現代の女子高生に憑依した孔明の前に
意外な人物が現れる。
孔明の運命は?
憑依された希美の運命は?
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「司馬懿…!?!?」
希美は驚きの表情を浮かべるー
辻江は離れた場所で
自分の好きな本を見つけたのか
夢中になっていてこちらに気づかないー
「ーーーふふふ…
そうだ。お前と同じように未来の人間に憑依したー」
生徒会副会長の麗子が笑うー
希美に憑依している孔明は
一瞬、いたずら?と思ったー
辻江のように自分たちの時代のことを知っている人間ならば
諸葛孔明 対 司馬懿の戦いは知っている人も
いるだろう。
だからー
ふざけているのかと、そう思った。
だがー
「---私も、やったのだ。
同じことを」
麗子が笑う。
「--!?」
希美は戸惑うー
儀式が直前で失敗し、
孔明は、その場で倒れー
現代の女子高生に憑依したー。
その様子を目の当たりにした
蜀の武将・魏延は、
後に魏に寝返った際に一度だけ司馬懿と
話をしたことがある。
その時に、孔明の儀式について伝えた。
司馬懿は、笑うだけで魏延の話を
相手にすることはなかった。
だが、その後、
司馬懿も病に倒れ、自らの終わりを
悟った時にふと思い立ったのだった。
”孔明の行った儀式”をー。
もしかすると、孔明は誰かに憑依して
生きながらえているかもしれないー
そう思った司馬懿は
部下に、孔明が儀式を行った時と
全く同じ状況を作り出すように命じー
孔明の時と同じように、儀式成功の直前にー
わざと儀式を失敗させてーー
その結果、孔明と同じように
現代に飛ばされてしまったのだという。
「まさか…そんなことが…」
希美が驚いていると、
麗子がほほ笑んだ。
「--お前と私の戦いの決着はついていないー
この時代で…私はお前を完全に超えるー」
司馬懿に憑依された麗子は笑みを浮かべた。
「--ま、待て。
この身体は私たちのものではないー」
希美は言う。
孔明は、他人の身体でめったなことはできない、
と麗子を説得する。
しかしー
「--おやおや、諸葛亮よ。
お前はもう、この時代にかぶれたのか?
勝利のために、我々は多くの命を
犠牲にしてきたではないか。
諸葛亮、それはお前も同じはずだ。
きれいごとだけでは戦に勝つことは
できない。そうだろう?
利用できるものは、なんでも利用して、
そして、勝ってきた」
麗子が表情を歪めるー
麗子は普段は大人しく、
清楚な感じの生徒だが、
その面影がないぐらいに
悪い笑みを浮かべているー
「---それは否定はしない。
だが、この時代は、私たちが
生きていた時代とは違う」
希美に憑依している孔明は
そう答えるー
まだこの世界に来て2日目だがー
自分たちのいた世界とは違う。
そのことを孔明はよく理解していた。
平和な世界ー
孔明の主であった、劉備が望んでいた
平穏な暮らし。
それが、実現されているように感じたー
「--ふ…くくくくくく…
そんなことは関係ない。
私は、お前を完膚なきまでに叩き潰したいのだ」
麗子が希美を睨むー
「あ、希美~!ごめんごめん!」
辻江がよってくる。
「--覚悟することだな」
麗子はそう呟くと、そのまま立ち去ってしまう。
「---」
希美が司馬懿に憑依された麗子の後ろ姿を見つめるー
「-あれ?孔明さん!どうしました?」
辻江が笑う。
「いえ…」
希美は首を振った。
”麗子が司馬懿に憑依されている”
そう伝えればこの子はすぐに
信じてくれるだろう。
だがー
この時代の子たちを巻き込むわけには
いかないー
希美はそう思ったー
そしてー
その瞬間からー
麗子に憑依した司馬懿の攻撃が始まったー
「---……」
トイレー。
個室に入っていた希美の上からー
水が落ちてくるー
隣の個室から麗子に憑依した司馬懿が
バケツで水を流したのだ。
「----……司馬懿」
濡れた希美が呟くー
教室に戻ると、
机に、馬鹿め!と書かれていた。
司馬懿の筆跡だ。
「---…」
希美はあきれた顔でその文字を消すー
昇降口ー
上履きが隠されているのに気づく希美。
「----…」
”低レベルだ”
希美に憑依している孔明は
呆れてしまったー
その様子を影から見つめている麗子。
「くくく…諸葛亮よ。
この時代のルールでお前を追い詰めてやるぞ」
麗子は、影から希美の様子を見つめながら笑うー。
・・・・・・・・・・・
帰宅した希美ー。
この世界のモノを見ては
驚き、
”自分の世界にそれがあったならば”と
考えてしまうー。
一瞬”この子の身体でこの世界に生きてみたい”と
思った瞬間もある。
けれどもー
やっぱり考えてしまうのは
”この世界のものが自分の時代にあったならば”ということー。
どうあっても、自分のいた時代を考えてしまう。
「--私はやっぱり、あの時代の人間、ということですね」
希美は呟くー
もしもー
もしも、元の時代に変えることができても、
それは”死”を意味するかもしれない。
病で、死ぬー。
その運命が待っているだけかもしれないー。
けど、
自分はこの時代にいてはいけない。
そんな風に感じたー
・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
麗子による低レベルないやがらせが呟く。
司馬懿によるものだろうー。
麗子に憑依した司馬懿をどうにかしなくてはならない。
そんな風に思いながら、
昼休みに廊下を歩いていたー。
一緒に歩いていた辻江が、ふとすれ違った男子生徒のほうを見る。
その辻江の反応を見て
希美に憑依している孔明は察した。
「--あの者が、好きなのですね?」
とー
「--ふぇっ!?」
辻江が驚く。
「お、、お見通し…?さすが天才軍師さん」
辻江はそう呟くと、
歩きながら、その男子生徒が好きなこと、
そして告白できずにいることを伝えたー
「なるほど…」
希美は、そう言うと、
少しだけほほ笑んだ。
「あなたには世話になっていますからね…
告白を成功させるための策…伝授しましょう」
希美はそう言うと、
辻江に対して、憧れの男子生徒への告白を
成功させるための”策略”を伝授したー
辻江は目を丸くして驚いている。
「す、、すごい…ありがとうございます」
辻江が頭を下げる。
「いえいえ。少しでもお役に立てれば」
希美はそう言うと、少しだけ笑って立ち去って行くー
希美の後ろ姿を見ながら
辻江は思うー
”孔明さん…! やばい…好き…!”
辻江の中に変な感情が生まれつつあったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・
階段を上って教室に向かう希美。
だいぶ、この世界の生活にも慣れてきた。
天才軍師であった孔明にとって、
3日間という時間は長いー。
短時間で、戦場の環境や、その場の状況などを
読み取るスキルも、あの時代には
必要だったからだ。
だから、現代の環境についても
恐ろしい速さで身に着けてきている。
「しかし…」
希美は呟く。
いつまでもこの身体にいるわけには
いかない気がするー
あの時代の兵士の身体を乗っ取るのと、
この時代の希美の身体を乗っ取るのでは、
わけが違うー
希美という子には、身体を返してあげなくてはいけないー。
それにー
司馬懿が憑依した麗子という子も
助けてあげなくてはいけないー
「わぁっ!」
階段を上り終える直前、階段の上の影に
隠れていた麗子が急に飛び出してきた。
「ひっ!?!?」
希美は思わず驚いて、反射的に手を出したー
「--!?!?!?」
希美に引っ張られる麗子ー
驚いたはずみに階段を踏み外す希美ー
ふたりはそのまま、階段を転がり落ちてしまったー
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
「---あ、やっと起きた!」
保健室ー。
希美が目を覚ますー
「う…」
「--大丈夫?孔明さん?」
小声でつぶやく辻江。
「--あ、……辻江…」
希美が虚ろな目で辻江のほうを見る。
「---こうめい??」
希美が不思議そうな表情を浮かべたー
「--あぁ~、無事でよかったです~」
辻江が嬉しそうに言う。
「---……?な、、な、んで敬語?」
希美が唖然としているー
「え…?」
「え???」
見つめ合う二人。
「--も、もしかして」
辻江が、希美の反応を見て、
気付いたー
「---…?」
希美は何が起きているのかわからず困惑する。
「---の、希美なの?」
辻江の言葉に、希美は頷く。
「そ、、そうだけど?? え??え??」
希美の頭に浮かぶ「?」マーク。
辻江は
”孔明さん、帰っちゃったのかな?”と
苦笑いしたー
横では司馬懿に憑依されていた
麗子も目を覚ましていた。
自分が保健室にいる理由がわからず
麗子はひとり、あたふたしていたー
・・・・・・・・・・・・・
「---大丈夫ですか?」
ふと、聞き覚えのある声が聞こえたー。
慣れた空気ー
慣れた身体ー
”あぁ…そうですか…”
孔明は、蝋燭の灯で明るくなっている
テントの中で目を覚ました。
愛弟子であり、後を託そうと考えていた
姜維が、孔明を心配そうに見つめているー
”死の間際の夢…?
いえ、まさかそんなことは…”
孔明は、少しだけ笑う。
「--少し、夢を見てました」
孔明の言葉を聞いた姜維は心配そうに
孔明のほうを見るー。
「--儀式の最中に倒れられて、
心配致しました」
儀式ー
遠い未来の”じょしこうせい”とやらに
憑依することになってしまう直前にやってた
あの儀式のことだろうー
「---…」
孔明は、姜維に大丈夫だと伝えるー
姜維が立ち去って行く。
孔明は、外に出た。
陣地内を歩くー
五丈原の空ー
あれは夢だったのだろうかー。
いいや、あれは確かに1800年以上先の未来ー
夢などではない生々しさがそこにはあったー
「--なるほど。滅びからは逃れられぬ運命…ということですね」
孔明の身体は病魔に蝕まれている。
もう、助からないだろうー
そして、蜀は、滅びるのだろうー。
何を、しようとも。
けれどー
「ーー遠い未来の世界…
あんな風に笑って過ごせる世界が
やってくるのですね」
孔明は空を見上げながらそう呟いたー
すぐにではないかもしれないー
けれどー
あんな平和な世界が
いつの日にか必ずー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「♪~」
現代ー
辻江は図書室で、ふと三国志のことが
書かれた本を見つけた。
希美も麗子も
あれからすっかり元気を取り戻した。
数日意識が飛んでたことは
驚いてたけれど、
辻江はなんとか誤魔化したー。
「---え…」
辻江は本を見て笑う。
「なぁにこれ…
歴史、変わっちゃったってやつ?」
苦笑いする辻江。
三国志の本にはこう記されていた。
孔明は晩年、
”ツジエ、ありがとう”と
書き残していたー。
とー。
”ツジエ”が何なのかは分かっておらずー
そう書かれた三国志の本を閉じて、
辻江は笑ったー
「わたし、、あんま何もしてないけど…」
苦笑いしながら
彼女は小声でつぶやいたー
「どういたしましてー」
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
歴史が題材の憑依モノでしたー!
三国志を知らない皆様にはすみませんでした!!
やってみてよ~!みたいな軽いやり取りから
実際に書いてみましたが
3話だとさっくり帰らないといけないので
難しいですネ汗
お読み下さりありがとうございました!!
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