<憑依>雪舞う日の決別③~決意~(完)

彼女の身体に憑依した
消息不明の姉ー。

姉はこのまま、乗っ取った身体で
生きていくつもりだと言う…

彼女かー
姉かー。
最後に下す決断は…?

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粧裕は驚くー。

俊治が、粧裕をぎゅっと抱きしめたー。

「---…俊治…」
俊治のほうから自分を抱きしめてくれたー
粧裕に憑依している、俊治の姉・水穂は、
その意味を理解し、静かにほほ笑んだー。

「---」
雪が舞う静寂の中ー
俊治はしばらく粧裕を抱きしめると、
静かに粧裕から離れた。

「--姉さん…ありがとう。
 俺、ずっとずっと、姉さんがいてくれたからこそ
 ここまで来れた」

俊治が言うー
粧裕は、何も言わず俊治のほうを見ている。

「---小学生のころ、俺、いじめられてて
 本当につらかったけど、姉さんが
 教室まで乗り込んできてくれていじめっ子を
 成敗してくれたよな…

 中学の時も、受験に悩む俺を
 必死にサポートしてくれたし、

 高校の時もー

 いつだって、姉さんは俺の味方だった

 本当にうれしかったし
 今、こうしてここに立っていられるのは
 姉さんのおかげだよ…

 いじめられたままだったら
 俺は不登校になって、今もびくびくしながら
 生きていたかもしれないし、
 高校にだって、行けなかったかもしれないー

 だから、姉さんには感謝してる」

俊治がそこまで言うと、
粧裕は、無言で俊治のほうを
見つめていたー。
複雑な表情でー

「--粧裕に憑依して会いに来てくれたのも…
 俺のためなんだって、分かってる…
 
 俺が行方不明になった姉さんのこと
 ずっと気にしてたから、俺にだけは教えてくれようと
 したんだと思うし、
 粧裕にそうして憑依したのは、
 粧裕の浮気とかそういうことを…心配して、だって
 ことも分かってる。

 でも…それでも」

「ブーっ」

俊治の言葉を遮って粧裕が言った。

「---ひとつ、ハズレ。」

とー。

粧裕は笑いながら言った。

「でー?どうするの?
 わたしを殺すの?それとも…?」

姉の水穂を選ぶのかー
彼女の粧裕を選ぶのかー

そんな、究極の選択を強いられているー
姉の水穂は、粧裕の身体から
抜け出したら、もう消えてしまうのだというー
憑依の回数に限界があるのだと。

もちろん、それが本当かどうか
確かめるすべはないー。

けれどー
粧裕を選べば、姉の水穂は消えるー
そんな気がしてならなかった。

「--姉さん…ごめん…」
俊治は頭を下げた。

「------」
粧裕は無言で俊治を睨んでいる。

”ごめん”

その言葉を聞かなくても、姉の水穂にはわかっていたー

俊治はきっと、粧裕を選ぶー。

それでこそ、わたしの弟だとー。

「-----そう」
粧裕は愛想なく、そう呟いた。

俊治は続けるー

「さっきも言ったけどー
 姉さんだってそうなんだー

 身体も、中身も姉さんじゃなきゃ…
 俺にとって姉さんじゃないんだー…」

俊治が悲しそうにして言うと、
粧裕は俊治を睨みながら近づいてきた。

俊治は目をつぶるー

”姉さんを怒らせてしまったのかー?”

そして、俊治は目を瞑ったまま叫ぶ。

「--ね、、、姉さん…粧裕だけは
 助けてやってくれ!
 か、、身体が欲しいなら、俺のをあげるから…

 お、俺、男だけど、ほら、姉さん賢いから
 きっとすぐ慣れるから!
 な、、なんなら、、俺は嫌だけど
 女装してもいいから!」

わけのわからないことを叫ぶ俊治ー

”何かされるー”

そう思った直後だったー
粧裕は、俊治の頭をポンポン、とやさしく撫でた。

「--姉さん…?」
俊治が顔を上げると、そこにはほほ笑む粧裕の姿があったー。

「--ふふふ…やっぱり、俊治は俊治ね…」
それだけ言うと、粧裕は笑いながら言うー

「大丈夫。粧裕ちゃんは浮気してないよ。
 あんたをちょっと、試しただけ」

そう呟く粧裕ー

「え…」
俊治が言うと、
粧裕は続けた。

「さっき言ったでしょ?ハズレって。

 あんたは、
 ”粧裕にそうして憑依したのは、
 粧裕の浮気とかそういうことを…心配して、だって
 ことも分かってる。”
 って言ったけど、違う。

 粧裕ちゃんは浮気してない。
 私の彼氏の正樹は、複数の女に声をかけていて
 みんな、そのことを知らなかったの。
 粧裕ちゃんもその一人…
 
 正樹がそういう男だって知らずに
 仲良くしてたみたいー」

俊治はその言葉を聞いて安心したー

姉によれば、
正樹が姉の水穂を殺した直後に
粧裕は、正樹に違和感を感じて
すぐに正樹から離れたらしいー。

粧裕は、浮気なんかしていなかったー

「---…じゃあ、どうして…?」
俊治は首をかしげる。

さっき、粧裕に憑依した水穂は、
粧裕が浮気していたかのような
言い方をしていたし、
粧裕に復讐するような言い方もしていたー

「--あんたを試すため」
粧裕が笑う。

「わたしがあんたを誘惑して
 粧裕ちゃんを捨てたりしないかどうか、
 試したのー。

 粧裕ちゃんには、わたしみたいに
 彼氏に浮気されて、傷ついてほしくないからー」

その言葉に、俊治は苦笑いする。

「姉さんは、、昔からそうやって、
 俺をからかうの好きだなぁ・・・」

そう呟きながら、空を見つめる俊治ー。

「--でも…俺は姉さんにも消えてほしくないー
 何か方法を考えるからー」

俊治がそう言うと、粧裕は首を振った。

「それは、無理…
 こうしていられるのも、あとちょっとなの…

 最初に言ったでしょ?
 ”時間がない”ってー。
 
 どのみちわたしが、こうしてほかの人に
 憑依してられるのは、あと数分ー」

粧裕は悲しそうに呟くー。

”死後の世界”は分からないが、
とにかく、姉の水穂がこうして
今の世界にいることができるのは
あと数分なのだろうー。

「--でも、よかったー」
粧裕は一安心したように言う。

「あんたなら、彼女を悲しませることはなさそうだし、
 ちゃんと、わたしのことも伝えられたしー。」

満足気にほほ笑む粧裕ー

俊治は空を見つめながら、
悲しそうに呟くー

「ごめん…姉さん…
 姉さんを、助けてあげられなくて」

姉の水穂は小さいころから
いろいろと自分のことを助けてくれたー

なのに、自分は
姉の水穂を助けてあげることができなかったー。
山奥で一人、殺されー
誰にも気づかれないまま1年も経過してしまった。

「ごめん…姉さん…」
俊治は涙をこらえながら振り絞るようにして言った。

粧裕は、そんな俊治の頭をやさしく撫でたー

「--大丈夫。
 俊治は何も悪くないよー。
 それに、その気持ちだけで十分」

粧裕はそう言うと、”あ、もう時間がないや…”と呟いた。

「ま、、待ってくれ…姉さん…俺…!」
俊治が粧裕のほうを見て言うと、
粧裕は「待たないっ!」と笑いながら呟いた。

そして、早口で言うー

「わたしのこと…
 みんなにも伝えてあげて…

 お父さんとかお母さんにも…

 このままずっと”行方不明”でもいいかな…?とも
 思ったんだけど、
 やっぱり、…ちゃんと伝えなくちゃいけないな…って。

 本当はお父さんお母さんとか、友達にも
 伝えに行きたかったけど、
 時間がないから…」

粧裕は、それを伝え終えると、さらに続ける。

「俊治、この子を幸せにするのよ。
 私の彼氏だった男みたいに
 浮気したら許さないからね!」

粧裕はお姉さんっぽくそう言うー

俊治は「分かってるよ!
俺、器用じゃないから浮気なんてできねーし!」と
苦笑いしながら返事を返す。

「--う~ん、そのぐらいかな…」
粧裕は、満足そうに微笑んだー

粧裕に憑依している水穂が
”消える前に伝えたいこと”を
すべて伝え終わったー。

雪景色を見つめながら、
粧裕は静かに俊治のほうに歩み寄るー

「-----」

そしてー
粧裕は、静かに俊治の頭を撫でた。

「--頑張ってー」
それだけ言うと、静かにほほ笑んだ粧裕は、
俊治に背を向けた。

「--粧裕に撫でられるって変な気分だなぁ・・・」
俊治が苦笑いしながら言うと、
粧裕は少しだけ笑いながら呟いた。

「じゃあ…もう行かなきゃ」
粧裕は悲しそうにそう呟いた。

今度こそ、本当の別れー

「---姉さん…」

雪が舞う中、俊治は
悲しそうに呟く。

”いかないでくれ”
とそう叫びそうになった。

でもー
姉の水穂はもう死んでいるー
ここで、俊治がどんなに願っても
水穂はもう、死んでいるー。
それは、変えようのない事実。

別れるのは、姉の水穂だってつらいはずー。

だからー。
俊治は”いかないでくれ”と喉まで
出かかった言葉を、口にはしなかった。

「--姉さん、会いに来てくれてありがとう」
俊治はお礼の言葉を口にした。

「ううん…わたしこそ付き合ってくれてありがとう。
 それと…彼女とのデート…
 邪魔しちゃってごめんね…」

粧裕がそう呟くー

粧裕の身体を借りることでしか
こうして俊治と接触することは
できなかったのだろうー。

「---……粧裕ちゃんには、、
 ちゃんと、説明しておくから」

粧裕はそう呟くと、背を向けたまま、
黙り込んだ。

「姉さんー…
 俺がそっちに行ったら、またいろいろ話そうな…」

俊治はそう呟くと、つけ加えた。

「何十年後…いや、何百年後かもしれないけど」

ーと、少し笑いながら。

「--何百年後って…あんた、何歳まで生きる気よ」
そう言って、粧裕は少しだけ笑うと、
振り向いて、ほほ笑んだー。

「--俊治ー、さようならー」

そしてー
粧裕はその場にゆっくりと倒れたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

白い世界ー

そこに、粧裕はいたー

見知らぬ女性が近くにやってくるー

「-----え??だ…だれ?」
粧裕が子供のように疑問を口にするー

やってきたのは、水穂ー

「ごめんなさい、あなたの身体を借りてしまって」
俊治の姉・水穂はそう言うと、
首をかしげる粧裕に向かって、頭を下げた。

もう、時間がない。

水穂は、頭を下げたままはっきりとした口調で言った。

「俊治のことー
 よろしくお願いしますー」

ーーと。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

雪山から下山する二人。

「--だいじょうぶか?」
俊治が、一緒に歩く粧裕を心配する。

けれど、粧裕は
「だいじょうぶだいじょうぶ~!」と
いつも通り元気そうだったー。

記憶が飛んでいることも、
「わたし、疲れてたみた~い!」と
気にしていない様子だ。

俊治は、そんないつも通りの粧裕に
安心しながら、
少しだけほほ笑んだー。

姉の遺体の件は、どうにかしなければならないが
それはこれから考えようー

1年間行方不明だった姉ー
どこかで、生きているのではないかという希望ー

それらと決別することになったこの日ー。

1年間、どこか、ぽっかりと開いていた穴が
ふさがったようなそんな気分になりながら、
俊治は、姉の分まで強く生きることー
そして、粧裕のことをしっかりと
支えていくことを決意するのだったー

「---…」
粧裕は、先に歩いていく俊治の姿を見ながら思うー。

”俊治とあなたのこと、応援してますからー…
 頑張ってくださいね”

目覚める前に、俊治の姉・水穂に言われた言葉を思い出す。

あの人が、誰だかは名乗ってくれなかったー。
けれど、粧裕にはなんとなくわかったー

「素敵なお姉さんだったね」
粧裕がふと呟くと、
俊治は「ん?」と振り返るー

そんな俊治を見て、
粧裕は「なんでもな~い!」と無邪気にほほ笑む。

”俊治のこと…
ちゃんと幸せにしますから、見ててくださいね”

粧裕は、雪山のほうを振り返りながら、
静かに、そう呟いた…。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

今年の小説も、あと3本!
明日からの入れ替わりモノ(2話)と、
30日の小説、そして最終日の小説デス~!

ダークじゃない作品は、
”雪舞う日の決別”が今年最後になるかも…?
ですネ!

今日もありがとうございました!!

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憑依<雪舞う日の決別>

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