憑依薬の研究…
非人道的な行いも厭わない所長に、
竜馬は疑問を感じていく…
彼の選ぶ道は…?
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「---あ…あ…」
初美がびくびくと震えながら
ゾンビのような顔色の悪さで
竜馬のほうを見る。
あれから3日ー
初美に憑依した男が
初美から出ることはできないままー
所長の由紀恵による拷問や実験は続いた。
拷問による分離は不可能だと判断した由紀恵は、
昨日から初美にいろいろな薬を投与しているー
その影響で、初美はぐったりとし、
顔色も悪かった。
「--初美さん…」
竜馬は悲しそうな表情で初美を見つめる。
「しゃああああああ!」
獣のようにガラス越しに竜馬のほうを見つめる初美。
優しいお姉さん的存在だった初美の面影は、
もう、そこにはないー。
「---こんなの…間違ってる」
竜馬はそう呟くー。
そして、自分の研究室に戻る。
「--よぉ。最近元気ないな」
同僚の英治が声をかけてくる。
「---…」
竜馬が暗い表情をしていると
英治は「…久しぶりに一杯やるか」と笑いながら呟いた。
英治とはー
同じころにこの研究所に入ったのもあり、
仲が良い。
この研究所内では一番信頼できる相手だし、
何でも話せる間柄だ。
研究所内に設置されたバーで、
英治と竜馬は飲み始めるー。
「--それで?どうかしたのか?」
英治がため息をつきながら言うと、
竜馬が口を開こうとする。
英治は口を開こうとする竜馬を見て
ニヤッと笑うと、呟いた。
「初美さんのことだろ?」
竜馬が言うまでもなく、
英治は竜馬の心を見抜いていた。
「あぁ…憑依薬完成のためってのは分かるんだけど、
どうしても俺の中で納得できなくて…」
竜馬が悔しそうに言うと、
英治は呟く。
「まぁ…な…
俺だって複雑さ。
俺も初美さんに世話になったからな」
英治が頭をかきながら言う。
「けどさー、憑依薬が完成すれば、
大勢の人間が幸せになれるー」
英治はそう言うと、
ポケットに入れていた小さな写真を見せた。
「--俺の妹だ。14の時に死んだ」
英治の言葉に、
竜馬は驚くー
英治が自分の過去を語るのは珍しい。
「--病気だったんだ。
死ぬ間際に妹はずっと、
もっと生きていたい、もっと生きていたい、
そう言ってたよ」
英治がグラスに入れたお酒を口にしながら
悲しそうに呟く。
「でも、俺は何もしてやれなかった」
悔しそうに握りこぶしを作った英治は、
竜馬のほうを見つめるー
「--もし、もしも、憑依薬が完成すれば
もう助からない命を助けることができるんだー。
俺の妹のような人たちを
他人の身体に移し替えて、生きながらえさせることが
できるんだ」
英治にも竜馬にもわかっているー
仮に憑依薬が完成しても、
”他人の身体を乗っ取って、誰が助かる”なんてこと
なかなか世間では認められない、ということはー…。
研究所の上層部は、犯罪者や自殺志願者などの
身体を再利用することを、検討しているー
また、医療分野での憑依薬の活用も検討されている、
患者の負担軽減や、
医師が、患者に憑依して患者の症状をその身をもって
体感することで、治療に役立てる検討もされている。
しかし、その実現までには
高いハードルがあるだろう。
それにー
上層部は、はっきりと憑依薬の用途を明言していない部分もあり、
その点も不安要素のひとつだ。
だがー
それでも、
竜馬や英治は、自分たちの境遇から、
憑依薬完成を実現させたいと思っていたー
「--…でも、その完成のためには
初美さんのような人がこれからも出てくるかも…」
竜馬は複雑な表情で言う。
「---……」
英治も複雑な表情を浮かべるー
竜馬にも英治にとっても、初美が憑依の実験体に
選ばれたことは驚きだったー。
そしてー、所長である由紀恵のやり方には違和感を
感じていたー
「--やっぱり俺…」
竜馬が呟く。
「---…やっぱり俺、なんとかして初美さんを助けたい」
竜馬が言うと、
英治は少しだけ笑った。
「--…でも、そんなことをしたら、お前も
モルモットにされるかもしれないぞ?」
英治の言葉に、
竜馬は呟くー
「…やっぱり、、やっぱり所長は間違ってる」
竜馬は悔しそうにそう呟いたー
これまでも所長の由紀恵の言動に
違和感を感じることはあったー。
だが、今回、初めて同僚であるはずの研究員を
犠牲にしてまで憑依薬完成を目指す由紀恵の姿を見て
竜馬の中の不信感は頂点に達したー
憑依薬の完成には夢がある。
けれど、もうこれ以上は…
「---わかった。俺も手伝う」
英治が言った。
「--明日、俺が準備を整えておくから、
お前は、初美さんを助け出して研究所の出口に向かうんだー
俺とお前で、初美さんを連れて、ここから逃げよう」
英治はそう言った。
ここの研究を止めさせたり、
由紀恵を説得したりー
憑依薬開発を告白したり、
そんなことは、おそらくできないー。
竜馬も英治も、それは分かっている。
だがー
お世話になったお姉さん的存在の仲間を
助け出すことはできるかもしれないー
「---もう、俺たちは憑依薬開発には
戻れないぞ。それでもいいのか?」
英治が今一度覚悟を促す。
「--…あぁ…俺は…
俺には、お世話になった人をモルモットに
するような真似はできない」
竜馬がそう言うと、英治は静かにうなずいたー。
バーから出る二人。
英治は「明日までに俺は準備を整えておく。
初美さんの救出の手はずも、明日連絡する」と
そう呟いたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
所長室ー
「んっ…♡ あ、、♡ はぁ…♡」
由紀恵が自分の胸を触りながら
鏡の前で顔を赤くしてほほ笑んでいたー
所長の由紀恵の素性はーー
”謎”だー。
20代後半か30代前半ぐらいの彼女が、
なぜ、この秘密研究の研究主任を
任されているのかー。
なぜ、極秘研究施設の所長を任されているのかー。
コネだとか、
身体を売っただとか、噂をする人間もいるー
だがー
事実は違うー
「んふふ…♡」
由紀恵はイヤらしい笑みを浮かべながら
静かにほほ笑むー
そしてー
「---この女の身体、最高だぜ♡」と
呟いたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
「---どうかされましたか?」
同僚の女性研究員・麻友が呟く。
「---いや」
竜馬は、研究所内での専用スマホを
確認しながら呟いた。
英治からの連絡ー
初美救出と脱出の手はずが整ったのだという。
英治は先に研究所から脱出できるように、
出口付近で脱出ルートを確保しているとのことだった。
そして、初美を監禁している部屋から
初美を助け出すための手はずも
既に整えてあるのだという。
30分後にー
研究所内が大停電を起こすように仕組んだから
その時に初美を助け出して、
研究所の出入り口まで
初美を連れてきてくれー…
そう、英治からの連絡に書かれていたー
「-----」
麻友が、竜馬のほうを横目で見つめる。
「---何か… 企んでません?」
麻友が呟くー
「---え」
竜馬は少し焦った。
「な~んて、冗談ですよ」
麻友は笑うと、そのまま休憩室のほうに歩いて行った。
「ふぅ…」
竜馬はため息をつくと、30分後に起きるという
大停電に備えて、初美が監禁されている部屋の
近くへと向かったー
・・・・・・・・・・・・・・
28分後ー
竜馬や初美が監禁されている部屋の
すぐそばまで来ていたー
2分後に停電が起きるー
その隙に初美を助け出して、
英治と合流ー
この研究所から脱出するー
「---」
竜馬は腕時計を見つめる。
「---」
その時間が迫ってくる。
もう、後戻りはできないー
憑依薬の実現をこの目で見たかったし、
それで、救える命があることも
理解しているー
けれど、竜馬には
非人道的な研究に
これ以上付き合うことはできなかったー
「5…4…3…2…1…」
研究所が一斉に停電を起こすー。
「---初美さん!今助けます!」
竜馬が廊下の影から飛び出すー
しかしー
初美が拘束されているはずの部屋に
初美はいなかったー
「--そこまでよ!」
背後から声がする。
竜馬が振り返ると、
そこには研究所長の由紀恵がいたー
「--しょ、所長…?」
竜馬が唖然とするー
研究所の停電がすぐに復旧するー
「--こ、これは…?」
竜馬が周囲を見渡すとー
そこには、英治の姿もあったー
「----」
英治は頭をかきながら言う。
「悪いな、竜馬」
「-お前、まさか…!」
英治は苦笑いしながら言う。
「--昨日の会話…全部録音して
所長に提出した」
「-ーど、どうして!?」
竜馬が信じられないという表情で叫ぶ。
英治は味方だと思っていた。
それなのに、どうしてー。
「-……俺には、憑依薬の夢を
捨てきれないんだよ。
憑依薬研究のためなら
初美さんが犠牲になろうと、
誰が犠牲になろうと…
俺は構わない!」
英治が叫ぶ。
「---う、、、裏切り者!」
竜馬が叫ぶー
「--……あなたには失望したわ」
所長の由紀恵が言う。
「---…し、所長…!
俺だって、憑依薬の完成は夢です。
でも、だからといって…
仲間を、、一緒に研究してきた仲間を
あんな風に切り捨てるなんて…」
竜馬は悔しそうに呟くー
一緒に研究してきた初美の、
変わり果てた姿を思い出すー。
「---……仲間?」
由紀恵は笑ったー
「--笑わせるな」
鋭い口調で言う由紀恵。
「---所長…」
竜馬は絶望の表情を浮かべるー
「--……お前たちは、わたしにとって、
”備品”よー。
研究するための材料」
英治は、その言葉を複雑そうに聞いている。
「--憑依薬という夢の実現のために
犠牲になることができるの。
うれしいでしょ?」
由紀恵はくすくすと笑うー
「--……あ、、、悪魔!所長は…
いいや、あんたは悪魔だ!」
竜馬が叫ぶ。
「なんとでも言いなさいな」
由紀恵は、ののしられたことにゾクゾクしながら笑うー
”憎まれているのは、この女ー”
その事実にゾクゾクしながら由紀恵は笑うー
「---さぁ」
由紀恵が注射器を手にした。
「新型の憑依薬の実験台になってもらうわよ」
竜馬がもがくー
周囲の研究員が「おとなしくしなさい」と
竜馬を取り押さえるー。
竜馬は、妹の顔を思い浮かべながら目を瞑るー
”ごめんなー”
パァン
聞きなれない音が響いたー
「--!?」
竜馬が目を開けると、
由紀恵が目を震わせながら自分の身体を見つめた。
由紀恵の身体からー
血が流れているー
「---えっ?」
由紀恵が驚いて横を見ると、
そこには、竜馬の同僚の、女性研究員・麻友の姿があった。
しかも、麻友の手には、銃のようなものが握りしめられているー
「---あんた」
由紀恵が鬼のような形相で何かを言いかけると、
麻友は容赦なく、銃弾のようなものを放ったー
「--ぁ!?」
由紀恵の身体が壁にたたきつけられて、
そのまま崩れ落ちるー
「--!?」
英治も唖然としている。
「---こっちです!早く!」
麻友が叫ぶー
竜馬は周囲の研究員を振り払って
麻友のほうに向かって走るー
研究所中にアラームが響き渡る。
「--ど、どうして?」
竜馬が言うと、
麻友は笑ったー
「--わたしは、秘密裏に行われている憑依薬研究の
調査をするために送り込まれた捜査員です
詳しくはお話しできませんが、警察の人間だと、
そう思ってください」
廊下を走りながら麻友が言う。
「--警察?」
竜馬が言うと、
麻友は言うー
「--製薬会社の暴走ー。
憑依薬を医療用に、なんて言ってますケド、
本当は、何のために使われようとしているか
ご存じですか?」
麻友はそう言うと、ため息をついた。
「---憑依薬で、あなたの会社の上層部と
そのバックにいる政治家が、世界を牛耳るためー」
竜馬はその言葉を聞いてぞっとしたー
・・・・・・・・・・・・・・・
「はぁ…はぁ…」
所長の由紀恵が、血まみれになりながら笑う。
「この身体はぁ…もう、だめだぁ…へへへ」
歪んだ笑みを浮かべる由紀恵。
「気に入ってたのになぁ…」
由紀恵はそう呟くと、うっ…とうめいてその場に倒れたー
そしてー
霊体のようなものが由紀恵の身体から飛び出したー
③へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
もし本当に憑依薬開発を
するとなったら、
やっぱり治験をするのでしょうか~?汗
今日もありがとうございました!
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