彼は、身体を捨てる決意をしたー。
自分の人生に、未練などない。
肉体と言う牢獄から解放されて、
電子の海へと飛び込むー。
そして、人々を乗っ取るのだー。
---------------—
肉体は、牢獄だ。
人間は、生まれながらにして、
肉体という名の牢獄に幽閉されているー
その牢獄から脱出することはできない。
どんなに自分の姿がいやでも、
どんなに他人になりたいと思っても、
人は、牢獄から抜け出すことはできない。
自分の身体が傷ついても、
病気になっても、
人は、最後まで牢獄に縛り続けられてしまうー。
牢獄の中で、運命を共にすることになる。
”もっと生きたい”
そう、もがいてもー
”こんな身体嫌だ”
そう、思ってもー
人は、抜け出せない。
牢獄からー。
彼も、そうだった。
彼には、生まれたときから
コンプレックスがあったー。
彼は、容姿に恵まれなかった。
色々と努力をしてみたけれど、
それらはすべて空回り。
やがて彼は、
他の人間になりたい、とそう思い始めるようになった。
高校2年生ー。
彼は、人生をあきらめた。
”諦め”
これこそが、最も希望を見いだせる道であると、
彼は感じたのだ。
期待をすれば裏切られる。
自分は、誰からも愛されない。
いじめられたり、
気持ち悪がられたり、
さげすまれたりー。
これからも、そんな
地獄のような人生が続くのだろう。
だから、彼は、諦めた。
自分の肉体という名の牢獄に囚われたまま
人生を終えてしまうなんて、ごめんだ。
そう感じた彼は、
その日から全てを諦めた。
もう、学校の授業なんて必要ない。
学校にいる間もー
家に帰ってからも
”牢獄から脱出する方法を考えること”
それのみに没頭し始めたのだ。
高校2年生の秋ー。
彼は、”牢獄から脱出するための研究”を
独自に始めた。
”電子の世界”
彼はそこに希望を見出していた。
自分の人格や意識をなんとかして
コンピューターネットワーク上に流し込むことができればー
肉体から解放されて
電子の世界で自由に生きることができる。
そして、さらに彼は”その上”を考えていた。
電子の世界に自分の意識が流れ込んだあとに、
それを利用して他人の身体を支配することは
できないかどうか、ということだ。
できるー
彼はそう思った。
ネット上に”意思を持つデータ”として
潜り込むことができれば、
他人の身体を支配できる。
パソコンやスマホなどの電子機器と
何らかの形でつながった人間に、
データとして流れ込むことができれば、
脳の中枢に入り込んで、その人間を
支配することができるはずだ。
例えばそう、
パソコンやスマホからイヤホンをつないでいたり…
何らかの形で”人と電子機器”がつながっている状態なら
ケーブルを通して、人間のほうにも流れ込むことが
できるはずだー。
彼はそう思って、3年間
必死に独自の研究を続けたのだった
・・・・・・・・・・・・・・
彼は、いつの間にか大学生になっていた。
電子の世界に飛び込み、
そこから他人を支配する研究を続ける傍ら、
頭の良い彼は、簡単に大学受験をクリアして見せた。
大学に行っている理由は特にはない。
就活など彼には必要ない。
彼は、まもなく”電子の支配者”になるのだ。
「---ほんと、マイペースだなぁ…」
同じ大学の女子大生・陣内 春香(じんない はるか)が
話しかけてくる。
「--唐島(からしま)くんは…」
春香があきれた様子で笑う。
肉体からの脱出を目指している大学生ー
唐島 啓介(からしま けいすけ)の幼馴染・春香。
小学生のころは、いじめを受けていた啓介を
よく助けてくれていた子だった。
だがー
啓介はこの春香にも特に何の感情も持っていない。
むしろー
最近は、うるさいとすら感じている。
大学に入学してからも、
ずっと一人で行動し、人とのかかわりを避けている
啓介に話しかけてくるのは、
この春香ぐらいだ。
「ーーも~!また無視?」
春香が苦笑いする。
「--俺は忙しいんだ」
啓介が愛想なく言う。
昔は、普通に恋愛したいとも思った。
だが、この身体では無理だ。
自分の容姿に自信が持てないー
自分のことが好きになれないー
そんな状況は、負の連鎖を生む。
性格も、暗くなった。
だからこそ、啓介は人生に絶望した。
この身体じゃ無理だ、と。
まずは、肉体と言う名の牢獄から
脱出しなくてはならない。
「----」
春香がつまらなそうに啓介のほうを見る。
啓介は、なおも無反応だ。
やがてー
春香は「も~」と言いながら立ち去ってしまったー
唯一の幼馴染ではあるが、
啓介にとっては、もう、関係ない。
昔は好きになったこともあったが、
春香が成長して、女子らしくなっていくにつれて
啓介は春香から離れた。
自分のようなやつが春香といっしょにいれば
春香のイメージも悪くなるだろうからー。
春香のような、恵まれた牢獄に生まれた人間はいい。
肉体に囚われたままでも、
幸せな人生を過ごすことができるだろう。
だがー
劣悪な牢獄に閉じ込められた自分のような人間はー
”脱獄”するしかないー。
そしてー
その3日後ー。
啓介は”完成”させたー
ついに数年間にわたる研究が、完成したのだ。
”肉体と言う牢獄からの脱出”
自分の身体を捨てて、自分の意識を
電子の世界に送り込み、
そして、電子の支配者となる。
「ははははははははは!」
一人暮らしのアパートで啓介は笑う。
このシミだらけで、醜い顔ともおさらばだ!
このコンプレックスまみれの顔のせいでー
今までどんなに苦労してきたことか。
でも、それも今日で終わりなのだ。
特殊なケーブルを手に持つ啓介。
最初に、自分の意識をデータ化するときには、
これが必要だ。
一度電子データになってしまえば、
あとは普通のケーブルで他人の身体に
入り込むことも可能だが、
最初はこのケーブルがなければ、無理だ。
パソコンに特殊なケーブルを接続する。
片側はUSBになっていて、
普通にパソコンに接続できる。
そして、もう片方は、
鋭くとがっているー
そのケーブルを、啓介はーー
自分の右耳に差し込んだ。
「うぐっ!」
啓介が表情を歪める。
耳から血が流れてきた。
啓介は痛みに耐えながら
ケーブルを右耳の奥に入れていくー
”この程度の痛み…!”
啓介は脱獄には痛みがつきものだと考えているー
脱獄は時に失敗する。
失敗というリスクを回避することはできない。
けれど、
それでも彼は肉体から解放されたかった。
パソコンのキーボードを叩く啓介。
そして、自分で数年間かけて開発した
プログラムを起動する。
”ダイブ”と書かれたボタンが
表示されている。
このボタンを押せば
啓介の意識は、電子の世界へと飛び込むことになる。
もし、失敗なら、ここで啓介の人生は終わる。
「---もう、この世界に未練なんてない」
啓介は思うー
歴史上の偉人は、大きな決断を下すときには
その命を懸けたはずだ。
自分もそうだ。
命を懸けて、電子の世界へと飛び込み、
電子の支配者となる。
”ダイブ”
目を見開いて、啓介はそのボタンを押したー
啓介の研究が正しければ、
啓介の意識は、電子の世界へと飛び込むことになるー
グラアアアアア!?
激しく世界が歪む。
ケーブルを刺した右耳から違和感を感じるー
吸い込まれるようなー
「あ…!」
啓介は思わず変な声を出したー
肉体がぶるぶると震えだす。
「う…はは、、い、、いいぞ、、いいぞ…!」
啓介の目がぐるんぐるんとなって、
そのままその場に倒れ込むー
何かに吸い込まれるー
身体と意識が分離された
そんな何とも言えない感覚を覚えるー
そしてー
「あははははははははは!」
気付いた時には、啓介は
不思議な異空間にいたー
情報やプログラムが浮遊している謎の空間ー
そう、これが”電子の世界”だー。
「やった!やったぞ!」
啓介は叫ぶー。
自分の姿をーー
第3者視点で確認しているような気分になるー。
”おっと”
啓介は、電子データとなった自分の姿が
もとの自分の姿であることに気づくー
だがー。
念じることで、姿を変えられるように
プログラミングしておいたー
「おぉぉぉ!」
電子の世界に浮遊している啓介の姿が
女神のような姿に変わっていく。
「ははははは!
やったぞ!ついに、ついに俺は
肉体という牢獄から抜け出した!
今日は脱獄記念日だ!」
女神のような姿になった啓介は大声で叫んだー
電子の世界でー
・・・・・・・・・・・・
啓介の身体はーー
ぴくぴくと震えて心停止を起こしていたー
目の前のパソコンにはー
”ははははは!
やったぞ!ついに、ついに俺は
肉体という牢獄から抜け出した!
今日は脱獄記念日だ!”
と表示されているー
啓介はー
電子の世界の中に移動したのだったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・
電子世界をさまよう啓介。
啓介は解放された気分になっていたー
電子の世界では、外見などというものは必要ない。
データとして、世界中のネットワークを
飛び回ることができるー
機密情報にも、その気になれば
触れることができる
「ククク…これで、俺は死ぬことさえない!」
啓介は笑った。
肉体と言う牢獄から解き放たれた自分は、
もう、死ぬことすらないのだー。
そしてー
各地の監視カメラを利用すれば、
日常的な光景を見ることができる。
今の世の中ー、
あらゆるものは”ネット接続”されている。
電子の世界に入り込んだ自分は、
全てを支配したも同然だー。
さらにー
啓介の目的はもう一つあったー
それはーーー
他人の身体を乗っ取ることー。
高校時代ー
啓介のことをからかっていた生意気な女子がいるー。
あいつを、滅茶苦茶にしてやろうー。
啓介はそんな風に思った。
住所なんて、当然知らないー。
だが、今の自分はネットに記録されたあらゆる情報を
全て知ることができるー
小上 凛子(おがみ りんこ) だったかー。
名前さえわかればー。
彼は、電子の世界のあらゆる情報にアクセスしたー。
そしてー見つけた。
小上凛子の家をー。
凛子は現在、女子大生。
高校時代から、おしゃれにこだわっていて
見た目だけは可愛らしいやつだったー。
「いたいた…」
啓介は、笑う。
”ネットにつながっている”凛子のスマホのカメラを利用して
凛子の家を覗くー
”お前の身体を乗っ取って、滅茶苦茶にしてやるぜ”
啓介はほほ笑むー。
肉体はもうないから、実際にはほほ笑むことは
できていないのだがー。
ーーーー
啓介はそのチャンスを待った。
他人の身体を乗っ取ることが本当にできるのかどうかは
まだ分からない。
だが、啓介の数年間にも及ぶ研究の結果、
それは可能であると確信していた。
”凛子のやつが、”電子機器とつながった”瞬間に、
それを通じて、凛子の脳にアクセスすれば
凛子を乗っ取る…そう、電子的に憑依することができる”
”電子機器とつながる”
とは、
例えば、スマホからイヤホンで音楽を聴いたりー
そういう状況だー。
ケーブルを通じて、凛子の脳に直接”アクセス”するー
「♪~」
!!
凛子が、スマホで音楽を聴き始めたー
イヤホンを使ってー
!!!!!
「---今だ!」
啓介はすかさずー
電子の世界とつながった、凛子に飛び込んだ。
ズキィ
「--!?!?」
凛子の表情が歪む。
激しい頭痛が一瞬走ったー
スマホを思わず落とす。
「んあっ…」
変な声を出してしまう凛子。
凛子は自分の両手を見つめて笑みを浮かべたー
「んふふふ…やっぱり、、やっぱり憑依できたぁ…
へへへへ…へへへへへへへ!」
電子の存在になった啓介は、
凛子の脳に入り込んで、
脳の中枢を完全に支配したー
凛子の身体も心も、今や自分のものだー。
「くくく…高校のときは世話になったなぁ…!
お前を滅茶苦茶にしてやるぜ!」
可愛い声で呟く凛子ー
その顔には、悪魔のような笑みが浮かんでいたー。
「へへへへ…」
高校時代に自分をからかってきた凛子に
たっぷり恥をかかせてやる。
凛子はさっそくスマホで何やら色々
注文すると、クスクスと笑い始めたー
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
憑依するまで時間がかかっちゃいました汗
次回は、憑依三昧デス!
コメント
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
電子データとすると比較的簡単に改ざん複製も考えられるのはいいですね
SECRET: 0
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> 電子データとすると比較的簡単に改ざん複製も考えられるのはいいですね
コメントありがとうございます~!
憑依以外にもいろいろできそうですネ~