その服には悪霊が宿っていたー。
その服は言う。
「お前が俺を着てるんじゃない。
俺がお前を着ているんだ」
とー。
--------------------
「--そういえばさ~、遼太郎くんに告白したの?」
大学で昼ご飯を食べながら
女子大生の霧子(きりこ)が何気なく聞くと、
デザートを食べていた絵梨(えり)が「ぶっ!」と吹き出しそうになったー
「ーーど、、ど、、ど、どこでそれを…!?」
大人しい雰囲気の絵梨はー
奥手で恥ずかしがり屋の性格。
服装も、おとなしい感じのものを好んでいるー
その絵梨が、人生で初めての恋愛をしていたー
それが、同じサークルで活動している遼太郎という名の
男子だ。
「--ふふふ、どこだろうね~?」
親友の霧子には”遼太郎が好き”ってことは話した覚えがない。
いつもの間に知ったのかな?と絵梨は顔を真っ赤にする。
「---き、、き、霧子には恥ずかしいから
内緒にしてたのに~!」
絵梨が顔を真っ赤にしながら言うと、
霧子は「照れるな照れるな!」とニヤニヤしながら
絵梨の背中をポンポンと叩いた。
「でー?告白したの?」
明るくて、噂好きな霧子がニヤニヤしながら続ける。
「し、、してないよ…」
絵梨が恥ずかしそうに答える。
「やっぱり~!
そんなんじゃダメだよ~!」
霧子はそう言うと、
ニコニコしながら宣言した。
「よし!遼太郎くんへの告白を
わたしがサポートしてあげる!」
大声で言う霧子。
周囲の目が霧子と絵梨の方に注がれるー。
「-ちょ!霧子!声が大きいよ!も~~~!」
絵梨が慌てて叫ぶと
霧子は「あっ!いっけな~い!ごめんね!」と
舌を出して謝ったー。
帰宅中ー
絵梨がため息をつくー
遼太郎のことは好きだが、
なかなか告白する勇気がわかないー
幼いころから人見知りだった自分が
他の人のことを好きになるだなんて、
そもそも想像もできなかった。
”絵梨は、かわいいんだから、
おしゃれすれば、もっとかわいくなると思うよ~!”
霧子はそんな風に言っていたー
「でもなぁ~」
絵梨が呟く。
絵梨は、小さいころから、最低限のおしゃれしかしない。
男の人を誘惑するような格好なんて
自分が恥ずかしくなっちゃうし、
肌を見せるような格好も、自分が恥ずかしくなってしまうから、
なかなかすることができないー
そんなこんなで、絵梨は帰宅した。
明日は土曜日。
土日で、霧子が色々アドバイスしてくれると
言っていたけれど…。
絵梨は「いろいろな意味で大変そう~」と
一人、苦笑いしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・
大学生になってから一人暮らしの絵梨は
土曜日の時間を、のんびりと過ごしていた。
霧子をはじめ、友達はそこそこの人数いて、
お出かけすることもあるが、
今週はたまたま、特に用事なども入っていなかった。
霧子が、絵梨が遼太郎に告白しようとしていることを
知ったのも、どうやら共通の友人から聞いたから、
ということのようだった。
♪~~~
「--は~い!」
絵梨が返事をする。
特に何かを注文した覚えはなかったのだが、
宅配便が届いたー。
「なんだろ~?」
絵梨がそう呟きながら
ダンボールを開けると、
その中には、黒いラバースーツが入っていた。
「-ふぇっ!?」
絵梨は思わず驚いてしまう。
霧子の言葉を思い出すー
”絵梨は、かわいいんだから、
おしゃれすれば、もっとかわいくなると思うよ~!”
「お…おしゃれって…これぇ!?」
絵梨が思わず驚いてしまうー。
差出人が書かれていなかったが
タイミング的に明らかに霧子からの
お届け物だったー
「霧子ってば~…
これはさすがに…」
絵梨はラバースーツを手にしながら
苦笑いするー。
これはさすがにおしゃれとか
そういうものを通り越しているような、
そんな感じがしたー
絵梨は苦笑いしながら
LINEで霧子にメッセージを送る。
”急にラバースーツなんて送って来るから
びっくりしたよ~”
とー。
少しして既読がついたが
特に返事はなかったー
「も~」
ラバースーツを見つめる絵梨ー。
これを着てみたらー
可愛くなるのだろうかー。
そんな風に一瞬、思う。
けれどー
絵梨は首を振る。
「や、、やっぱ無理無理!恥ずかしすぎるよ~」
そう呟いて、お昼の時間になったのを確認した絵梨は、
お昼ごはんた~べよっ、と呟きながら
キッチンの方に向かうー
しかしー
「--ま、、まぁ…霧子が送ってくれたんだし…
ちょっと…着てみようかな…」
ドキドキしながら、ラバースーツをちょっとだけ
着てみようと、自分の服を脱ぎ始めるー。
ドキドキ
ドキドキ…
こんな格好を自分がするなんてーー
そう思いながら、ラバースーツを身に着ける絵梨。
サイズはぴったりだったー。
正面のファスナーを慌てて一番上まで上げる。
「わわわ…
わわ」
顔を真っ赤にしてあたふたする絵梨ー
誰にも見られているわけではないのに、恥ずかしいー
胸や身体のラインが強調されて、
なんだか自分がとってもエッチな
格好をしている気分になってくるー
「わわ…!もうだめ!」
顔を真っ赤にして、絵梨がラバースーツを脱ごうとした
その時だったー
ドクン…!
今まで感じたことのない、得体の知れない
感触を覚えた絵梨。
「え……?」
絵梨が、その違和感に驚いていると、
声が聞こえたー
”へへへ…最高のファッションだぜ”
「--え???」
絵梨が驚いて振り返るー。
しかし、そこには誰もいないー
今、確かに何かの声がー?
そんな風に思いながら、絵梨が慌てて前を向くー
しかし、前にも当然、誰もいないー
”俺の、新しいファッション…
へへへ…おしゃれだなぁ”
「--!?!?誰!?」
絵梨が叫ぶと、
”声”が反応したー
”ん~~~?
あぁ、聞こえちまったかぁ~
俺は、お前を”着ている”ものだよ”
「--!?」
絵梨が驚くー
鏡を見ると、
自分が不気味な笑みを浮かべていたー
「え……!?!?」
絵梨は驚くー
いつの間に、自分が笑っているー
”へへへへ…”
「へへへへへへ」
絵梨が、頭に響いた声をそのまま口にする。
「--え…!?ど、、どうなってるの?
あなたは誰!?」
絵梨が言うと、
絵梨の手が勝手に動いてー
ラバースーツを指さした。
「俺は、ここにいるよ」
絵梨の口から、絵梨の意志とは
関係のない言葉が
絵梨の声で発されるー
「--!?」
”お前はひとつ、勘違いをしている”
ラバースーツに宿っている”何か”が声を発したー
「お前が俺を着てるんじゃない。
俺がお前を着ているんだ」
とー。
「あぅっ!?!?!?!?」
絵梨の身体がビクンと震えあがりー
そして、その場にだらん…と力なく立ち続けたー
・・・・・・・・・・・・・
「--ふ~~~~!バイトおーわり!
おつかれさま~!」
後輩の女子高生バイトに挨拶をしながら
絵梨の親友・霧子が店の外に出るー
今日は朝早くからバイトだったため、
昼過ぎにバイトが終わった。
「そういえば、さっき、絵梨から
LINE来てたっけ~?」
近くのカフェで、アイスを食べながら
スマホを手にする霧子。
バイト中だったために
既読だけはつけたが
内容の確認や返信は
できなかった霧子。
その内容を確認するー
”急にラバースーツなんて送って来るから
びっくりしたよ~”
「-----」
霧子は、絵梨からのLINEを見つめながら
「ん~~~~?」と首を傾げる。
そして、返事を入れる。
”ラバースーツなんて、送ってないよ~!
ってか、おしゃれっていうより、それエロ方面じゃない?w”
と、霧子は返信を送った。
少しして、既読がついたー
だが、絵梨からは何の返事もなかったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・
土曜日の午後も、日曜日になっても
絵梨と連絡がつかない。
「何かあったのかな~?」
そんな風に思いながら、
月曜日、霧子は大学で、絵梨の姿を探す。
最初は、
遼太郎が好きなことをからかったことで、
絵梨を怒らせてしまって、
返事が来ないのだろうと軽く考えていた。
だがー、
日曜日になっても、今日になっても
絵梨から返事が全く来ないので、
だんだんと霧子は心配になってきてしまう。
「---ねぇ、」
霧子が、絵梨の共通の友人に話しかける。
「絵梨と土日に連絡取れた?」
霧子が言うと、共通の友人は首を振る。
「あ~、聞きたいことあって連絡したんだけど
返事が来なかったよ~」
共通の友人はそう答えた。
”何があったの?”
霧子は心配になる。
LINEの既読はつくからー
他の人間が絵梨のスマホを手にしたりしている以外は、
”LINEを確認できる状況にある”ことを示している。
病気で急に倒れている、とかではないー。
病気で倒れているなら、既読はつかないはず。
既読がつくということは、
確認しているのが本人かどうかはさておき、
病気で一人、倒れてしまっているということはないはずー。
「---今日、絵梨の家に行ってみようかな…」
霧子はそう呟いたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
大学が終わり、霧子は絵梨の家に向かう。
最後に送られてきたLINEも気になる。
”急にラバースーツなんて送って来るから
びっくりしたよ~”
と、いうLINEだ。
ラバースーツなんて、霧子は送っていない。
じゃあ、誰が絵梨にラバースーツなんて
送ったのか?
霧子の中に、不安が募る。
やはり、絵梨の身に何かあったのかもしれない、とー。
絵梨の家に向かいながら電話をかけてみる。
しかしー
絵梨から返事はない。
「絵梨…」
だんだん不安になってくるー。
絵梨は、か弱そうで、おとなしそうなイメージのコだ。
それでいて、可愛らしい。
そんな絵梨が、あまり人の気配のない地域の
アパートに一人暮らししている、というのは
防犯上、マイナスでしかない。
「---だ、大丈夫だよね!生きてるよね!」
霧子が自分に言い聞かせるように
そう呟きながら、絵梨が住んでいるアパートの前に
到着する。
ドキドキしながら、階段を駆け上がり、
絵梨の部屋の前にたどり着くー
インターホンを鳴らす。
返事がないー。
「--絵梨…!!
絵梨!!!」
慌てた様子で霧子が扉をノックするー
するとー
ガチャ
扉の鍵が開いたー。
そしてーー
絵梨が顔を出したー
「あ~~~~~
えーっと、霧子。ふふ」
絵梨がニヤニヤと笑うー
「--え、、絵梨!連絡くれないから心配したんだよ!
大学にも来ないし!」
霧子が安心しながらも、
少し怒りっぽく言うー。
玄関から顔だけ出した絵梨がニヤリと笑う。
「いやぁ~ごめんねぇ~!
思ったより、新しい服が似合うからさぁ~!えへへ」
絵梨がふざけた感じでそう呟くー
そしてー
「あ、いいよ。入って入って~」
絵梨が扉をさらに開けるー
「--!」
霧子が驚くー
絵梨は、ラバースーツ姿だった。
「--あ、、、」
霧子が驚いていると、
絵梨がほほ笑んだ。
「似合うでしょ?新しい”服”」
絵梨が、ラバースーツに手を当てて
ポーズを決める。
「え…あ、、、う、、、うん」
戸惑いながら家の中に入っていく霧子ー
”なんか、絵梨、今日、テンション高いなぁ”
そんな風に思いながら、
霧子は、絵梨の部屋の中に
足を踏み入れたのだったー
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・
コメント
意志を持つ服に乗っ取られてしまうお話ですネ~!
今日は導入部分でした~!
明日もぜひお楽しみくださいネ~!
コメント