<憑依>悪の魂~正義と悪~

人間の悪い部分だけを取り出し、
それを他人に憑依させることのできる力を持つ男。

そんな彼が次のターゲットに選んだのは、
”正義感の強い女子高生”。

”悪の魂”放り込まれた彼女の運命はー?

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月明かりに照らされる夜の部屋ー。

そこで一人、クラシック音楽を聞きながら
ワイングラスに入れたぶどうジュースを
飲む男がいたー。

検死官ジョー。

人の遺体から
その人間が持っていた”悪の部分”だけを抜き取り、
それを、他人に憑依させる力を持つ男だ。

今までに100を超える人間に
”悪の魂”を憑依させてきた。

その結果ー
どんな人間であろうとも、最終的には悪の魂に
影響されて、悪の道へと、落ちていくー。

”悪の道に落ちたって仕方がないじゃない
 だって人間だもの”と
書かれたポスターを見つめながら
検死官ジョーは微笑む。

そして、近くのホワイトボードに
貼りつけてあった女子高生の写真を見つめる。

検死官ジョーの次のターゲットだ。

”相楽 梨絵(さがら りえ)”
超がつくほどの優等生で、心優しく、
正義感が強いー。

善人の塊のような子ー。

もしも、もしもこの子にー
”凶悪な悪の魂”を放り込んだらー。

ジョーは、紫色の人魂のようなものを手にする。
”悪の魂”だー。

数日前に事故死した
”極悪崚馬”の異名を持っていた
裏社会の男の魂ー。

これをー
正義感の強い女子高生・梨絵に
放り込むのだ。

「くっくっく…」
ジョーは笑う。

「--身も心も綺麗な女子高生が
 どのように汚れていくのか…
 楽しみだー。

 美しい花は、すぐ、枯れるー」

ジョーは、自分の部屋の隅にあった
枯れかけている花束を見つめるー。

「--彼女もまたー
 枯れるー」

そう呟くと、ジョーは立ちあがったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

朝、高校生たちが登校している
風景を見ながら、
検死官ジョーは目的の人間を待ったー

「来た…」
ジョーは呟く。

ターゲットの女子高生・相楽 梨絵だー。

ジョーは気づかれないように
彼女のうしろから歩いていくと、
彼女に向かってー
”紫色の人魂”-
悪の魂を投げつけたー

「---ひぅっ!?」
悪の魂が、背中に直撃し、
そのまま身体に吸い込まれていくー

一瞬ビクンとなった梨絵は、
背後を振り向くー。

しかしー
そこには誰も居ない。

「----」
検死官ジョーは、
姿を消す能力も持っていたー

「--う~ん、気のせいかな」
梨絵はそれだけ呟くと、
学校に向かって行った。

今までの傾向から、
悪の魂に憑依された人間に影響が
出るまでに、数日間かかるー。

梨絵の様子を見つめるジョー。
特に、変化はない。

見ていると、クラスメイトたちに
とても親切で人助けもするし
先生への気遣いもするし、
とても、優しい女子生徒だった。

「--この子なら…
 悪の魂に打ち勝つこともできる…か?」

ジョーは一人呟いた。

いつの日かー
人間が”悪の魂”に打ち勝つところを見てみたいー
ジョーはそうも思っていた。

だがー
これまでの人間たちはみんな、
悪の魂に完全に浸食されて、
そして、悪の道に落ちたー。

悪の魂を梨絵に憑依させてから
2日目ー
3日目ー
時間が経過していく。

夜ー
梨絵は、いつものように勉強をしていた。

「----…」
ペンを置いて、少し休む梨絵。

「なんだろう…」
梨絵が呟く。

その様子を、姿を消して見張っているジョーも
注視する。

「---なんか、今日の朝から
 気分が高揚するような…?」

梨絵が一人呟く。

「-----」
ジョーは、”悪の魂の影響だ”と思い、笑みを浮かべる。

正義の女子高生と
悪の魂ー
どっちが、勝つのか…?。

翌日ー
ジョーは
”ある異変”に気付いた。

梨絵が、いつも以上に親切になっている気がする。

あれこれ手助けしているし、
とにかく、とても優しい。

「--あ、わたし、やっておくから大丈夫だよ」
4時間目の家庭科の調理実習で
クラスメイトが皿を割ってしまった際には、
梨絵が率先してそれを片づけたー

さらには怪我をした友達に
絆創膏を手渡したり、
友達をかばって、先生には
自分が割りましたと言ったり、
とにかく1日中、あらゆることに対して
親切にしていたー。

ジョーは
”悪に落ちるどころか…
 より親切になっている?”と
疑問を覚えたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日の朝。

梨絵は、いつも通りの姿で、家を出るー。

「わたしは、正義だもん」
梨絵がボソッと呟いたのを、ジョーは
見逃さなかった。

正義ー?

ジョーは思う。
今までの経験上
自分で自分を”正義”と語るやつは危険だ。
事前の調査で、梨絵にそんな様子はなかった。

梨絵に”悪の魂”が影響を与えているのは
間違いないー

だがー、
どんな影響を…?

学校に到着した梨絵。

”宿題忘れちゃった~”と嘆いている友達に
梨絵は「わたしがやってあげる!」と
優しく微笑んだ。

友達は「え?いいよ?わたしが悪いんだし」と
遠慮したものの、梨絵は「いいからいいから」と
優しく呟き、そのまま友達の宿題をやり始めたー。

宿題を終えると、友達は「ありがとう」と
梨絵にお礼を言う。

お礼を言われた梨絵は顔を赤らめながら
嬉しそうにしていたー。

「---親切って…さいこう」
梨絵は、昼休みになると、お手洗いに向かって
突然、自主的にトイレの掃除を始めた。

驚くクラスメイトたち。

「な、何やってるの…?」
友達の一人が言うと、
梨絵は「わたしは正義だもん!」と
笑みを浮かべながら
嬉しそうにトイレ掃除を続けた。

”褒めてもらいたいー”
”もっと周囲のみんなの力になりたいー”

梨絵は、そんな風に思いながら
掃除を続けるー。

”みんなからーーーー
 認められたい”

”親切なわたし自身にーー酔いたい”

梨絵が、少し歪んだ笑みを浮かべたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

梨絵の”人助け”は
度を越し始めていたー。

学校の開始1時間前に登校して
全員の机をピカピカに磨き上げたー。

遅れて登校してきたクラスメイトたちは、
唖然とする。

「どう?綺麗でしょ?」
一生懸命掃除をし過ぎて、
汚れた梨絵が笑う。

「り、梨絵がやったの…?」
女子生徒の一人が言うと、
梨絵は「うん」と微笑んだ。

梨絵は、思うー。
”わたしは正義の味方だ”だー。

とー

思考が次第に”捻じれて”いるー。

「--ちょ、ちょっと昨日から
 変じゃない?」

女子の一人が言う。

「--へん?」
梨絵の表情から笑顔が消える。

「---だ、、だって、
 こんなこと…
 ふ、、普通やらないでしょ?」
女子の一人が言うー

始業の1時間前に登校して
全員の机を自主的に掃除するー
なんてことは、普通はしないはずだー。

あまりにも度を越したー…
”不自然な”梨絵の行動に
クラスメイトたちは、少し違和感を感じていたー。

「--安心して。
 わたしは正義だから。
 みんなを、守るから」

梨絵は、クスクスと笑いながら
自分の座席に着席した。

「そう…わたしは正義なのよ」
梨絵は、ブツブツと呟いた。

それを見ていた検死官ジョーは笑う。

”思わぬ影響が出たー”
とー。

極悪人の魂を憑依させたはずが、
梨絵は悪の道に落ちるどころか
”正義”の道に進みー、
いや、暴走しているー

「善と悪は表裏一体…か」
ジョーは呟く。

善意は、ひょんなきっかけで”反転”するー
悪意も、そうー。

梨絵に憑依させた”悪意”は
梨絵の強い正義感によって”歪んだまま反転”
したのかもしれないー。

大好きだった彼女に
突然、憎悪を抱き、事件沙汰になったりする
カップルもいるー。
愛が、何かをきっかけに、憎悪となる。

梨絵の場合もそうなのだろう。
憑依させられた”悪意”が
何らかのきっかけで”正義”になったのだろうー

土曜日と日曜日を挟んで
翌週の月曜日ー

梨絵は、叫んでいた。

「なんで!?
 わたしはみんなの為にやってるのに?
 正義のためにやってるのに!?」

梨絵が、声を荒げている。
普段はそんなこと、絶対にしない子だ。

「だ、、だって、最近の梨絵ちゃん…
 変だよ…」

梨絵がー
クラスの不良生徒の机を蹴り飛ばし、
鞄を突然漁り、
中から煙草を見つけたのだー

煙草を高校にもちこんでいる生徒は、
もちろん、悪い。

だがー

「--不良は、この学校には必要ない。
 悪は、消えるべきよ!」
梨絵は叫んだ。

「梨絵…どうしちゃったの?」
クラスメイトたちは引いているー

「--悪なんか、悪いことするやつなんて
 みんな、死んじゃえばいいの!」

梨絵がニヤニヤしながら言う。

「---正義は最後には必ず勝つ!」
梨絵が笑いながら、そう宣言したー。

周囲は、明らかに梨絵に引いているー。

「---どうしたの?ねぇみんな?どうしたの?
 悪い奴なんて、どうなったっていいじゃない?」

梨絵は、自分は正義だと信じて
疑わなかった。

煙草を持ちこんだ不良は、
学校から、いや、この世から消えるべきだと
そう思っていたー。

「り、、梨絵…」
周囲の女子生徒たちが、梨絵の異変に
怯えながら名前を呼ぶ。

その時だったー。
担任の先生がやってくる。

梨絵は笑みを浮かべながら
不良生徒が煙草を持ちこんでいたことを報告するー。

その生徒は当然指導対象となり、
停学処分になった。

「--ふふふ…わたしは正義よ」
梨絵は”悪”を停学に追い込んだことに
誇りを感じて、そして、興奮していたー

もっともっと、
みんなの役に立たなきゃー

もっともっと、
いいことをしなくちゃー。

梨絵は、さらにエスカレートしていく。

翌日ー

梨絵は朝早く登校すると
学校のトイレを綺麗に掃除して、
満足そうに笑みを浮かべるー。

「ふふっ…人助けってきもちいい…♡」

ゾクゾクしながら梨絵は笑みを浮かべるー。

「悪いものは…
 全部、壊さなくちゃ…」

梨絵はそう呟くと、
教室に入り、
突然、不良生徒の机を蹴り飛ばした。

煙草で停学になっている生徒の机だ。

驚く周囲。

「ちょっと!?梨絵?」

梨絵は、蹴り飛ばした机を
力強く、踏んだり、殴りつけたりしている。

梨絵の綺麗な手に打撲が出来るー。
それでも梨絵は、髪を振り乱しながら
怒りの叫び声を上げて、
机に殴る、蹴るの暴行を加えた。

「梨絵!何やってるの!」
友達の一人が叫ぶ。

梨絵は言うー

「悪いやつは、みんないなくなるべきよ!
 みんなだって迷惑してるでしょ?
 わたしはみんなのために、こいつを
 やっつけるの!」

息を荒くしながら、
なおも机を踏みつける梨絵。

明らかに常軌を逸脱している梨絵の
行動に、周囲は唖然とせざるを得なかった。

先生が駆けつける。

「相楽!何をやってるんだ!」
梨絵の方を見て叫ぶー

梨絵は、
「あ、先生!みんなのためです!」と
満面の笑みで微笑んだ。

梨絵の手は軽く出血を起こしているー

「--みんなのため…?」
先生が唖然としている。

周囲も、梨絵の豹変に驚き、
怯えていた。

先生は、ひとます梨絵を生徒指導室に連れていくことにしたー

「どうしてあんなことしたんだ?」
と問いかける先生に対しても、梨絵は
「みんなのため」と答え続けた。

話にならないー
一体梨絵はどうしてしまったのか。

そんな風に先生が思っていると、
梨絵は呟いた。

「先生も…悪だったんですね…」

とー。

先生が「え?」と思った瞬間に、
梨絵は、先生に向かって
強烈なビンタを喰らわせた。

「--みんなに迷惑をかけているやつを
 かばうなんて許せない!
 先生、わたしが正義なんですよ?
 悪をかばうなら、先生、いいえ、お前も悪だ!」

梨絵が鬼のような形相になって
先生に襲い掛かるー。

すぐに他の先生がかけつけて、
梨絵が取り押さえられたー

梨絵は意味不明な言葉を口走りながら
激しく抵抗し、暴れているー

そんな様子を見つめながら、
梨絵の豹変の様子を観察していた
検死官ジョーは、
静かに呟いた。

”この子も、悪に落ちたかー”

正義を振りかざす独善的な悪ー。
梨絵は、結局、悪の魂に憑依されたことで、
悪に飲み込まれてしまったー…。

・・・・・・・・・・・・・・

検死官ジョーは、
自宅でワイングラスにぶどうジュースを
注ぐと、それを眺めながら
静かに微笑んだ…。

ジョーには、
梨絵が今後、どうなるのかに興味はない。

恐らくは正義、正義と叫んだままー
道を踏み外して、やがて…

「さて…」
ホワイトボードには、
次のターゲットの写真が貼られているー。

「今度は…」

恋愛経験がなく、
エッチなことが苦手な女子大生にー、
ピンクに染まったエッチな子の悪の魂を
放り込んだらどうなるのかー。

ジョーは、
新たなターゲットに狙いを定めて、
笑みを浮かべるのだったー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

久しぶりに悪の魂を書いてみました~!

いつも通り、な感じですネ~!
最後にある「ピンク~~」の部分は、
次回書く…かどうかは分かりません~!

お読み下さりありがとうございました!

憑依<”悪の魂”>
憑依空間NEO

コメント

  1. 匿名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    いつもありがとうございます!
    悪の魂シリーズいつも楽しみにしてます。

    次のターゲットへのシチュエーション、すごくどストライクです。
    是非機会があったら是非お願いします!

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > いつもありがとうございます!
    > 悪の魂シリーズいつも楽しみにしてます。
    >
    > 次のターゲットへのシチュエーション、すごくどストライクです。
    > 是非機会があったら是非お願いします!

    コメントありがとうございます~☆!

    楽しみにして下さる方がいる…!と、
    次のシチュエーションもちゃんと書かなくちゃ~って
    なりますネ!笑
    楽しみにしていてください~☆

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