<憑依>治験③~闇の底~(完)

憑依薬開発を目指す研究所ー。

その闇が暴かれるー。

そして、再び”治験”が始まるー…。

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竜馬と麻友の二人は
研究所の出口を目指して走っていた。

「--待ってくれ!初美さんをおいてはいけない!」
竜馬が叫ぶ。

麻友が立ち止るー。

お姉さん的存在だった研究員・初美は、
憑依薬治験の犠牲となり、
憑依させられた挙句、拷問にかけられて
ボロボロの状態になっているー。

「---もう、無理です」
麻友が首を振った。

「--仕方がないですよ」
麻友がクスクスと笑う。

残虐な発言を平気でする麻友ー。
潜入捜査という過酷な環境が
麻友をそういう性格にしたのだろうかー。

「--だめだ。仲間を放っては…」

「----」
麻友が目を閉じるー。

「--初美さんは、監禁されていた部屋から
 移動されました。
 なぜだか分かりますか?」

麻友の言葉に、竜馬は嫌な予感を覚えたー

そして、それは的中したー

「今朝、憑依した男を分離させるために
 初美さんは”解体”されましたー。
 もう、初美さんはこの世にはいません」
麻友は淡々とそう告げたー。

「--……、、こ、このまま放っておけば
 他のみんなもあの女に…!」
竜馬が叫ぶ。

他の研究仲間も助け出さないといけない。

さもなければー
”憑依薬の治験”の犠牲になるー。

「--………」
麻友は竜馬のほうを見つめる。

「--憑依薬研究の証拠は手に入れました。
 あとは、上の対応を待つだけです。
 余計なことをする必要は……」

「ーーーするさ!俺は一緒に研究を続けてきた
 仲間を見捨てることはできない!」

竜馬が叫ぶー。

竜馬と麻友は”目的”が違うー

麻友は憑依薬の研究をしているこの施設に
潜入捜査をしていたー
憑依薬研究の残虐な実態を入手した今、
麻友はもうこの施設には用はない。

だが、竜馬は違う。
竜馬は仲間を助け出したかった。

竜馬と麻友がにらみ合う。

「---…ヒーローきどりですか?
 笑わせないでください」

「---君みたいな冷たい女にはなりたくないな」

麻友が舌打ちをして、竜馬を見つめるー。

竜馬は「脱出したいなら君一人で行け」と呟くー

麻友は、竜馬に向けて何かを言おうとしたー。

その時だったー

「うっ!?」
麻友がビクンと震えて、持っていた銃を落としたー

「--どうした!?」
竜馬が驚きながら言うと、
突然麻友はくすくすと笑いだした。

「ふふふふ…ふふふ、ふふ、はははははは!
 あははははははははぁ~♡」

麻友の狂気的な笑い声ー

竜馬が唖然としながら麻友のほうを見つめていると
麻友はケラケラと笑ったー

「--まさか、研究所にネズミがいたなんてねぇ!
 でもザンネンだったなぁ!
 この身体はわたしのものだ!
 あっハハハハハはは♡」

麻友が表情を歪めるー

「--な…」
竜馬が言葉を濁らせていると、
麻友は自分の胸を触り始めたー

「んふふふふふふ♡
 いい身体しちゃって…
 じっくり可愛がってやるわ…」

麻友は、顔を赤らめながら
へらへらと笑うー

そして、竜馬を見てほほ笑んだー

「憑依薬はーー、
 もう、完成しているー」

麻友が両手を広げながら叫ぶー。

「--な、なんだって?
 お、、お前は誰だ!?」
竜馬が叫ぶー

さっきまで話していた麻友ではない。
誰か、別の人間がー

「--由紀恵…と言えばわかる?」
麻友が言う。

由紀恵とは、研究所の所長の名前だー。
さっき、竜馬に憑依薬を打ち込もうとした際に
駆けつけた麻友に射殺されたはず。

「--正確に言えばー」
麻友が凶悪な笑みを浮かべて続けたー

「--由紀恵の中にいたモノー」

ーー!?

竜馬が驚くー

「--お前たちがずっと接してきたのはーー
 由紀恵という女じゃない。
 あの女は乗っ取られていただけだ。

 この、わしにな」

麻友がニヤニヤしながら言う。

研究所長の由紀恵は、
”あまりの若さ”から疑問を抱かれていた。
製薬会社の上層部に親がいるだとか
身体を売っているだとか、いろいろなうわさもささやかれていたし
時々、20、30代とは思えないような言動もあった。

そのつじつまが合った。

所長の由紀恵は、
身体を売っていたのではない
奪われていたのだとー

「お前たちは、本当の由紀恵と、一度も話をしたことがない。
 ここに来た時には、既にわしが乗っ取っていたからな」

麻友は落とした銃を拾う。

「気に入っていたのに、あの身体は壊れちゃったからな。
 代わりにこの女を貰うことにしたよ…くくくくく」

麻友は笑いながら銃を竜馬に向ける。

研究所のアラートが鳴り続けるー。

「---…憑依薬が完成してるって、どういうことだ」
竜馬は撃たれないように両手を上げながら訪ねる。

「--ふん…
 憑依薬は既に完成し、わしを含めて
 何人かの人間が既にそれを使っているー…

 だがー…
 今の方法では憑依薬を一人分作るのに
 膨大な時間と資金がかかる。

 今、君たちが研究しているのは
 ”改良型の憑依薬”
 コストカットを行い、量産に適したタイプの
 憑依薬だ」

麻友は、麻友本人とは違う口調で
説明を続ける。

そして、笑みを浮かべる

「コストカットすれば、人体に影響も
 出るだろう。 
 だがー、クズたちの命で、治験を
 繰り返していけば、いずれ必ず
 憑依薬のコストカットに成功する。

 モルモットなんて、いくらでもいるからな」

麻友の言葉を聞いて
竜馬の怒りが込みあがってくる。

「--…ひ、憑依薬を何に使うつもりだー…?
 医療用というのは、ウソだったのか?」

竜馬が麻友を睨む。

麻友は笑いながら答える。

「もちろん、医療用にも使うさー
 ”表向きは”な。

 だがー
 本当の目的は”わしら”が、
 可愛い女の身体を手に入れて
 好き放題しーー
 永遠に生きるために作っているのだ…
 くくくく」

「わしらー?」
竜馬がさらに質問するー

しかし、麻友は竜馬に銃を向けたまま
「そろそろ質問は終わりだ」と、竜馬に
歩くように促した。

研究所の出口を目前にしてー
竜馬は脱出することはできずー
そのまま悔しそうに歯を食いしばりながら
来た道を引き返すことになってしまったー

「----お前には、特別コースを用意してやる」
麻友は、竜馬を隔離室に入れると、竜馬を乱暴に放り投げて
ケラケラと笑い始めた。

・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

「--所長の由紀恵さんの後任として、
 わたしが、所長の代理を務めることになりました」
麻友が挨拶をする。

「----」
麻友が、由紀恵を射殺した現場にいた研究員の英治は
首をかしげるー

”いったい、何がどうなっているんだ?”

とー。

しかもー
麻友の雰囲気がいつもと全然違うー

まるで、
由紀恵が麻友に乗り移ったかのようなー。

「-----…」
英治は、隔離室に移された竜馬のことを考えるー。

”あいつも、終わりだなー”

とー。

「うぅぅぅぅぅぅ…」
隔離室では、竜馬に憑依薬の投与が行われていたー

「---ふっふふふふふふふ」
腕を組みながら麻友がその様子をご機嫌そうに
見つめているー

「--所長!これ以上は、危険です。
 体内の数値に異変が」

「--続けなさい」
麻友は、冷たい声で言い放った。

「しかし!」
研究員が叫ぶ。
このままでは竜馬は、憑依薬の過剰摂取で、死ぬー。

「---続けなさい。
 …聞こえなかったの?」
麻友が、悪魔のような声で言い放つー。

「---は、、、はい!」
研究員は怯えながら竜馬に憑依薬を投与するー

憑依能力を取り除いたタイプの
憑依薬で、人体への影響を確認しているー

竜馬は薄れゆく意識の中、
麻友を睨んだー

麻友は冷たい目で竜馬を見下しているー

”麻友に憑依しているやつを、どうにか
 したところでーーー…
 あいつは、しょせん…”

竜馬は、そこまで考えて
苦痛に耐えながら呟くー

「---憑依薬の研究の前線に来ているってことは…
 お前、、”わしら”の中で一番下っ端なんだろ?」

竜馬は挑発的に笑うー

まだ、竜馬の闘志は消えていないー

麻友の言う”わしら”が何者なのかは分からないー
邪悪な老人たちの集まりだろうかー。

だがー
竜馬は最後の瞬間まで戦うことを決めていたー

「--は?」
麻友が表情を歪める。

「---…この下っ端じじい!」
竜馬が叫ぶー

「----うっさいわ!!」
麻友が大声で怒鳴り声をあげると、
隔離室に入ってくるー

そして、竜馬をグーで殴りつけた。

「わしを馬鹿にしやがって!
 どいつも、こいつも!」
麻友の綺麗な手で、竜馬を何度も何度も
殴りつけるー

けれど、竜馬は、麻友のほうを
睨むようにして見つめた。

「ぬぬぬぬぬぬぬ…!
 わしは下っ端などではない!
 わしは、これから医療界を牛耳ることになる
 総合医療連盟の役員のひとりだ!
 貴様のようなごみと一緒にするでない!」

麻友の可愛い声が響き渡るー

「----総合医療連盟…」
竜馬が呟く。

麻友がはっとした表情を浮かべるー。

そんな名前は聞いたことがない、と
竜馬は思うー

2020年の現在ー。
そんな会社は存在しない。

裏で何か、邪悪な組織が動き始めているのかもしれないー

竜馬はそんな風に思うー

「それが、お前たちの所属組織の名前か?」
竜馬が言うと、
麻友は髪をぐしゃぐしゃに掻きむしって叫んだ。

「こいつを殺せ!」

とー

研究員が戸惑う。

「--どけ!」
戸惑う研究員を突き飛ばして
鬼のような形相をした麻友が、
注射器を奪い取り、竜馬に突き刺そうとする。

「----じゃあの」
麻友が不気味な笑みを浮かべたー

「---おおおおおおおおおおおおおお!」
背後から叫び声がするー

「--!?」
振り返る麻友ー。

背後から、ものすごい勢いでタックルを仕掛けてきたのはー
竜馬の同期の英治だったー

「--ぎゃあああっ!?」
麻友が激しく吹き飛ばされて、音を立てて倒れる。

「-英治!?」
竜馬が言うと、英治は”すまなかった”と呟いたー

一度は憑依薬開発のために竜馬を裏切った英治。
しかし、残虐な麻友の態度を目の当たりにして
考えを変えたのだった。

「う…」
薬を大量投与されて、弱っていた竜馬は
辛そうに立ち上がるー

「--俺たち、みんなここを抜け出すことにした」
英治が言う。

背後には、仲間の研究員たちがずらりと並んでいる。

「みんな…」
竜馬は呟く。

「ほら、行くぞ!」
英治と仲間に支えられて、竜馬は
研究所の外に向かい始めるー

「---はぁ…はぁ…」
ふらふらと立ち上がる麻友。

「くそどもがあああああああ!」
大声で叫ぶ麻友。

全員皆殺しだー。
全員憑依薬の実験台にしてやるー

そう思いながら、麻友が歩き出した
その時だったー

”計画は失敗だなー”

壁のモニターに、
女子高生が映し出されたー

「--!?」
麻友が表情を歪めるー

”総合医療連盟”の上層部ー

「---まだ、憑依薬を明るみに出すわけにはいかないー」

その言葉と共にー
有事の際のために、研究所に仕掛けられていた
爆弾がーー
爆発したー。

「---こっちだ!」
英治たちは、出口を目指していたー

竜馬は”仲間がいてよかった”と安堵の笑みを浮かべるー

その直後ー
研究所は、白い光に包まれてー
大爆発を起こしたー

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・

憑依薬の研究は途絶したー。

世界の裏側で暗躍する
”総合医療連盟”なる組織の話も
明るみに出ないままー。

影で憑依薬の開発を進める闇ー…

その闇はー
長い年月をかけて、憑依薬を完成させた。

この時から30年近くが経過した2058年ー。
憑依薬は完成し、
総合医療連盟が、表に出てくることになるがー
それはまた、別の話であるー。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

憑依薬開発の研究所を舞台としたお話でした~!
利権とか色々絡んで、
実際に開発するにしても
大変なことになりそうですネ~

最後の「それはまた別の話」は
過去作品の”未来の医療”というお話に
繋がるようになってます~☆

興味があればどうぞー!笑
未来の医療はこちら

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憑依<治験>

コメント

  1. より:

    SECRET: 1
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    やはり奴らに対抗するのは名付けてハムラビ法
    …目には目を憑依には憑依で対抗するしかなさそう
    もし薬で無く自然的に憑依の力を持つものが現れたら、最後は精神力の強い方が勝つと思う。
    自分ならさらに組織ゆえに内部争いを誘発させたりするけど
    しかしこのように外伝?などの話もやる事があるんですね少し油断してました。
    と言う事は・・・完結したような話もまたする可能性があるという事かイイネ

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    無様>
    コメントありがとうございます~!

    完結していると思っていても
    何か絡んでくることがあったりするかも
    しれませんネ~

    ふふふ