<憑依>3日後に憑依される彼女③~憑依される日は突然やってくる~(完)

憑依される日は突然やってくるー。

乗っ取られる側の人間は、
乗っ取られるその瞬間まで、
自分に起きる悲劇を知らずに、
普通に生活を続けているー。

--------------------—-

憑依されるまで、あと0日ー。

「--ひっ!?」
ビクンと身体を震わせるー。

「あ…あ…え…???」
自分に何が起きたのかわからないー

分からないままー
彼女の意識は闇へと消えたー

直前まで普通に生活していただけなのにー
自分が、他人に憑依されて乗っ取られたということを
理解できないまま、
彼女は完全に乗っ取られてしまう。

「うへへへへへ…♡」
笑みを浮かべながら胸を触る。

「ふふふ、ふふふふふ…
 ついに、、ついに、憑依できた…♡
 へへへへ…あひひひひひひひひひっ♡」
下品な笑い声を出しながら、
鏡をうっとりとした表情で見つめたー

・・・・・・・・・・・・・・

「--くそ~!早く到着しすぎちゃったぜ!」
和哉の親友・洋平が苦笑いしながら
遊園地で、彼女の阿津美を待っているー。

薄い色の液体が入ったラベルのないペットボトルを鞄から
取り出して、それを飲む洋平。
中身は、スポーツドリンクだ。

なぜか洋平はペットボトルのラベルを剥がすクセがある。
洋平曰はく、
”他人から何を飲んでいるのか知られたくない”という理由と
”前に、バイト先で先輩と同じ飲み物を飲んでたら間違えて飲まれた”という理由のようだ。

「--むふふ」
今日は、彼女の阿津美との遊園地デート。
清楚でおとなしそうなお姉さんっぽい見た目なのに
阿津美はとても無邪気だ。
遊園地に来ると本当に子供のようにはしゃいでいて、
とってもかわいいー。

洋平は、子供のようにはしゃぐ阿津美のことが大好きだったー。

「お待たせ~!」
阿津美が到着したー

「お!待ってたぞ~!」
洋平が笑みを浮かべるー

”今、起きていること”を何も知らずに
洋平は、阿津美の方に駆け寄ったー

・・・・・・・・・・・・・・・

「-------」
和哉の彼女、
愛唯が笑みを浮かべながら部屋の中を歩いているー

「---……」
鏡で自分の姿を見つめる愛唯。

「---…あ」
愛唯が声を上げる。

寝起きで髪が面白い形になっているのに気づいた愛唯は
苦笑いしながら、スマホを手にする。

”おはよ~”
彼氏の和哉にメッセージを送る愛唯。

今日は、土曜日。
愛唯は、お昼には友達と遊びに行く約束もしているー。

午前中は、特に予定がないから、と
のんびりと過ごす愛唯。

1時間が経過して、
ふとスマホを見つめる。

彼氏の和哉に送ったメッセージには
まだ既読がついていない。

「珍しいなぁ~」
愛唯がほほ笑む。

和哉はいつもLINEの返信が早い。
休日も早起きだ。

でもー
今日はLINEの返信が、まだない。

「--寝坊してるのかな!ふふふ」
愛唯はそう呟くと、
スマホから手を離して、
いつも読んでいる本を読み始めたー。

・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

「---------」
スマホが光っているー

その横にはー
男子が倒れているー

まるで、魂が抜けたかのようにー

”おはよ~”
LINEが届いているー

けれど、
それを確認する人間は、もういないー

倒れている男子はー
愛唯の彼氏・和哉。

彼はーー
”自分の身体を捨てた”

注文していた憑依薬が届き、
その憑依薬を飲んだー。

和哉は、自分のことが嫌いだった。
愛唯と付き合うことが出来て
少し自分に自信を持つことができたけれど、
やっぱりー。
自分のことを好きになることができなかった。

”女になりたい”
”いいや、乗っ取りたい”

特撮モノで”女性が悪党に憑依される”回を中学生の頃に見てから
和哉はずっと、そう思って来た。

高校に入学してからも、その気持ちは消えず、
愛唯に告白される前は、愛唯に憑依したいと
ずっと思っていたー。

しかし、まさか、その愛唯に告白されて
自分に彼女ができるなんて…。

彼女が出来て、和哉は迷った。
愛唯との日々はとても楽しかった。

でもーーーー
次第に、”飽きてきた”
彼女になったことで”自分のもの”になった
愛唯に和哉は飽きた。

愛唯に飽きると同時に、再び
”自分の身体を捨てて他人を乗っ取りたい”という思いが
強くなっていった。
自分へのコンプレックスが強くなっていった。

そしてー
そうしているうちに、
別の女子に”憑依したい”と思うようになってきた。

その相手がーーーー
親友・洋平の彼女、阿津美ー。

和哉はーー
自分の身体を捨てて、
親友の彼女である阿津美に憑依したーーー

・・・・・・・・・・・・・・・・

遊園地ーーー。

「---お待たせ~!」
和哉に憑依された阿津美がやってくる。

「お!待ってたぞ~!」
何が起きているのか知る由もない
洋平が笑みを浮かべる。

「---」
阿津美が悪魔のような笑みを浮かべるー。

洋平との遊園地デートを楽しみにして
家でお出かけの準備をしていた阿津美は、
和哉に憑依されてしまった。
その直前まで、自分が今から憑依されるなんてこと
夢にも思わずに。

「---ねぇ、洋平」
阿津美が呟く。
阿津美として喋ることに、和哉はゾクゾクとしているー。

「ん?」
洋平が阿津美のほうを見る。

「--別れよ♡」
わざと甘い声を出して言う阿津美。

「---お~!わか… え???」
洋平の表情が凍り付くー

「--(くふふふふ…阿津美ちゃん、絶対こんなこと言わないもんな~)」
和哉は、阿津美にとんでもないことを言わせている興奮と
親友・洋平の凍り付く表情を見て、ゾクゾクしながら楽しんでいる。

「--今、なんて…?」
洋平が言うと、
阿津美は笑いながら答えた。

「--あんたのこと、嫌いになっちゃった!」
阿津美が笑いながら言う。

「え…え…?なんで…?え?俺、何かしたか?」
洋平が泣きそうになりながら戸惑っている。

「---なんとなく~!あはっ♡」
わざとふざけて見せる阿津美。

「--…お、、お…え…?待ってくれよ」
戸惑う洋平。

そんな洋平に向かって
”お前の彼女の身体は俺が頂いた”と
一瞬言いたくなってしまったが
それはやめておいたー。

これからは阿津美として生きるんだ。
余計なことはしないほうがいい。

「--ばいばい!」
笑いながら遊園地から立ち去る阿津美。

身体がぴくっと何度か震える。
阿津美の意識が拒否反応を起こしているのだろうか。

「ふふふふ・・・無駄な抵抗はよせよ」
阿津美は、低い声で自分に語り掛ける。

「お前の身体は、もう俺のものなんだからよ」
阿津美は悪い笑みを浮かべながら
そのまま遊園地を出て、
自宅へと戻るのだったー

”彼氏なんて邪魔なだけだからな
 洋平には悪いケド、この身体は俺がたっぷり
 可愛がってやるぜ”

阿津美は、ネットで
次々とエッチな服を注文していくー

「くく…くくく」
阿津美は、この身体で、注文した服たちを
着る場面を想像して、
一人、ニヤニヤしながら涎を垂らしたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

週明けー。

「---あれ?」
愛唯は、首を傾げる。

彼氏の和哉が登校していない。

と、いうよりも土曜日から連絡も取れない。
心配そうに、机を見つめる愛唯。

そしてーーー
担任の先生から、驚きの言葉が告げられた。

”親から連絡があって、自宅で和哉が変死していた”
という知らせーー

愛唯は、驚いて、泣き出してしまうー。
彼氏の、突然の死ー。

実際は死んでおらず、憑依薬を飲んで
阿津美に憑依しているのだがー、
本人以外に、それを知る手段はないー

昼休みー

憑依された阿津美に振られた洋平は
朝からずっと暗いままー

和哉が死んだと思っている愛唯は
激しく落ち込んだままー

「--ーー」
洋平の彼女だった阿津美が
教室に入ってくるー
なんとなく”自分の元・クラス”の反応が気になった。

「あ…」

髪型がツインテールに変わり、
スカートがちょっと短くなっている阿津美の姿を見て
愛唯が「あれ?なんかイメージ変わった?」とほほ笑む。

「おう!め…じゃない、うん!イメージちぇんじってやつ!」
阿津美はほほ笑んだ。

”って、ついクセで愛唯に素で返事しちゃうところだった”
阿津美に憑依した和哉はそう思いながら
愛唯の表情を見るー

愛唯の目は、明らかにさっきまで泣いていた感じの目だー。

(愛唯…)
阿津美に憑依している和哉は、少しだけ
申し訳ない気持ちになりながらも
”俺は今日から阿津美なんだ”と自分に言い聞かせて
阿津美として振舞ったー。

・・・・・・・・・・・・・・

「--くふふふ…♡」
自宅で、阿津美は色々な服に着替えて
一人ファッションショーを楽しんでいたー

「--はぁぁ~♡ 憑依してよかったぁぁ…♡」
うっとりとした表情で自分を見つめるー。

阿津美として、
阿津美の声を出すだけでゾクゾクするー
いやー、むしろ普通に歩いているだけでもゾクゾクするー
自分が阿津美の身体を乗っ取って
本人の意志とは関係ないことを無理やりさせているー
そのことにもとっても興奮するー

しかも、阿津美は、そんなひどいことをさせられているのに
笑っているー
完全にこの身体は、自分のものだー

「んへへへへ…♡
 俺がこの身体、有意義に使ってやるから…んふふふふふ」
ナースのような姿をしながら、阿津美は嬉しそうにほほ笑んだー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2週間が経過したー

愛唯は、和哉の死に落ち込んだままー。

その和哉に乗っ取られた阿津美は
どんどん豹変していきー
最近ではメイドカフェでバイトを始めたという
噂まで飛び交っているし、
放課後にエッチをしているという噂も飛び交っているー。

「---阿津美…何があったんだよ」
洋平は阿津美の豹変に心を痛めていたー。

遊園地デートの前までは普通だったはず。
どうして急に阿津美が豹変してしまったのか。

あの日から、阿津美の行動がおかしくなった。

髪型も変えて、少し派手になって
洋平との接触を避けるようになったー

「----くそっ」
洋平は初めての失恋に、辛い表情を
浮かべることしかできなかったー。

・・・・・・・・・・・・・・・

それからさらに月日は流れるー。

和哉の彼女だった愛唯も、
ようやく彼氏の死を受け止めることができて立ち直ってきていたー

和哉の親友だった洋平も、
阿津美が憑依された事実には気づかないまでも、
ようやく、阿津美と別れた事実を受け止めることができていたー。

阿津美は、まさか自分が3日後に憑依されるなんて、
思っても見なかっただろう。

憑依される日は、突然やってくるー。

「--♪~」
メイドカフェのバイトを終えて
ご機嫌そうに家へと向かう阿津美。

阿津美が憑依されてから、既に97日が経過したー。
阿津美本人の意識は、どこに行ってしまったのだろうかー。

そしてー

「----!」
横断歩道を渡っていた最中の阿津美が、
ふと異変に気付いたー。

横から、信号無視の暴走車がーーーー

阿津美に憑依していた和哉が
最後に見た光景は
自分に向かってくる暴走車だったー。

憑依される日は突然やってくるー
死も突然やってくるー

阿津美が憑依されるまで、あと3日ー
そのカウントが始まったとき、
和哉自身の”死まであと100日”の
カウントも始まっていたのだったー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

〇〇まであと〇日、を
よく見かけるようになったので、
それを憑依モノにしてみました~!
(一番最初は、少し前に人気だったワニのお話ですネ!)

お読み下さりありがとうございました~!

コメント