<憑依>治験②~選ぶべき道~

憑依薬の研究…

非人道的な行いも厭わない所長に、
竜馬は疑問を感じていく…

彼の選ぶ道は…?

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「---あ…あ…」
初美がびくびくと震えながら
ゾンビのような顔色の悪さで
竜馬のほうを見る。

あれから3日ー
初美に憑依した男が
初美から出ることはできないままー
所長の由紀恵による拷問や実験は続いた。

拷問による分離は不可能だと判断した由紀恵は、
昨日から初美にいろいろな薬を投与しているー

その影響で、初美はぐったりとし、
顔色も悪かった。

「--初美さん…」
竜馬は悲しそうな表情で初美を見つめる。

「しゃああああああ!」
獣のようにガラス越しに竜馬のほうを見つめる初美。

優しいお姉さん的存在だった初美の面影は、
もう、そこにはないー。

「---こんなの…間違ってる」
竜馬はそう呟くー。

そして、自分の研究室に戻る。

「--よぉ。最近元気ないな」
同僚の英治が声をかけてくる。

「---…」
竜馬が暗い表情をしていると
英治は「…久しぶりに一杯やるか」と笑いながら呟いた。

英治とはー
同じころにこの研究所に入ったのもあり、
仲が良い。
この研究所内では一番信頼できる相手だし、
何でも話せる間柄だ。

研究所内に設置されたバーで、
英治と竜馬は飲み始めるー。

「--それで?どうかしたのか?」
英治がため息をつきながら言うと、
竜馬が口を開こうとする。

英治は口を開こうとする竜馬を見て
ニヤッと笑うと、呟いた。

「初美さんのことだろ?」

竜馬が言うまでもなく、
英治は竜馬の心を見抜いていた。

「あぁ…憑依薬完成のためってのは分かるんだけど、
 どうしても俺の中で納得できなくて…」
竜馬が悔しそうに言うと、
英治は呟く。

「まぁ…な…
 俺だって複雑さ。
 俺も初美さんに世話になったからな」
英治が頭をかきながら言う。

「けどさー、憑依薬が完成すれば、
 大勢の人間が幸せになれるー」

英治はそう言うと、
ポケットに入れていた小さな写真を見せた。

「--俺の妹だ。14の時に死んだ」
英治の言葉に、
竜馬は驚くー

英治が自分の過去を語るのは珍しい。

「--病気だったんだ。
 死ぬ間際に妹はずっと、
 もっと生きていたい、もっと生きていたい、
 そう言ってたよ」

英治がグラスに入れたお酒を口にしながら
悲しそうに呟く。

「でも、俺は何もしてやれなかった」
悔しそうに握りこぶしを作った英治は、
竜馬のほうを見つめるー

「--もし、もしも、憑依薬が完成すれば
 もう助からない命を助けることができるんだー。
 
 俺の妹のような人たちを 
 他人の身体に移し替えて、生きながらえさせることが
 できるんだ」

英治にも竜馬にもわかっているー
仮に憑依薬が完成しても、
”他人の身体を乗っ取って、誰が助かる”なんてこと
なかなか世間では認められない、ということはー…。

研究所の上層部は、犯罪者や自殺志願者などの
身体を再利用することを、検討しているー
また、医療分野での憑依薬の活用も検討されている、
患者の負担軽減や、
医師が、患者に憑依して患者の症状をその身をもって
体感することで、治療に役立てる検討もされている。

しかし、その実現までには
高いハードルがあるだろう。

それにー
上層部は、はっきりと憑依薬の用途を明言していない部分もあり、
その点も不安要素のひとつだ。

だがー
それでも、
竜馬や英治は、自分たちの境遇から、
憑依薬完成を実現させたいと思っていたー

「--…でも、その完成のためには
 初美さんのような人がこれからも出てくるかも…」

竜馬は複雑な表情で言う。

「---……」
英治も複雑な表情を浮かべるー

竜馬にも英治にとっても、初美が憑依の実験体に
選ばれたことは驚きだったー。
そしてー、所長である由紀恵のやり方には違和感を
感じていたー

「--やっぱり俺…」
竜馬が呟く。

「---…やっぱり俺、なんとかして初美さんを助けたい」
竜馬が言うと、
英治は少しだけ笑った。

「--…でも、そんなことをしたら、お前も
 モルモットにされるかもしれないぞ?」
英治の言葉に、
竜馬は呟くー

「…やっぱり、、やっぱり所長は間違ってる」
竜馬は悔しそうにそう呟いたー

これまでも所長の由紀恵の言動に
違和感を感じることはあったー。
だが、今回、初めて同僚であるはずの研究員を
犠牲にしてまで憑依薬完成を目指す由紀恵の姿を見て
竜馬の中の不信感は頂点に達したー

憑依薬の完成には夢がある。
けれど、もうこれ以上は…

「---わかった。俺も手伝う」
英治が言った。

「--明日、俺が準備を整えておくから、
 お前は、初美さんを助け出して研究所の出口に向かうんだー
 
 俺とお前で、初美さんを連れて、ここから逃げよう」
英治はそう言った。

ここの研究を止めさせたり、
由紀恵を説得したりー
憑依薬開発を告白したり、
そんなことは、おそらくできないー。

竜馬も英治も、それは分かっている。

だがー
お世話になったお姉さん的存在の仲間を
助け出すことはできるかもしれないー

「---もう、俺たちは憑依薬開発には
 戻れないぞ。それでもいいのか?」
英治が今一度覚悟を促す。

「--…あぁ…俺は…
 俺には、お世話になった人をモルモットに
 するような真似はできない」
竜馬がそう言うと、英治は静かにうなずいたー。

バーから出る二人。

英治は「明日までに俺は準備を整えておく。
初美さんの救出の手はずも、明日連絡する」と
そう呟いたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

所長室ー

「んっ…♡ あ、、♡ はぁ…♡」
由紀恵が自分の胸を触りながら
鏡の前で顔を赤くしてほほ笑んでいたー

所長の由紀恵の素性はーー
”謎”だー。

20代後半か30代前半ぐらいの彼女が、
なぜ、この秘密研究の研究主任を
任されているのかー。
なぜ、極秘研究施設の所長を任されているのかー。

コネだとか、
身体を売っただとか、噂をする人間もいるー

だがー
事実は違うー

「んふふ…♡」
由紀恵はイヤらしい笑みを浮かべながら
静かにほほ笑むー

そしてー

「---この女の身体、最高だぜ♡」と
呟いたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

「---どうかされましたか?」
同僚の女性研究員・麻友が呟く。

「---いや」
竜馬は、研究所内での専用スマホを
確認しながら呟いた。

英治からの連絡ー
初美救出と脱出の手はずが整ったのだという。

英治は先に研究所から脱出できるように、
出口付近で脱出ルートを確保しているとのことだった。

そして、初美を監禁している部屋から
初美を助け出すための手はずも
既に整えてあるのだという。

30分後にー
研究所内が大停電を起こすように仕組んだから
その時に初美を助け出して、
研究所の出入り口まで
初美を連れてきてくれー…

そう、英治からの連絡に書かれていたー

「-----」
麻友が、竜馬のほうを横目で見つめる。

「---何か… 企んでません?」
麻友が呟くー

「---え」
竜馬は少し焦った。

「な~んて、冗談ですよ」
麻友は笑うと、そのまま休憩室のほうに歩いて行った。

「ふぅ…」
竜馬はため息をつくと、30分後に起きるという
大停電に備えて、初美が監禁されている部屋の
近くへと向かったー

・・・・・・・・・・・・・・

28分後ー

竜馬や初美が監禁されている部屋の
すぐそばまで来ていたー

2分後に停電が起きるー

その隙に初美を助け出して、
英治と合流ー
この研究所から脱出するー

「---」
竜馬は腕時計を見つめる。

「---」
その時間が迫ってくる。

もう、後戻りはできないー
憑依薬の実現をこの目で見たかったし、
それで、救える命があることも
理解しているー

けれど、竜馬には
非人道的な研究に
これ以上付き合うことはできなかったー

「5…4…3…2…1…」

研究所が一斉に停電を起こすー。

「---初美さん!今助けます!」
竜馬が廊下の影から飛び出すー

しかしー
初美が拘束されているはずの部屋に
初美はいなかったー

「--そこまでよ!」
背後から声がする。

竜馬が振り返ると、
そこには研究所長の由紀恵がいたー

「--しょ、所長…?」
竜馬が唖然とするー

研究所の停電がすぐに復旧するー

「--こ、これは…?」
竜馬が周囲を見渡すとー
そこには、英治の姿もあったー

「----」
英治は頭をかきながら言う。

「悪いな、竜馬」

「-お前、まさか…!」

英治は苦笑いしながら言う。

「--昨日の会話…全部録音して
 所長に提出した」

「-ーど、どうして!?」
竜馬が信じられないという表情で叫ぶ。

英治は味方だと思っていた。

それなのに、どうしてー。

「-……俺には、憑依薬の夢を
 捨てきれないんだよ。
 憑依薬研究のためなら
 初美さんが犠牲になろうと、
 誰が犠牲になろうと…
 俺は構わない!」
英治が叫ぶ。

「---う、、、裏切り者!」
竜馬が叫ぶー

「--……あなたには失望したわ」
所長の由紀恵が言う。

「---…し、所長…!
 俺だって、憑依薬の完成は夢です。
 でも、だからといって…
 仲間を、、一緒に研究してきた仲間を
 あんな風に切り捨てるなんて…」

竜馬は悔しそうに呟くー

一緒に研究してきた初美の、
変わり果てた姿を思い出すー。

「---……仲間?」
由紀恵は笑ったー

「--笑わせるな」
鋭い口調で言う由紀恵。

「---所長…」
竜馬は絶望の表情を浮かべるー

「--……お前たちは、わたしにとって、
 ”備品”よー。
 研究するための材料」

英治は、その言葉を複雑そうに聞いている。

「--憑依薬という夢の実現のために
 犠牲になることができるの。
 うれしいでしょ?」

由紀恵はくすくすと笑うー

「--……あ、、、悪魔!所長は…
 いいや、あんたは悪魔だ!」
竜馬が叫ぶ。

「なんとでも言いなさいな」
由紀恵は、ののしられたことにゾクゾクしながら笑うー

”憎まれているのは、この女ー”

その事実にゾクゾクしながら由紀恵は笑うー

「---さぁ」
由紀恵が注射器を手にした。

「新型の憑依薬の実験台になってもらうわよ」

竜馬がもがくー
周囲の研究員が「おとなしくしなさい」と
竜馬を取り押さえるー。

竜馬は、妹の顔を思い浮かべながら目を瞑るー

”ごめんなー”

パァン

聞きなれない音が響いたー

「--!?」

竜馬が目を開けると、
由紀恵が目を震わせながら自分の身体を見つめた。

由紀恵の身体からー
血が流れているー

「---えっ?」
由紀恵が驚いて横を見ると、
そこには、竜馬の同僚の、女性研究員・麻友の姿があった。

しかも、麻友の手には、銃のようなものが握りしめられているー

「---あんた」
由紀恵が鬼のような形相で何かを言いかけると、
麻友は容赦なく、銃弾のようなものを放ったー

「--ぁ!?」
由紀恵の身体が壁にたたきつけられて、
そのまま崩れ落ちるー

「--!?」
英治も唖然としている。

「---こっちです!早く!」
麻友が叫ぶー

竜馬は周囲の研究員を振り払って
麻友のほうに向かって走るー

研究所中にアラームが響き渡る。

「--ど、どうして?」
竜馬が言うと、
麻友は笑ったー

「--わたしは、秘密裏に行われている憑依薬研究の
 調査をするために送り込まれた捜査員です
 詳しくはお話しできませんが、警察の人間だと、
 そう思ってください」

廊下を走りながら麻友が言う。

「--警察?」
竜馬が言うと、
麻友は言うー

「--製薬会社の暴走ー。
 憑依薬を医療用に、なんて言ってますケド、
 本当は、何のために使われようとしているか
 ご存じですか?」

麻友はそう言うと、ため息をついた。

「---憑依薬で、あなたの会社の上層部と
 そのバックにいる政治家が、世界を牛耳るためー」

竜馬はその言葉を聞いてぞっとしたー

・・・・・・・・・・・・・・・

「はぁ…はぁ…」
所長の由紀恵が、血まみれになりながら笑う。

「この身体はぁ…もう、だめだぁ…へへへ」
歪んだ笑みを浮かべる由紀恵。

「気に入ってたのになぁ…」
由紀恵はそう呟くと、うっ…とうめいてその場に倒れたー

そしてー
霊体のようなものが由紀恵の身体から飛び出したー

③へ続く

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コメント

もし本当に憑依薬開発を
するとなったら、
やっぱり治験をするのでしょうか~?汗

今日もありがとうございました!

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