<憑依>漆黒の森で笑う少女③~復讐~(完)

漆黒の森に迷い込んだ修学旅行中の
女子高生たち…

憑依、復讐…
最後に待ち受けている運命は…?

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「---ど、どういうこと…!?」
優等生の早緒莉が叫ぶー。

”次のターゲットは、あんたよ”

森の少女が笑うー

早緒莉は、まじめな千尋の方を見るー。

はぐれたのは大人しい瑠香だー。

”瑠香ちゃんは、最後だから…”
森の中の少女は笑ったー

そう、瑠香こそ、
少女に”とどめ”を刺した女子だからー。
だから、最後にたっぷりとー

「---ねぇ!何が目的なの!?」
早緒莉が叫ぶ。

”まだ思い出さないんだ?
 やっぱりさ、あんたも、優等生として通ってるけど、
 最低のクズだよね”

「---!?」
憑依されてゾンビのようになった菜緒に噛まれた傷口が
激しく痛み出す。

「いたっ…!?」
早緒莉が苦しむー。

”わたし、みんなにちゃんとチャンスをあげたんだよ。
 ちゃんと謝れば、命まではとらないって、
 思ってたんだよ。

 でもさー、
 誰一人、わたしに気づかなかった”

森の中の少女が笑う。

”だからーーー…
 許さない…
 わたしがされたことを、あんたたちにも、してやるー”

「----うぅ…」
噛まれた傷口から、早緒莉の体内に毒が回り始めていたー

漆黒の森に漂う毒が、早緒莉を蝕んでいたー

「--うぅぅぅ……」
千尋の方を見る早緒莉ー。

「---だいじょうぶ?」
千尋が、早緒莉を心配する。

「--う、、いたい…たすけて…」

「---”自分にも、原因があるんじゃないかな?”
千尋が笑みを浮かべたー

ーーー!?!?!!?

”わたしは、ずっとそばにいたのにー”

森の中の少女の声とーーー
千尋の声はーー

”同じーー”

「----ち、、、…あ、千尋…」
早緒莉が表情を歪めるー

「---ひさしぶりぃ…」
千尋が不気味な笑みを浮かべたー

2年前、自殺した生徒はーー千尋だ。
最初、修学旅行中の菜緒、早緒莉、瑠香、美津子の
4人が、飾り物のお店に入った時には
”千尋”はいなかったー。
いるはずがない。
既に2年前に死んでいるのだからー。

漆黒の森の主・千尋は、
菜緒たち4人をこの森に引きずり込んだあと、
菜緒たち4人の記憶をいじって、違和感を感じないようにしてから
4人に紛れ込んで、
あたかも”最初から一緒に行動していた”かのように、
一緒に行動したー

これが、
漆黒の森で笑う少女・千尋が4人に与えた最後のチャンスー。

2年前に自殺した千尋のことを、誰かひとりでもちゃんと覚えていたならばー

千尋がそこにいることを”おかしい”と気づいたはずだー。

千尋がいじったのは
”千尋がその場にいることに違和感を感じないように”
しただけー。

もし、もし4人のうちの誰かが千尋の自殺のことを
ちゃんと覚えていればー
”死んだのに、どうしてここにいるの?”と気づけたはずだ。

でも、誰も気づかなかった。

所詮ー
自殺に追い込んだ側の意識なんて、そんなもの。
菜緒も、瑠香も、早緒莉も、美津子も、誰一人、
千尋にしたことなんて、覚えていないー

ゾンビ扱いして殺虫剤をかけてきたこともー
嘘の噂話をまき散らしておばあちゃんを死に追い込んだこともー

そしてーーー

「--早緒莉…言ったよね?わたしが悪いんだって」
千尋が冷たい目で早緒莉を見る。

「--わたし、本当に辛かった。
 いじめを受けて、苦しくて、体調も崩して、
 毎日のように吐き気に襲われてー。

 でも、早緒莉は、わたしが悪いと言い放ったー」

「---…だって…」
早緒莉が震える。

千尋は、ほほ笑みながら、早緒莉に近づいてくるー。

そしてー
早緒莉に”憑依”したー

「--ふふふふふ…早緒莉ぃ…」
目に涙を浮かべたまま、早緒莉がにこにこと笑うー。

菜緒や美津子のいやがらせで苦しんだ千尋は、
当時、学級委員長だった早緒莉に相談したー
誰にでも優しく、優等生な早緒莉に相談すれば、
何か逃げ道が見つかると思ったからー。

けどーー
早緒莉は、苦笑いしながら言ったー

”それはさ、
 千尋にも原因があるんじゃないかな?
 いじめられる側が、まず原因を直さなくちゃ”

とー。

まるで話にならないー
千尋はそう思ったー

早緒莉に”いじめられる側”の苦痛なんて
理解できなかったのだー

「--こうやってさ、噛まれて苦しいのも
 早緒莉のせいなんじゃないかな?」

早緒莉は、自分の頬をつんつんつつきながら笑う。

それからも
早緒莉は”千尋が悪い”の一点張りだった。

それどころか、美津子や菜緒とも仲が良くー
何も考えずに早緒莉は相談されたことを
菜緒たちに話していたー。

そのせいで、美津子の”噂”や
菜緒の”いじめ”はエスカレートした。

千尋は、早緒莉を恨んだー。
早緒莉に罪の意識はないのかもしれないー。

でも、早緒莉は千尋を”放置”したー。
見て見ぬふりは罪だー。

千尋が死んだとき、早緒莉は、菜緒に「おつかれさま」と言われていたー。
”相談してくる面倒な女子がいなくなってよかったじゃん”という意味の
”おつかれさま”だー。
早緒莉はそのとき「ありがとう」とほほ笑んでいたー

許さないー。

「ふふふふふふ…
 ふふふふふふ」
早緒莉の姿のまま、自分の傷口をぐりぐりえぐっていくー。
血がボタボタと流れるー。
その血を笑いながら身体中にこすりつける早緒莉ー

さらに激しく、手で傷口をえぐるー。
血が噴き出すように流れるー。
毒が体内に回るー。

「んふふふふふふふふっ♡ふふふふふふふふふ」
復讐の鬼のような表情をした早緒莉はー
そのままその場に倒れるー

千尋が、早緒莉の身体から出てくるー。

「--ど、、どうして、、どうして…」
意識を取り戻した早緒莉が、苦しそうに言うー。

「---いじめを見て見ぬふりされるってさ、
 つらいの。
 だから、あんたはその”代表”」

千尋のことを見て見ぬふりした生徒はたくさんいた。
その全員に復讐をするのは、千尋も気が引けた。
だから、”見て見ぬふり代表”として、早緒莉を選んだー。

「---…うぅぅぅ…ごめんね……
 謝るから、、、助けて…」

早緒莉が苦しそうに言うー

「--あんたは、助けを求めるわたしを”放置”したよね。

 だからわたしもーーー
 同じことをするの」

千尋は、笑ったー

早緒莉を見捨てて、
そのまま立ち去る千尋。

「--うぅぅぅ…ううう…」
早緒莉はそのまま毒が回り、動けなくなりー
やがて、何も考えられなくなったー

・・・・・・・・・・・・・・・

最後の一人は瑠香ー

瑠香の前に、千尋が姿を現すー

「……千尋ちゃん…」
瑠香が呟く。

「----気づいてたの?」
千尋が少しだけ驚くー。

「--忘れるわけないでしょ…」
瑠香が悲しそうに呟いたー。

「ずっとずっと、千尋ちゃんのことは、
 忘れたことなんて一度もなかった…」
瑠香の言葉に、千尋は表情を少し歪めるー

「--わたしたちに千尋が紛れてるのを見て、
 千尋ちゃんが、わたしに復讐しようとしてるんだなって、
 すぐに気付いたの…

 森の中から響く声が千尋ちゃんのものだって言うことも」

瑠香は、森に置かれていたベンチに座って、千尋の方を見るー。

「じゃあ、なんで…、何も言わなかったの」
千尋が言うと、
瑠香は悲しそうに呟いたー。

「----千尋ちゃんが、わたしに復讐したいならーー…
 わたしは………それでもいいから…」

1年生のときー
千尋と瑠香は親友だったー。

千尋も、瑠香もお互いのことを親友と呼び合う間柄ー
大人しいタイプのもの同士、意気投合したのだったー。

”わたしたち、ずっと友達だよね?”
瑠香が嬉しそうに言う。

”うん”
千尋も嬉しそうにそんな風に答えていたー

けれど、”何か”がきっかけで、千尋は
美津子や菜緒を中心に、いじめを受け始めていたー。

そして、瑠香との距離が生まれていくー

瑠香に避けられているー。

おばあちゃんが自殺して、
精神的に追い詰められていた千尋ー

そんなとき、瑠香は言ったのだったー

「ごめん…わたしに話しかけないで」
瑠香の言葉に、千尋は「え?」とびっくりしながら言う。

「--わたしを、巻き込まないで。迷惑だから」
瑠香はそれだけ言って立ち去って行ったー

”いじめに巻き込まれたくないー”
親友だと思っていた瑠香にも捨てられた千尋は
絶望し、気づいたときには森を一人で
さまよっていて、
最後はそのまま命を絶ったー。

「--……」
薄暗い森のベンチに座りながら
瑠香は悲しそうに、千尋の方を見るー。

「---……わたし、
 瑠香に見捨てられたとき、
 すごく悲しかった…」
千尋が呟くー。

「--…だって、、、」
瑠香は首を振りながら言う。

「だって…千尋ちゃんと関わったら…
 いじめられるって思ったから……」

そこまで言うと、瑠香は少しだけ
ほほ笑んで「言い訳にしかならないね…ごめんね」と呟いたー。

薄暗い森の中で二人が沈黙するー。

「---……千尋ちゃんの、好きなようにして」
瑠香が覚悟したかのように目を瞑る。

「---……瑠香」
千尋が、沈黙するー

そしてーーー
ずっと薄暗かったはずの森にーー
太陽のような光が差し込んできた。

「---…え」
瑠香が明るくなってきたほうの空を見つめるー。

「---……瑠香と久しぶりに話が出来て…よかった」
千尋がほほ笑むー

この森がずっと薄暗いのはー、
千尋の暗い心を投影していたからー。

瑠香と話をしてー
瑠香だけは自分のことに気づいてくれたことを知りー、
瑠香の想いを知って、
千尋の暗い心に光が灯されたー。

薄暗かった森が明るくなるー。

「--…千尋ちゃん…」
瑠香が呟くー

「---やっぱり……瑠香を殺すことなんて、
 できないよ」
千尋はほほ笑むー。

そしてーーー
瑠香の後ろに渦のようなものが出てくるー。

「---千尋ちゃん?」
瑠香が驚きながら言うと、
千尋はにっこりとほほ笑んだ。

「--わたしたち、ずっと友達だよね?」
生きているときに、瑠香に言われた言葉ー。
それを千尋が口にする。

「---うん」
瑠香はにっこりとほほ笑んだー。

「---ごめんね…。
 怖い思いさせて」
千尋が、渦のほうを指さす。

「--ここの出口…」
千尋が呟く。

「---…千尋ちゃん」
瑠香は悲しそうに言う。

「--わたしは、もう死んでるから、
 ここから出ることはできない」
千尋が瑠香の方に近づいてくる。

瑠香は悲しそうな目で千尋の方を見るー。

「---だから」
千尋が呟くー

「瑠香の身体、ちょうだい…!!!」
千尋が笑ったー

森の太陽が急速に輝きを失い、
再び薄暗い森に戻るー

「えっ!?」
瑠香が驚くー

千尋が瑠香に手を突っ込むー

「--!?!?!?」
驚く瑠香ー

「わたしたち、ずっと友達だよね?って
 言ってくれたの、本当にうれしかった!

 でも、瑠香はわたしを裏切った!

 わたしを希望から絶望に突き落としたー!
 だから、わたしは瑠香と同じことをするの!」

ずぶずぶと瑠香の中に入っていく千尋。

「ひっ…!」
瑠香がおびえた表情を浮かべるー。

「--瑠香は謝ってくれたから、
 殺しはしないよ。

 ”身体”はねー。

 でも、その身体、貰うからー」

千尋が瑠香に吸い込まれていくー
そして、瑠香はそのまま渦のほうに飛び込んだー。

・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

「--大丈夫!?ねぇ、大丈夫!?」

「う……」
瑠香が目を開くとー
瑠香は修学旅行中の道端に倒れていたー

周囲に人だかりが出来ているー

「あ……」
瑠香が起き上がるー。

瑠香のまわりには、
口を半開きにしたまま、
魂が抜けたかのように
微動だにしない3人が倒れているー

菜緒、美津子、早緒莉の3人は
異世界で死んでしまったー
もう、中身はからっぽだー。

「---ふふ」
瑠香は周りの3人を見つめると
少しだけ笑うー

「---だいじょうぶ」
瑠香は、周囲の人たちにそう告げると立ち上がったー。

他の3人に駆け寄る同級生たち。

「--その3人はもう、起きないよ」
瑠香は静かにそう呟いたー

そしてーーー
千尋に乗っ取られた瑠香は、ニヤリとほほ笑んだー

「瑠香の身体でー
 わたしがいじめられてるのを見て見ぬふりした
 傍観者たちにも、復讐してやるー」

歩き出す瑠香ー

「ふふふふふふ…はははははははははは♡」
瑠香は笑いながら、
他の3人が倒れているその場から立ち去って行くのだったー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

一度は没になったネタだったのですが
書く予定の話がいろいろな事情で急遽没になったので
やっぱり書くことにした作品でした~!

お読み下さりありがとうございました~!

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