<入れ替わり>この身体を奪いたい②~人生~

余命あとわずかの男子大学生が
彼女と入れ替わって、彼女の人生を奪ったー。

”残りわずかだった人生”が
大幅に増えた彼は…!?

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「--ひゃっほ~~~!」
藤枝(兵吾)は病院から飛び出すと、
嬉しそうにスキップしていたー

スカートがふわふわすることもお構いなしー
それほど、嬉しかった。

「こんなに…こんなに身体が動くなんて…!」

女になったことよりも、
それよりも
”普通に身体が動く”ことに
感動していたー。

兵吾の身体は少しずつ蝕まれていて
兵吾自身も”普通に動く身体”の感触を
忘れてしまうほどに、不自由になっていたのだー

「すっげぇ~」
手をぶんぶんと振る藤枝ー

「ふぉぉぉぉぉ!」
足をぶんぶんと振る藤枝。

髪を振り乱しながら
嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねる藤枝。

「あはははははっ!
 そうだ!これだ~~!!
 こんな感触、久々だぜ~!」
藤枝の声で嬉しそうに叫ぶ兵吾ー。

周囲が、”この子、頭おかしくなっちゃったのかな?”みたいな目で
藤枝の方を見つめるー。

「-あ…」
藤枝(兵吾)が苦笑いする。

やってしまったー
ついつい…
調子に乗ってしまった。

「あは…あははははははは
 お騒がせしましたぁ~」
藤枝(兵吾)はそう言いながら
その場から足早に離れる。

「ふふふふふ…」

しかし、感情の高ぶりが
抑えられない。

こんなに自由に身体が動くなんてー

そして、”もう明日は来ないかもしれない”という
状況だった自分の人生が、
1年、いいや、10年、50年と、無限の可能性に
満ちているー

「ふふふふふ…
 よっしゃああああああああああああ!」

突然街中で大声で叫ぶ藤枝(兵吾)

「ひぇっ!?」
周囲の通行人が、突然叫び出した藤枝(兵吾)を見て驚くー

「---ははっ!♪ はははははっ♪」
藤枝(兵吾)が笑うー
そんな藤枝(兵吾)のほうを心配そうに見つめる通行人ー。

藤枝(兵吾)はその視線に気づく。

「--あははは!生きてるって素晴らしいですよねぇ~!」
藤枝(兵吾)が興奮のあまりそう言うと、
通行人は「は…はぁ…」と呟いたー

藤枝(兵吾)はご機嫌なまま、
兵吾の家へと舞い戻るー

「ただいま!俺の家っ!」
藤枝(兵吾)が叫ぶ。

「ひゃっは~!」
可愛らしい女子大生とは思えないほどの
興奮した様子で、部屋の中に飛び込む藤枝(兵吾)。

「いやぁ~!もう帰ってこれないと思ってたのに~!
 へへへ…へへへへへへ!」
藤枝(兵吾)がベットの上で
足をばたばたさせて喜ぶー。

髪が手に触れるー

この時、初めてドキッとするー

「あ…」
自分の身体を見つめる藤枝(兵吾)-

「--そっか…藤枝の身体に…
 ふふ……
 女の身体まで…楽しめるのかぁ…」
ニヤニヤして顔を赤らめる藤枝(兵吾)

「--ふふ…ふふふふふ…」

脳内で、藤枝が、いろいろな格好をしているのを
妄想してみるー

藤枝がセーラー服着たら可愛いだろうなぁ、とか
藤枝がチャイナドレス着たらエロいだろうなぁ、とか
藤枝のウェディングドレスとかヤバそうだなぁ、とか…
色々妄想して、藤枝(兵吾)は
藤枝の心臓がどきどきしていることに気づくー

「あぁぁ…興奮してるのか、、藤枝の身体が…」
藤枝(兵吾)はニヤニヤしながら、
”ちょっと、落ち着け、俺”と呟きながら
ソファーに座ったー。

足を広げたままソファーに座った藤枝(兵吾)は
”藤枝になったって言うことは、
 この家にいるわけにはいかないな”と呟くー。

さすがに”中身は兵吾です”は通用しないだろうし、
色々まずい。
これからは、藤枝として生きていく必要があるー。

藤枝の家は知っている。
この家から、必要なものだけを移動して
これからは藤枝の家で暮らすことにしようー

”ーー嬉しそうだな”
老婆の声がした。

兵吾に入れ替わりの力をくれた老婆だ。

老婆が姿を現す。

「おわっ!」
藤枝(兵吾)がびっくりすると、
老婆は”そんなに驚くでない”とニヤニヤしながら言ったー。

60-…
いいや、もっと上か。
70か80ぐらいに見える。
かなりの、老婆だ。

「---これからお前は、
 とても楽しい人生を送ることになる」
老婆が言う。

「--へへ…やっぱ、生きるって最高だな」
藤枝(兵吾)が可愛らしい声のまま言う。

「---そう言えば、自己紹介がまだだったな」
老婆が言う。

「自己紹介?」
藤枝(兵吾)が老婆のほうを見る。

「---わたしは…50年後の藤枝だ…」
老婆がニヤリと笑ったー

「えっ!?!?」
藤枝(兵吾)が驚くー。

「-ーーー50年後のお前…と言うべきか」

老婆の言葉に、藤枝(兵吾)が言う。

「ご、、50年後の、俺なのか…?」
とー。

「--そう」
老婆は頷いたー

身体は、50年後の藤枝で
中身は50年後の兵吾、ということだろうか。

「---……わたしも、お前と同じ…
 50年前、余命あとわずかの状況のときに、
 同じように、50年後の自分と出会い、
 そして、入れ替わりの力を授かった。
 
 おかげで今も、こうして自由に生きることができている。

 50年後の世界では、ちょうど”タイムマシン”が実用化
 されていて、こうして、お前に会いに来たのだ。」

老婆の言葉に、
”入れ替わり薬も50年後の世界には存在するってことか”と
藤枝(兵吾)は思いながら、
老婆のほうを見つめるー

「--本当に最高の人生だった。
 藤枝として生きる人生は、な…ふふふ」
老婆が笑う。

「そっか。俺もこれから…そんな風に
 おばあちゃんになるまで、生きていけるんだな」
藤枝(兵吾)が笑うー。

”最初”がどう始まったのかは分からないー。
けれど、兵吾は、50年後の自分から、入れ替わり薬を受け取り、
そして藤枝の身体を奪い、
50年後に今度は、”50年前の自分”に入れ替わり薬を
渡しに行くー。
それが、何度も、何度も行われていたー

”50年前の自分”に入れ替わり薬を渡しに行かなくては
過去が変わってしまって、自分が消えてしまうかもしれないからー。

”……私はしばらくしたら、元の時代に帰るー”
老婆はそう呟くと、姿を消したー

「へへ…俺だったのか。あの老婆」
藤枝(兵吾)はそう呟くと、
さっそく自分の部屋の荷物をまとめて、
藤枝の家に向かったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「------」
病室では、兵吾になってしまった藤枝が
悲しそうに窓の外を見つめていたー

「---……こんなに…
 こんなに…苦しかったなんて…」
健康な身体から、余命あとわずかな身体になってしまった
兵吾(藤枝)は、
兵吾の身体が、藤枝の想像していたよりも
遥かに悪い状態であったことを知るー

気を抜けば、そのまま死んでしまいそうな
そんな恐怖に襲われるー

「こんなに辛かったんだね…」
兵吾(藤枝)の目から涙がこぼれ落ちるー。
こんなに苦しいのに、いつも藤枝の前では兵吾は
なるべく元気にふるまっていたー

「ひとりで苦しませてごめんね…」
兵吾(藤枝)は悲しそうにそう呟くー。

兵吾を暗い気持ちにさせないようにと、
明るく振舞い続けてきたけれどー
兵吾からすれば、辛かったのかもしれないー

こんな恐怖と、一人で戦っていたのだからー

”死にたくないー”
藤枝はそう思った。

けど、それは兵吾も同じことー。

「--……怖い…」
兵吾(藤枝)は悲しそうに呟くー
こんな恐怖と、兵吾は戦っていたなんてー。

「---」
”もう、兵吾は戻ってきてくれないだろう”と、
藤枝はそう思うー。
きっと今頃、藤枝の身体で大はしゃぎしているのだろうー、と。

「---……」
兵吾(藤枝)は呟くー

「---……身体を半分こできればいいのにね…」

そんなことできるはずないのにー
人生を半分ずつにできればー
また、二人で楽しくーーー

「---うっ…」
兵吾(藤枝)は、激痛に襲われて苦しみ出すー。

男の身体になったことを味わう余裕もなく
ただただ、苦しみ、恐怖と戦う兵吾(藤枝)。

そのまま意識を失いー
数時間後に、苦痛のまま目を覚ますー。
意識のもうろうとした時間が続いていくー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

藤枝の家に到着した
藤枝(兵吾)-

「はぁぁ~~~身体が動くっていいなぁ~」
藤枝(兵吾)はベットにあおむけで
寝ころんで満足そうな笑みを浮かべるー

「あぁぁ~…この開放感…!」

”明日まで生きられるだろうか”が、
”50年”いいや、もっとかもしれないー
人生が増えた。

ほとんどの人が味わったことがないであろう
この感覚ー
今まで生きてきた何よりもうれしい
言葉に表すことのできないこの感覚ー

しかもー。

部屋に置かれている姿見を見つめるー

「えへへへへ…藤枝になれちゃうなんて…」
藤枝(兵吾)が照れくさそうに笑うー。

そうだ…
自分が藤枝になったのだからー
藤枝を失ったとか、そんなことを考える必要もない。

「--わたしは…藤枝…ふふ♡」
藤枝とひとつになったんだー。

そんな風に思いながら
自分が藤枝になったことにドキドキしながら
顔をゆっくり触ったり、胸を触ったり、
足をべたべた触ったりしながら
ゾクゾクを感じる藤枝(兵吾)-

「ふぁぁ…
 俺がドキドキしてるのに
 藤枝の身体がドキドキしてる…

 はぁぁぁぁ…♡♡」

藤枝(兵吾)は、ニヤニヤしながら
藤枝の手を見つめてー
”綺麗な手だなぁ…”と呟いて
またニヤニヤするー。

事情を知らない人が見たら、
戸惑うであろう、そんな光景が広がるー。
藤枝(兵吾)は一人、ニヤニヤし続けたー。

やがてー
夜遅くなったことに気づいてー
トイレに行くー。
女としてトイレを利用するのは慣れないし、
とても難しかったが、なんとかそれをこなし、
お風呂に入るー

お風呂では藤枝の身体にずっとドキドキしながら
途中、一度お風呂の中でイッてしまったりしたものの
なんとか乗り越えることができた。

その日は、”これからも生きられること”に
喜んでしまって、ぐっすりと眠ったー。

翌日ー

大学で藤枝(兵吾)は、
嬉しそうに友達と話をしていたー。

久しぶりに大学の友達とも会えたー

「いやぁ、生きてるっていいね~!」
藤枝(兵吾)がとてもハイテンションで言う。

「どうしたの?藤枝?」
友達の一人が苦笑いする。
兵吾とも面識があった女子だ。

「--え?ふふふ~♡ ちょっといいことがあってね」

藤枝本人は、最近、落ち込みがちだった。
それもそのはず、彼氏の兵吾の死が迫っているため
落ち込んでいたのだ。

だが、今日の藤枝(兵吾)は、異様なほどに
ハイテンションで、周囲は少し戸惑っていた。

「お~!久しぶりぃ~!」
藤枝(兵吾)が、思わず、親友の男子に
なれなれしく声をかけてしまう。

「-え?」
その男子が驚くー。

”兵吾”とは仲良しだったが
”藤枝”とはあまり接点がなかった男子だ。

「--あっ!え、っと、間違えた!ははっ!」
藤枝(兵吾)は苦笑いしながら、ごめんごめんと呟くー。

”今、俺は藤枝なんだ。
 いや、”今”というより、これからずっと、藤枝なんだ。
 俺…じゃない、わたしは藤枝よ!”

心の中でそう言い聞かせて、
藤枝として自然にふるまえるように努力するー

お昼になって、
大好物だったラーメンを食べる藤枝(兵吾)-

入院していた兵吾は長らくラーメンも食べていなかった。

「んは~~~っ!」
大盛のラーメンを嬉しそうに食べていく藤枝(兵吾)

「---彼氏、死んじゃったのかな?」
「ありゃ、、やけ食いだな」

周囲が噂しているー

「--…」
藤枝(兵吾)にもその言葉が耳に入って
少し控えめにラーメンを食べる。

(藤枝はラーメン食べなかったしなぁ…)

そう思いながら、
”あれ?”と首を傾げる。
思ったよりすぐに満腹になってしまったー

「あ…そっか」
藤枝(兵吾)は呟く。

この身体は藤枝のもの。
だから、満腹になるタイミングも違うんだー。

とー。

「いやいや、大盛頼んだ以上、食べないとな!」
藤枝(兵吾)はそう呟くと、
必死にラーメンを完食してーー
お腹を壊したー

・・・・・・・・・・・・

「はぁ……ひどい目に遭った」
そう呟きながら帰宅する藤枝(兵吾)

スカートを乱しながら
ベットに寝ころぶー

そして、スマホを見つめると、
知らない番号からの電話がかかってきていたー。

「ん…?」
メッセージが残されていたのでそれを確認する藤枝(兵吾)

”……兵吾?わたし…藤枝…”

スマホから聞こえてきたのは、兵吾の声ー
つまり、兵吾になってしまった藤枝からのメッセージ…。

「---…藤枝」
藤枝(兵吾)は”何を言われるのだろう”と
緊張しながらメッセージの続きに耳を傾けた…

③へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・

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人生を謳歌…!?
次回が最終回デス~!

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