入れ替わったふたりは
1日を終えるー。
そして、”嫌悪する存在として”1日を過ごした
二人が出した答えは…?
-------------------------—
幸則(里恵)は
帰りの電車に乗りながら呟く。
自分は、女性を代表しているつもりになっていたかもしれない。
でもー
好き・嫌いは個人の自由だ。
そんなことは分かっていた。
萌えキャラとか、そういうキャラクターは、
大嫌いだ。
けれど、自分が嫌いだから、
世間から撤去しろ!書くな!というのは
違うのかもしれないー。
幸則(里恵)はそんな風に思いながら
混雑した電車の車窓から
外を見つめたー。
自分は、日々のストレスを
”手近な叩ける対象”に向けて、
それを叩き、自己満足していただけなのかもしれない。
「---…」
「---きゃああっ!?」
「-!?」
ぼーっとしていた幸則(里恵)が顔をあげると
中年のおばさんが、悲鳴をあげて
こっちを見ていた。
「い、、今、、この人がわたしを触りました!」
中年のおばさんが叫ぶ。
「は…?え、さ、触ってないけど?」
幸則(里恵)が言う。
間違いなく触っていない。
「---う、嘘つかないで!触ったでしょ!」
中年のおばさんが叫ぶ。
「--い、いや、触ってませんって」
幸則(里恵)が反論する。
しかしー
そのおばさんは叫ぶ。
”ちょっとちょっと、何よこれ”
幸則の中にいる里恵は困惑した。
電車の痴漢は死刑になればいいと里恵は
思っているし
痴漢冤罪なんてどうせ存在しないとそう思っている
けどー
これは確実に冤罪だ。
「--この人痴漢よぉ~!」
中年のおばさんが叫ぶ。
「ちょ…ふざけないでよ!」
叫ぶ幸則(里恵)。
思わず女言葉が出てしまう。
「--きゃあああ!」
他の客が叫ぶ。
幸則(里恵)のアソコが勃起していたのだ。
「ちょ!?!?なんで!?」
幸則(里恵)が叫ぶ。
コントロールの方法が分からない。
勃起してるやつは全員変態だと思っていた。
けどー
「な、、な、静まりなさいよ!」
勃起したそれに叫ぶ幸則(里恵)。
しばらくしてー
駅に停車した電車
その中に、
係員が駆けつけてきて
幸則(里恵)は有無を言わさず
取り押さえられる。
「--ちょ、、違うってば!ねぇ!」
叫ぶ幸則(里恵)-
痴漢冤罪の理不尽さを
里恵は初めて、男として経験したー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
里恵(幸則)は帰宅する。
非常に調子が悪い。
身体中が痛いし、精神的にもやもやする。
吐き気と頭痛もある。
「風邪でも引いたか…」
里恵(幸則)はそう呟いた。
なんかイライラするし、
なんとも言えないもやもやが自分を支配している。
「---…」
里恵の身体と入れ替わっているから
気分が悪くなってきたのかとも
考えながら、里恵(幸則)は
ハッとする。
「--まさかこれって…」
里恵(幸則)は
”これは生理ってやつじゃないか?”と考えるー。
女性特有の現象で、
症状が酷い女性もいれば、
そうでない女性もいる。
「--あ、、、こ、、これは、、きっつぅ…」
里恵(幸則)は顔色悪く呟く。
”生理なんて仮病だろ”
以前、幸則はそう言い放って
女子に嫌われたことがある。
「こ…これは…仮病なんてレベルじゃねぇ…」
里恵(幸則)は苦しむ。
そういえば、女子がロキソニンがどうこう言ってた。
生理の時はロキソニンだと。
「あ、、あるのか…ロキソニンは…」
里恵(幸則)は苦しむ。
想像以上に痛かったー
想像以上に辛いー。
「こ、、、こんな思いを…
生理のたびに…?」
里恵(幸則)は、
だらしない格好で、ソファーに
寝転ぶ。
「---これは…」
幸則は、女性の身体で生理を経験して
初めて理解したー。
”これは、きつい”
とー。
人にもよると聞いているが
これはきつい。
仮病なんかじゃなかった。
「--……仮病なんて言ったのは…
まずかったかな…」
里恵(幸則)は、以前の自分の発言を
少しだけ反省して、そう呟いた。
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
「ちょっと!なんて格好して寝てるのよ!」
やかましい声ー。
男の声なのに
女言葉ー
その言葉に、里恵(幸則)は目を覚ました。
そこには、幸則(里恵)がいた。
「女言葉やめてくれよ…きもいから」
里恵(幸則)が言うと、
「あんたこそ男言葉やめてよ、きもいから」
と、幸則(里恵)はそう呟いた。
ロキソニンの場所を教えてもらって
それを服用した里恵(幸則)は
少し落ち着くと、机に座って
幸則(里恵)と話を始める。
「…思ったより、きついんだな」
里恵(幸則)が言う。
「--何が?」
幸則(里恵)が不機嫌そうに返事をすると
里恵(幸則)が頭をかきながら言った。
「いや、俺さ…
女なんてチヤホヤされてて仕事ラクだなーとか、
生理なんて仮病だー!とか思ってたけどさ…
案外、きついんだなってさ」
里恵(幸則)の言葉に
幸則(里恵)も不満そうな表情を浮かべながら呟いた。
「男も…まぁ…その…
苦労してるところもあるのね」
痴漢騒動はー
”触れちゃったのはわたしです”と
近くにいた女子高生が申し出てくれたおかげで
助かったー。
けど、あの子がいなかったら
本当にー。
「---……」
二人は沈黙する。
「---……まぁ…そういうのも
少しはその……」
幸則(里恵)がアニメキャラの
フィギュアを見つめながら呟く。
「---わたしは嫌いだけど、、
まぁ…うん…
まぁ、そういうの好きなやつもいるよね」
大学で、色々経験して
大学の友達と会話して、
自分の視野が狭すぎることを里恵は
少しだけ感じていた。
萌え絵は嫌いだ。
その考えは変わらない。
けどー。
里恵は、ふと自分のプライベートを思い起こす。
嫌いなものを批判することばかりに
時間を使っていた気がする。
それのどこに、幸せがあるのかー。
何かに目くじらを立てて
噛みついて、
そして、それに反論する人たちと
また言い争いになってー。
その先に何があるのかー。
恐らく、何もない。
萌えキャラを叩いて、反論する人が現れて
口論して、気に入らなければブロックしてー。
仮に萌えキャラが規制されてもー
自分はまた次のターゲットを見つけて叩くだけー
そのままおばあさんになったら…?
「---……」
最近は、他人を叩くことばかりしていたかもしれないー
萌えキャラを世間から消し去ってもー
何になる?
里恵の嫌う女性軽視がなくなるー?
いや、なくならない。
問題は萌えキャラなんかじゃない。
世の中には”闇”がたくさんあるー。
声をあげるなら、その”闇”に対してだ。
里恵のしていたことは、
自分の嫌いなものを叩いていただけで
男女平等だとか、そういったもののためには
何も、なっていないー
「ーーー…ま、、、
あんたみたいなヤツも…いるってことね」
幸則(里恵)がそう言うと
里恵(幸則)は呟いた
「偉そうな女だなぁ…」
とー。
「--なによ!」
再び口論モードに突入するふたり。
ふたりは、互いを罵り合うと、
ふん!と大声をあげた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
少し冷静になった二人は
”階段から落ちて入れ替わったならもう一度落ちるしかない”という
原始的な方法に辿り着いた。
怪我をする可能性もあったが
ずっとこのままでは耐えられない。
里恵は、男が嫌いだし
幸則は、女が嫌いだ。
それは、変わらない。
けれどもちょっとだけー
ほんのちょっとだけ、相手のことを理解した。
今まで何十年も生きていて
男性嫌い・女性嫌いになったふたりは
そう簡単には変わらない。
これからも、何かきっかけが無ければ
お互いに異性を敵視したままだろう。
けどー、
それでも
何かほんの少しだけ、変わったかもしれない。
騒ぎになると面倒だ、という理由で
人がほとんどいない神社に来た2人。
「--に、しても化粧ってめんどうくせぇな…
俺だったら、発狂するわ」
里恵(幸則)が言う。
今朝、里恵に言われて化粧をさせられた幸則は
苦笑いしながら呟いた。
「--でも、しないと色々うるさいのよ」
「だな」
里恵(幸則)は、昨日の会社で
メイク云々を言われたことを思い出す。
面倒臭い奴らだ、と思いながら。
「--…わたしの身体で
変なことどのぐらいしたの?」
幸則(里恵)がこれから転げ落ちる
階段を見ながら呟く。
「---いや、してねぇよ。
俺、興味ないし」
里恵(幸則)が言う。
「--嘘ね。」
「いや、ホントだよ!」
お互い、自分の意見を曲げず、
譲らない。
不愉快そうにお互いを見つめ合うと、
里恵(幸則)が頭を
掻き毟りながら呟いた。
「もう、やめようぜ
あんたと話していても
永遠に理解できない気がする」
「--そうね…話すだけ無駄ね」
里恵と幸則はそう呟いた。
そしてー
「--このまま死んじゃったらどうする?」
里恵(幸則)が呟くと、
幸則(里恵)は嫌そうな表情を浮かべて呟いた。
「--男の身体で死ぬとか、
確実に地縛霊になるわね…」
階段から転がり落ちて
必ず元に戻れる保証なんて、
どこにもない。
もしかしたら、そのまま頭を打って
死ぬ可能性もあるー。
けどー
このままずっと生きて行くことはできない。
幸則(里恵)と里恵(幸則)は
嫌そうな表情を浮かべながら
手をつなぐとー
そのまま目を瞑って
階段から転がり落ちたー
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「----…うっ…」
里恵が先に目を覚ます。
周囲を見渡す里恵。
そして、自分の身体を確認するために
胸を触ってみる。
「--!!」
里恵は嬉しそうな笑みを浮かべた。
「やった!!わたしの身体!!」
里恵はつい、自分の胸を
揉みながら、元の身体に戻れたことを
喜んだー
「---なに、自分の揉んでるんだ?」
里恵がぎょっとして、声の方を見ると
幸則も無事に意識を取り戻していた。
「--えっ!?な、、何見てんのよ!変態!」
里恵が叫ぶと
幸則が周囲を見渡しながら
「おい!声が大きいぞ!」とイヤそうに叫んだ。
どういう仕組みかー
どういう理由か分からないけれど
二人は無事に元の身体に戻ることが
できたのだった。
「…はぁ、ようやくあんたみたいのと
離れることができるわ」
「俺こそ、最悪の1日だったよ。
三次元の女になんて興味ないのに」
憎まれ口をお互いに叩きあうと
二人は溜息をついて
”じゃあ、ここで”と呟く。
もう、一緒にいる必要はない。
里恵は男性嫌いだし
幸則は女性嫌いだ。
「---…ま、、
俺は永遠に結婚しないし
これからも三次元の女には興味ないままだけどさ、
とりあえず…その、、生理がチョロいとかさ、
お前も独身でいるべきだ!とかさ、
そういうのはやめることにするよ」
幸則がそう呟くと、
里恵は、少し何かを考えるようなそぶりを
見せながら
「ふ~ん」と呟いた。
そしてー
「わたしも、もうあんたみたいなのは
無視することにするわ
時間の無駄だから」
里恵が吐き捨てるようにして言う。
素直には言えなかったが
それは
”もう、自分の嫌いなものに噛みついたりしないで
里恵自身の好きなことに目を向けて
生きて行く”という
里恵の決意の心だったー。
「--ふぅん。時間の無駄で結構だぜ」
里恵の気持ちは幸則に伝わったのだろうか。
いや、伝わる必要もないかもしれない。
二人の道は、二度と交わることもないだろう。
「じゃ。俺はもう行くぜ。やっぱ自分の身体が一番だ」
それだけ言うと、幸則は、里恵に背中を向けて歩き始めた。
「わたしも、もうこんなことはごめんよ」
里恵もそれ以上は何も言わず、幸則の方を
振り返ることもなく、そのまま立ち去って行ったー
それからー
二人は、2度と会うことはなかった。
里恵は里恵として
幸則は幸則としてそれぞれの人生を送って行くー。
幸則の女性嫌いは変わらなかった。
けれどー
生理だとか化粧だとか
そういった部分への悪口は言わなくなったのだというー。
里恵も、男性嫌いは変わらなかった。
が、萌えキャラを罵倒していたアカウントは数日後に閉鎖されて
その後、彼女は自分の趣味を楽しむ生き方に
変えて行ったのだというー
根本的な部分は変えられないー
自分にも好きなものがあるように、
他人にも好きなものがある。
自分にも嫌いなモノがあるように
他人にも嫌いなモノがある。
自分が嫌悪する存在として1日を過ごしたことによって、
少しだけ、
なにか、得るものがあって
ちょっとだけ、何かが変わったのかもしれないー。
自分が嫌いだから叩く
自分が好きだからみんなも好きなはずだー。
そんな生き方は、争いしか生まないー
それが、互いが嫌悪する存在に入れ替わって
二人が得たものだったのかもしれない。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
互いが嫌悪する存在になってしまったら?を
題材にした入れ替わりモノでした~!
いつも書かない雰囲気なので、
ちょっと苦戦(?)しました!
せっかく毎日書いているので
色々書いていけたらと思います☆
お読み下さりありがとうございました~!
コメント
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
入れ替わりで相互理解は定番だけど、分かりやすく和解する話ではなく、それぞれの根本は変わらないけど相手の苦労も知り批判し合う事がなくなったのは良い落としどころだったと思います。
ネットでの憎悪のぶつけ合いを見ていると、こういう住み分けこそが必要なのかなって。良いお話でした。
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
> 入れ替わりで相互理解は定番だけど、分かりやすく和解する話ではなく、それぞれの根本は変わらないけど相手の苦労も知り批判し合う事がなくなったのは良い落としどころだったと思います。
> ネットでの憎悪のぶつけ合いを見ていると、こういう住み分けこそが必要なのかなって。良いお話でした。
コメントありがとうございます~☆
なかなか根本的に変わるのは難しいかな~!なんて思ったので
こういう結果になりました~☆
難しいテーマを扱ったので
最後はじっくり考えて決めました!