<皮>親権は俺のモノ③~深淵~(完)

娘との大切な日々を
取り戻したはずの昇ー。

けれどー
昇は踏み入れてしまったのかもしれないー

決して、入ってはいけない”深淵”にー

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ハイヒールの音が響き渡る。

サングラスをかけた女が、
銀行の口座を確認するー

100万ー
50万ー
250万ー
120万ー

通帳にはー
多数の口座から振り込まれた金額が
刻まれていたー

「ふふ…」
女は笑うー
そして、そのままコツコツと音を立てながら立ち去ったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「--お母さん…だいじょうぶ?」
娘の鈴奈が心配そうに聞いてくる。

「え…?あ、うん…」
恵としてふるまうことには慣れてきたー

あれから3日ー
恵の皮を着ている昇は、
これからどうするべきか、悩んでいたー

もちろん、自分が鈴奈を手渡すつもりはないー

恵の皮を着て、
これからも恵として
ふるまうつもりだー。

だがー
週刊深淵の記者・崎谷慎一はどうにか
しなくてはいけないー

やつは、
昇が恵を皮にしたときを目撃していたー。

人通りのない場所に
たまたまそんなやつがいたなんて偶然は
不運としか言いようがないが、
とにかく、やつが写真と映像を持っているのは事実ー

”人を皮にする”
法律上、どのように扱われるのかは
分からないが、最悪の場合はー…

「おかあさん…?」
鈴奈が心配そうにしているー

「---…だ、大丈夫だよ…」
昇は、そう答えたー

そうだー
と、昇は思いつくー。
彩夢に相談しようー。

彩夢ー。
”皮”にするスプレーをくれた
会社の後輩女性。
恵になってからは、昇としては
姿を消したから
もう会社には行っていないが、
彩夢に連絡を取ることはできる。

”あ、もしもし?先輩ですか?
 どうされたんです?こんな遅くに”

彩夢が電話に出るー。

「--ちょっと問題が起きたんだ。
 力を貸してくれー」

恵の声のままそう言うと、
彩夢は、明日会う約束をしてくれたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

昇は、恵の皮を着こんだまま彩夢の家にやってきた。

「---…」
昇は恵の皮を脱いで、
彩夢に洗濯機を借りていいか確認し、
恵の皮を洗濯するー

定期的に洗濯しないと
”皮”は異臭を放ち始めるー。

「---問題、とは?」
彩夢が、キャバ嬢のような姿で
足を組み、たばこを吸いながら昇のほうを見るー

会社で見ていた彩夢の態度とは全然違うー。
彩夢はどちらかというと、おとなしいタイプの子だったー。

「--あ、あぁ…
 実は…俺が恵を皮にしたところを
 週刊誌の記者に見られてたんだ」
昇が言うー

彩夢の部屋の洗濯機の音が響き渡るー

「へぇ…」
彩夢がクスリと笑った。

「--言っておきますケド、
 あれを使ったあとのことまで
 わたし、面倒見ませんからね」

そう言うと、彩夢は面倒臭そうに
煙草を置いたー。

「---そうはいかない」
昇は呟いたー

「俺が、あの崎谷とかいう週刊誌記者に
 金を払わなければ、おそらくやつは
 ”皮”のことを容赦なく記事にするだろうー

 そうなったら君もー…

 ……君も”彩夢”じゃないんだろう?」

昇はそう呟いたー

憶測でしかないー

だがー
ずっと”彩夢”だと思っていた相手の中には
”誰かが”いるー
そう思っていたー

彩夢のような子が、こんな”人を皮にするスプレー”なんて
持っているはずがないー。

彩夢は、会社で昇に出会うずっと前からー
”誰かに皮にされている”のだと、昇は思っているー

「-----……ふふ」
彩夢は笑った。

「---ま、そうですよ。確かにわたしは皮にされちゃいました。
 くくく」

彩夢はニヤニヤしながら言うー

今まで猫をかぶっていた彩夢ー
だが、今日はその本性を隠す気はなさそうだ。

「柿田先輩と出会った頃には、
 もうわたし、皮でしたから、
 柿田先輩にとっては、わたしが彩夢で
 あることには変わりないでしょ?」

彩夢がケラケラ笑いながら言う。

「---…でも、皮のことが記事にされたら
 きみにだって影響が出るかもしれない」

昇がそう言うと、
彩夢がじーっと、昇のほうを見つめた。

「---確かに…」

昇はその反応に笑みを浮かべたー

彩夢の中にいるのが誰だかは知らないが、
彩夢の協力を得ることができれば
あの週刊誌記者の崎谷を
どうにかすることは簡単だろうー

昇は、協力モードに入ってくれた彩夢に対して
この前接触してきた週刊誌記者のことを伝えるー。

そうこうしているうちに、恵の皮の洗濯が終わりー
恵の皮を部屋干しするー

皮にされた恵の表情は固まったままで、
脱ぎ捨てられた着ぐるみのようにー
力なく干されているー

「--…500万円は、用意できるんですか?」
彩夢が言う。

「あぁ、用意はできる。だが、渡す気はない」
恵の皮を着ながら昇が言う。

「---わかりました。
 ただ、その崎谷という人が、どこにいるのか
 分かりませんから、
 約束の日まで待ちましょう」

彩夢は呟く。

そしてー
続けた。

「--柿田先輩からお金を受け取ろうと、
 やってきた現場で、その記者をー」

彩夢はにやりと笑って
スプレー缶を手にした。

「”皮”にしますー」

ゾクっ…

恵の皮を着こんだ昇は恐怖したー

彩夢の表情にーー
なんとも言えない不気味さが漂っていたー

昇とは違う世界で生きてきた人間ー
そんな、気がした。

彩夢の中に入っている人間に
底知れぬ恐怖を感じながら
昇は頷いたー

娘・鈴奈との幸せな生活のためだー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

後日、週刊誌記者の崎谷から場所をされー、
そして、
約束の日がやってきたー

「--お母さん…どこに行くの?」
鈴奈が不安そうに言う。

「--ごめんね…ちょっと用事があるの
 ちゃんと帰ってくるから
 お留守番してるのよ」

女言葉にもすっかり慣れてきた。
鈴奈を残すのは不安だが、
幼稚園が休みの日を、向こうが指定してきた以上
仕方がない。
一緒に連れて行って、あの記者が何か言い出したら大変だ。

「-ーーー」
鈴奈を抱きしめる恵ー

”俺はー
 俺はただ、娘と一緒にいたいだけなんだー”

そう思いながら、昇は、車に乗り込んだー。

約束の場所に向かうためにー

指定された場所はー
とあるビルの地下駐車場ー

”週刊深淵”が入っているビルの地下だー。
たくさんの車が止まっているその場所でー
週刊誌記者の男・崎谷が姿を現したー。

「これはこれは…どうも」
崎谷がニヤニヤと笑いながら挨拶をしてくる。

「--お金、持ってきてくれましたか?」
崎谷が言う。

「--ここにある」
恵の姿のまま、昇は鞄を出す。

「--確認しても?」
崎谷が言う。

まぁ、当然の反応だろう、と思いながら昇は
鞄を地面に置くー。

「--……」
崎谷がニヤニヤしながら鞄を確認する。

昇は、周囲を見渡した。

このチャンスに、
彩夢が、週刊誌記者の男を皮にすると言っていたー

だがー
この場所はあまりよくないー。

なぜならー
”監視カメラ”があるからだー。

週刊誌記者の男は、”何かされること”を警戒して
この場所を選んだのかもしれないー

「---」
恵の皮を着たまま、昇は崎谷の行動を
注意深く見守る。

「---!」
昇はあることに気づいたー

この男ー
”監視カメラの死角”を完璧に把握しているー。

奇妙な動きをしていると思ったらー
現金の受け取り・確認が一切カメラに
映らないように、立ち回っていたのだー

「くっ…」
恵の姿のまま、思わず昇は舌打ちした。

これではー

「--確かに」
崎谷が言う。

「-ーで、次ですが」
崎谷の言葉に
恵は表情を歪めた。

「次、だと?」
昇が崎谷を睨みつける。

「えぇ…この500万で、あなたの犯行を
 記事にするのはやめて差し上げます。
 
 けどね…
 あなたの娘さん…鈴奈ちゃんだったかな?
 あの子に…
 ”このこと”を知られたくないでしょう?」

崎谷はニヤニヤしながら言った。

「くっ…」

今度は、娘を人質状態に脅してきたー

「---ふ…ふざけるな!」
恵の姿のまま、叫ぶー。

周囲を見渡す昇。

彩夢の姿はないー

”くそっ”

むざむざ500万円を奪われてしまったー

恵の姿をした昇は、
髪をぐしゃぐしゃと掻きむしる。

家に娘の鈴奈を一人残してきたことを
思い出して慌てて家に戻る昇。

「くそっ!どけっ!」
恵として歩くことも忘れて、
蟹股歩きで、通行人をどかしていく恵。

鬼のような形相の恵を見て
通行人は何事かと驚くー

家に駆けこんだ恵ー

「お母さん?」
鈴奈は無事だったー

「---鈴奈、安心しろ…
 俺が、俺が必ず守ってやるから」

恵としてふるまうことも忘れて
男口調で呟く昇。

そして、スマホを手にすると
彩夢に電話を入れる。

”ごめんなさい。まさかあんな場所とは
 思わなかったの”

彩夢がさっそく、お詫びの言葉を口調にした。

週刊誌記者の崎谷を、
皮にする計画は失敗だった。
あの場所では監視カメラに記録が残ってしまう。

自社の駐車場の監視カメラの死角を
完全に把握している崎谷に勝ち目はなかった。

油断ならない男だー。

”---……わたしのほうでも
 手を打ってみる”

それだけ言うと、彩夢は電話を切った。

「くそっ!」
怒りのあまり、スマホを投げつける昇。

「--俺が親だ…
 鈴奈は、俺が守るんだ…
 鈴奈…くそっ!くそっ!」
机で頭をぼさぼさにしながら
掻きむしる恵ー。

「---おかあさん」
心配そうに鈴奈が恵の手を握るー

「鈴奈…」

心配そうにしている娘の顔を見て
昇はようやく平常心を取り戻したー

そうだー。

俺が乱れてどうする?

「---ごめんね」
恵としての振る舞いを思い出し、
優しく微笑むー

そして、昇は決意したー。

”週刊深淵”の編集長と直接話をすることをー。

・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

週刊深淵が入っているビルに向かう恵。

鈴奈は幼稚園に向かったー

その間に、決着をつけるー

「---」
週刊誌記者の崎谷も出社しているのだろうかー。

だが、崎谷など、どうでもいい。
編集長と話をつけることができればー
全ては終わるー。

いや、逆に崎谷を皮にしたところで、
上もこのことを知っていたら
全ては終わりだー。

やはり、週刊深淵編集部に乗り込むしかー

「--!?」

昇は、週刊深淵のビルに入っていく、
女性の姿を見かける。

その女性はー
彩夢だった。

ハイヒールの音を立てて、
ビルに入っていく彩夢。

「---なんだ?」
昇は疑問を感じるー

彩夢のやつ、
崎谷を皮にするために
乗り込んできたのかー?

そう思いながら、昇も、
恵の姿のまま、週刊深淵の入るビルに入っていくー

昨日の駐車場を超えてー
エレベーターに乗り込む。

週刊深淵の編集部があるビルの8階に行くー

彩夢の姿はないー

8階に到着するー。
8階は鎮まりかえっていたー。

「---誰かいませんか?
 編集長とお話があります」
恵の声で問いかける昇。

だがー
返事はないー

「----」
昇が、編集室を覗くと、
そこにはーーー
一人の男がデスクに向かっていたー

編集部員の崎谷だー。

「---崎谷」
昇が背後から声をかける。

だが、反応はないー

「---崎谷!」
昇が、顔を覗き込むー

ーーーー!?!?!?

崎谷が、まるで抜け殻のように椅子から
崩れ落ちるー

「---か、、皮ッ?」
恵の声で思わず叫ぶー

週刊誌記者の崎谷は、すでに皮になっているー

恵と同じようにー

「----?!」
背後からハイヒールの音が聞こえてきたー

「---先輩」

驚いて振り返ると、
そこには、彩夢がいた。

「---こ、これはどういうことだ?」
昇が叫ぶ。

「----……」
彩夢が何かを考える仕草をしたあとにほほ笑んだ。

「--面倒くさいやつだなぁ…
 黙って金を払い続ければいいのに」

「--なんだって?」

恵の姿のまま叫ぶと、
彩夢がぱっくりと割れたー

彩夢もー
昇の読み通り、やはり”皮”だったー

中からー
見知らぬ男が出てくるー

「はじめまして…
 週刊深淵の編集長・久保山(くぼやま)ですー」
笑う男ー

彩夢の皮が、地面に崩れ落ちるー。

「---私はね、お前みたいな
 ”カモ”に、人を皮にできる力を与えてー
 そして、その秘密を握り、脅して、
 金を奪ってるんだよー。」

そう言うと、久保山は通帳を見せたー

通帳には、たくさんの人間からの振り込み履歴が
刻まれていたー。

「-ーーー…な、、なんだって」
昇は恵の姿のまま震えるー。

「---そこの崎谷も、彩夢も、
 中身はこの私だ。」

久保山は笑うー

「---!!」
昇は、床に横たわる彩夢と崎谷の皮を見つめるー

彩夢も、崎谷も
中身はこいつだっただとー?
と、思いながら。

確かに彩夢と崎谷が一緒にいた場面は
見たことがないー

「---ま、君は知りすぎたー」

そう言うと、久保山はほほ笑んでー
彩夢の皮を乱暴につかむと、
それを再び着込んだー

「--この女は、そうだな、3、4年前だったかな?
 ここの前をいつも大学帰りに通っていて
 気に入ったから…
 皮にして、私のものにした」

彩夢の皮を着こんだ男は笑うー
彩夢の姿で…。

「--くそっ!俺はただ、俺はただ娘と!」
昇が叫ぶー

シュッ!

「---!!」
昇は、表情を歪めたー

彩夢が手に、スプレー缶を持っているー

このスプレーは…

「--あ…ああああああ…」
恵の皮が脱げていくー

そしてー
昇自身も皮になっていくー

「ここは週刊・深淵ー。
 深淵を覗くときー、深淵もまたおまえのぞいているのだ…くくく」

その言葉を聞いたのを最後に、
昇は床に崩れ落ちる。

「安心してくださいね先輩」
耳元で彩夢としてささやいてくるー

「---娘の鈴奈ちゃんもすぐに
 仲間にしてあげますからー
 ふふふふ♡」

”……すまない…”

昇は最後にそう思ったー

理由はどうあれー
おかしな力に手を出したことでー
みんなを巻き込んでしまったー

鈴奈のこともー

彩夢は、そんな昇を見つめて
完全に皮になりきる直前に、
ヒールで昇を踏みつけたー

昇のことを、あざ笑いながらー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

ダークな皮モノでした~!
まだ、続きが書けそうな気もしないでもないですが…(笑)

お読み下さりありがとうございました~!

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皮<親権は俺のモノ>

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