<他者変身>もしもわたしが偽物だったら?②~想い~

自分は、里美ではないー

里美に変身した、まったく別人だー。

里美に変身して、好き放題人生をエンジョイするつもりだったー。

しかし…?

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里美に変身した男は、
部屋で自分の太ももを触りながらーーー

シラケた表情を浮かべていたー

最初は、女の身体でゾクゾクして
興奮していたのだが、
里美に変身してから2か月近くが経過してー
さすがに、飽きてきたー。

今では女の身体であることが当然になってしまったし、
自分の身体を触ってゾクゾクすることが、
最初に比べると全然なくなってしまっていたー

「-はぁ~…ま、こんなもんか」
最初は、ネットで購入したメイド服やらチャイナドレスやら
色々過激な服を着て部屋で色っぽいポーズなどをしたりして
ゾクゾクしていたのだが、それも飽きてしまったー

チャイナドレスとかは、既にしまい込んであるー

ジャージ姿の里美が、面倒臭そうに
男っぽい座り方をしながら
ヘッドホンをつけて、男が好きだった
マイナーなロックバンドの音楽を聴き始める。

首を振りながら歌を口ずさむ里美ー。

この姿を奪ってー
色々と変わった。

この女には、
家族も
友達も
彼氏もいる。
居場所もある。

それをー
全部奪ってやった。

自分のクソみたいな人生は終わり、
里美の人生を奪い、
そして、今、ここにいるー。

「お姉ちゃん」
弟の朗太が、ごはんに呼びに来るー

ロックバンドの曲でノリノリになっていた里美を見て、
朗太が笑うー

「最近なんかお姉ちゃん、男っぽくなったなぁ~」

とー。

ヘッドホンを外しながら
「男っぽく~?ははは」と笑う里美ー

最初は弟の朗太が鬱陶しかったが、
最近はかわいいと思うようになった。

朗太の頭を撫でると、
ジャージ姿のまま、食卓に向かう里美ー

母と父と話しながらー
心からの笑顔を浮かべる里美ー

”心地いい…”

そんな感情が芽生えたー

自分の家族はーー
虐待を繰り返す家族だった。

家族と呼べたものではない。
生まれたときから両親に虐待された挙句、
最終的にはふたりとも育児放棄だ。

小さいころの記憶で、かすかな記憶だが、
ごみみたいな記憶しかないー

だがー
本当の家族とは、こんなに暖かいものなのだろうかー。

「----え?」
母親が首をかしげる。

「里美、泣いてるの…?」
母親の言葉に、里美が「え?」と目のあたりを触るー

無意識のうちに、涙がこぼれていたー

「え…?あれ?え?」
戸惑う里美ー

こんな風にー
優しい家族に囲まれてー

いいやー
優しい人たちに囲まれたことが
男には、一度もなかったー

「あ…あれ…なんでだろ…?あれ…お、、わたし…なんか…?
 あれれ」
苦笑いしながら誤魔化す里美ー。

「--里美、何か悩んでるのか?」
父親が優しく微笑むー

「悩みがあるなら、わたしたちに言うのよ。
 わたしたちは、里美の味方だから」

「--僕も!僕もお姉ちゃんの味方だよ!」

家族が笑うー

”なんだこれ…”
里美に変身している男は、生まれてから
感じたことのない感情にただただ戸惑いを隠せないー

「--みんな……優しいね…」
里美はそう呟きながら
何故だか止まらない涙を流し続けたー

・・・・・・・・・・・・・

その日は、彼氏の昌平と、
デートをする日だったー。

色々な場所をめぐる二人ー。

昌平と手をつなぎながら、
里美はドキドキしていたー

”身体は女だけど、俺は男だぞ!?”
里美に変身している男はそう思いながらも、
昌平と一緒にいる時間が嬉しくて
たまらないー

そんな風に思うようになっていたー

不良・勘里に絡まれた時に助けられたことが
きっかけだったー

最初は、昌平のことを軽く見て、
俺色の里美に変えるため、昌平のことは
振ろうとしていたのだが、
今ではそんなこと、考えられないー

ショッピングをする二人ー

映画を見る二人ー。

里美らしからぬ映画を希望したとき、
昌平は少し驚いていたが
それでも昌平は里美に合わせてくれたー。

ポップコーンを食べながら
里美は”味覚、ちげぇな…”と内心で思うー

里美に変身したことで、味覚も
里美のものになっているのだろうー。

ポップコーンが大好きだった男は、
なんとなく”あんまりうまくねぇな”と思ってしまうー。

映画館から出た二人は、
夕食を済ませてー

そして、別れの時間になったー

夜の街を見つめながら、
里美はほほ笑む。

「あ~…!楽しかった!」
心からの言葉ー
自然と口からそう出た。

「--ははは、里美に楽しんでもらえてよかったよ」

おしゃれな里美を見ながら
昌平も優しく笑うー。

「--……」
里美が夜の街を見つめながら
表情から笑顔を消すー

家族もー

友達もー

彼氏もー

”俺”のものではないー
”里美”のものー。

俺は、里美を奪っただけー。

この彼氏だって、そうだー。
俺が、”本物の里美を襲撃して成り代わった偽物”だと知ったらー

きっと、きっとみんな、怒るだろうー。

家族も、
友達も、
昌平も、
”俺”を見ているわけではない
”里美”を見ているんだー。

当たり前だー。

でもーーー

「-----ねぇ…」
里美はたまらず口を開いた。

「ん?」
光輝く橋の上から水面を見つめながら昌平が呟く。

「---もしも、、もしもだよ、もしも」
里美は”そんなこと言うな”と内心で自分を抑えようとしながらも
我慢できなかったー

このまま、里美として振舞い続ければー
自分は里美として生きていくことができるー

でもー
自分は、里美という子から、こんな幸せな人生を奪ってしまったー

そしてー
こんなにもいい人たちを、自分は、騙し続けているー

「---もしも、、わたしが偽物だったらーー?」
里美が、悲しそうにそう呟いたー

「-----え」
昌平が驚いて里美の方を見るー。

「---わたしが、まったくの別人で、本物の里美じゃないとしたらー?」
輝く光を見つめながら、里美は悲しそうに呟くー。

「-----」
昌平が里美の方を見つめるー。

「------」
里美は、黙り込んでしまうー。

沈黙する二人ー
昌平は、返事に困っているー

当然だー。
偽物なんて、信じられるはずがないだろうし、
変身なんてことも、信じられるはずはないー

「---もし…
 本物の里美は、ちょっと前に消されてて、
 わたしは、その里美に成りすました偽物だったりしたら…?」

里美は、複雑な表情を浮かべながら言うー。

”こんなこと、言わなければ、ずっと里美になっていられるのにー”

「----」
昌平は、真剣な表情で里美の方に近づきー
そして、里美を優しく抱きしめたー。

「--里美は、里美だろ」

優しく笑う昌平。

里美から離れると、昌平は里美の頭を撫でて笑うー。

「里美は、偽物なんかじゃないー。
 里美は、里美さ。
 小さいころから、ずっと一緒だっただろ?

 俺にはちゃんと、分かってるからー」

昌平が笑うー

”バカー”

里美に変身している男は、心の中でそう思うー

優しい言葉をかけてくれた昌平ー
でも、違うー。

俺は本当に偽物なんだ、とー。

昌平の優しさは、
”偽物であることを受け入れた”優しさではなく
何かに悩んでいるのであろう里美に対しての優しさー

目の前にいる里美が偽物だなんて、思っていないー

「最近さ、、里美が色々変わって、戸惑うところもあるけどさ…
 里美がそうしたい、って思ってるんだったら、
 どんな里美だって、俺はそれを受け入れるよ」
昌平が笑うー

”ニセモノ”

ふたりの解釈は違うー

男は、”わたしは偽物”と伝えているー。
実際、本物は海に沈めて、自分が変身能力で里美に成り代わっている。

だが、昌平は
”最近、趣味や性格が変わってしまった自分のことを”偽物”-
 里美らしくないー、と、里美が悩んでいる”と解釈したー。

本当の意味での偽物ではなく、
”ちょっと性格変わっちゃってごめんね”みたいな意味で捉えたー

二人の解釈はすれ違うー

当たり前だー
目の前の彼女が、”偽物”だなんて、
理解できるはずもないのだからー

「----で…でもわたしは…!」
里美に変身している男は
”どうして俺は、こんな気持ちになってるんだー”と
戸惑うー

どうしてー

どうしてーーー

「---わかってるよ」
昌平がほほ笑むー。

「俺は、里美がどんなになってもー
 里美が大好きだからー」
昌平が笑うー

違うー

違うのにー

そうじゃないのにー

そもそもわたしはー
いいや、俺はー
お前の好きな、里美じゃないのにー

それなのにー

「----」
偽物の里美は、目から涙をこぼすー

もう、本物はいないー
本物は、沈めたー。

もう、この世には、里美はいないー。

でもー
でも、もしもー

今…
今、ここで”自分は偽物だ”と明かして何になる?

それで、本物が生き返るわけでもー
それで、昌平が幸せになるわけでもー
ましてや、俺が得するわけでもないー。

確かに、里美の心は救われるのかもしれないー

でもーーー

きっとここで、”本当のこと”を伝えればー
昌平はひどく悲しむだろうー。
そして、俺を憎むだろうー

いいや、それだけじゃないー
里美の家族もそうー。
友達もそうー

みんな悲しみー
そして、怒るー

もちろん、そこに、俺の居場所などないー

このまま、
このまま黙っていればー…

本物の里美は怒るかもしれないー
そして、俺は永遠に”罪”に苦しみ続けることに
なるのかもしれないー。

これがーーー
”永遠の罰”なのだろうかー。

「---ありがとう、昌平…」

彼はーー
里美は、この時、決心したー

自分勝手な決意かもしれないけれどー
俺はー、いいえ、わたしは里美として
生きていくー。

本物の里美からどれほど恨まれるか分からないー
けれど、それは、自分が死んだあとに
いくらでも罰を受けるー。

今はただ、
この昌平や、友達のみんな、里美の家族が
悲しみと憎しみに囚われる姿を見たくないー。

俺はどうなっても構わないー
けどー
みんなの苦しむ顔、悲しむ顔を見たくないー

「----」
男は、今になって感じるー

自分のしでかした”罪”の大きさをー。

自分はこの、里美の幸せな人生を奪ってしまったー

こんなに素敵な人たちから
”里美”という大事なピースを奪ってしまったー。

だからせめてーー

せめてーー

この人たちはだけは、悲しみたくないー

例え、嘘を重ねることになろうとも。
自分が、どんなに苦しむことになろうともー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

ある日の放課後ー
里美として生きていく決意をした偽物の里美は、
昌平と共に下校していたー。

昌平と共に、通学路を歩く里美ー。

最近は、自分が偽物であることすら忘れそうになるぐらい、
里美として日常生活に溶け込んでいたー

だがーーーー

「------ふ…ふふふふふ」

「-!?」

背後から、不気味な笑い声が聞こえたー

昌平と、里美が振り返ると、
そこには、顔面が激しく変形した傷だらけのー
まるで”化け物”のような女がいたーーー

③へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・

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変身したまま生きていくことを決めた彼の運命は…!?

次回が最終回デス~!

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