切り、
ボーイッシュな感じで、
服装な動きやすい服装しか着ないー

「--仕方ないだろう?
 動きにくいんだから」

真希が言う。

どうしても、女子っぽい感じだと
動きにくくて落ち着かないのだとか。

でもー
それでも、彼なりに真希として
学校でもちゃんと振舞ってるし、
真希の意識が戻ったら
いつでも交代はできるはずだー

歴史の教科書を見つめる真希ー

「いつか、戻れるだろうか…?」
真希の言葉に、茂は頷いたー

「きっとー」

そう、いつかきっと、
真希の意識が戻ってー
そして、真希に憑依している鬼教官を
元の世界に戻せる日は来るはずー。

「皆本さん…
 また…会えるよね…?」
茂は、真希が意識を取り戻す日を
夢見ながら、悲しそうにそう呟いたー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

ハッピーエンドになるかと思ったら
イマイチハッピーにはなり切れませんでしたネ~笑

あまり時間が経過すると、茂くんは、
今の真希を好きになってしまう…かも?

お読み下さりありがとうございました~!

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