<憑依>雪舞う日の決別①~姉~

1年前に消息を絶った姉ー。

その悲しさも癒えてきたある日、
彼女の身に異変が起きたー…!

彼女は言うー。
「自分は1年前に消息を絶った姉」だとー。

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大学生の黒部 俊治(くろべ しゅんじ)にはー
姉がいたー。

「----姉さん…」
俊治は、部屋に飾ってある
姉の写真を見つめるー

今でも、時々思い出す。
姉の水穂(みずほ)は、
とても優しい性格で、
弟の俊治のこともとても可愛がってくれていた。

立派に夢に向かっていた姉のことを
俊治も弟として、応援していたー

けれどー

俊治は、窓の外を見つめる。

外には、雪が舞っているー。

そうー
あの時も、雪が舞っていたー

1年前ー
姉は、突然姿を消した。
何があったのかは分からない。

だがー
ちょうど去年の今ぐらいー

そう、クリスマスの時期に
姉の水穂は姿を消したー

連絡がつかなくなり、
警察による捜索が行われたものの、
結局、水穂は見つかることはなかったー

弟の俊治は、
今でも水穂が生きていると
信じているー

けれどー
心のどこかでは分かっている。
”姉さんが生きているのなら、何の連絡もしてこないなんて
 ことは、ありえない”

とー。

そう、ありえないのだ。
姉の水穂が、家族に何も連絡をせずに
いなくなってしまうなんてー…

と、すれば、答えはひとつ。
”姉さんはもうー”

♪~

そんなことを考えていると、
部屋のインターホンが鳴った。

「はい」
俊治が外に向かうと、
そこには可愛らしい女子大生がいたー

「お待たせ~!
 ちょっと早く来ちゃった~♪」

とても元気で、ちょっと幼い感じの
女子大生ー
白山 粧裕(しらやま さゆ)ー。

この日、彼女である粧裕と
約束をしていたー

と、いうのも今日はクリスマスー。
ちょうど、大学が休みなこともあって
二人は一緒に時間を過ごす約束を
していたのだった。

「俊治と一緒にクリスマス過ごせるなんて
 嬉しいなぁ~!」

ぴょんぴょん飛び跳ねる粧裕。
履いているスカートが短くて
ぴょんぴょん飛び跳ねると
見えてしまいそうだ―。

だが、ちょっと考え方が子供っぽい…というか、
無邪気な粧裕はお構いなしだった。

「わたし、彼氏とクリスマスとか、
 初めてなんだ~!」

「へ~!俺もだよ!」
俊治は笑いながら言う。

「-ーでも、粧裕は、恋愛経験とか
 多そうに見えたけどな~」
俊治が言うと、
粧裕は、「そ・れ・が~!」と指を振りながら言うー。

「わたしってば、”妹”として
 可愛がられちゃうんだけど、
 恋愛対象としては見られないんだよね~!

 ほら!こんな性格だし、
 ちょっと子供っぽいし!」

”自分で言うか~?”と
俊治は苦笑いしながらも、
「--俺はちゃんと恋愛対象として見てるよ~」と微笑んだー。

粧裕と出会ったのはー
そう、ちょうど姉の水穂が消えて
落ち込んでいる頃だったー

酷く落ち込んでいる俊治にー
臆することなく、声をかけてきてくれたのが
粧裕だー。

最初はうるさいやつだと思った。
放っておいてくれと思った。

けれどー
色々絡まれるうちに、俊治は気づいた。

”この子は、優しい”
とー。

言動は子供っぽいが、
芯はしっかりしているー
そんな風に思い始めた俊治は
粧裕の明るさに次第に励まされていき、
とうとう、告白するに至ったのだったー

「--ねーねー!今日はどこに行く~!?」

「---そうだなぁ~…
 どこに行きたい?」
俊治が言うと、
粧裕は
「ご飯も食べたいし~遊園地に~映画に~」と
行きたい場所を適当に羅列し始めるー

粧裕は物事を深く考えないタイプだ。
もちろん、本当に全部1日で回れるとは
思っていないだろうけれどー
自分の欲望をすぐに口にする。

「はは…じゃあとりあえずまずはー」

「---ひぅっ!?!?」
突然、粧裕がビクンと震えて、
ふらりと、する。

「--粧裕!?」
俊治は慌ててふらりとした粧裕を押さえるー

めまいでもしたのだろうかー?

「大丈夫か?粧裕」
俊治が慌てて言うと、
粧裕は俊治の方を見たー

さっきまでのへらへらした感じの
雰囲気が無くなり
真剣な表情で俊治の方を見つめる粧裕。

「ど、、どうしたんだよ…?」
不安になりながら俊治が声をかけると
粧裕は呟いた。

「俊治…」
粧裕の声の雰囲気も少し違ったー

確かに粧裕の声であることには違いないが
いつものうるさい感じではなく、
大人のお姉さんの声ー

そしてー
粧裕は、信じられない言葉を続けたー

「---久しぶり」

とー。

「---!?」
俊治が表情を歪める。

「さ、、、粧裕…?何を言ってるんだ?」
粧裕が何を言っているのか、
まるで分からない。

”久しぶり”とは、何かー?

「----わたしよ…」
粧裕が、普段とは別人のような
雰囲気を曝け出しながら
にっこりとほほ笑んだー

「---水穂よー」
粧裕の口から、姉の名前が出たー

「-----!!」
俊治はドキッとしたー

姉さんー?
いや、そんなはずがー。

一瞬、姉さんが帰ってきてくれたんだ!
と、そう思ったが、
すぐに俊治は正気を取り戻した。

”いやいやいやいや、そんなわけあるか!”

「---はは、、おいおいおいおい、粧裕、
 さすがにちょっとそれは冗談きついよ」
俊治が言う。

もしかしたら死んでいるかもしれない
消息不明の姉の名前を出して
からかうー
というのは、さすがにちょっといたずらにしては
度を越しているのはないか?

とー、俊治はそう思った。

「---ねぇ、落ち着いて聞いて。
 わたしは水穂」
粧裕が、いつもと違う喋り方で言う。

「---お、、おい、やめろ!」
俊治は言うー

俊治は粧裕のイタズラだと思っている。

「いい?わたし、急いでるの!落ち着いて聞いて!」
粧裕が叫ぶ。

「--おい!やめろって言ってるだろ!」
俊治が叫んだ。

「--姉さんの…姉さんのことを
 ネタにするのはやめてくれ…!」
俊治が泣きそうになりながら言うー

突然、消息を絶った姉の水穂ー
あの時の傷は、
未だに完全には癒えていない

いやー
これからもずっと、
心の中に”傷”として
残って行くのだろうー。

「---姉さんのことは…
 いじらないでくれ…」

俊治は、涙を流しながらそう呟いた。

「------」

だがー
粧裕は、呟いた。

「---苦しませてごめんね…俊治」

とー。

「---!?」
俊治が顔を上げるー

優しく微笑む粧裕ー。

その笑みがー
姉の笑みとだぶって見えたー

「---ま、まさか、本当に姉さんなのか…?」
俊治が言うー

その言葉を聞いた粧裕は
静かにうなずいた。

「--ちょっと、付き合ってほしい場所があるの」
粧裕が言う。

いつもとは全く違う口調ー

イタズラかー?
俊治はそんな風に思いながらも、
立ち上がるー
よく考えたら、
粧裕にこんな、姉のふりをして
からかうなんて高度なテクニック(?)は
存在しない気がするー。

と、いうことはーー

「--ま、待ってくれ…
 ま、まず話を…」

「--いいえ、話は歩きながら」
粧裕はそう言うと、
フリフリなミニスカート姿の
身体を見つめて呟いた。

「はぁ…歩きにくい格好」
そう呟くと、粧裕は言った。

「--5分で支度して」

とー。

俊治は戸惑いながらも、
手早く支度を済ませて、
姉の水穂を名乗る粧裕と共に外に出たー

雪が降っているー

粧裕は空を見上げながら呟く。

「あの日と同じ…ね」

とー。

俊治と粧裕は、
近くの山に向かったー

中腹のあたりでは、
綺麗な夜景が見える
人気のスポットだ。

だがー
まだ夜じゃないし、
何より雪が降っているこのタイミングで
ココに入って来るのは危険だ

「---ちょ、ちょっと待ってくれ!
 粧裕…!」

俊治が叫ぶと、
粧裕は立ち止った。

「粧裕じゃない…!
 わたしは水穂よ」

粧裕の外見でそう言われても…と
苦々しく思いながら俊治は仕方がなく
口にする。

「さ、、粧裕…じゃ、じゃなくて姉さん…
 こんなところに来てどうするつもりなんだ?」

俊治が言うと、
粧裕は、「話しておきたいことがあるの」とつぶやいた。

「ここじゃ、ダメなのか?」

雪が舞う中ー
俊治がそういうと、
粧裕は首を振った。

”ここではだめなの”

とー。

いつも、子供っぽくわいわいしている雰囲気な
粧裕が、まるで別人のようにー
本当に姉と同じような雰囲気で
俊治のほうを見ている。

「……なぁ、本当に姉さんなら
 教えてくれ…!
 姉さんは今、どこにいるんだ?」

俊治の言葉に、
粧裕は、「それをこれから教えるの」と
言って、奥へと進んでいくー

俊治はやれやれという様子で
粧裕に続くー

1年前に消息を絶った姉ー。
それがどうして今、現れたのかー
それがどうして、粧裕の身体に入ったのかー

そもそもー
粧裕に姉の水穂が憑依するなんて
あまりにも非現実的すぎる…。
やはり、粧裕の仕掛けたドッキリ
なのではないかー。

いろいろな気持ちが交錯する中、
粧裕はようやくある場所で
立ち止ったー。

時刻はすでに昼を過ぎて
夕方になりつつあるー。

「--ここよ」
粧裕が立ち止った。

「---…?」
俊治は周囲を見渡す。

何もない場所ー。
そもそも一般の観光客は
立ち寄らない場所だし、
下手をすれば遭難する可能性があるー。

「---ここが、なんなんだ…?」
俊治が尋ねる。

わけがわからない。

「大体…姉さんなわけないよな…?
 粧裕…そろそろ悪ふざけが過ぎるぞ…?」
俊治がため息をつきながら言うと
粧裕は俊治を睨むようにしていった。

「お願いー信じて…時間がないの」

時間がない?
どういうことだ?

俊治はそう思いながら
粧裕が指をさした方向を見る。

崖のようになっている部分の先ー

「--あそこに、何かあるのか?」

そういいながら、俊治が
そちらのほうに歩いていくとー

ーーーーーー!!!!!

俊治は思わず表情をゆがめたー

かなり時間が経過しているー
激しく劣化した人間の遺体が
そこにはあったのだー

「--な、、なんだこれは!?」
その瞬間、俊治は殺気を感じたー

自分も殺されるのではないかと
直感しー
慌てて振り向いたー

だがー
そこには、腕を組んで俊治のほうを見つめる
粧裕の姿があったー

「ほっ…」
俊治はほっとする。

あの位置にある遺体ー。
おそらく、俊治が今立っているこの場所から
押されて転落したものだろうー。
遺体を見た恐怖からか、
自分も押されてあの場所に転落するイメージが
ついつい浮かんでしまったのだった。

だがー
そんなことはなかった。

「あ、あれは…?」
人間の遺体らしきものを見たのは
これが初めてだ。
俊治は恐怖を感じながら
粧裕のほうを見る。

粧裕は悲しそうな表情をしながら言ったー

「あれは…わたし…」

その言葉に、俊治が振り返るー。

「---!?」
もう一度、がけ下を見るー

遺体のすぐそばにーー
姉がいつも使っていたカバンが
転がっていたー
かわいらしくも落ち着いたデザインの鞄ー。

「---え、、、、ね、、、姉さん…?」
震えながら言う俊治。

もう一度、粧裕のほうを見ると
粧裕はうなずいた。

「そうー
 わたしは1年前…ここで、死んだの」

その言葉に、俊治は凍り付き、
何も言うことができなかったー

②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・

コメント

今日がクリスマス当日ですが、
昨日の小説と、その前に3日間続けた
入れ替わりものがクリスマスモノだったので、
今日は関係ないお話にしました~☆笑

今年もあともう少しですネ!

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憑依<雪舞う日の決別>

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