<憑依>彼女が憑依されたけど、僕にとっては些細なことだった③(完)

彼女が憑依されたのに、
まったく関心を示さない勝夫ー。

そんな彼に対して、
優衣に憑依したクラスメイトが
とった手段は…?

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「うふふふふふふふふふ~」

夜ー
部屋で優衣は、自分の髪を染めていたー

「くくくく~!」
優衣が笑いながら、
勝夫の驚く様子を想像するー

優衣を、めっちゃくちゃに変えてやるー

そして、
お前を驚かせてやるー。
優衣に憑依している哲也は笑いながら
そう呟いたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日。

勝夫が登校すると、優衣が
まるでギャルのようなメイクになっていたー

金髪に、いかにもギャルな制服の着方、
メイクもギャルメイクになっているー

「うっふふふ~
 勝夫~
 あたしぃ~!こんなになっちゃったぁ~~
 ウケる~☆」

哲也がわざと優衣の身体で挑発を続けるー

「---ウケるな」
勝夫が、失笑して座席に座る。

”完全にバカにされているー”
優衣に憑依している哲也はそう思ったー

そしてー
”優衣ちゃんがどうなろうと構わねぇ…
 お前のその、すかした表情を
 必ず滅茶苦茶にしてやるぜ”

優衣が歯ぎしりをしながら
勝夫を見つめるー。

「--ねぇ、あたし、達郎くんと
 今からここでエッチさせられちゃうんだ~!」

優衣が笑いながら言う。

どよめくクラスメイト。

「--あたし~停学に、、
 あ、いや、退学になっちゃうかもぉ~!
 えへへへへへへへ~♡」
優衣がゲラゲラと笑う。

「--さ、達郎、ここで一緒に狂っちゃお!」
優衣が笑いながら達郎に近づく。

「い、、いいのかよ…?」
達郎の方が気圧されているー

しかし、優衣が
「あたしとエッチしたいだろ!??」と叫ぶと、
達郎はすぐに頷いた。

教室で服を脱ぎだす優衣。

クラスメイトたちは騒然としている。

勝夫が優衣のほうを見つめる。

だがー
その表情は無表情だー。

「---ほ~ら!」
優衣が、教室の窓の外に脱いだ制服を投げるー

こんなことしたら、優衣が大変なことになるだろうが、
それでも構わないー

この前、停学になっているから
今度は退学かもしれない。

優衣に憑依した哲也はそう思いながら
服を脱いでいき、
さらにはスカートも脱いで、窓の外に放り投げた。

下着姿になってっポーズを決める優衣。

それでも、勝夫は表情一つ変えない。

「----………」

達郎は顔を真っ赤にして優衣を見ている。

「---っ!少しぐらい反応しろよ!」
優衣が怒りの形相で叫ぶー。

「…っ、、くそっ!馬鹿にしやがって!」
優衣はどよめくクラスメイトたちを無視して、
下着にも手をかけたー

「---あっはははははははは!
 ほら!お前がこの女を助けようとしないから
 この女、教室で生まれたままの姿に
 なっちゃったぞぉ~!」

優衣が全ての衣類を脱ぎ捨てて
両手で万歳をする。

「---そっか」
勝夫はそれだけ呟くと
興味なさそうにスマホをいじりはじめた。

「---なめてんのか!!!!」
優衣が大声で叫んだ。

「なめてないよ。
 ただ、あきれてるだけさ」
勝夫の言葉に、
優衣は、激しく怒り狂うー

ここまでしても、こいつは何もー。

最初はちょっとした嫉妬だったー。
優衣を壊すようなことをするつもりはなかった。

だがー
哲也は怒りのあまり、暴走したー

もう、優衣がどうなったってかまわない。

「あぁぁぁああああ!くそっ!」
優衣はそう叫ぶと、達郎のほうを見る。

「達郎!あたしのここに
 ぜんぶ出して!」

優衣が自分の身体を指さしながら叫ぶ。

「--はっ!?」
達郎が唖然としている。

「あいつの目の前で公開エッチしてやるのよ!
 あたしの中に全部出して!」

クラスメイトたちは完全に困惑している。

達郎も引いているー

「---あぁぁぁぁ、もう!」
優衣が叫ぶ。

なにもかもが思い通りにいかないー
勝夫は、無反応のまま。

「---むかつくううううううううう!」
優衣はそう叫ぶと、
近くの生徒のペンを無理やり奪って
自分の身体に滅茶苦茶に落書きし始めた。

「ほら!お前の彼女、ぶっ壊しちゃうよ!
 ほら!ほら!ほらぁああああ!」

優衣が、狂った声で叫ぶー

”おらああああああ!狼狽えろ!
 リアクションを起こせぇぇぇ”

優衣に憑依した哲也が叫ぶー

「---」
勝夫は、あきれた表情で優衣のほうを見るだけ。
まるで相手にされていない。

自分の身体にペンで下ネタを書きまくっていく優衣。

周囲は、あきれ果てているー。

「--……いいのか!?おい!?!?
 お前の女、こんなことさせられてるぞ!!!いいのか!?」

黒板のほうに歩いて行って
黒板をペロペロ舐め始める優衣ー

はぁはぁと息を荒げながら
狂った行動を繰り返す優衣。

「--もうそろそろ授業はじまるぞ」
勝夫はそう言い放った。

あまりのリアクションのなさに唖然とする優衣ー

そこに先生が駆けつけて
全裸で体中に卑猥な言葉を書きまくった
優衣の姿を見つけて唖然としたーーー

優衣は、退学になってしまったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

夜ー。

帰宅した勝夫はため息をつきながら
机に座る。

机の上には写真が飾られているー。

笑顔の勝夫と、
勝夫より少し年下に見える
可愛らしい少女が写っているー。

「-----…」
勝夫は目を閉じるー

”お兄ちゃんーーー
 わたし、、死にたくないよー”

妹の言葉が、頭の中に浮かんでくるー。

”大丈夫…必ず、必ず助かるから”

勝夫は、目に涙をためながら叫んだー。

妹はーー
とても難しい病気に侵されていた-

明るく、元気な性格の妹がー
どんどん、どんどん、弱っていくー

みるみる弱っていくー

毎日のように学校が終わると
勝夫は妹がいる病院へと向かうー

何度も何度も、
泣きながら祈ったー

”妹を助けてください”

とー。

でもー

妹は、死んだ-

勝夫は悟った。
”何をしても無駄なことがこの世にはある”と。
”奇跡なんて起こらない”とー。

死んだ妹の表情は
苦痛に歪んでいたー

それを見た時ー
勝夫は、すべての感情を失ったー

兄妹仲の良かった勝夫にとっては
想像以上のショックだったー。

・・・・・・・・

「----」
勝夫は目を開くー

妹の写真を見つめるのをやめて、
試験勉強を始めるー。

もうすぐ期末テストがあるー
そのための勉強だ。

この世界は、冷たいー
奇跡なんて、起こらないー。
絆は、引き裂かれー
無情にも、消えていく。

何かに期待するから
傷つき、心が壊れる。

だったらー。
だったら最初から期待しなければいい。

何に対してもー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

登校した勝夫は、優衣の机を見つめるー

優衣はもう、学校にはいない。

優衣があんな風にされてしまったのは
自分のせいだろうか?

いいや、違う。

どんなに助けようとしても、
優衣は助からなかっただろう。

何か反応を示せば、
優衣に憑依していた男子は
より調子に乗って
エスカレートしていく…

遅かれ早かれ、同じ結果に
なっていたはずだー

「--助けられないものは、助けられない」
勝夫はそう呟くと、
優衣のことなど忘れて、授業の準備を始めるのだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・

「--ひーっ…ふーっ…はー…」

退学になった優衣は、
髪もぼさぼさのまま、
見る影もない狂気的な容姿で
怒りを爆発させていたー

部屋でひたすら暴れまくる優衣。

勝夫の態度が気に入らないー

やつから彼女を奪って
滅茶苦茶にしてやったー。

だがー。
それなのにー
やつに負けた気がする。

勝夫は終始冷静で、
何をしても取り乱す様子はない。

「----…くそっ!
 必ずお前を、あっと言わせてやる!」

優衣はボロボロの容姿のまま
家の外に向かう。

「ゆ、、優衣…!」
母親が優衣の豹変に困り果てている。

「そんな格好でどこにいくの!?」
ボサボサの頭に、だらしない格好の優衣を
呼び止める母親。

「--うるせぇよ」
優衣はそれだけ言うと、
勝夫の家に向かう。

♪~

勝夫の家のインターホンを鳴らす。

ちょうど勝夫が出てきた。

だらしない格好のままやってきた優衣を見ても
勝夫はノーリアクションだった。

「--あそびにきたよぉ」
優衣がクスクス笑いながら言うと、
勝夫は「そ。じゃあ、僕の部屋に」と言って
そのまま部屋に通してくれた。

”おいおい、自分の”元”彼女が
 こんなだらしない格好で遊びに来ても
 無反応かよ…”

そんな風に思いながら部屋に上がる。

部屋に上がると勝夫は
オレンジジュースとお菓子を用意してくれた。

「あのさぁ」
優衣はイライラした様子で言う。

「なんでさ、そんな冷静なんだよ?
 自分の彼女が憑依されて
 別れを告げられて
 目の前で乱れて
 退学にもなって、
 しかも、家にまで遊びに来ている。

 なんかさ、こう、コメントとか
 リアクションはないの?」

優衣が言う。

だが、勝夫は「ないよ」と即答した。

「--くそっ!馬鹿にしてるのか!」
優衣が声を荒げた。

彼女に憑依している状態と言うのは、
いわば彼女を人質に取っているような状態でもある。

圧倒的に優衣が有利なはずだった。

しかしー
勝夫のあまりの反応のなさに
自分が追い詰められている気がする。

「---お?」
優衣が、勝夫の机の上に置かれている写真に
目をやる。

その写真には勝夫とその妹が写っているー
妹は既にーー死んでいる。

「--お~!お前、もしかして浮気してたのか?
 なんだこの可愛い子!?誰だ~?」
優衣が笑いながら言う。

「--あ~そっかそっか!
 お前、実は浮気してたんだな~!

 だから優衣ちゃんがこうして俺に憑依されても
 ノーリアクションだったってわけだ
 なるほどなるほど~!

 いやぁ、しかしかわいい子だな!?
 誰だこの子~?
 今度はこの子に憑依してエッチなことしまくって…」

ガン!

机に座っていた勝夫が机を思いっきり叩いたー

「え」
優衣の表情から笑みが消えるー

「---おい!」
勝夫が突然声を荒げた。

「--!?」

勝夫が優衣の胸倉をつかんで乱暴に引き寄せるー

「ひっ!?」
優衣は思わず驚いてしまうー

”お兄ちゃんーーー
 わたし、、死にたくないよー”

勝夫は、妹の言葉を思い出すー

「---二度と…
 二度と妹にふざけたこと言うんじゃねぇぞ」

勝夫が低い声で、今にも優衣を八つ裂きにしそうな
恐ろしい形相で、優衣を睨んだー

「は、、、はひっ…」
優衣は、びびってしまったー

勝夫が優衣を突き飛ばして
そのまま机に座る。

優衣は、あまりの驚きに
その場に漏らしてしまったー

「あ…あ…」

「---」
勝夫が振り返る。

「---汚いなぁ…」
勝夫はいつも通りの勝夫に戻っていた。

漏らした優衣に驚く様子もなく
淡々と掃除をする。

「でー?何の用でここに来たんだ?」
勝夫が言う。

もう、いつも通り冷静だー

優衣は、「あ、、、いえ、、、大丈夫…
も、、もう、優衣ちゃんから出ていこうかな~って
報告しにきただけだから」
と、呟いてそのまま外に飛び出したー

”勝夫はーー
 何も感じていないんじゃなくてーー
 過去の何かが原因でーー
 感情を失っているか、
 押し殺しているかーー”

優衣に憑依している哲也は
そんな風に思ったー

あの机に置かれていた写真はーーー”妹”-?

でも、勝夫の家の表札には妹の名前はなかったー

まさかー
妹は既に亡くなっているー?

”妹の死”が勝夫をあんなに無感情にしたのだとー
優衣に憑依している哲也は悟った。

そしてー
自分が開けてはならないパンドラの箱を
開けかけてしまったことを悟り、
恐怖するのだったー。

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・

優衣は、元に戻ったー

哲也は優衣から抜け出そうとしたが
既に自分の身体が死んでいたために
抜け出せず、
そのまま優衣として暮らしているー

優衣の記憶を読み取り、
優衣になりきっているー

高校は退学になってしまったが
別の高校になんとか入って
再び高校生活を送っているー

勝夫とも、再び彼女として付き合い始めたー

勝夫のことが、気になるようになってしまったー
あれからも勝夫は常に冷めているー

だがー
妹のことで、激怒した勝夫は
この世の何よりも恐ろしかった。

「優衣…」
勝夫は、優衣をとても大事にしてくれているー

リアクションは薄いけれどー

「----…」

勝夫は、優衣が元に戻ったと思っているー

いや…
本当は分かっているのかもしれないー

優衣は憑依されたままだと。

けれど、それを一切表情や口に出すことはない。

”不思議なやつだな…
 でも、なんだか……”

いつかー
優衣として、勝夫を笑わせて見せるー

優衣に憑依して優衣として生きていくことになってしまった
哲也は、そう決意したー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

彼女が憑依されてもノーリアクションな
男子高校生のお話でした~!

ここまで薄い反応をされると
確かにびっくりしちゃいそうですネ!
お読み下さりありがとうございました~!

コメント

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