憑依薬の研究がとある研究所で行われていたー。
動物実験は終わり、
いよいよ、研究は禁断の領域に突入しようとしていた…。
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とある製薬会社が、
秘密裡に研究所を作り、
そこで、禁断の研究が行われていたー。
”憑依薬”
人間が、他人に憑依するための薬。
その研究が行われていたのだ。
もちろん、憑依薬の存在は世間には
公表されていないし、
研究が行われていることも、公表されていないー
いかなる目的であろうとも、
他人の身体を乗っ取って操る薬を作っているなどと
いうことが明るみになれば
世間は大パニックに陥り、
そして、この研究は大炎上するだろうー。
「----…人類の夢…」
研究主任の班目 由紀恵(まだらめ ゆきえ)がほほ笑むー。
20代後半か…、
あるいは30代前半ぐらいの由紀恵の素性は不明だ。
若くして、極秘研究の主任を任されているあけあり、
その技術は非常に高いー。
一方で、製薬会社の会長や重役の娘ではないか、と
陰口をたたく人間もいる。
コネでのし上がっているのだと。
だが、由紀恵はそんなことは一切気にせず、
憑依薬の研究に全力を尽くすのだったー。
「--ふぅ…こんなところかな」
憑依薬の調整を終えた研究員・春日部 竜馬(かすかべ りょうま)が
一息つく。
「お疲れ様です」
眼鏡をかけた女性研究員の藤里 麻友(ふじさと まゆ)がほほ笑む。
「--あぁ、ありがとう」
竜馬が、コーヒーをコップに入れながら、
麻友のほうを見て、少しだけ笑みを浮かべたー。
憑依薬の研究ー。
竜馬には、この研究に没頭するだけの意味があったー。
憑依薬が完成すれば、医療に役立てることができるー。
竜馬は、そう思っているからだー。
竜馬の妹は、中学生のころに事故で、
歩けない状態になってしまった。
それだけではない。
手も動かない。
本当にギリギリのところで助かったのだ。
だがー
もしも憑依薬が完成すればー
妹は、他人の身体を使って、自由を手にすることが
できるかもしれないー。
憑依薬が何に使われるのかは、
まだはっきりしていない。
もちろん上層部は知っているはずだが、
竜馬のような一般研究員には伝わってこない。
噂では”医療分野”での活用と言われているし、
自殺志願者や、犯罪者の肉体を有効活用するという
話も出ているー
そうなればー
妹は、健康な身体を手にすることができるかもしれない
「---そういえば、来週、ついに治験が行われるみたいですよ」
「--治験?」
竜馬が首を傾げた。
麻友が「はい」と言って、ほほ笑む。
「--要するに人体実験ですよ」
優しい笑顔の麻友。
竜馬は「人に憑依薬を投与するってことか?」と
驚いた様子で口にする。
人権や、倫理上の問題、危険性などから
人間への投与はまだまだ先だと思っていた。
だがー、
思った以上に早かった。
人間に憑依薬を投与し、
実際に他人の身体を乗っ取ることができるかどうかを
確認するー。
その”治験”が間近に迫っていたー
「ふふふふ…楽しみですねぇ」
麻友はにっこりとほほ笑んだー
同僚の女性研究員の麻友は、
この前まで女子大生だったと噂されており、
とても若い。
可愛らしく、優しそうな容姿だが、
残虐な発言も笑顔でするために
周囲からは恐れられているー
治験の日がやってきたー
「--…よろしくお願いします」
ひ弱そうな男性がやってくる。
「---あら、竜馬くん」
お姉さん的存在の女性研究員・初美(はつみ)が、
竜馬に気づいてほほ笑む。
「--あ、お疲れ様です」
竜馬はすれ違いざまに初美に頭を下げた。
初美が、治験参加者の案内などを担当するようだー。
男性が、指定された部屋の中に入るー。
「--あの人、自分が何の治験に参加してるのか
分かってるんですか?」
管理室にやってきた竜馬が所長である由紀恵に聞くと、由紀恵は首を振った。
「いいえ。憑依薬とは伝えていない。
新薬の治験とだけ、伝えてあるわ」
由紀恵は淡々と答えた。
”氷の女王”という異名を持つ由紀恵は、
どんな時でも冷静で冷酷だー。
見た目は穏やかそうな若い女性なのだが、
見た目と中身のギャップがありすぎて、
それがまた、恐ろしいー
憑依薬を服用する男ー。
由紀恵や関係者は、モニターで様子を見つめる。
「-----」
憑依薬を服用した男が、変化する様子はないー。
男に憑依薬を渡した女性研究員の初美が、
男のいる部屋から出ようとするー。
しかしー
初美が表情を歪めた。
モニター越しにその映像を見ていた竜馬や
他の研究員たちはその様子を見て
疑問に思うー
”所長、扉のロックがかかっちゃってます”
初美がカメラのほうを向きながら言った。
「---」
所長の由紀恵は腕を組んだまま答えない。
”所長?開けていただけますか?”
治験参加者の男の部屋に
閉じ込められた状態の初恵が言う。
「---」
所長の由紀恵は、腕を組んだまま、
なおも、何も答えない。
”所長?聞こえてますか?”
初美がもう一度言う。
「--所長、ロック解除を」
竜馬が言うと、所長の由紀恵は、
首を振った。
「--黙って見てなさい」
とー。
「え…」
竜馬が驚く。
”所長?あの?すみません!”
初美が返事がないことに違和感を感じて叫ぶ。
「---」
由紀恵がにやりと笑みを浮かべた。
治験参加者の男が、突然「うっ」と声を上げて倒れたー
「く、薬の副作用か!?」
竜馬が叫ぶ。
様子を見守る他の研究員たちも騒然としているー
「違うわ」
由紀恵がはっきりとした声で言った。
「-これは、憑依薬の効果。
幽体離脱よー」
由紀恵が説明するー
憑依薬を飲んだ男が、幽体離脱したのだという。
どよめく研究員たちー
そしてー
由紀恵はマイク越しに初美に語り掛けた。
「---あなたも治験に参加するのよ」
とー。
”え?”
初美が不安そうにしている。
「--憑依薬の治験だもの…
薬を飲む人以外に、憑依される人間も、必要でしょ?」
由紀恵が無表情で言う。
”え、、そ、そんな!?”
お姉さん的存在の初美の表情には
焦りの色が見える。
”ちょ、、ちょっと!だ、、出してください!ちょっと!”
初美がロックされた扉を必死に叩き始める。
「--しょ、所長!」
竜馬は、初美を出してあげるべきだと由紀恵に
告げようとしたー
しかし…
「医療の未来のため、多少の犠牲はやむをえまい」
由紀恵が鋭い目つきで、竜馬にそう告げたー
「--っ!!」
竜馬は、由紀恵に気圧されてそれ以上は
何も言えなくなってしまったー
”いやああああっ!は、、入ってこないでぇ”
初美が突然叫びだす。
「--おぉぉぉ!?」
研究員たちがモニターを注視するー
初美にー
治験参加者の男が憑依し始めたのだ。
”あぁ、、、あ・・・あ…ひ、、、ひひ…なんだこれぇ?”
初美がニヤニヤし始める。
そしてー
初美はカメラのほうを向いた。
”治験って、、こういう研究なんですかぁ?”
とー。
「----」
由紀恵は少しだけほほ笑んだー
憑依薬のテストの成功を意味するー。
「おぉぉおおおお!」
研究員たちが喜んでいる。
だがー
竜馬の心中は複雑だったー。
お姉さん的存在の初美には、
よくお世話になっているー
その初美が、本人も同意もなく
憑依薬の実験に利用されたのだ。
「やりましたね!」
眼鏡の女性研究員・麻友がほほ笑む。
「--あ、、え…うん」
竜馬は少し顔色を悪くしながら言う。
「--初美さんも、憑依される側を
体験できるなんて、
ふふふふふ…」
残酷な発言も笑顔でする麻友に、
竜馬は少し恐れをなしながら、
モニターを見つめたー
・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
「ぎゃああああああああああああああっ!」
研究所の廊下に悲鳴が響き渡るー
「なんだ!?」
そう思いながら竜馬が声のする方向に
駆けつけるとー
そこでは、隔離部屋で、拷問器具のようなものに
固定された、初美の姿があったー。
「---うああああああああっぎゃああああああああ!!」
初美に電流のようなものが流されて
鬼のような形相で初美が悲鳴を上げている。
「こ…これは!?」
ガラス越しに初美の姿を見ながら
竜馬は唖然としている。
「は、初美さん!だ、大丈夫ですか?」
竜馬が初美に向かって話しかける。
初美はボロボロになりながら竜馬のほうを
睨んで叫んだ。
「お前ら…いったい何をしようとしてるんだ!
こんなことして、、許されると思ってるのかぁぁ!」
その口調に、初美はまだ憑依されたままだということを
悟る竜馬ー
「ぐあああああああああああっ!」
再び電流が流れて初美の身体が
ぶるぶると震えるー
「----…あら」
所長の由紀恵がやってくる。
今日も、スタイルの良い身体を
見せつけるかのような格好をしているー
「---は、初美さんに何を?」
竜馬が言うと、由紀恵は失笑したー
「憑依薬のテストは残念ながら
まだ不完全だったわ」
由紀恵は、電流に苦しむ初美の
ほうを見ながらザンネンそうに首を振る。
「…失敗って?」
竜馬が言うと、由紀恵は呟く。
「憑依した人間が、憑依した身体から
出ることができないのよ。
つまり、一度憑依したら終わりってこと」
由紀恵が、初美のほうを見つめているー。
憑依薬の最終的な目標は、
相手を完全に支配することー
そして、相手から抜け出せることー
憑依した人間、
憑依された人間、どちらにも健康被害や
思考に影響が出ないことー
だがー
今回のテストで、憑依した人間が
憑依された人間から抜け出せないことが分かったー
「--初美に憑依した男が、初美から
抜け出すのを嫌がってるのかと思って 拷問に
かけてみたけど…あの様子だと…
本当に初美の身体から出ることはできないみたいね」
由紀恵が笑いながら言う。
「ぎぁいぃぃいあああああああああっ!」
初美が悲鳴を上げるー。
「--ほら、その身体から出なさい。
そうしないと、ずっとそのままよ」
由紀恵が笑う。
「--だ、、だからぁ!」
初美が目に涙を浮かべながら叫ぶ。
「抜けだないって言ってるだろうがぁ!」
初美が大声で叫んだ。
「----」
由紀恵は鼻で笑うと、
「手段は問わないわ。なんとか
憑依状態を解除させなさい」
と、周囲の研究員に指示して
そのままヒールの音を立てながら
立ち去っていくー
「---そ、そんな!初美さんは…!」
竜馬が叫ぶ。
すると、由紀恵は立ち止った。
「大いなる研究のための尊い犠牲…
研究には必要なものだ」
由紀恵は高圧的にそう告げると
そのまま立ち去って行ったー
「初美さん…」
竜馬は、乗っ取られたまま、
拷問にかけられている初美の身を案じながら
そう呟いたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「--いやぁ、憑依薬もまだまだ完成までは
先が長そうだな」
同僚研究員の西藤 英治(さいとう えいじ)が言う。
「----…」
「どうかしましたかぁ?」
同僚の眼鏡をかけた研究員・麻友が言う。
竜馬は、頭を抱えていたー
同僚をモルモットとして扱うような
この研究所の方針に疑問を感じ始めていたー
「--憑依薬を作るためにはーー
必要なことなんだ…それは、分かってる…でも」
竜馬は、周囲の仲間たちに目もくれず
そのまま一人、頭を抱えるのだったー
②へ続く
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コメント
憑依薬の開発を行っている研究所のお話デス~
非人道的なことも行われているみたいですネ!
続きはまた明日~☆
コメント
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どうやって動物実験したんでしょうね
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> どうやって動物実験したんでしょうね
コメントありがとうございます~☆
確かに気になりますネ~笑