ごく普通の人生を送っていたはずのわたし…。
なのに、ある日、
わたしの人生は一変してしまった。
わたしの身体は、二人暮らしになってしまったからー。
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「も~!うるさい!静かに」
夜ー
女子高生の北上 琴葉(きたがみ ことは)が、
一人でぶつぶつと呟いているー
「--ちょっと~!明日テストなんだから~!」
琴葉が怒りっぽく言う。
明日に控えた期末テストの勉強をしている
琴葉の部屋には、琴葉しかいないー
はずなのに、琴葉が何やら
一人でぶつぶつと喋っているのだ。
彼女はーーー
”二人暮らし”だ。
家のことではないー
家族は4人。
琴葉のほかに、両親と弟がいる。
コン コン
部屋がノックされる。
「--あ、、あのさ」
弟の清志(きよし)だー。
「--え?」
琴葉が気まずそうな表情を浮かべると
清志が苦笑いしながら言った。
「姉さんー
さっきから、一人でなんか呟いてるみたいだけど、
大丈夫…?」
とー。
琴葉は顔を真っ赤にしながら
「も~!あんたのせいで!」と横を見ながら叫ぶ。
「---?」
弟の清志が、不審なモノを見る目で琴葉を見る。
「--あ、ううん!なんでもないの!
演劇の練習!」
琴葉が言うと
清志が「姉さん、美術部だったよな?」と呟く。
「--びーーー、、、美術部も演劇するんだもん!」
琴葉がとっさに誤魔化すと清志は
苦笑いしながら部屋から立ち去った。
「ふーーー」
琴葉がため息をつく。
「--も~?困るんだけど」
琴葉が誰もいない空間に向かって語り掛ける。
”すみませんでした”
琴葉の頭の中に声が響くー
琴葉は”憑依”されてしまったー。
1か月前、突然、
寝ようとしているときに頭の中に声が響いた。
それが、始まりだった。
琴葉は最初、飛び上がるほど驚いて
思わず悲鳴を上げてしまったー
けれどー
琴葉に憑依した男は
琴葉に丁寧に状況を説明してくれた。
自分はとある研究所で
”憑依薬”と呼ばれるひみつの薬を
開発していたチームのメンバーの一人であったこと、
その研究中の事故で、肉体を失って
気付いたら琴葉に憑依できてしまっていたことー
丁寧にひとつひとつ説明してくれたー。
何故、琴葉に憑依してしまったのかは
自分でもわからない、とのことだったが
男は、琴葉に偶然憑依してしまって
抜け出せなくなってしまったのだというー
「---ほら~!
ほかの人からは、嶋津さんのこと
見えないんだから~
あんまり返事できないの~!!」
琴葉が不貞腐れたかのようにして言う。
”周囲からは独り言をしゃべっているように見えてしまう”
ことから、基本的に琴葉は、男に話しかけられても
相手にしない。
琴葉に憑依している男は、琴葉に直接語り掛けることが
できるが、琴葉は声を出さないと、男に意思を
伝えることができないー
そのためー
この1か月間も、友達や家族から
”最近、独り言多くない?”などと
言われてしまっている始末ー。
琴葉は、憑依された翌日、
憑依した男、嶋津からいろいろと聞き出し、
本当に”憑依薬の研究”は行われていたことを
調べあげ、さらには嶋津という人物も
実在していることを確認したー
どうやら、嶋津の話は本当のようだー。
けれどー
「--あくまで、わたしの身体なんだから
わたし優先だからね!」
琴葉が言うと、
嶋津は”もちろんです”と答えたー
嶋津が元に戻る方法を探しつつ、
琴葉はいつものように、生活を送っているー
ほとんどの行動は琴葉の意志で
することができ、嶋津側から
身体を完全に乗っ取られたりすることはないー
それゆえか、1か月も経過した現在、
琴葉もだいぶ落ち着いて、
この環境に慣れてきていたー
「---ほら!目を瞑る!」
琴葉が勉強を終えてお風呂に入ろうとするー。
自分に憑依している嶋津にそう叫ぶと、
嶋津は”わかりました~”と答えたー
「本当に目を瞑ってる?」
琴葉に憑依している嶋津が
どんな状況なのかは分からないー。
本当に目を瞑るなりしているのだろうかー?
”瞑ってますよ~! 琴葉さんの身体見るのは
申し訳ないですし~!”
嶋津という男は物腰が低く、
琴葉に憑依してしまったことを
とても、申し訳なく思っている感じだ。
「ふ~~~」
ようやくお風呂から上がる琴葉ー
いつまでこの生活が続くんだろうーと、思いながらも
嶋津という男を元に戻してあげたい、とも思ったー。
1か月間もこうして
”精神同居状態”にある琴葉には、
この嶋津という男が悪人でないことはよくわかっていた。
本当に研究所の事故で琴葉に
憑依してしまったのだろうー
とは言えー
どうにかしなくてはならないー。
「戻る方法、見つかるといいね」
琴葉が呟くと
”ええ…”と
嶋津は呟いた。
「--でもさぁ、わたしの中にいるだけって
つまらなくない?だってさ、
何も行動できないわけでしょ?」
琴葉が言うと、
脳内に嶋津の声が響くー
”まぁ…そうですね…
一応、琴葉さんの視界とか聞こえてくることとか
そういうのは伝わってくるんですけど…
あ、お風呂とかトイレとか、見ちゃいけない
聞いちゃいけないタイミングは
目を瞑って耳もふさいでますからね!”
嶋津が慌てた様子で付け加える。
「--な~んか、ずっと監視カメラで
見張られてる気がして落ち着かないけどね…」
琴葉が”も~”と言いたげな雰囲気で言う。
”すみません…
ご迷惑をおかけします”
嶋津の言葉に、
「まぁ…いいよ。私の生活に支障が出ない範囲でだけど
元に戻る方法を探ってあげるから」
琴葉がそう言うと、
嶋津は”申し訳ありません”ともう一度、呟いたー
「---姉さん」
「え?」
琴葉が嶋津との話に夢中になっていると
いつの間にか弟が近くにいた。
「--独り言…だいじょうぶ?」
弟の清志がとても心配そうに言う。
「あ、、あぁ~、だいじょうぶ!うん!だいじょうぶ!」
琴葉は苦笑いしながらそう答えた。
「もう!!ばか!人のいるところで話しかけないでって
いったでしょ~!」
琴葉の言葉に”すみません~”と嶋津はお詫びの言葉を口にしたー
・・・・・・・・・・・・・・・・
3日後ー
琴葉は、とあることを目前に
控えてドキドキしていたー
仲の良い男子生徒に告白しようとしているのだ。
”大丈夫ですか?
なんかすごくドキドキが伝わってくるんですけど…”
嶋津が言う。
「--え~?大丈夫じゃないよ!
ドキドキが伝わってくるならわかるでしょ!」
琴葉が言うと、
嶋津は”すみません”と苦笑いした。
「謝らなくていいから!」
琴葉がムキになって言うー
幼馴染の男子生徒 小野 坂男(おの さかお)という
男子に告白しようとしている琴葉ー
だが、坂男とは”幼馴染ムード”が強すぎて
告白されても笑われる可能性すらある。
だから、なかなか勇気が出ないのだ。
「---よし!頑張る!
もし振られたら、慰めてよね!」
琴葉はそう言いながら、坂男のところに向かったー
・・・・・・
・・・・・・・・・
”泣かないでください…”
嶋津が言う。
「---」
帰宅した琴葉は泣いていた。
坂男に振られた。
坂男は言った。
”幼馴染は、幼馴染だし…
ってか、、恋愛って…まぁ、俺には必要ないかな”とー。
坂男は、あまり恋に興味がなさそうな感じは
昔からあったー。
だが、はっきりそう言われてしまうと、
やはり、落ち込む
”希望”が絶たれ
そこに残るのは”絶望”だけー。
落ち込まずにいられるはずもない。
”…少し休みますか?”
嶋津が言う。
「え…?」
琴葉が泣きながら返事をする。
”--わたしが表に出ますから…
少し、、ゆっくり休んでください…
落ち着いたら言ってくれれば
わたしがまた奥に行きますから”
嶋津が悲しそうに言う。
「-ーーそんなことできるの?」
琴葉が泣きながら言うと、
嶋津は、”私からは無理ですけどね”と苦笑いするー
”この身体は琴葉さんのものですから
琴葉さんが、奥に行こう、って思えば
私が表に出て、琴葉さんとして過ごすこともできますし
琴葉さんがそう思わなければ私は琴葉さんを
乗っ取ったりとかそういうことは絶対できませんし、
一回奥に行っても、琴葉さんが表に出ようと思えば
すぐに、また身体の…なんていうんでしょう?
主導権…を取り戻すことができますし…
全部、琴葉さん次第ですね。
私が勝手に乗っ取ることはできないですけど、
琴葉さんが願えば、一時的に…ってことはできますよ”
嶋津の説明に琴葉は泣きながら答えたー
「じゃあ、しばらく引きこもるから、お願い」
琴葉の言葉に嶋津は”早く元気出してくださいね”と
優しく呟いたー
「うっ!」
琴葉がうめくー
琴葉の身体の主導権を嶋津が握るー
「---あぁ…こうして表に出てきて
人間として身体を動かすなんて久しぶりですね…」
琴葉に憑依してから1か月以上ー
ずっと自由を失っていた嶋津が、
琴葉の身体の主導権を握ったー
”変なことはしないでよね!”
泣きながら琴葉が言う。
「--はい。
琴葉さんはゆっくり心を落ちつかせてくださいねー」
琴葉の身体で、嶋津がそう言うと、
琴葉の身体で、本を読み始めたー
変なことをする気配は一切ない。
琴葉は安心して、心の中で気持ちを落ち着けるー
そして、3時間後ー
”ありがとう、そろそろ大丈夫そう”
「---琴葉さん。それはよかった」
琴葉の身体で嶋津がそう口にする。
「ゆっくり休めましたか?」
”うん、ありがとう。
もう大丈夫!”
琴葉の言葉に、琴葉の身体の主導権を握る嶋津は
優しく微笑んだ。
「せっかくですから…
永遠にそこで休んでいてください」
琴葉の身体で、嶋津はそう言い放ったー
”え…?”
「---くくくくくく…
1か月…長かったような、短かったような…」
”え…?嶋津さん…?”
「--くくくくくく…はははははははははは!
憑依大成功~~~!!!」
琴葉の身体で大声で笑い出す嶋津ー
”え??ちょっと??”
「---ふふふふふふ!馬鹿な女だ!
俺はずーっと待ってたんだよ!
お前が俺に気を許して、
身体の主導権を自分から譲ってくれるのをな!」
琴葉の声で、叫ぶ嶋津ー
”ど、、、どういう…?”
「お前は主導権を俺に渡した。
この身体はもう俺のものだ」
本性を現した嶋津の言葉ーー
”え…で、、でも、さっき
わたし次第でって…”
琴葉は焦るー
さっき、”一度奥に引っ込んでも琴葉次第で
身体の主導権はいつでも取り戻せる”と
確かに言ったはずだ。
「---嘘だよ!ははははは!
一度、身体の主導権を明け渡したら、
俺が明け渡すまで…
もうお前は、身体を動かすことはできない!
この身体は俺のものになったんだ!あはははははは!」
嶋津は言うー
今の技術で作れる憑依薬はこれが限界ー
強引に乗っ取ることはできないが、
身体の持ち主が気を許して
”心のバリア”を解除してくれたその時ならー
身体を乗っ取ることができるー
「---この身体は、俺のものだ!」
琴葉になった嶋津は大声で叫んだー
”わ、、わたしをだましてたの…!?”
琴葉が脳の中で呟くー
「--騙されるほうが悪いんだ!あははは!
今日からエロ三昧だ!」
琴葉の身体で嶋津が叫ぶー。
”憑依薬の事故”などではないー
憑依薬は完成し、嶋津や、他の研究員たちは、
各地で”好みの身体”に憑依しているー。
その身体を完全に乗っ取るために、
琴葉のように、心を許すのを待ちながらー
”わ、、わたしの身体を返して!”
泣き叫ぶ琴葉。
「うるさいなぁ~
もう、俺、、いや、わたしが琴葉なんだよ?」
琴葉を乗っ取った嶋津が琴葉の口調を真似て笑うー
そしてー
「消えちゃえ…」
琴葉が口元を歪めながら言ったー
”--え…”
琴葉の意識が急速に薄れていくー
「---もう、お前はいらない」
琴葉を乗っ取った嶋津が笑うー。
琴葉本人の意識を心の奥底に封じ込めればー
この身体は完全に嶋津のものになる。
”え…うそ!やめて…やめ…”
意識が闇に飲まれていくのを感じながらー
琴葉は悲鳴を上げるー
「--この身体は俺が有意義に使ってやるから…
くくく、ほぅら、身体もゾクゾクして喜んでるぞぉ?
だから、君は安心して眠りなよ!
あひゃははははは!」
”い、、、あ…”
ぷちっ…
琴葉の意識が闇に飲まれたー
「---姉さん?どうかした?」
弟の清志が心配そうに部屋を見に来る。
琴葉はにっこりとほほ笑んで、
甘い声で答えた。
「なんでもないよ」
とー。
清志が「そっか」と部屋から出ていくー
琴葉は、静かに部屋の鍵を閉めると、
イヤらしい笑みを浮かべながら
胸を触り始めたー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
平和な精神同居系…かと思いきや
そうではありませんでした~~!!
皆様も、誰かに憑依されたら
騙されないようにしましょうネ(?)
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