1年前に消息を絶った姉が
彼女の粧裕に憑依した…。
そんな粧裕に戸惑いながらも、
彼氏の俊治は、
”選択”を強いられることになるー
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「----…わたしは、1年前にここで死んだの」
粧裕が難しい表情をしながら言う。
普段の粧裕が見せない表情だー。
今、彼女の粧裕は、
俊治の姉である、水穂に憑依されているー
…と、言っている。
憑依なんてこと、信じられないが、
もしかしたら本当なのかもしれない、と
俊治は次第に思い始める。
「---…で、、でも1年間もなんで…?」
俊治が言うと、
粧裕は自虐的に笑う。
「この場所は…人がほとんど来ない場所だから…
見つからなかったのね…」
粧裕の言葉に、俊治は、
”そ、そんな…姉さん…”とつぶやくー
1年間も連絡がつかなかったのだから、
当然、そういう覚悟はしていたー
だがー”連絡がつかないだけ”
どこかで、希望を抱いている自分もいた。
けれど、今日、
こうして、姉の水穂らしき遺体を見つけてしまった以上、
もう、その希望はないー。
あるのは、絶望だけ。
「---…そ、、そんな…」
俊治が悲しそうに首を振る。
「--姉さん…教えてくれ…
何があったんだ…?」
俊治が言うと、
粧裕は、普段見せないような表情、
普段とはまるで違う口調で、
静かに話し始めたー。
1年前ー
わたしには彼氏がいたのー。
大学で知り合った彼氏ー。
とても、仲が良かった。
でもねー
その彼氏は浮気していたの。
別の大学の子とね…。
そのことが分かったわたしは、
彼氏の正樹(まさき)のことを問い詰めたのー。
そしたら正樹は
泣きながら謝ってきた。
泣きながら浮気を認めて
浮気相手とは縁を切ることを約束してー
これからは水穂のことだけを見るって、
そういってくれたー。
でも、
今考えてみると、そんなの
都合の良いウソだったのよね…
当時のわたしは、彼に、正樹に夢中だったから
そんな簡単なことで
騙されちゃった。
それでね…
クリスマスの日、一緒にデートしないかって
誘われて、ここに来たの。
夜景スポットとして有名でしょ?
でも、彼は、その場所には向かわず、
ここにわたしを連れてきたー
”ひみつの場所があるんだ”って、ねー。
でも、ウソだったー。
正樹は、浮気が発覚しないように
わたしを殺そうとしてたの。
そうとも思わなかったわたしは、
ここに来て、
俊治、あんたが今立ってるその場所から押されてー
あそこに落っこちたー。
落っこちてもね…
わたしはすぐには死ななかったー。
でも、
こんな場所には誰も来てくれないー。
一人で、
舞ってくる雪を見ながら
徐々に弱ってく自分の身体で、
助けてって、つぶやきながらー
わたしは、、死んだの。
・・・
粧裕が、水穂の言葉を
語り終えると、
俊治のほうを悲しそうに見つめたー
「---…そ、、、そんな…」
俊治は、もう一度崖下の、水穂の遺体らしきものを見つめるー
「姉さん…」
俊治は、粧裕に憑依しているのが
本物の姉であると確信する。
確かに姉の水穂は、消息を絶つ数か月前から
彼氏ができたといっていたー。
「--どうして、今、この時期に…?」
俊治が疑問を口にする。
こうして、自分の死を教えてくれるなら
なんでもっと早く教えてくれなかったのだろうかー
そんな疑問が湧いたのだ。
「---死後にもいろいろあってね…
ちょうど1年のタイミングは、この世界に
戻ってきやすいタイミングなの」
粧裕はそう口にしたー。
死後の世界ー。
そんなものが本当にあるのだろうかー。
だが、
それを確認するすべは、
今の俊治には、まだない。
「---…そ、、その、姉さんを殺した彼氏はー」
俊治が言うと、
粧裕の表情が憎しみに染まったー
「---あなたに会いに来る前にー…
死んでもらったわ」
と、粧裕はつぶやいた。
「---わたしを裏切った罰よ…
ふふふふふふ…くくくくくくくく」
粧裕が不気味な笑い声をあげる。
「--姉さん…」
俊治は少し心配になるー
”姉さんは悪霊になっているんじゃないか”
とー。
「---わたしがこの世界に戻ってきたのは、
俊治…あなたにこのことを伝えるためー
そして、あなたに会いにくるためー」
粧裕がやさしく微笑んだー
身体は粧裕だが、その微笑み方は
確かに、姉の水穂のものだったー
「姉さん…」
俊治は悲しそうに拳を握りしめた。
姉が、こんなに苦しんでいたのに
自分は何も気づかず、
何もすることもできなかったー
「そしてー」
粧裕がつぶやく
「--わたしを裏切った彼氏とー
わたしから彼氏を奪った浮気相手の
人生を奪うために
この世界に来たのー」
粧裕は、憎しみに満ちた笑みを浮かべたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
とある場所ー
そこでは、人だかりができていたー
突然、若い男が狂ったように
笑い出して、
そのまま飛び降りー
そして、死んだというのだ。
自殺ー
誰もがそう判断したー
自殺したのはー
正樹という名の男性ー。
数時間前に突然様子がおかしくなり、
笑いながら飛び降りたのだというー。
笑ったまま死んでいる正樹ー
真相を知るものは誰もいないー
1年前ー
自分が殺した水穂に憑依されてー
そのまま自殺させられたという
真相を知るものはー
誰も、いないー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「浮気相手…?」
俊治が言う。
雪が強くなる。
「えぇ、そうよ」
粧裕は笑いながら歩き始める。
俊治は、さっきの会話を思い出す。
1年前、彼氏の正樹には浮気相手がいて
それを問い詰めた、と粧裕は言っていたー。
そして、姉の水穂は、こうして粧裕に憑依する前に
元彼氏だった正樹を始末したとも言っていたー
「----」
”浮気相手ー?”
「--浮気相手は、この女よ」
粧裕が自分の頬をつんつんつつきながら言った。
「---!?!?」
俊治は表情を歪める。
「えっ!?!?さ、粧裕が!?」
俊治が叫ぶと、
粧裕はうなずいた。
「そう、この女が浮気相手よ!
わたしから正樹を奪った女!
だからね…!
わたし、奪うことにしたの!
この女の身体も心も!」
粧裕が怒り狂った様子で叫ぶ。
「そ、そんな…!?」
俊治は戸惑うー
彼女の粧裕が、
姉の彼氏の浮気相手だった…?
そんな、はずはー?
「---残念だけど、事実よ」
粧裕はイライラした手つきで
粧裕のスマホをいじるー
そこにはー
正樹と粧裕のツーショット写真が
保存されていたー
「---!!!」
俊治は表情を歪めた。
粧裕に元カレがいたという話は
聞いたことがなかったー
「奪われたら奪い返す」
粧裕が小さくつぶやく。
「--わたしは、この身体を乗っ取って
粧裕として生きていくの!」
粧裕が自分の顔を触りながら
嬉しそうにほほ笑んだ。
「ま、、ま、待ってくれ!」
俊治が叫ぶ。
「さ、粧裕の話を聞いてからでも
遅くないだろ!?
は、話を…
話を聞かせてくれ…!」
俊治が言うと、
粧裕は首を振った。
「だめよ。
何度も何度も憑依できるわけじゃないー。
この女から抜け出したら
今度こそわたしはこの世界に戻ってこれなくなるかもしれないー。
もう、この身体は返さない」
粧裕はそうつぶやくと、
「これからは、この身体で水穂として
生きていくの。
私流にアレンジしてね」
その言葉は、本気だったー。
「ね、、姉さん…!」
俊治はすぐに言葉を返すことができずに
戸惑ってしまうー
どうすればいいのだろうかー、と。
「--俊治…ごめんね…
せっかく彼女ができたのに…
あ、そうだ!
身体は姉弟じゃないんだし、
このまま彼女として…」
「--ま、待ってくれ!」
俊治は粧裕を乗っ取った姉の言葉を
遮って叫んだ。
「---粧裕を…解放してくれ」
ーと。
俊治の言葉に
粧裕は俊治を睨みつける。
「--粧裕と正樹は、今も続いていたのか?」
「------…」
粧裕は答えない。
「わたしってば、”妹”として
可愛がられちゃうんだけど、
恋愛対象としては見られないんだよね~!
粧裕はそう言っていたー。
もしも、もしも粧裕が、正樹と今も続いていたならー
俊治のことも裏切っていたことになるー
俊治は、”粧裕に話を聞きたい”
と、そう思ったー。
「---なぁ、、姉さん…
俺の知ってる姉さんは、いつもやさしくて、
ちょっと口うるさいけど…
そんな、そんな人の身体を奪うような人じゃなかっただろ!」
俊治がそう言うと、
粧裕は自虐的に笑う。
「……きれいごと…
人は、変わるの。
俊治、あんたが同じ立場だったら、
どうするー?
恋人に浮気されていて、自分は殺されてー
それでも、あんたは笑ってられるー?
やさしいだのなんだの言ってられるー?」
「---…そ、、、それは…」
粧裕の言葉に、答えることができずに困惑する俊治。
「----できないでしょ?」
粧裕はそう言うと、
「これからはわたしが粧裕…
奪われた命を、奪い返すのよ」
粧裕は怒りの形相で握りこぶしを作って、
少しだけ笑みを浮かべた。
「----……」
俊治は、困り果てた表情を浮かべたあとに
粧裕のほうを見つめた。
「---姉さん、頼む…
粧裕からちゃんと話を聞かせてくれ」
俊治が言う。
粧裕は、そんな俊治の言葉を無視した。
「--気にしないで俊治。
わたし、ちゃんと粧裕としてふるまうから。
それなら、何の問題もないでしょ?」
粧裕が笑いながら言う。
「---頼む。粧裕と話をさせてくれ」
俊治は地面に積もった雪に手を
つきながら叫ぶ。
まるで、土下座のような恰好ー。
粧裕は笑う
「-ー俊治の好きなことなら何でもしてあげる。
エッチなことでも。
この女は、そういうことしてくれないでしょ?
わたしなら、恋人として
そしてお姉ちゃんとして、なんでもしてあげられる」
俊治は、粧裕のほうを向いて、
さらに頭を下げながら叫んだ。
「姉さん!頼む!粧裕と話をさせてくれ!」
嘆願するようにして叫ぶー
姉の水穂のことは今でも慕っているー。
けれど、このまま粧裕が姉に乗っ取られたままでいいのか?
と言われればそれは別問題だー
水穂の話を一方的に聞き入れて
粧裕が浮気していたと決めつけるのは
早すぎるし、ちゃんと粧裕の話を聞きたいー
俊治はそう思ったー
「------」
粧裕が俊治のほうを睨んでいる。
「--別にいいじゃない。
見た目はこの子のままなんだし。
わたしなら、もっとおしゃれに、
もっと俊治の理想の彼女になってあげられる。
俊治のことなら、なんだって
知ってるんだから」
粧裕は、少しニヤニヤしながら
そうつぶやいた。
それでも、俊治は、誘惑には負けなかった。
「--見た目は同じでもーー
中身は違う!
俺は、、見た目と中身が粧裕じゃなければ
それは粧裕じゃないんだ!」
俊治が叫ぶと、
粧裕は表情を曇らせながら
俊治のほうを睨む。
「---あんたに、わたしを”殺す”ことができるの?」
粧裕が低い声を出したー
脅すようにして言うー
「は…?ど、どういうことだよ…?」
俊治は戸惑うー
雪が降り注ぐ中ー
誰もやってこない2人だけの山奥で、
粧裕が静かに言葉を続けるー
「--わたしは、何度でも憑依できるわけじゃない。
たぶん、これが最後…
この女の身体からわたしが出ていれば…
今度こそ、わたしは消えるのよ」
粧裕が低い声のままそうつぶやいた。
「--…そ、そんな…」
俊治は戸惑うー
彼女の粧裕はもちろん大事だ。
そして、姉の水穂もー。
水穂の遺体が見つかった今ー、
水穂はもう死んでいるー
けれど、こうして粧裕に憑依して
水穂は今も存在しているー
「---わたしを追い出さないと、
この女を助けることはできないー
でも、この女を助ければ
わたしはこの身体から出ていくことになって、
消えるー」
粧裕がニヤニヤしながら言う。
「--……あんたに、わたしを殺せるの?」
とー。
「----姉さん…」
俊治は震えるー。
姉も彼女もー
どっちも大事だー
その時だったー。
粧裕が俊治に抱き着いてきた。
「わたしなら…俊治をもっともっと楽しませてあげられる♡」
甘い声を出す粧裕。
「ね…姉さん…」
粧裕の身体が触れ、俊治は自分がドキドキしているのが
分かったー。
このまま姉を受け入れればーー
一瞬、そんな考えが頭をよぎるー
俊治は、粧裕のほうを見つめると
静かにほほ笑みー
そしてー
雪が降る中ー
俊治の行動に、粧裕は目を見開いたー。
③へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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2019年も残りあとわずかですネ~!
今年も最後まで頑張ります~!
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