他人に憑依して、
ターゲットを葬り去ってきた
”憑依暗殺部隊”
最後に待ち受けるものはー…?
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消えた…。
「---」
”α”と書かれたホワイトボードにバツ印を
つける。
残るは”β”
そして”γ”
憑依薬の売人・愛染亮は
それを見て呟く。
”憑依”
それに人生を壊された人間が
今までどれほどの人数、いたのだろうか。
憑依に関係する出来事や事件は
決して表ざたにならないように
”誰か”が仕組んでいるー。
事件沙汰にならずに、
憑依されて、大切な人間を
奪われ、泣き寝入りしている人たちもいるだろうー。
愛染亮の彼女であった莉奈もそう。
何者かに憑依されてしまいー、
蹂躙されて、最後には笑いながら自殺”させられた”。
当然、莉奈本人には自殺する気なんて
全くなかっただろうし、
憑依されなければ、彼女は今頃ー。
そしてー
あの憑依の事件がなければ、
愛染自身も、復讐のために憑依薬を売るような
人間にはなっていなかった。
自分自身も、多くの人生を壊したー
自分の人生も壊れたー
憑依薬は、人々の欲求を満たす存在であると同時にー、
人々の人生を壊す存在でもある悪魔の薬だー。
「---君たちも…」
愛染は、ホワイトボードにずらりと
書かれた”愛染が現在認知している憑依関係者”の
名前を見つめる。
「君たちも、憑依薬に人生を狂わされた人間なのかもしれないな」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”先日から行方不明になっていた
大学2年生の春上 夏香(かすかみ なつか)さんが、
遺体となって発見されました”
ニュースが、
憑依暗殺部隊の隊長・アルファが憑依していた
女子大生の死を告げている。
「くそっ!」
それを見ていた女子高生が乱暴に机を蹴り飛ばす。
可愛らしい女子高生とは思えない所業。
「まずは落ち着きましょう」
近くにいたOLが、手を震わせながらそう呟く。
憑依暗殺部隊の生き残り、ベータとガンマ。
隊長であるアルファを失い、
しかも、憑依薬の売人である愛染の手により
撃ち込まれた薬の効力で、
この女子高生とOLの身体から、
二人は抜け出せない状態になってしまっていた。
「---あいつら、俺の手で一人残らずー」
ベータは女子高生の綺麗な手を
血で汚す決意をする。
この身体でエッチ三昧したいところだが
今はそんな場合じゃないー。
上層部の男・エックスは、
憑依暗殺部隊を”用済み”として切り捨てた。
恐らくは憑依能力を使えなくなった
アルファたちに利用価値がないと判断したのだろう。
だがー。
それでも、今まで散々利用してきて
用済みになったら始末、というやり方が
ベータには気に入らなかった。
「俺は今から、この身体で
あいつらを全員始末しに行く」
「-やめた方がいいですよ」
OL姿のガンマが言う。
そもそも、自分たちの所属している組織の
全貌が分からない。
政府関係の組織で、”表ざたに出来ない事件”や
”裏で消すべき人間”を始末していることは分かる。
が、誰が支配しているのかー
それが、分からない。
自分たちに指令を送っている上層部の男の
”上”にいる人間たちの正体が分からないし、
上層部の男も、これまでに何度か変わっている。
仮にエックスを始末したところで
何の意味もないだろうー。
”憑依薬に関係する人間がいる”と
売人の愛染は言っていた。
想像以上に、深い闇が、あそこにはあるのだろう。
「--うるさい!とにかくオレは!」
そう叫ぶ女子高生姿のベータに
OL姿のガンマが突然抱き着いてキスをした。
「--!?」
ドキッとしてしまうベータ。
「まずはエッチでもして、落ち着きましょ?ふふ」
OL姿のガンマに言われて、
ベータはそのまま大好きなエッチを
始めるのだったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「----…」
憑依薬の売人・愛染亮が
憑依暗殺部隊のいた本部を
訪れていた。
愛染は、ここの”上層部の人間のひとり”とも
繋がりを持っている。
”憑依”をこの世から根絶するためにー。
各地に愛染のネットワークが張り巡らされ、
愛染は憑依薬や憑依に関する情報をキャッチしている…。
憑依暗殺部隊と同じ組織に所属していた部隊、白き華にも
愛染の息のかかった人間が潜り込んでいた。
もっとも先日、既にその人物も処理してしまったが…。
「--ここだ」
男が言う。
そこは、憑依暗殺部隊たちが
使っていた部屋。
部屋の奥には、カプセルのようなものが
置かれている。
アルファたち、憑依暗殺部隊は、
この部屋の装置を使い、
幽体離脱し、他人に憑依していた。
「なるほど…」
愛染は、部屋の中に入ると、
静かに微笑んだ。
部屋には、
眠ったままのアルファ、ベータ、ガンマの3人。
アルファは既に、”魂”が死んだから
完全な抜け殻ー。
身体もまもなく腐食するだろうー。
あとはー
「--この身体を殺してしまえば、
彼らは…?」
愛染が言うと、
横に立っている男が言う。
「あぁ…
本体が死ねば、彼らは、死ぬ」
その言葉を聞いて、
愛染は、眠ったままの
ベータ、ガンマの方を見つめるー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー。
ベータとガンマの2人は
女子高生とOLに憑依したまま、
ある場所を訪れていたー。
憑依暗殺部隊の元隊員・デルタが
死亡した場所の跡地だー。
「--みんな、いなくなっちまったな」
女子高生の可愛らしい声でベータが
そう呟く。
今までに、数々の任務をこなしてきた。
悪人を葬り去るという目的と共に
自分たちの欲望も満たしてきた。
乗っ取った身体での暗殺は
ゾクゾクした。
女体をたっぷり楽しんだー。
ベータもガンマも、別に正義ではない。
むしろ、自分たちも悪人の部類に
位置する人間だ。
悪人が悪人を葬っている。
ただ、それだけのこと。
そのついでに、エッチも楽しんできた。
だがー、それも、もう…。
結成した当時のことを思い出すー
大企業の経営家族・真柴一家を始末したときのことを思い出すー
とある大物議員を始末したときのことー
ホテルの支配人の名倉や、検視官のジョーを始末しようとしたときのことー
遊園地での仕事ー
デルタを失ったときの任務ー
憑依された少女との対決ー
過去のことをまるで、
走馬灯のように、振り返りながら、
ベータはガンマの方を見た。
「--あ、、あれ…わたし…」
ガンマが呟く。
「ん?」
ベータが表情を歪める。
「わ、、わたし、どうしてこんなところに?」
廃虚に立っていることに気付いたガンマが
呟く。
「--!?」
ベータがOLの方を見る。
どういうことだー?
ガンマのやつ、OLの身体から抜けたのか?
ベータはそう思いながら、
持っていた特殊な眼鏡をかけて、
OLの方を見る。
眼鏡のレンズには
”憑依情報”が表示されている。
相手が憑依されているかどうかを
見極めるためのレンズだ。
OLの方を見ると
”ガンマ”は確かにまだOLの意識を
乗っ取っている。
「--わ、、わたし…あ…あれれ…?」
OLが戸惑っている。
「--お、おい?どうしたガンマ」
ベータが呼びかけると、
ガンマは戸惑いながらベータの方を見た。
「が、、がんも…?」
ガンマが戸惑いながら言う。
「おいおい、今はドッキリなんて
やってる場合じゃな…」
そう言いかけたベータ…
女子高生の身体に
脳を突き抜けるような感覚が走るー
「あ…え、、え~っと…」
ベータが戸惑いの表情を浮かべるー
ベータは焦った
自分が誰だか分からなくなりそうになる。
”俺はベータだ”
”俺はベータだ”
必死に自分に心の中でそう言い聞かせる。
「俺は…ベータだ」
女子高生の口から、そう言葉を吐かせるベータ
しかし…
「俺は…わ、、わたしは…景子…」
ベータは、乗っ取ったはずの女子高生の身体に
急激に飲み込まれていく。
本人の意識が戻ったわけではないー
ベータの意識が、景子の記憶に飲み込まれてー
「わ…わたし…あれ…??
が、、学校に行かないと…」
ベータは景子になってしまった。
「あ、、あの…?わたしたち、どうしてこんなところに?」
ベータだったはずの女子高生・景子が言う。
「--さ…さぁ…?
と、とにかく、行きましょ?」
ガンマだったOLが言う。
「そういえばさっき、あなたが
がんもとか、ビータとか、そんなことを
呟いてた気がするけど、
あれってどういう意味なの?」
OLが聞くと、
女子高生は微笑んだ。
「おでんと…ゲーム機…ですかね?」
とー。
笑う2人。
”意味わかんない”
とー。
そのまま二人は
廃虚から立ち去ると、
女子高生は高校に、
OLは自分のオフィスに向かったー
ベータとガンマ…
2人は、ここで”永遠の別れ”となった…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「これで、もう彼らは
自分が憑依暗殺部隊であったことも
思い出せないでしょう」
憑依薬の売人・愛染が言うと、
近くに立っていた、男が言う。
「接続を切ったのか…」
幽体離脱を行うための装置の
接続を、愛染は遮断した。
これによって、女子高生とOLに
憑依していたベータとガンマは
自分の肉体との”リンク”が遮断されたことにより
自分の脳との繋がりが無くなり
自分自身を見失い、
乗っ取った身体の記憶に飲み込まれてしまった。
もう彼らは
自分がベータ、ガンマであったことも
思い出すことはできないー。
「…では、僕はこれで」
愛染は、”憑依暗殺部隊”を実質上、
全員始末したことに満足し、
その部屋から立ち去ろうとする。
「--…肉体ごと殺してしまえば
良かったものを」
組織上層部の男が呟く。
その言葉を聞いて
愛染は立ち止まった。
「僕は、殺人鬼ではありませんから、
意味のない殺しはしないんです」
そして、振り向くと
にっこりとほほ笑んで告げた。
「僕の目的は、ただ、憑依を、
憑依薬をこの世界から
消し去ること…
そして憑依薬に軽々と手を出す人間に
罰を与えるー。
それだけです。
憑依暗殺部隊のベータとガンマ…
彼らはもう、自分が自分であったことも思いだせない。
今後、普通の女子高生とOLとして
生きて行くだけですから
僕にはもう、関係のないことです。
まぁ、彼らの肉体がジャマなのであれば
あとはお好きに」
それだけ言うと、愛染は
足早に立ち去って行くー。
「---…」
憑依暗殺部隊は消えた。
憑依暗殺部隊が所属していた
この”特殊機関”には、
まだお抱えの部隊はいるし、
代わりはいくらでもいる。
これからも、
世の”闇”を体現するかのような
この秘密組織は暗躍を続けるだろうー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「----…なんでだろう」
女子高生の景子は
なんとなく、その場を訪れていた。
ベータに憑依されたままの景子。
自らの記憶を失い、景子になってしまったベータ。
だがー
どこかに、”記憶”が残っているのかもしれないー
景子は、憑依暗殺部隊の隊長であった
アルファと出会った場所で、
寂しそうに、何かを見つめていた。
「ここに来ると…とっても懐かしい気がする…」
そう呟く景子ー。
何が懐かしいのか、
思い出せないー。
ふと、景子は無意識に、自分の胸を触った。
「えへ…♡」
なんだかとっても興奮するー。
景子は、その場で涙を流しながら
嬉しそうに両手で胸を狂ったように
揉み始めたー
”憑依暗殺部隊”は消えたー。
表ざたにならないところで暗躍した
その特殊部隊の存在が語られることは、
もう、ないー。
彼らは闇の中で、暗殺任務をこなし、
そして、闇の彼方へと消えて行ったのだからー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
憑依暗殺部隊の完結でした!
もう出し尽くした(?)感じのシリーズだったので、
最近はほとんど書いていませんでしたが
ちゃんと区切りを、ということで
書いてみました!
お読み下さりありがとうございましたー!
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