余命あとわずかの男子大学生が
彼女と入れ替わって、彼女の人生を奪ったー。
”残りわずかだった人生”が
大幅に増えた彼は…!?
---------------------
「--ひゃっほ~~~!」
藤枝(兵吾)は病院から飛び出すと、
嬉しそうにスキップしていたー
スカートがふわふわすることもお構いなしー
それほど、嬉しかった。
「こんなに…こんなに身体が動くなんて…!」
女になったことよりも、
それよりも
”普通に身体が動く”ことに
感動していたー。
兵吾の身体は少しずつ蝕まれていて
兵吾自身も”普通に動く身体”の感触を
忘れてしまうほどに、不自由になっていたのだー
「すっげぇ~」
手をぶんぶんと振る藤枝ー
「ふぉぉぉぉぉ!」
足をぶんぶんと振る藤枝。
髪を振り乱しながら
嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねる藤枝。
「あはははははっ!
そうだ!これだ~~!!
こんな感触、久々だぜ~!」
藤枝の声で嬉しそうに叫ぶ兵吾ー。
周囲が、”この子、頭おかしくなっちゃったのかな?”みたいな目で
藤枝の方を見つめるー。
「-あ…」
藤枝(兵吾)が苦笑いする。
やってしまったー
ついつい…
調子に乗ってしまった。
「あは…あははははははは
お騒がせしましたぁ~」
藤枝(兵吾)はそう言いながら
その場から足早に離れる。
「ふふふふふ…」
しかし、感情の高ぶりが
抑えられない。
こんなに自由に身体が動くなんてー
そして、”もう明日は来ないかもしれない”という
状況だった自分の人生が、
1年、いいや、10年、50年と、無限の可能性に
満ちているー
「ふふふふふ…
よっしゃああああああああああああ!」
突然街中で大声で叫ぶ藤枝(兵吾)
「ひぇっ!?」
周囲の通行人が、突然叫び出した藤枝(兵吾)を見て驚くー
「---ははっ!♪ はははははっ♪」
藤枝(兵吾)が笑うー
そんな藤枝(兵吾)のほうを心配そうに見つめる通行人ー。
藤枝(兵吾)はその視線に気づく。
「--あははは!生きてるって素晴らしいですよねぇ~!」
藤枝(兵吾)が興奮のあまりそう言うと、
通行人は「は…はぁ…」と呟いたー
藤枝(兵吾)はご機嫌なまま、
兵吾の家へと舞い戻るー
「ただいま!俺の家っ!」
藤枝(兵吾)が叫ぶ。
「ひゃっは~!」
可愛らしい女子大生とは思えないほどの
興奮した様子で、部屋の中に飛び込む藤枝(兵吾)。
「いやぁ~!もう帰ってこれないと思ってたのに~!
へへへ…へへへへへへ!」
藤枝(兵吾)がベットの上で
足をばたばたさせて喜ぶー。
髪が手に触れるー
この時、初めてドキッとするー
「あ…」
自分の身体を見つめる藤枝(兵吾)-
「--そっか…藤枝の身体に…
ふふ……
女の身体まで…楽しめるのかぁ…」
ニヤニヤして顔を赤らめる藤枝(兵吾)
「--ふふ…ふふふふふ…」
脳内で、藤枝が、いろいろな格好をしているのを
妄想してみるー
藤枝がセーラー服着たら可愛いだろうなぁ、とか
藤枝がチャイナドレス着たらエロいだろうなぁ、とか
藤枝のウェディングドレスとかヤバそうだなぁ、とか…
色々妄想して、藤枝(兵吾)は
藤枝の心臓がどきどきしていることに気づくー
「あぁぁ…興奮してるのか、、藤枝の身体が…」
藤枝(兵吾)はニヤニヤしながら、
”ちょっと、落ち着け、俺”と呟きながら
ソファーに座ったー。
足を広げたままソファーに座った藤枝(兵吾)は
”藤枝になったって言うことは、
この家にいるわけにはいかないな”と呟くー。
さすがに”中身は兵吾です”は通用しないだろうし、
色々まずい。
これからは、藤枝として生きていく必要があるー。
藤枝の家は知っている。
この家から、必要なものだけを移動して
これからは藤枝の家で暮らすことにしようー
”ーー嬉しそうだな”
老婆の声がした。
兵吾に入れ替わりの力をくれた老婆だ。
老婆が姿を現す。
「おわっ!」
藤枝(兵吾)がびっくりすると、
老婆は”そんなに驚くでない”とニヤニヤしながら言ったー。
60-…
いいや、もっと上か。
70か80ぐらいに見える。
かなりの、老婆だ。
「---これからお前は、
とても楽しい人生を送ることになる」
老婆が言う。
「--へへ…やっぱ、生きるって最高だな」
藤枝(兵吾)が可愛らしい声のまま言う。
「---そう言えば、自己紹介がまだだったな」
老婆が言う。
「自己紹介?」
藤枝(兵吾)が老婆のほうを見る。
「---わたしは…50年後の藤枝だ…」
老婆がニヤリと笑ったー
「えっ!?!?」
藤枝(兵吾)が驚くー。
「-ーーー50年後のお前…と言うべきか」
老婆の言葉に、藤枝(兵吾)が言う。
「ご、、50年後の、俺なのか…?」
とー。
「--そう」
老婆は頷いたー
身体は、50年後の藤枝で
中身は50年後の兵吾、ということだろうか。
「---……わたしも、お前と同じ…
50年前、余命あとわずかの状況のときに、
同じように、50年後の自分と出会い、
そして、入れ替わりの力を授かった。
おかげで今も、こうして自由に生きることができている。
50年後の世界では、ちょうど”タイムマシン”が実用化
されていて、こうして、お前に会いに来たのだ。」
老婆の言葉に、
”入れ替わり薬も50年後の世界には存在するってことか”と
藤枝(兵吾)は思いながら、
老婆のほうを見つめるー
「--本当に最高の人生だった。
藤枝として生きる人生は、な…ふふふ」
老婆が笑う。
「そっか。俺もこれから…そんな風に
おばあちゃんになるまで、生きていけるんだな」
藤枝(兵吾)が笑うー。
”最初”がどう始まったのかは分からないー。
けれど、兵吾は、50年後の自分から、入れ替わり薬を受け取り、
そして藤枝の身体を奪い、
50年後に今度は、”50年前の自分”に入れ替わり薬を
渡しに行くー。
それが、何度も、何度も行われていたー
”50年前の自分”に入れ替わり薬を渡しに行かなくては
過去が変わってしまって、自分が消えてしまうかもしれないからー。
”……私はしばらくしたら、元の時代に帰るー”
老婆はそう呟くと、姿を消したー
「へへ…俺だったのか。あの老婆」
藤枝(兵吾)はそう呟くと、
さっそく自分の部屋の荷物をまとめて、
藤枝の家に向かったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「------」
病室では、兵吾になってしまった藤枝が
悲しそうに窓の外を見つめていたー
「---……こんなに…
こんなに…苦しかったなんて…」
健康な身体から、余命あとわずかな身体になってしまった
兵吾(藤枝)は、
兵吾の身体が、藤枝の想像していたよりも
遥かに悪い状態であったことを知るー
気を抜けば、そのまま死んでしまいそうな
そんな恐怖に襲われるー
「こんなに辛かったんだね…」
兵吾(藤枝)の目から涙がこぼれ落ちるー。
こんなに苦しいのに、いつも藤枝の前では兵吾は
なるべく元気にふるまっていたー
「ひとりで苦しませてごめんね…」
兵吾(藤枝)は悲しそうにそう呟くー。
兵吾を暗い気持ちにさせないようにと、
明るく振舞い続けてきたけれどー
兵吾からすれば、辛かったのかもしれないー
こんな恐怖と、一人で戦っていたのだからー
”死にたくないー”
藤枝はそう思った。
けど、それは兵吾も同じことー。
「--……怖い…」
兵吾(藤枝)は悲しそうに呟くー
こんな恐怖と、兵吾は戦っていたなんてー。
「---」
”もう、兵吾は戻ってきてくれないだろう”と、
藤枝はそう思うー。
きっと今頃、藤枝の身体で大はしゃぎしているのだろうー、と。
「---……」
兵吾(藤枝)は呟くー
「---……身体を半分こできればいいのにね…」
そんなことできるはずないのにー
人生を半分ずつにできればー
また、二人で楽しくーーー
「---うっ…」
兵吾(藤枝)は、激痛に襲われて苦しみ出すー。
男の身体になったことを味わう余裕もなく
ただただ、苦しみ、恐怖と戦う兵吾(藤枝)。
そのまま意識を失いー
数時間後に、苦痛のまま目を覚ますー。
意識のもうろうとした時間が続いていくー
・・・・・・・・・・・・・・・・・
藤枝の家に到着した
藤枝(兵吾)-
「はぁぁ~~~身体が動くっていいなぁ~」
藤枝(兵吾)はベットにあおむけで
寝ころんで満足そうな笑みを浮かべるー
「あぁぁ~…この開放感…!」
”明日まで生きられるだろうか”が、
”50年”いいや、もっとかもしれないー
人生が増えた。
ほとんどの人が味わったことがないであろう
この感覚ー
今まで生きてきた何よりもうれしい
言葉に表すことのできないこの感覚ー
しかもー。
部屋に置かれている姿見を見つめるー
「えへへへへ…藤枝になれちゃうなんて…」
藤枝(兵吾)が照れくさそうに笑うー。
そうだ…
自分が藤枝になったのだからー
藤枝を失ったとか、そんなことを考える必要もない。
「--わたしは…藤枝…ふふ♡」
藤枝とひとつになったんだー。
そんな風に思いながら
自分が藤枝になったことにドキドキしながら
顔をゆっくり触ったり、胸を触ったり、
足をべたべた触ったりしながら
ゾクゾクを感じる藤枝(兵吾)-
「ふぁぁ…
俺がドキドキしてるのに
藤枝の身体がドキドキしてる…
はぁぁぁぁ…♡♡」
藤枝(兵吾)は、ニヤニヤしながら
藤枝の手を見つめてー
”綺麗な手だなぁ…”と呟いて
またニヤニヤするー。
事情を知らない人が見たら、
戸惑うであろう、そんな光景が広がるー。
藤枝(兵吾)は一人、ニヤニヤし続けたー。
やがてー
夜遅くなったことに気づいてー
トイレに行くー。
女としてトイレを利用するのは慣れないし、
とても難しかったが、なんとかそれをこなし、
お風呂に入るー
お風呂では藤枝の身体にずっとドキドキしながら
途中、一度お風呂の中でイッてしまったりしたものの
なんとか乗り越えることができた。
その日は、”これからも生きられること”に
喜んでしまって、ぐっすりと眠ったー。
翌日ー
大学で藤枝(兵吾)は、
嬉しそうに友達と話をしていたー。
久しぶりに大学の友達とも会えたー
「いやぁ、生きてるっていいね~!」
藤枝(兵吾)がとてもハイテンションで言う。
「どうしたの?藤枝?」
友達の一人が苦笑いする。
兵吾とも面識があった女子だ。
「--え?ふふふ~♡ ちょっといいことがあってね」
藤枝本人は、最近、落ち込みがちだった。
それもそのはず、彼氏の兵吾の死が迫っているため
落ち込んでいたのだ。
だが、今日の藤枝(兵吾)は、異様なほどに
ハイテンションで、周囲は少し戸惑っていた。
「お~!久しぶりぃ~!」
藤枝(兵吾)が、思わず、親友の男子に
なれなれしく声をかけてしまう。
「-え?」
その男子が驚くー。
”兵吾”とは仲良しだったが
”藤枝”とはあまり接点がなかった男子だ。
「--あっ!え、っと、間違えた!ははっ!」
藤枝(兵吾)は苦笑いしながら、ごめんごめんと呟くー。
”今、俺は藤枝なんだ。
いや、”今”というより、これからずっと、藤枝なんだ。
俺…じゃない、わたしは藤枝よ!”
心の中でそう言い聞かせて、
藤枝として自然にふるまえるように努力するー
お昼になって、
大好物だったラーメンを食べる藤枝(兵吾)-
入院していた兵吾は長らくラーメンも食べていなかった。
「んは~~~っ!」
大盛のラーメンを嬉しそうに食べていく藤枝(兵吾)
「---彼氏、死んじゃったのかな?」
「ありゃ、、やけ食いだな」
周囲が噂しているー
「--…」
藤枝(兵吾)にもその言葉が耳に入って
少し控えめにラーメンを食べる。
(藤枝はラーメン食べなかったしなぁ…)
そう思いながら、
”あれ?”と首を傾げる。
思ったよりすぐに満腹になってしまったー
「あ…そっか」
藤枝(兵吾)は呟く。
この身体は藤枝のもの。
だから、満腹になるタイミングも違うんだー。
とー。
「いやいや、大盛頼んだ以上、食べないとな!」
藤枝(兵吾)はそう呟くと、
必死にラーメンを完食してーー
お腹を壊したー
・・・・・・・・・・・・
「はぁ……ひどい目に遭った」
そう呟きながら帰宅する藤枝(兵吾)
スカートを乱しながら
ベットに寝ころぶー
そして、スマホを見つめると、
知らない番号からの電話がかかってきていたー。
「ん…?」
メッセージが残されていたのでそれを確認する藤枝(兵吾)
”……兵吾?わたし…藤枝…”
スマホから聞こえてきたのは、兵吾の声ー
つまり、兵吾になってしまった藤枝からのメッセージ…。
「---…藤枝」
藤枝(兵吾)は”何を言われるのだろう”と
緊張しながらメッセージの続きに耳を傾けた…
③へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
人生を謳歌…!?
次回が最終回デス~!
コメント