<他者変身>標的はわたしの彼氏①

とある闇組織ー。

その組織は、ある目的から、一人の女子高生を拉致、
構成員の一人が、”他者変身”の力を使い、
その女子高生に成り代わったー。

女子高生として暗躍する男の運命は…!

※TS解体新書様(http://tskaitai.x.fc2.com/)の企画
 変身モノ祭り参加作品です!
 お祭り終了から時間が経過したので、憑依空間にも載せることにしました!
 (内容は↑サイト様で掲載されているものと同じです!(★あとがきのみ変更★)

※本日の新作小説は先ほど投稿済みデス~(この1個前の記事ですネ)

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「----ふふふふ…」

女子高生が怪しげな笑みを浮かべる。

「----…ど、、、どうして…?」

男子高校生・湯川 幸樹(ゆがわ こうき)は
困り果てた表情で、彼女の方を見つめる。

幸樹の彼女ー
北村 香澄(きたむら かすみ)がにっこりとほほ笑みながら
彼氏である幸樹に向けているのはー

ー”銃”だったー。

幸樹は、香澄とデートに来ていた。
”とっておきの夜景がある”

そう、香澄から誘われて、
人の気配のない、秘密のスポットにやってきた
幸樹ー

そして、夜景の綺麗な場所に到着すると、
香澄は、スカートの下に巻きつけられた
ホルスターから銃を取り出し、
それを突きつけたのだったー。

「---…ふふふ…わたしの標的はあなた…」

香澄が笑う。

「---わたしはね…
 香澄じゃないの…」

目の前にいる”香澄”にしか見えない存在は笑う。

笑いながら、煙草を取り出すと、
それに火をつけた。

まだ高校生の香澄が
煙草をふかしながら妖艶に微笑む。

幸樹は、銃を突きつけられている状況と、
いつもと違う香澄の様子を見ながら
困惑するー

そして、
”香澄”にしか見えない存在は
香澄のふりをするのをやめて、
本来の口調で話し始めた。

「--”俺”は、薬を使って
 お前の彼女の姿に”変身”していたのさ…

 お前から情報を引き出し、そしてー
 殺すためにー」

香澄が男言葉で話すー
その笑みは、邪悪な笑みだったー。
いつもの香澄の笑みとは、違うー

「---……か、、香澄はどこにいる!?」

幸樹は叫んだ。

目の前にいる香澄が偽物ならば、
本物の香澄はどこにー?

「ーーククク…
 1か月前、俺達が拉致して、
 それからは俺が本物と入れ替わって、
 女子高生の香澄ちゃんを演じていたのさ
 うへへへへへ」

香澄が汚らしい笑みを浮かべた。

「---香澄は、生きてるのか!?」
幸樹が叫ぶ。

「--あぁ。
 今も、俺たちのアジトで監禁している」

目の前にいる”偽物”は
そう言うと、たばこを地面に放り投げて
微笑んだー

「---もう、恋愛ごっこは終わりだー」

”香澄”に変身し、
1か月間、香澄のふりをして生きてきたー

それが、今日、終わるー

綺麗な夜景をバックに、
香澄は、幸樹の方に銃を向けるー。

「---…楽しかったぜ…
 あばよ…」

香澄はそう言うと、構えていた銃を放ったー。

・・・・・・・・・・・・・・・

1か月前のことー。

とある施設から、
手錠をかけられた男たちが連行されていくー。

世の中には、表に出ない事件があるー。

今回の事件も、その一つ。

表に出来ない事件を処理するチームを率いる
警察官・湯川 道雄(ゆがわ みちお)は、
連行されていく闇組織の人間たちを見つめながら
ため息をついた。

「くそっ!」
叫びながら連行されていく男はー
秘密組織”夢の道しるべ”の最重要人物とされている男、
熊田 雄吾(くまだ ゆうご)ー。

組織の全貌がなかなかつかめず、
手こずっていたが、
先日、ようやくアジトを突き止めて、
強襲、確保に成功したのだった。

ようやく終わったー。

”禁断の薬品”

それを作っているのが、この”夢の道しるべ”
などという怪しげな団体だった。

禁断の薬品とはー。
”他人の姿に変身することのできる薬”

裏の世界では”変身薬”などと呼ばれており、
その研究を、この団体は進めていたのだった。

もしも、他人が、他人の姿に成りすますことが
できてしまうようになれば、大変なことになるー。

あらゆるものが信用できなくなり、
世界は、疑心暗鬼に陥るだろう。

だがー

幸い、それを阻止することができた。

道雄率いる秘密捜査チームが、
”夢の道しるべ”のアジトを突き止め、強襲ー

無事に、そのアジトを壊滅させることに成功したのだった。

しかしー

道雄率いるチームは知らなかった。
”夢の道しるべ”のアジトは、
ここだけではないことをー。

そしてー…。

・・・・・・・・・・・・・

「湯川…道雄」

オールバックの髪型で
人を威圧するような風貌の男が呟く。

禁断の薬品ー”変身薬”を秘密裏に
開発している闇の組織
”夢の道しるべ”の首領ー

国枝 泰明(くにえだ やすあき)-

アジトが強襲された昨晩、
国枝はそのアジトにはいなかったため、
難を逃れたのだった。

「---その男は、秘密調査チームを指揮しているようです」

国枝の横に控えていた男が言う。

秘密捜査チームを指揮する道雄の写真…
そして、その横にはその息子である幸樹の写真が貼りだされている。

アジトを強襲されて、構成員と研究成果の
大半が壊滅状態に陥った組織は、
強襲部隊を指揮していた道雄への報復を目論んでいた。

しかし、
秘密捜査を指揮する道雄の情報は、
犯罪組織の情報網をもってしても
なかなか突き止めることができなかった。

ようやく突き止めることができたのは、
息子がいることー

そして、その息子に幼馴染の彼女がいる、ということだった。

「--俺たちの組織に手を出したら
 どうなるか、思い知らせてやる必要があるな」

椅子から立ち上がると、国枝は
煙草の日を消して微笑む。

「俊介(しゅんすけ)-、
 お前に頼みがある」

国枝はそう言うと、
息子のようにかわいがってきた構成員の俊介に
対して、耳打ちしたー

”憎き警官の息子の彼女に成りすまして
 情報収集したあとに、殺せ”

とー。

開発中の”変身薬”を手にしながら
国枝はニヤリと微笑んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「---また忘れたの~?」

高校の教室ー

警察官の息子であり、
現在高校2年生の幸樹が、
苦笑いしながら、
幼馴染であり、彼女でもある香澄に
何やら頼み込んでいた。

「--ちょっと、時間割間違えてて…」

忘れっぽい幸樹。

今月に入ってから、
宿題をもう、3回は忘れているだろうかー

「もうー…」
香澄が頬を膨らませながら
数学のノートを手渡す。

香澄のノートを写す幸樹ー。

数学の授業は、もう目前に迫っている。

「---それにしても…
 昔から幸樹って忘れっぽいよね」

香澄が言う。

幸樹は、言い返すこともできず、
苦笑いしながらノートを写し続けたー。

放課後ー

夕日が眩しい通学路を
歩きながら
幸樹は笑う。

「それにしても…香澄とこんな関係に
 なるなんて、思っても見なかったよ」

幸樹が言うと、香澄も歩きながら
「そうね~」と呟いた。

香澄と幸樹は幼馴染で、
小学生時代からずっと一緒だった。

だからこそー

こうして、
彼氏・彼女の関係になるとは夢にも
思わなかった。

異性としてー
と、いうよりかは、信頼できる家族のような
感じだったー

けれどー
どんどん可愛くなっていく香澄を前に、
幸樹は次第に香澄を意識し始めて、
香澄に勇気を出して告白したのだった。

あの日ー

「--俺、好きなんだ…香澄のこと」

「---え?」

きょとんとする香澄。
それを見て幸樹は逃げた。

「---こ、今晩はすき焼きなんだ」

訳の分からない言い訳をした幸樹。

しかしー
香澄は微笑んでくれたー

「--ありがとう…
 わたしこそ、よろしくね…」

香澄は幸樹が何を言いたいのか理解し、
そして、それを受け入れてくれたー

・・・・・・・・・・・・

「--じゃ、また明日」

いつものように雑談しながら、
香澄と別れる幸樹ー。

そうー
いつものようにー

「---♪~」
香澄は、幸樹と別れたあと、
”今日の晩御飯は何かな~”なんてことを
考えながら通学路を歩いていたー。

しかしー
その時だったー

黒塗りの高級車が突然、香澄の横に
停車し、中から出てきた二人組の男が
香澄を抑えつけて
車に香澄を押し込んだ。

一人は若い男ー
もう一人は、爬虫類のような目をした生気のない男ー。

「--!?」
香澄はもがく。

しかし、二人組の男に、香澄はなすすべもなく
何かを嗅がされて、眠りについてしまったー。

・・・・・・・・・・・・・

「---う…」

香澄が、意識を取り戻すー

「---え…?」
香澄の手には手錠がかけられており、
身体は鎖のようなものに拘束されていたー

「え…な、、何これ?」
香澄は慌てた様子で自分の身についた
拘束具を外そうとするー。

しかしー

「悪く思わないでくれたまえ」
紳士的な笑みを浮かべる
オールバックの男が香澄の前に姿を現す。

不気味な機材が大量に置かれている謎の部屋。

犯罪組織
”夢の道しるべ”のアジトー。

「え…な、、何ここ…?」

香澄が帯びた表情で口にすると、
オールバックの男・国枝は微笑んだ。

「--ふふふ…。
 きみがそれを知る必要はない」
国枝がそう言うと、
もう一人、男が姿を現す。

国枝の”義理の息子”でもある俊介は、
開発中の変身薬を自ら
飲み込んでいたー

そしてー

香澄に手を触れる。

「いやっ!?触らないで!」
香澄が必死にもがくー

しかし、次の瞬間ー
信じられないことが起きたー

俊介の身体がー変化していく。

胸が膨らみはじめ、
髪が伸び始めるー

俊介本人も驚いた表情を浮かべながら
「うおおおおおおおお」と叫ぶ。

そして、その叫び声はー
次第に男のものから女のものへと変わって行く。

「---え…」
香澄は驚きを隠せなかったー

黒服のスーツ姿だった俊介はー
そのままー香澄の姿に”変身”した。

「フ~~~~…」

黒スーツ姿の香澄が、息をそっと吐いた。

「え…う、、嘘…わたし…?」
香澄は、目の前にいた男が
自分と同じ姿になったことに驚く。

「素晴らしいー」
犯罪組織のリーダー・国枝は笑いながら拍手をする。

「この子そっくりだ」
国枝がそう言うと、
香澄になった俊介は会釈をする。

「--ククク…
 これで、あの憎き警官の息子に
 近づくことができるな」

男モノのスーツを着たままの偽香澄は、
ぶかぶかの服を引きずりながら笑った。

「はいー」

と。

「え…ちょ、ちょっと待って!
 何をするつもりなの!?」
拘束されているホンモノの香澄が叫ぶ。

すると、偽香澄が微笑んだ。

「--これから、あなたに成りすまして、
 あなたの大事な彼氏に接近して…
 彼氏の、父親に関する情報を奪って、殺すのよ」

偽香澄は声も、話し方も、完璧だったー

「そ…そんな…!」
本物の香澄が叫ぶ。

しかしー

香澄の脱がされた制服を
手に取る偽香澄は、その制服を身に着ける。

「ふふふ…今日から、私が香澄」

偽香澄がホンモノを見つめながら
そう言った。

「ちょ、、ちょっと!やめて!ねぇ!」
香澄が叫ぶー

しかし、偽香澄は
自分の身体をペタペタと触りながら笑うー

「---わたしが香澄…くくく…
 だ~れも、疑わないわ…」

偽物はそれだけ言うと、
香澄の髪についていた髪飾りを乱暴に
引っ張った。

「ふふ…」
それを身に着ける偽香澄。

「ちょ、、ちょっと!それは幸樹から貰ったー…」

パチン!

偽香澄が香澄の頬をビンタしたー

「--自分の立場が分かってないようだな?」
香澄に変身している俊介という男が
本来の口調で呟く。

「---ひっ」
香澄が目に涙を浮かべる。

「--俺達は、お前の姿かたちが必要なんだよ…
 お前には何の用もない…
 いつでも殺せる…」

偽香澄が、
香澄が絶対しないような冷たい目で
香澄を睨んだ。

「--ほらほら、そのぐらいにしといてやれ」

”夢の道しるべ”のリーダーである国枝が笑うと、
「はい」と偽香澄は頭を下げた。

そして、そのまま偽香澄は、
アジトから外へと向かうのだったー

香澄に変身した俊介は思うー

スカートで街を歩くのは初めてだー。
スースーするし、何か落ち着かない。

それに、この胸…。

「---」
香澄は首を振った。

「--俺の目的は3つ」

香澄に変身している俊介は、自分の目的を
改めて確認するー。

最終目的は、
夢の道しるべのアジトを強襲した
警察の秘密対策チームを率いていた
道雄という警察官への報復ー

だが、秘密対策チームに所属しているためか、
その情報がほとんどなく、
直接手を出すのは難しいー

そこで、息子・幸樹を利用して
情報収集を行うー

そのために幸樹に近づくべく、
こうして彼女の香澄を拉致し、
俊介が香澄に変身したのだったー

3つの目的ー

ひとつは、
香澄として幸樹に接近し、可能な限り
父親・道雄の情報を聞きだすことー。

ふたつめは、
情報を聞きだしたのちに幸樹を
彼女の手自らで殺害し、
父親・道雄への精神的ダメージを与えること。

そして、最後はー
道雄を含む、秘密対策チームのメンバーを
皆殺しにすること。

「くくくくくー」
香澄は笑う。

この姿なら、溶け込むことは容易だー。

笑いながら時計を見る香澄。
20:30-

今日は、この女の家に帰る必要がある。

そう思いながら
香澄は、香澄の家へと向かうのだったー

・・・・・・・・・・・・・・

「---…」

香澄の家についた
偽の香澄。

香澄の記憶になど興味はないが、
必要とあれば、記憶を引き出すことも可能。

こうして、香澄に変身して
香澄に成りすますには
ある程度の記憶を引き出す必要がある。

住所も、そうして突き止めた。

「ただいま~」
いつものように帰宅する香澄。

「--あ、お姉ちゃん!お帰り!」
香澄の弟が、玄関で香澄を出迎えた。

「今日は遅かったね!
 何かあったの?」
無邪気な性格の弟・正春(まさはる)が
しつこく香澄に詰め寄る。

「え?ちょっとね。」

香澄は愛想なくそう答えると
自分の部屋の記憶を引き出して
部屋に向かおうとする。

「--あ~!彼氏とイチャイチャしてたんでしょ~?」
弟の正春がなおも詰め寄ってくる。

「(うっとうしいやつだな)」
香澄はこっそり舌打ちした。

香澄に変身している俊介には、
家族がいないー

生まれてすぐに、捨てられたからだ。

それからは、一人。
遠い親戚関係の人間に引き取られたが
愛情を注がれることはなく
飼い殺し状態にされー

そして、中学のときに家を飛び出したー

路上で喧嘩に明け暮れる毎日ー
そんな時に出会ったのが
親代わりでもある”夢の道しるべ”のリーダー・国枝だった。

”気に入ったよー。
 お前、俺の”息子”にならないか?”

俊介にとって、犯罪組織のリーダーである国枝こそが
唯一無二の”肉親”とも呼べる存在だった。

「---ど、どうしたの?」
香澄の弟・正春が、
急に難しい表情を浮かべた香澄の方を
心配そうに見つめた。

「ん?あぁ、なんでもない」
香澄はそれだけ言うと
足早に自分の部屋に入り、扉を閉めた。

鞄を放り投げる香澄。

「下らねぇ」
吐き捨てるようにして呟く。

少しして、スマホを手に取ると、
香澄は連絡を入れた。

「--この女の家に到着。
 今日はこの女の家族に騒がれないよう、
 家で過ごします」

香澄に変身している俊介は、
犯罪組織リーダーの国枝にそう連絡すると
自室にあった動きやすそうなジーパンに着替えて、
そのままベットに寝転んだ。

「--今回の標的はわたしの彼氏…か…ふふふふ」

香澄は天井を見つめながら不気味に微笑んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・

「---くくく」

夢の道しるべのアジト。
香澄に変身した俊介から連絡を受けた
リーダーの国枝は笑う。

スマホを机の上に置くと、
拘束されたホンモノの香澄の方を見て
国枝は不気味な笑みを浮かべる。

「---無事に家についたようだよ」
国枝は優しく呟いた。

「でも…君の両親も、弟も、
 誰も、気付いていないみたいだな。
 ”偽物”とすり替わったことに」

国枝は、涙を浮かべる香澄の近くまで
歩いていくと、笑みを浮かべる。

「--くくく、可哀想に」
抵抗できない香澄の頭を優しく撫でる国枝。

「や…やめて…!やめてよ…!」
香澄は涙をこぼしながら言う。

しかし、国枝は、そんな香澄の涙を
指につけると、それを舐めた。

「いい、味だ…

 ぐふふふ…
 可愛そうに…。
 きみの彼氏も、親も、弟も、
 誰もきみがこんな状況になっているとは気づかない…」

香澄は必死にもがく。
しかし、拘束具は外れない。

「あぁ、いい表情だ…
 ゾクゾクするよ…!
 くくく、ふふ、えへへへへへへ!」

犯罪組織のリーダー・国枝は
表情を歪めて、大声で笑い始めたー

・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

偽物の香澄は、制服に着替える。

その最中…
自分の身体を見つめながら
香澄は顔を赤らめた。

「---…」
思わず、香澄の身体を
しゃぶりつくしてみたいと言う欲求に襲われる俊介。

香澄に変身している俊介自身も、
変身薬を使うのは初めてだった。

女に興味はないつもりだったが、
いざ、可愛い女子高生になってみると、
何とも言えないゾクゾクを感じる…

「--ふふふ…」
香澄は姿見に映る自分を見つめながら
本物の香澄であれば、絶対にしないような
妖艶な表情を浮かべたー

「--ちょっとだけ…」
香澄が、鏡に映る自分にキスをしてから、
自分の身体を弄ぼうとしたその時だったー

「お姉ちゃん!」
弟の正春が部屋に入ってくる。

ちょうど、髪の毛のニオイを嗅いでいた
香澄は、顔を赤らめた

「バカ野郎!ノックぐらいしやがれ!」

香澄はつい、大声で怒鳴ってしまう

「え…」
弟の正春がビクッと震えた。

「あ、、いけね…」
香澄は呟いた。

いつもの癖が出てしまった。

「あ、、え、、えと、、ご、、ごめん」

香澄に変身している俊介は
慌ててフォローを入れる。

「---あ、、、…
 い、、いつも下りてくる時間なのに
 遅いから、学校、大丈夫かなって」

正春の言葉に、
香澄は「ごめんごめん…今下りるから」と呟いたー

正春は、その言葉を聞くと、
気まずそうに姉の部屋から立ち去った。

「はぁ~」

香澄は部屋の壁に寄り掛かる。

「--いっけねぇ…」
ついつい自が出てしまった。

裏社会では、威勢が大事だし、
相手に舐められてはいけない。
咄嗟に相手を脅す口調で話す癖が
俊介にはあった。

「--俺は今、女子高生の香澄なんだ」

香澄の声でそう呟くと、
深く深呼吸をして、
1階の食卓へと向かったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

幸樹は、学校にいつものように登校したー

「ふ~…」

幸樹が鞄から教科書を取り出し、
机の中に放り込む。

「--…おはよう」

背後から”いつもの声”に挨拶された幸樹は
笑顔で振り返る

「おはよう、香澄」

幸樹が振り返った視線の先には、香澄がいたー

「---」

香澄は笑みを浮かべるー

「(こいつが、例の警官の息子かー)」

香澄は思わず興奮するー。
こいつが、暗殺のターゲット。
警察官である父親の情報を聞きだし、
この手で、殺す。

それなのにー
目の前にいる幸樹という男子高校生は、
目の前にいる彼女が偽物だとは気づかない。

香澄はゾクゾクしながら、微笑んだー

「---ん?どうかした?」
幸樹が香澄に違和感を感じて、問いかける。

「え?あ、いや、なんでもないよ」
香澄は笑みを浮かべたまま自分の机がどこか
記憶を引き出して、そのまま自分の机に座ったー

焦ることはないー
香澄は机から教科書を取り出しながら笑うー。

じっくりと父親に関する情報を聞きだして
用済みになったら、殺すー。

それまでは女子高生ライフを
存分に堪能させてもらおうー。

そんな風に、香澄に変身した俊介は考えていた。

・・・・・・・・・・・・・・

昼休みー

香澄は、教室でお昼の準備をしていた。

母親が持たせてくれた弁当だ。

「弁当…ね」
香澄はつまらなそうな表情で
弁当箱を開く。

中身は、可愛らしい弁当だった。

「--くだらねぇ」
香澄は小声でつぶやく。

香澄に変身している俊介は、
家族の愛情と言うものを知らないー

唯一、手を差し伸べてくれたのが、
裏社会で生きる、国枝だった。
自分にとっての親は国枝であり、
それ以外に親などいないー。

そして、裏社会で生きてきた俊介に
とって、”親から弁当を持たされる”なんて
ことは経験したことがなかったー。

「---」

内心、言いようのないイライラを感じながら
香澄として、弁当を食べて行く。

「--お待たせ はい、これ」

そんなイライラを打ち砕いたのが、
彼氏の幸樹ー

”標的”でもある幸樹ー。

「---え」
香澄はあっけにとられる。

「--え?って、ほら、いつも俺が
 ジュース買ってくるじゃん…」

幸樹が笑いながら
香澄にオレンジジュースを手渡した。

「---え…オレンジ…」
香澄は思わずつぶやいてしまった。

香澄に変身している俊介は
ジュースが苦手…
いや、甘いものが苦手だった。

「---うん?オレンジじゃダメだった?」
幸樹が苦笑いしながら言う。

「--あ、いや、ううん、ありがとう」
香澄の記憶を引き出す俊介。

オレンジジュースは香澄の好物のひとつだった。

「---~~~…」
何とも言えない表情で
オレンジジュースを飲み始める香澄ー

変身して、
感覚も何も、女のそれになっていたー

味覚もー
と期待したが
苦手意識があるからだろうか。
とても美味しくは感じなかった。

「んんんんん…」
香澄は苦痛の表情を浮かべながら
オレンジジュースを飲んでいく。

そんな香澄を微笑ましそうに見つめる彼氏の幸樹。

「(くそっ…クソガキが…絶対、ぶち殺してやる…)」

彼女のふりをして大人しくしているのは
今のうちだけだ。

幸樹の父親である道雄の情報を
聞きだしたら、殺すー

「----ふぁぁ~~~」
ようやくオレンジジュースを飲み終えた
香澄の表情は、苦痛にゆがんでいたー

・・・・・・・・・・・・・

放課後ー

「---…ねぇ、あのさ」

幸樹と一緒に帰りながら
香澄は口を開く。

「--お父さんって、何してるんだっけ?」

香澄に変身している俊介は、
香澄の記憶を探った。

だがー
幸樹の父の情報はほとんどなかった。

やはり、警察の秘密対策チームのリーダーである
警察官の息子なだけあって
安易には父の情報を漏らさない、ということだろう。

「---え…父さん?」
幸樹が苦笑いする。

「うん。ちょっと知りたいな~って」
香澄はわざとちょっと色目を使って
幸樹に情報を吐かせようとした。

「あ~…えっと、言ってなかったっけ?」
幸樹は少し言い難そうに言った。

「--俺の父さん、刑事なんだよ」

幸樹の言葉に、香澄は笑みを浮かべるー

「--へぇ~!すっご~い!」
わざとらしく褒め称える香澄。

「それでそれで、どんな事件を調べてるの!?」
香澄は、興味津々といった様子。

幸樹は思うー
”今日の香澄はなんだか、積極的だなぁ”と。

「--う~ん、それは分からないな~」
幸樹は誤魔化した。

実は幸樹は知っている。
ある犯罪組織を徹底的に調査している、と
それだけ聞いたことがあったからだ。

「チッ」
香澄は舌打ちした。

幸樹は、香澄の歪んだ表情に気付かなかった。

「あーー、じゃあ、今日もお疲れ様」
幸樹が笑う。

家の方向が違うから、
いつも幸樹とはここで別れるようだ。

「--あ、、うん。じゃあ…」
香澄は可愛らしく手を振った。

「---…」
幸樹の後ろ姿を見ながら香澄は呟く。

「---偽物だってことにまるで気付いてない」

香澄はクスクス笑いはじめる。

「あは、、あはははは!
 変身してれば、誰も、そのことに気付かない!
 あははははははは!」

香澄は狂ったように笑い終えると、
邪悪な笑みを浮かべたー

「お前から父親の情報を聞きだしてー
 最後には、可愛い彼女の姿で殺してやるからー
 楽しみにしてなー」

とー。

香澄の表情は
とても可愛らしい少女のものなどではなくー
悪魔のような形相だったー

②へ続く

・・・・・・・・・・・・

コメント

TS解体新書様のお祭り用に書いたお話デス!

お祭り参加はこの作品で2回目だったのですが、
他サイト様向けに書くとなると緊張しますネ…!

憑依空間を始める前に見ていたサイト様に
私の小説が載る、なんて夢にも思わなかったので
今でもびっくりデス!

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