戦時中の鬼教官に憑依されてしまった彼女ー
軍服を身に着けて一人でも戦うと叫ぶ彼女を
なんとか助け出さなくては…。
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「--おや?」
ホームセンターの店主が首をかしげる。
軍服姿の若い女が、ナイフをカウンターに
持ってきたからだ。
「--ーーー」
戦時中の鬼教官に憑依された真希は
”敵国の人間を一人でも道連れにしよう”と
ナイフを購入しようとしていたー
「--」
首を傾げながらも、店主はナイフを販売する。
「---チッ」
舌打ちをしながらナイフを受け取る真希。
貧弱な現代人どもを見ていると腹が立つ。
これが、あの戦いの結果か?
いつから日本国はこんなになったのだ??
戦時中の人間である彼にとって、
現代は理解しがたいものだった。
店内には、敵国の人間もいる。
楽しそうに平和そうにしている。
何故だ?
乗っ取られている真希の身体も
鬼教官の意志で、激しい怒りを
感じていたー
身体中が煮えたぎるほどの怒りー
「--俺は、一人でも、敵国のやつを
あの世に送ってやるぞ」
ナイフを握りしめる真希。
店を出て、夜道を歩いていると、
そこには、茂がいたー
「--また貴様か」
真希が呟く。
軍服姿の真希には、とても違和感があるー
茂はそんな風に思いながら、
「やめて下さい」と呟く。
「---やめるものか。
街にも敵国のやつらがたくさんいた。
そいつらを一人残らず片付けてやる」
真希がそう呟くと、
茂は「今は、、今の時代は、もう敵国じゃないんです!」と
必死に叫ぶ。
「--ふざけるな。負け犬どもめ。
日本男子の誇りを忘れたのか?」
真希が怒りの形相で呟くー。
「ーーーこの時代には、誰もやる人間がいないっていうなら、
俺がやる。
俺一人でも御国のために戦ってやる」
真希の言葉に、
茂は、黙って真希の行く手を遮るようにして立ち続けたー。
「--どけ」
真希が冷たい口調で言う。
「どきません」
茂が真希の方を見つめ返す。
「ーーどけ!」
真希が怒鳴り声をあげたー。
真希の大きな声にビクッとしながらも
茂は、真希を睨み返す。
「どかない!!!!」
茂が真希に向かって叫ぶー
「あなたから見れば
この時代は貧弱かもしれないー
でも、あなたがこれからしようとしていることは
今の時代では犯罪なんだ!
だから、僕は、どかない
あなたにも、皆本さんにも、
犯罪はさせない!」
茂が必死に叫ぶ。
真希の手にナイフが握られているのを見て、
”おそらく真希は、街を歩く外国人を襲うつもりだ”と
判断したー。
「----そんなこと、知ったことか。
敵国のやつらを道連れにしたら
俺も死んで、陛下にお詫びする」
真希が言う。
「--…----」
茂は、黙り込んでしまう。
今の真希を説得するのは困難だ。
真希を、なんとかして助けなくてはー
そう考えた茂は深呼吸してから呟くー
「だったら…だったら、僕の…
僕の身体を使え」
茂が言う。
「---あ?」
真希が首をかしげる。
正直、真希に憑依している男が
他人の身体に移動できるかなんてわからない。
いいや、たぶんできないだろう。
それでも茂は、なんとかして真希を助けなくては、と
思っていたし、真希を犯罪者にするわけにはいかなかったー。
バーで酒を飲んでいたり
軍服をどこで手に入れたのかという不安はあったけれど
今の時点なら、まだ取返しがつかない状態ではないー。
「--女の子の身体で、敵と戦うつもりですか?」
茂が怒りの声で呟く。
「--…」
真希が自分の胸や髪を見つめるー
「仕方あるまい。無理やりにでもこの女の身体を使うしかー」
「そんなこと、絶対にさせないー」
茂は、真希の言葉を遮ったー
「--僕は、皆本さんを助けたい。
助けるためならなんだってする。
だから、僕は何を言われてもここをどかないし、
あなたがどうしてもどうしても、戦うのをやめないつもりなら、
僕の身体を皆本さんのために差し出す。」
「---………」
真希が茂を睨む。
「大体…、、、
大体、女の子の身体を勝手に奪って
使おうとするなんてーー」
茂は、恐怖で足を震わせながらも
必死に叫んだ。
「それでも貴様は日本男子か!!!!」
とー
真希が表情を歪めるー
茂に、逆にその言葉を言われるなんて思わなかったー
「貴様ぁ…」
真希は歯ぎしりをしながら茂を睨む。
「---僕の身体を使え。皆本さんの身体は使わせないー」
茂が両手を広げて真希の行く手を遮りながら言う。
「--ーー自分が、どうなってもか?」
真希が言う。
「---」
茂は、返事をせず、目で、”そうだ”と答えたー。
「----…これが、僕の誇りだ」
茂が、緊張しながら真希の目を見て
はっきりとした口調でそう呟くー
「-------」
真希は黙って茂を睨み続けるー
そして、
呟いたー
「---貴様も……日本男子だな」
とー。
「--え?」
茂が足を震わせながら
それを悟られないように、真希の方を見つめると、
真希はナイフをしまったー
「--ーー貴様の誇り、確かに受け取った」
真希はそれだけ呟くと、静かにほほ笑んだー。
茂は少しだけ安心すると、
真希が”話を聞いてやろう”というので、
スマホで、真希の両親に、真希を発見したことを伝えたー。
”ちょっとだけ時間を貰い”、真希を自分の家に連れて行き、
部屋の中で話をすることにしたー
20時10分ー。
夜にクラスメイトの女子を部屋に連れ込むのは
どうかとも思ったが
今はそんなことを言ってる場合じゃない。
「---なるほど」
軍服から、私服に着替えた真希が
腕を組みながら呟くー
茂は、真希に、歴史の教科書が光り、
真希が憑依されたときのことをしっかり説明した。
”元に戻るにはこれが鍵ではないか”
とー。
「----」
「----」
じーっと、見つめていると、歴史の教科書の写真が
再び光を放ち始めた。
原理は分からない。
だが、これで、また、元に戻ることができるのだろうー
「-----……」
真希がその写真を複雑そうに見つめているー
”ここに来る前”
真希に憑依している男は思う。
自分は、敵国の襲撃により、血まみれになっていたー
元の世界に戻れば、
自分に待っているのは、死だけかもしれない。
しかし、
それでもー。
真希は茂の方を見つめる。
この時代のことは、理解できないー
考え方が、まるで違う。
だがー
確かに、この貧弱そうな男にも
守るべきものがあったー。
男が御国を守ろうとしているのと同じく
茂は、真希を守ろうとしているのだろうー。
「----」
真希に憑依している男は、静かに決意したー。
「--俺は、戻る」
呟く真希。
「----」
茂は、真希の方を不安そうに見つめる。
「--元の時代に戻って、
俺が、運命を変えてやるー」
負けた、というのが本当ならば、
俺が運命を変えてやるー
と、そう真希は呟いたー。
”変えられない”
それは、真希に憑依している男には分かっているー
戻ればきっと、自分は何もできないまま死ぬ。
だが、自分は最後まで
死んでいった部下や、
御国のために戦って、死ぬ。
その生き方しか、
彼は知らないからー。
「この時代ー…」
真希は静かに呟く。
「この時代に生まれるのも、
悪くなかったかもな」
そう呟くと、
真希は真剣な表情で呟く。
「--だが、俺は自分が、
陛下のために戦える時代に生まれたことを後悔していない」
それだけ言うと、
真希は歴史の教科書の写真から発される光を
黙って見つめたー。
光が強まるー。
「--あの…!」
茂が、真希に向かって言うー。
「あの、、、僕には、、あなたが生きていた時代のことは
教科書でしか読んだことがありません。
それなのに、偉そうなこと言ってすみませんでした」
茂がそう言うと、
真希も頭を下げた。
「俺の方こそ、この時代のことを知らずに
怒鳴り散らして、悪かった。
貴様の覚悟、確かに受け取ったぞ」
真希はそう言うと、
光に包み込まれてー
そして、意識を失ったー
・・・・・・・・・・・・・
それから、1か月ちょっとが経過したー。
真希は無事に意識を取り戻して、
今日も学校に登校しているー
「---それで、あれはどうなったの~?」
真希が友達と楽しそうに会話をしている。
茂はそんな光景を遠くから見つめながら
次の授業の準備を始めたー
次の授業は歴史ー。
”写真が光ったページ”を開いて
見つめる茂ー。
まさか、あんなことが起きるなんてー。
この世界には、まだ知らない不思議なことが
あるのかもしれないー。
真希とは、あの後も、当然
彼女彼氏の関係が続いているー。
今日も、学校が終わった後には、
真希と家で勉強をする約束をしている。
♪~~
真希がやってくる。
「兄貴~!彼女さん来たよ~!」
弟の幸喜に呼ばれて
インターホンのところに向かう茂。
やってきた真希が、茂の部屋に入ると
茂がため息をついたー。
ショートパンツに生足、
男っぽいジャケット姿の真希ー
ボーイッシュな感じで、
髪も短髪になっているー
「ーーそれにしても」
茂が呟く。
「-学校ではすっかり女子高生になってしまって」
茂が言うと、
真希が椅子に座りながら呟く。
「--こうなってしまった以上、仕方がないからな」
男のような座り方をする真希。
真希はーー
元には、戻れなかったー。
歴史の教科書が光って、
真希が意識を失ったー
これで、全てが解決したと、茂は思った。
だがーー
目を覚ました真希には
戦時中の鬼教官が憑依したままだったー。
あの光はなんだったのだろうー。
茂は
”真希本人の意識が、戦時中の方に行ってしまったのではないか”と
思いながらも、その答えは分からないままだったー
茂は真希と相談して
”元に戻れるまでの間、鬼教官が真希として生きる”という
ことになったー。
「-ーーーは~~…この世界も悪くはないな」
真希が買ってきたコーラを飲みながら呟くー
「--戻りたくなくなっちゃったとか・・・?」
茂が苦笑いしながら言うと
真希は「まさか」と笑う。
「-元に戻る方法は毎日考えているし
この子に身体を返してあげたい。
それに俺は、陛下のために戦いに戻らないといけないからな」
真希がコーラを飲みながらそう呟くー
そう、たとえ戦死する運命が決まっているのだとしても、
自分はーー
「---なんだか、どんどん男っぽくなっていくなぁ」
茂が真希を見ながら呟くー
髪はバッサリと切り、
ボーイッシュな感じで、
服装な動きやすい服装しか着ないー
「--仕方ないだろう?
動きにくいんだから」
真希が言う。
どうしても、女子っぽい感じだと
動きにくくて落ち着かないのだとか。
でもー
それでも、彼なりに真希として
学校でもちゃんと振舞ってるし、
真希の意識が戻ったら
いつでも交代はできるはずだー
歴史の教科書を見つめる真希ー
「いつか、戻れるだろうか…?」
真希の言葉に、茂は頷いたー
「きっとー」
そう、いつかきっと、
真希の意識が戻ってー
そして、真希に憑依している鬼教官を
元の世界に戻せる日は来るはずー。
「皆本さん…
また…会えるよね…?」
茂は、真希が意識を取り戻す日を
夢見ながら、悲しそうにそう呟いたー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・
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ハッピーエンドになるかと思ったら
イマイチハッピーにはなり切れませんでしたネ~笑
あまり時間が経過すると、茂くんは、
今の真希を好きになってしまう…かも?
お読み下さりありがとうございました~!
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