石焼き芋を売る女性ー。
彼女に恋をする男子大学生ー。
だが、次第に不穏な空気に包まれていく…
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「---あぁ…俺の恋は終わった」
帰宅した省吾は
焼き芋を食べながら呟くー
焼き芋の移動販売をしている女性はー
きっと、友人の健太郎が言っていた
”友人の彼女”なのだろうー。
健太郎が見せてくれた写真の女性と
焼き芋販売の女性は、そっくりだったー
そっくり、というよりも、本人だと思うー。
彼女は、その彼氏と急に連絡を絶ったらしいが、
それでも”別れては”いないっぽいー。
と、なれば、彼氏持ちということになる。
「いや…待てよ?」
省吾は、焼き芋を食べながら、希望を見出したー
「健太郎の友人との連絡を絶ったってことは…
別れる一歩手前ってことだよなー…
もし別かれてくれれば…
彼女は、フリーだぜ…!
へっへへへへ」
省吾はニヤニヤ笑いだす。
そうだー
まだチャンスはあるー
アタック・チャンスだ。
省吾は、元気になって
焼き芋をものすごい勢いで食べ始めてー
そして、喉にひっかかって一人、もがき始めたー
・・・・・・・・・・・・・・・
「---あ…」
翌日ー
いつもより大学の帰りが遅くなっていた省吾は、
石焼き芋の車がいつもいる場所を
期待せずに通るー。
”もう、いないだろうな…時間も遅いし”
そんな風に思いながら歩いていると、
焼き芋の車は、まだいたー。
だがー。
ちょうど片付けの最中だった。
「あ!」
振り返った店主の女性が省吾に気づく。
「こんばんは!」
可愛らしく微笑む女性ー
「あ、こ、こんばんは」
省吾は顔を赤くするー。
「-ーー今日は来ないな~って思ってたんですよ~」
笑う店主の女性ー
だがー
省吾にとってはちょうどいいタイミングだったのかもしれないー
いつもはゆっくり話す時間はないが、
今日は営業後ということもあって、
店主の女性とゆっくり話す機会に恵まれた。
「--そういえば、実は俺と同じぐらいの年齢だったりします?」
省吾が、雑談の中でちょうどそういう話が
できるタイミングになったことを見計らって聞いてみるー
「え?あ、、う~ん、どうでしょう?
あ、でも同じぐらいかな~」
店主の女性が笑う。
「--あ、いや、年齢が聞きたいわけじゃなくてー」
省吾はとっさに
女性に年齢を聞くなんて、と言葉を修正したー
「--同じぐらいの年齢だとしたら
大学とか、どうしてるのかなって」
省吾は気になっていたー
この子が、親友の友人の彼女、
哀川菜々美なのかどうか。
知ったところで、何かあるわけでもないー。
ただ、彼氏持ちのコなのかー、
そして、この片思いの相手の名前も
知りたかったー
「---あ~…確かに、そう思われちゃっても
仕方ないかも!」
店主の女性はにっこりと笑うー。
「わたしは、祖父が倒れたときに
この焼き芋の販売を継ぐことにしたんで、
大学を辞めたんですー」
店主の女性が言う。
「おじいちゃん、わたしが小さいころから
ずっと焼き芋の移動販売をしていたんですけど、
1年前に病気で死んでしまってー。
それで、売るための車とか、機材とかだけ
残っていたので、おじいちゃんが大好きだった
焼き芋、ちょっとだけやってみようかなって」
この女性の話を思い出す。
「--…」
省吾は思うー
健太郎が言ってた”友人の彼女”が音信不通になったのは
ついこの間ー。
この店主の女性は、1年前に焼き芋屋を継いだと言っているー
と、なれば大学を辞めたのももっと前だろうー。
この人は、哀川菜々美ではない?
「--あ、そうだ、もしよければお名前を…
あ、俺は向田省吾と言います」
省吾が頭を下げながら自己紹介する。
”お客様”と言われることに少し寂しさを感じたからだー
「--向田さん…
素敵な名前ですね~」
社交辞令だろうか。
まぁ、きっとそうだろう。
店主の女性はほほ笑んでくれたー
「--あ、わたしは天童 美穂(てんどう みほ)ですー
これからも、おじいちゃんの焼き芋、お願いしますね」
店主の女性ーー
美穂は、優しく微笑んだー
省吾は、なんとなくほっとしたー
友人の健太郎が言っていた子とは
たまたま似ていただけで、別人だったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・
♪~~
鼻歌を歌いながら帰宅する女ー
美穂と名乗った石焼き芋を売る女性の部屋はー
彼女のイメージとは真逆ー。
部屋は散らかっていたー
美穂は、あ~~~、と大きくあくびをすると、
自分の太ももを撫で始めるー
「--ふふふ…♡
馬鹿なやつら」
美穂がボソッと呟くー
「女ってだけで、売上がこんなに変わるなんてな…
へへへ…
お前らどうせ焼き芋になんて興味ないんだろ?」
美穂がクスクス笑いながら言う。
そんな美穂のそばにはー
大学の学生証が転がっていたー
その学生証にはー
”哀川 菜々美”と書かれていたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・
大学ー
ニヤニヤしながら省吾がお昼を食べているー
昨日は、焼き芋を売るあの女性と
距離が近づいた気がするー
「美穂さんかぁ…えへへ」
省吾がニヤニヤしながら呟くー
「なにニヤニヤしてんだ?
気持ち悪いなぁ」
友人の健太郎が、ニヤニヤしている
省吾を見つけて呟くー
「え?あ、いや、ニヤニヤなんかしてねーよ」
省吾が言うと、
健太郎が「まだ焼き芋に夢中なのか」と
からかうようにして言った。
「--あ、そういえばさ、
この前、俺の友人の話しただろ?
彼女に急に嫌われたっぽいって話ー」
健太郎が笑いながら言う。
「---あぁ、聞いたな」
省吾がニヤニヤしながら言うと、
健太郎は呟いた。
「なんかさ~、あいつの彼女、
あいつだけじゃなくて、他の友人とか
同性の友達とか、バイト先とも
連絡を絶ったらしんだよな~…
なんかの事件かも、って
あいつ騒ぎ出してさ~」
「へ~確かにそれは不安だな~」
省吾は、適当に聞き流していたー
他人の恋愛話なんて、どうでもいいと言えば
どうでもいいー。
「---でさ、俺の友達さ、
その彼女のことー
探し回って見つけたらしいんだー」
「-ふ~ん」
適当に聞き流す省吾。
だがー
健太郎の次の言葉は、省吾を凍り付かせたー
「---なんか、焼き芋の販売、
車でしてたらしいぜ
大学にもいかずにー。」
健太郎がニヤニヤしているー
「お前が夢中な石焼き芋を売る女ってー…」
健太郎はもの凄く楽しそうだー
男女関係の話を冷やかすことに生きがいを感じているー
「---…え」
省吾は、思わず口を開いて、凍り付いたー
・・・・・・・・・・・・・・・
その日の夜ー
省吾は、いつものように、焼き芋の車があるところに向かうー
「---あの子はいったい…?」
昨日、焼き芋移動販売の店主の女性は
”天童 美穂”と名乗ったー。
だが、健太郎の話が本当なら、
健太郎の友人の彼女・哀川 菜々美が、
突然彼氏や友達との連絡を絶ち、
大学にも行かずに偽名を名乗って
石焼き芋を売っていることになるー
「----!」
石焼き芋の車の前で
店主の美穂と、大学生ぐらいの男が会話しているー
「菜々美!どうしちゃったんだよ!」
男が叫ぶー
「あ…」
物影からその様子を見つめる省吾ー。
その男に見覚えがあったー
健太郎がスマホで見せてくれた
健太郎の友人だー。
省吾とは面識はないが、
健太郎が見せてくれた写真の男と同じだったー
「---邪魔よ。どきなさい」
店主の美穂が脅すような口調で言う。
「--み、みんな心配してるぞ!?
急にどうしたんだよ、本当に…
せ、せめて理由ぐらい!」
健太郎の友人が叫ぶー
「---これ以上、関わらないほうがいいわよ」
美穂が低い声で言うー
いつもの焼き芋を売っているときの美穂とは
別人かのようにー
「---菜々美!」
健太郎の友人が叫ぶ。
「あ~~~~~~~~~~~~~!」
美穂がイライラした様子が髪の毛をぐしゃぐしゃに
掻きむしった。
そして、呟くー
「面倒くせぇな」
とー。
「---な、菜々美…!?」
彼氏が驚きながら言う。
省吾は、一瞬、いつものように顔を
出そうかとも考えたが、
出してはいけない気がしたー。
身を潜めて、様子を見守る。
「---お、俺、何か悪いことしたか?
なぁ、菜々美!」
彼氏はなおも必死に叫んでいる。
店主の美穂は、鬱陶しそうに彼氏を無視している。
「----菜々美!
頼むよ!何か悪いことしたなら教えてくれよ!
俺だって、付きまとったりするつもりはないんだ!
嫌いになったんならそれでもいい!
でも、他のみんなも心配している!
理由を教えてくれよ!」
「---」
店主の美穂は返事をしない。
「どうして、芋なんか売ってるんだよ!なぁ!?」
彼氏が叫ぶ。
「--芋なんか?」
美穂が立ち止った。
そしてー
恐ろしい形相で美穂が振り返る。
「--クソガキが…!
もう一回言ってみろ」
鬼のような形相ー
彼氏が唖然とするー
「--あ…いや…菜々美…?」
彼氏は、美穂に睨まれて後ずさっているー
「---……どいつもこいつも、
馬鹿にしやがって」
次の瞬間ー
聞いたことのない奇妙な音がしたー
「---!?」
物影からその様子を見ていた省吾は目を疑ったー
店主の美穂が
”ぱっくりと”割れたー。
まるで、昆虫が脱皮するかのようなー
皮を脱ぎ捨てるかのようなー
「ぎやああああああああああああ!?」
彼氏が叫ぶー
「--この女は、わしのものだー
彼氏だかなんだか知らないが、
ぜんぶ、わしのものだ」
老人のような声とー
美穂の綺麗な声が混じっているー
「な、、な、、な、ななみ…?」
彼氏の男が、恐怖に満ちた声を出す。
「--ななみ?
くくく…そうだ!この女はお前の彼女の菜々美だ!
でも、今はァ…」
皮から飛び出していた男が、再び
菜々美の皮を身に着けるー
「もう、菜々美じゃないのぉ!
あっははははははぁ♡」
狂った笑い声を出す美穂ー…
いいや、菜々美ー。
「--な、、なんだお前は…!
菜々美に…何をしたんだ!」
彼氏の男が叫ぶー
「--お前も、同じ目に遭わせてやるー」
菜々美が笑みを浮かべたー
逃げ出す彼氏ー
菜々美は悪い笑みを浮かべながら、
その彼氏を追いかけたー
一人残された省吾は、その場で
震えることしかできなかったー
・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
大学で、親友の健太郎が
暗い表情で、省吾の前にやってきたー
「---…」
省吾も、昨日のことを考え込んでいて
その表情は暗い。
「---よぉ…」
あまりにも元気のない健太郎。
省吾は「どうかしたのか?」と尋ねる。
すると、健太郎は口を開いた。
「彼女と音信不通になった友人の話、しただろ?
あいつがー今朝、変死体となって発見された」
健太郎の言葉に、
省吾は凍り付くー
そして、昨日の光景が、
脳裏に浮かぶのだったー
・・・・・・・・・・・・・・・
「--ーくくくくくく、この女の彼氏も
始末してやった…!
この女はわしのものだ…!」
菜々美の自宅ー。
散らかった部屋で菜々美はゲラゲラと笑うー
「わたしは…焼き芋を売る女よ…!
くくく、あははは、ははははははははっ♡」
部屋で、
偽名を名乗り、焼き芋を売っている菜々美は
げらげらと一人、笑っていたー
③へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・
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次回が最終回デス~!
焼き芋…
私は何年も食べてないですが、
食べるとおいしいですよネ…!
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