憑依した優子の身体で
嘘に嘘を重ねていく彼…。
憑依の魔法を覚えた童貞男は
次第に追い込まれていく…。
--------------------
「あ、そ、そっか、妹さんだったんですねー」
親友の拓真が言う。
「--え、、あ、はい」
優子の身体に憑依している恭平は、
咄嗟に嘘をついてしまった。
自分が恭平の妹であると。
「--あ、ちょっといいですか?」
拓真が、恭平の部屋の中に
入ろうとするー。
拓真はよく恭平の家にやってきていて
強引に部屋に入ることのできる
間柄だ。
部屋で恭平が寝込んでいると言われた
拓真が、無理やり中に入ろうとする。
「--ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!」
優子に憑依している恭平が慌てて叫ぶ。
「あ、ちょっと、あいつに聞きたいことがあるだけですから」
拓真が言う。
「--あ、いえ、だ、だったら、俺が、いや、わたしが
代わりに聞いてきますから」
優子の姿でそう言うと、
拓真は「そ、そうですか?」と呟いた。
「--じゃあ、例のやつ、いくつ買って来ればいいか
確認してきてもらえますか?」
拓真にそう言われた優子は、微笑みながら
部屋の奥へと引っ込むー
部屋の奥にー
恭平はいないー
当たり前だー
恭平は今、この優子という女子大生に憑依しているし
そもそも、拓真に対して妹と名乗ったものの
この女は妹ですらない。
見ず知らずの女だ。
憑依の魔法の犠牲者だ。
だがー。
ここで、面倒なことになると
最悪、逮捕されるかもしれないー
ビビりな性格の恭平は、
なんとかこの場を穏便に済ませたいと思っていたー
「---あ、え~っと…3個でいいみたいです」
玄関先に優子が戻って
拓真に伝えると、
拓真は”お手数おかけしました”と言って
そのまま頭を下げた。
”ふぅ~”
優子は内心でホッとため息をついた。
これでとりあえずは大丈夫だろう。
拓真のやつが帰ったら、この女の身体は
さっさと解放して、
別の身体で憑依の魔法を楽しむことにしようー
それにー
乗っ取った身体で自分の部屋に
入るのは、見られた時のリスクが高いなー?
恭平はそんな風に思うー。
誰かに見られれば、
彼女?妹?とか言われて面倒なことになるし
憑依から抜け出した後に
憑依されていた女が”俺の家に居た”ということを
知ったら何か問題になるかもしれないー。
”憑依”で好き放題できるのは魅力だがー
安易に、自分の部屋には入らないほうがいいなー。
恭平はそんな風に思った
”憑依”なんてこと、
周囲にばれることはないとは思うが、
使い方によっては、大変なことになるかもしれないー
「----」
あれ?
優子は、ふと首をかしげる。
親友の拓真が、まだ玄関前に立っていた。
「あ、、あの?」
優子が言うと、
拓真は顔を赤くしながら言った。
「それにしても、恭平のやつ
妹がいるとは聞いてたけど
こんな綺麗な人だなんて」
拓真が笑う。
(…)
早く帰ってくれ、と思いながら優子は
微笑んで
「あ、ありがとうございます」と答える。
(俺の妹は、正直、ブスだけどな)
優子に憑依している恭平は
そう思いながら呟く。
「--いやぁ~恭平のやつ、
羨ましいなぁ~」
おしゃべりな拓真は
なかなか帰ろうとしない。
早く優子の身体から
抜け出したかったが、
今、この場で憑依を解除したら
それこそ大変なことになる。
とにかくー早く拓真には
帰ってほしい。
「ふふふ、おれ、、じゃない、お兄ちゃんの
おかゆを作らないといけないので、
そろそろ失礼しますね」
優子は嘘をついて玄関を閉めようとした。
しかしー
「ーーおかゆ!?
俺が作りましょうか!?」
拓真が目を輝かせながら言う。
「--へ?」
優子は唖然とする。
「--俺、料理得意なんですよ!
いやぁ、ちょうどよかった」
そう言いながら、拓真が勝手に
家の中に入ろうとする。
「--ああ、いや、待って!待って!」
優子はイライラしながら叫ぶ。
早く、早く帰ってくれ、と思いながらー。
「---いやいや、俺がやりますって」
拓真が笑う。
拓真はー
優子に一目惚れしてしまっていたー。
優子のため、
優子を手伝おうとしていたー
「いやいやいや、いいから!」
優子が声を荒げる。
ここで家に入られたらまずいー
何故ならー
”熱で寝ている設定の俺”が
いないからだー。
「---お、俺、迷惑っすか?」
拓真が言う。
「--いや、あの、兄は高熱なので、
その、移ると悪いですから!」
咄嗟にそう呟くと、
拓真は顔を赤らめた
「優しいんですね…」
とー。
おいおいおいおいおい
やめろ!
余計な方向に話を持っていくな
そう思いながら
優子は微笑んで玄関の扉を閉めようとした。
さっきから興奮して頭がおかしくなってしまいそうだー。
自分の口から女の声が出ているー
それだけで、理性がはじけ飛びそうだ。
拓真を追い返したら
家の中でちょっと遊んで、
それからこの身体を解放するとするか。
「---やっほ~!」
聞き覚えのある声がしたー
「--!?」
優子は表情を歪めたー
ふくよかな身体に、
ちょっと特徴的な顔立ちー
大人になっても、ツインテールな…
妹の鈴美(すずみ)の姿がそこにはあった。
「--え?」
帰ろうとしていた拓真が首をかしげる。
優子は表情を歪める。
”おぉぉぉぉい!このクソ妹!
どうしてこんなタイミングに来るんだ!?”
「--あれ?お兄ちゃんの彼女さん?」
鈴美が優子の方を指さす。
”だぁあぁぁあ!余計なことを言うな!”
優子の表情は青ざめたー
さっき、拓真のやつに
”妹です”と名乗ってしまったー
まさか、ホンモノの妹が
この最悪なタイミングで俺の家に来るとは…
「----」
優子は、返事に詰まってしまう。
「--え?さっき妹って?」
帰りかけていた拓真が振り返って
こっちに戻ってくる
”いや、帰れよ”
心の中でそう突っ込みながら
優子は口を開いた。
「あ、、、い、、、いえ、、、」
震える優子ー
あまりのタイミングの悪さに
怒り狂いそうだった。
綺麗な手で拳を作りながら
優子は震える声で呟く
「あ、、、あの…はい…
わ、、わたしは……
あの…え、、、っと」
”彼女です”と宣言するしかなさそうだが
”彼女です”と言うと
あとで色々と面倒臭そうだ。
「---か、、彼女じゃなくて、
友達です」
優子がやっとの思いでそう答えると、
「ま、彼女さんみたいなものだよね!」
と妹の鈴美が答えた。
”ちがーう!というかもう帰ってくれ”
心の中で叫ぶ。
「へ~!あいつ、生涯童貞宣言してたのに
彼女さんなんてやるじゃないか~
…ってか、さっき何で妹って嘘をついたんです?」
拓真が言う。
「--え、、、そ、、それは、、、
き、恭平に、あいつには言うなって言われたので」
優子はそう答えた。
内心で”我ながらいい言い訳”と思いながらー
「あ~…生涯童貞宣言してたのに
彼女なんて作って、
俺に知られたくなかったんですね~」
拓真が笑う。
「おにーちゃん!」
鈴美が部屋の中に勝手に入って行く。
「あ!おい!」
優子は思わず叫ぶ。
拓真も嬉しそうに部屋の中に入って行く。
「おにいちゃんどこ~!?」
「あれ?いなくね?」
やばい…
優子はさらに青ざめる。
「あれーー?恭平のやつはどこに?」
拓真が不思議そうに聞いてくる。
「お兄ちゃんは~」
鈴美も聞いてくる。
う…うるさい!
この女の中にいるんだ!
…とは、叫べないー
いよいよ本格的にやばくなってきた。
「え、、、え~っと」
優子は苦し紛れの表情を浮かべながら
自分の部屋の蛇たちの方を見つめる。
「あ、、、え、、、えーっと…」
「あれ~~~~!?」
また別の声がした。
「--!?」
優子が声のした方を見ると、
そこには、同じぐらいの年齢の女がいた。
「優子じゃん!昨日から連絡取れなくて
心配したいんだよ~!」
と言う、その女。
「え…」
青ざめる優子。
「こんなところで何してるのよ~?」
優子の友人と思われるその女が言う。
やばい…
憑依してる身体の知り合いに見つかったー
これはいよいよ…
「--え、、、あ…」
優子は、挙動不審に
周囲をキョロキョロと見回す
「---え、、えと…
わ、、わたし、、、じ、、実は
ここの人とつきあってるのぉ♡」
動揺からか声が裏返ってしまう優子。
”くそっ!こんなはずじゃ…
せっかく憑依の魔法を覚えたんだから
この力を使って色々試したいのに…”
優子に憑依している恭平は
イライラしているのか、
綺麗な髪をさっきから
何度も掻き毟っている。
「---え~~~~!!」
優子の友人らしき女子大生が驚く。
「優子!それって、浮気ってこと!?」
友人が怒っている。
「えぇっ!?こいつ彼氏いんのかよ!?」
優子は思わず自分のことを
他人のように叫んでしまった。
拓真と妹の鈴美が
不審そうに優子の方を見ている。
「あ、い、いや、なんでもない!なんでも!」
優子はそう叫ぶと、
3人からの視線を感じながら
沈黙したー。
”恋人がいない”
恭平にとって、それは当たり前すぎる話であり、
優子に彼氏がいる、なんて可能性を
全く持って、考えていなかったー。
うかつだった。
「--え…え~っと…浮気って言うか…
これは、その…」
優子が困惑した様子で言う。
「--に、しても、よく恭平のやつと
付き合うことにしましたねぇ」
親友の拓真が笑う。
「--恭平のやつ、生涯童貞を宣言してましたし、
性格難だし、外見のことも何も気にしないし…
かなりきついと思いますけど」
拓真がゲラゲラ笑う。
妹の鈴美も一緒になって笑っているー
「うそぉ!?そんな男なの!?
優子~?その男に何かされたの?」
優子の友人が心配そうにしている。
優子は舌打ちを小さく何度も繰り返した。
”俺がこの女を乗っ取っている”とも知らずに
こいつらは言いたい放題だ。
「---はは、恭平のやつ、洗脳ごっことか
以前してたから、この子に何かしたのかもなぁ~
あいつ、三次元には興味ないけど、変態だし」
拓真が笑うと、
優子が突然、「テメェ!」と呟いて
拓真の胸倉をつかんだ。
「--ひっ!?」
拓真が驚く。
「----俺のこと、そんな風に思ってやがったのか?
あぁん?」
優子が、普段出さないような低い声で拓真を脅す。
「--お、、おれ…?」
拓真が驚く。
妹の鈴美も、優子の友人も驚いている。
そのことに気付いて、我を取り戻した優子は
笑みを浮かべた。
「な~んちゃって…あはははははっ…
ほ、ほら、恭平がいたらそう言うかな~って」
優子がそう言うと、
周囲にいた3人も苦笑いした
”…ってか、どうするんだよ
この状況…
やばくね?”
優子に憑依している恭平は不安を覚えるー
下手をすれば、
”憑依して好き放題やっている”というのが
ばれてしまいかねない。
早く、なんとかしないと…
優子は、三人を見つめながら、
どうしようか困り果てて
途方に暮れるのだった…。
③へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
せっかく魔法使い(?)になれたのに、
それを生かすことができてないですネ…!
憑依能力を持つ人間が
強引にどんどん行くタイプなら
すぐに解決できる気もしますケド…笑
お読み下さりありがとうございました~!
コメント