<憑依>いつからお前はお兄ちゃんになったんだ?①~妹~

高校時代から知る親友ー

そんな親友が”妹”と同居し始めた。

だがー、彼は思う。
”あいつに妹なんていなかったはずだ”

とー。

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大学生の戸川 啓祐(とがわ けいすけ)と、
その親友、木下 晃(きのした あきら)は、
高校時代からの付き合いだ。

偶然、同じ大学に進むことになり、
同じタイミングで、都心部へと出て来て、
一人暮らしを始めた。

そんな二人は高校時代と変わらず、
大学生になってからも
”親友”と呼べる間柄だった。

だがー

「お兄ちゃん~!」
大学から出てきた晃に向かって
可愛らしい女子高生が手を振っているー

「--あれ?あの子は?
 お、もしかして彼女?」
啓祐が笑いながら言うと、
晃は照れくさそうに呟いた。

「彼女なくて妹だよ」

とー。

「へー」
啓祐は何気なくそう返事をした。

「お兄ちゃん!今日もお疲れ様!」
晃の妹が、晃の荷物を受け取るー。
疲れている兄のために、
荷物持ちまでしてあげているのだろうかー。

「あ、香奈枝!ほら!俺の親友の啓祐!」

晃が”妹”の香奈枝に、
啓祐を紹介する。

「あ、どうも、こいつとは高校時代からの付き合いで」
啓祐が言うと、
セーラー服姿の香奈枝は、
「いつもお兄ちゃんがお世話になっています」と
微笑んだー。

「---」
啓祐は”違和感”を覚えたー。
香奈枝の全体像を見て、
何か違和感を感じるような気がするー

だが、それが何かは分からなかった。

「--じゃ、俺は香奈枝と一緒に帰るわ」

「おう。またな」

啓祐は、
晃と、その妹の香奈枝に向かって
手を振りながら別れた。

「--ずいぶん可愛い妹さんだな」
啓祐は思うー

に、しても、わざわざ地方から東京に
出て来て兄を迎えにくるなんて、
随分仲良しなんだな…

そんな風に思いながら、
啓祐は、
”いや、たまにしかお兄ちゃんと会えなくなったからこそ
 仲良しなのか”
と呟く。

啓祐と晃は、大学入学の際に、一人暮らしを
初めて東京にやってきた。
晃のやつの妹の香奈枝は高校生と言っていたから
まだ実家暮らしのはずだ。

大学に入ってから既に1年半ー
兄が恋しくなったのかもしれないなー…

帰宅した啓祐は、
のんびりしながら
趣味を楽しんだり、ご飯を食べたり、
一人暮らしライフを満喫していた。
将来の夢のための勉強もしているー。

だがー、
ふと気になったー。

高校時代の卒業アルバムが
たまたま目に入り、
眺めていた晃は、思うー

”あいつに、妹なんていたか?”と。

高校時代からお互いの家に
遊びに行ったりしていたが、
妹の香奈枝とやらに
一度も会ったことがないー。

それにー
あいつの家に何度か訪れた際に
表札には両親と晃の名前しか
なかったようなーー
そんな、気もする。
人の家の表札をいちいち具体的に覚えていないし
今は確認することもできないがー。

「--ま、アイツが妹だって
 言ってたんだし、
 あの子もお兄ちゃん!って言ってたんだから
 兄妹なんだろうけどな」

啓祐はそう考えると、
親友のことを考えるのをやめて、
一人、勉強を始めるのだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「--おにいさま…
 おにいいさま…
 おにいさま…

 この人はわたしのおにいさま…」

夜ー。

啓祐の親友・晃の家では、
妹の香奈枝がひとり、
兄の晃の方を見ながら
呟いていたー

「このひとはわたしのお兄様ー
 このひとはわたしのお兄様ー
 このひとはわたしの…」

香奈枝が何度も何度もつぶやくー

兄の晃は微動だにしないー
まるで、”抜け殻”のようにー

セーラー服姿の香奈枝が
何度も何度もつぶやくー

まるで、自分に
”晃が兄である”と刻み付けるかのようにー

香奈枝の鞄のスマホが音を立てる。

「この人がわたしのおにいさま…」

スマホを無視して呟き続ける香奈枝ー

香奈枝のスマホにはー
”ねぇ、いつ大学に来るの?どうしたの?”と
表示されているー

そしてー
妹・香奈枝のものと思われる
可愛らしい鞄の中にはー
”大学の学生証”が入っていたー
そこにはー
”皆本 璃子(みなもと りこ)という名前と
晃の妹・香奈枝の笑顔の写真が映し出されていたー…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日。

「そういや、昨日は妹さんとゆっくりできたか?」

昼休みー

啓祐がラーメンを食べながら晃にそう聞くと、
晃は、とんかつ定食を食べながら返事をした。

「ん?あぁ…ゆっくりできたよ。」

とー。

「---もう帰ったのか?」
啓祐が尋ねる。

高校生のようだったし、
向こうで学校もあるだろうから、
そう何日も何日も滞在することは
難しいだろう。

「え?あ、いや。
 帰らないよ」

晃が笑う。

啓祐は首をかしげた。

「香奈枝、こっちで俺と一緒に
 暮らすことになったんだよ。

 どうしてもお兄ちゃんと一緒がいい、
 って言うからさ。
 高校もこっちの高校に切り替えてさ」

晃の言葉に
啓祐が「へー!すげぇじゃん」と笑いながら言う。

啓祐は少し疑問を感じたが、
二人が同意してるなら口を挟むことじゃない。

「--妹がいるって羨ましいよ」

啓祐はラーメンのスープを飲みながら
そう呟く。

啓祐には、生意気な弟が一人いるだけだ。
最近もLINEでやりとりとかはしているが、
ここ半年は会えていないー

「--はは、そりゃどうも」
晃は笑いながらそう言うと、
とんかつ定食を食べ終えて立ち上がった。

「じゃ、ちょっと用事があるからもう行くわ」

「おう」

ラーメンのスープを飲みながら
啓祐は、立ち去って行く晃を見つめる、

”あ~あ!妹が欲しかったなぁ~”

ーー!?

「--」
啓祐は、ふと、高校時代の晃のセリフを
思い出したー

別のクラスメイトの妹を見たときに、
晃は確かにそう言っていたー。

そうー
あれは、文化祭のときだったー

「--え」
啓祐は表情を歪めるー

”俺も妹が欲しかったな”という台詞ー
晃の家の表札ー
一度も高校時代に会ったことのない妹ー

「---」

まるで、晃に”突然妹ができた”
かのようなー
そんな違和感を覚えた。

「あいつ…
 妹なんて、いたか…?」
啓祐はその疑念がさらに強まって
帰ったら”あること”を
調べてみようと考えるのだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

夜ー

「---おにいさま…」
香奈枝が、晃に抱き着いているー

晃は気持ちよさそうに笑みを浮かべるー

「外では”お兄様”じゃなくて
 ”お兄ちゃん”だぞ。
 変な風に思われるからな」

「はい…」
香奈枝が返事をする。

香奈枝はメイド服を着たまま
兄である晃が気持ちよくなってくれそうな
場所を触っている。

「ふふふ…いい子だ」
晃が香奈枝の頭を撫でると
香奈枝は嬉しそうに微笑んだ。

「--さぁ…今日も”調教”するか」

そう呟くと、
晃は突然意識を失い、
香奈枝が「ひぅっ!」と声を上げるー

やがて香奈枝は
「わたしはおにいさまがだいすき…」
と、何度も何度も、
自分に催眠術をかけるかのように
呟き始めた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

一方、啓祐は、
晃の妹”香奈枝”が着ていた
制服を調べていたー

「ったく、女子高生の制服を調べるなんて
 変態だな俺も」

啓祐は自虐的に笑いながら
この周辺地域の高校の制服を調べるー

”晃の妹・香奈枝”のことが
どうしても気になってしまったからだー。

「--あ、あった」

香奈枝の着ていた制服は
近くの高校のものだったー。

「---やっぱ、ちゃんと高校生ではあるんだな」

なんとなく感じた違和感ー。
それはー
高校生というには、少し大人っぽいような
そんな感覚を受けたからだー。

それで、
記憶を元に香奈枝の制服を調べたが
ちゃんと実在している高校だったー

「ってことは少なくともあの子はー

 …んっ」

啓祐はある情報に目をやったー

それはーーー…
そのデザインの制服はー
”今年の春の卒業生”を最後に廃止されていてー
現在使われていない制服だったー。

「---!?」
香奈枝が着ていた制服は
”今年春の卒業生”を最後に既に使われておらず
現在、その高校に通う女子は
新デザインの制服を使っているー。

「---…じゃあ、あの子は一体…」

啓祐の中の疑問がさらに膨れ上がるー

晃のやつは、妹は現役の高校生だと言っていた。
なのになぜ”もう使われていない旧デザイン”の
制服を着ているのだろうかー。

「---(あいつ、何か悪いことしてたりしないよな…)」
啓祐は不安になる。

晃とは、高校時代からとても仲良しだ。
もしも、もしもその晃が、道を踏み外そうと
しているのであれば、
啓祐は、友として、晃を止めてあげたいー。

もちろん、自分の勘違いであるのが
一番いい。
あいつには元々妹がいて、
制服も、啓祐の勘違いであれば、それで…。

あそこまで仲良しなんだからー
実の妹じゃなきゃ不可能だろうし、
見ず知らずの子を誘拐して、
脅していたのであれば、あんなに自然に
仲良くはできないはずだー

「俺の、勘違いだよな…」

あの香奈枝という子は、妹ではなく晃の彼女で、
妹が欲しいと嘆いていた晃が、
彼女に頼み込んで妹演技をしてもらっている
可能性だってある。

なんだってあり得るのだー。

「気にするのはやめよう」
啓祐はそう呟くと、布団にもぐりこんで
眠りにつき始めた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日の大学が終わりー
啓祐は、晃の家にこっそり
遊びに行くことにしたー。

晃とはお互いの家を行き来していて、
晃の家の場所は良く知っていた。

「ここだな…」
啓祐は、アパートの一室の前に辿り着く。

中から何かが聞こえるー。

「---?」

女の声ー
何かを呪文のようにぼそぼそと呟いているような声だー。
扉の外からでは、内容まではききとれない。

「妹さんか…」
啓祐は呟く。

啓祐は少し考えてからインターホンを鳴らした。

”はい”
中からは女性の声がする。

晃の妹・香奈枝の声だ。

「--あ、え~っと、晃の友人の戸川です。
 たまたま近くを通ったんで…、
 少し寄って行こうかなって」

啓祐がそう言うと、
香奈枝は「えっ!?!?おま…」と
一瞬呟いて、すぐに
「ちょ、ちょっと待ってくださいね~!」と
返事をしたー

「くそっ…やっべぇ…」
インターホンから離れた香奈枝は呟く。

イライラした様子で頭をかく香奈枝。

今、香奈枝はメイド服を着ているし、
この子に憑依して
”わたしはおにいさまがだいすき”と
刻み付けている最中だった。

部屋には抜け殻になって
横たわっている晃ー。

「--俺の身体に戻るか…?」

香奈枝はそう呟くー。
香奈枝には今、晃が憑依している。

自分の身体に戻っても良いのだが、
自分の身体に戻る時に、
意識が戻るまで1分ぐらいかかるし、
憑依されていた香奈枝のほうも、
意識が戻るのに5分ぐらいかかる。

啓祐を部屋に招き入れて香奈枝が
寝たままじゃ、変に思われる…

「こうなったら…
 俺の身体を押し入れに入れて…」

”お兄ちゃんが留守で”と言って
断われば良かったものを、
咄嗟のことで焦っていた晃は
”香奈枝の身体に憑依したまま”
対応するという道を選んでしまったー。

香奈枝は、非力な身体で、
自分(晃)の身体を押し入れに入れると、
メイド服のまま玄関から飛び出した。

「あ!どうぞ~!」
香奈枝が啓祐を中に招き入れる。

「突然すみません」
啓祐が苦笑いしながら
中へと入ってくるー。

啓祐は部屋の中を見渡す。

「あれ?晃は?」

そう言うと、香奈枝はにっこり微笑んだ

「お兄ちゃんは今、出かけていて」

「え…じゃ、俺、出直そうか?」

「---あ、、、え~…ちょっとならいいですよ」
香奈枝はぎこちなくそう返事をした。

メイド服姿の香奈枝のことが
気になってしまう啓祐。

「そ、それ普段着…?」
啓祐が言うと、香奈枝は、
「わたし、コスプレとか好きで」と
恥ずかしそうに微笑む。

「へ~…晃のやつ、
 こんなカワイイ妹さんが
 いるなんて羨ましいよ」

啓祐は、少し顔を赤らめながら
そう答えたー

香奈枝が、”あ、何か飲み物を出しますねー”と微笑む。

香奈枝が冷蔵庫の方に、歩いていく。
なんとなく、歩き方が男っぽいような
そんな違和感を覚えるー

そして、
啓祐は、ふと、部屋の隅に落ちていた
学生証が目に入る。

啓祐や晃が通っている大学の学生証ではないー

「学生証…」
啓祐が何気なく大学の学生証を開くと、そこにはー

”皆本 璃子”という名前とーーー
啓祐の妹・香奈枝の顔写真がーーー

「--勝手に見るな!」
香奈枝が乱暴な口調で、学生証を取り上げた。

「あ、ごめ…」
啓祐が慌てて言うと、
香奈枝は人が変わったように叫ぶ。

「もう帰ってくれ!」
豹変した香奈枝が叫ぶ。

「で、でもー
 い、、今の…きみの学生証だよな…?
 皆本璃子…って…」

「--うるさい!わたしは香奈枝よ!
 女の子のこと詮索するなんて、
 どういうつもり?

 もういい!
 帰って!」

ヒステリックに叫ぶ香奈枝。

啓祐は突然のことに戸惑いながらも、
ひとまず退散することにし、
晃の部屋から外へと出て行ったー

「はぁ…はぁ…」
一人残された香奈枝は荒い息をする。

”わたしは…わたしは…璃子・・・”

頭の中に苦しそうな声が聞こえる。

「うるさい!」
香奈枝は大声で叫んだ。

「お前は俺の妹の香奈枝だ!」

そう叫ぶと、香奈枝は笑みを浮かべながら
呟いたー

「わたしは香奈枝ー
 わたしは香奈枝ー
 わたしは香奈枝ー」

妹が欲しいー

晃は、ずっと昔からそう願っていたー

そして、
憑依薬を手に入れた晃はー
文化祭で一目惚れした他の大学に通う女子大生に
憑依してー
思考を作り替えてー

架空の妹ー
”木下 香奈枝”を作り出したのだったー

「わたしは…香奈枝…」
憑依された璃子は、
そう呟くー

自分に、偽りの記憶を刻み付けていくー。

②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

見ず知らずの子に憑依して
無理矢理”妹”に仕立てあげている親友・晃…

ぶるぶるですネ…

続きは明日デス~

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