高速道路で煽り運転をしていた
カップルが憑依されたー。
憑依された彼女に脅されて
暴走を続ける彼氏の運命は…?
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それはー
あっという間の出来事だったー。
幸せは、一瞬にして、消し飛んだ。
ごく普通のありふれた幸せは、
一瞬にして、奪われた。
妻と娘が、死んだー。
実家に帰るために、
高速道路を走っていた妻の車は、
執拗に煽り運転をされてー
最後には、ハンドル操作を誤ってー
事故を起こしー
娘共々、死んだー。
即死だった。
最初は妻と共に、妻の実家に行く予定だった
私は、仕事の都合で急きょ、行くことができなくなり、
妻の死は、電話で知った。
「---うおおおおおおおお!」
妻と娘の無残な死体を見た私はー
復讐鬼になったー。
煽り運転そのものへの、復讐鬼にー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「---知ってるか?」
憑依された梨菜が口を開く。
「----」
金太郎は冷や汗をかきながら
梨菜の方を見る。
「煽り運転で、命を奪われる人間もいることを」
梨菜は、憎しみに満ちた目で
金太郎を見つめる。
「---し、知るかよそんなこと!
煽られるほうにも原因があるんだろ!
自業自得だぜ!」
金太郎が強がりながらそう言うと、
梨菜は助手席のガラスを思いきりグーで
殴りつけた。
梨菜の綺麗な手には痣が出来ている。
「---貴様のようなやつが」
梨菜は感情的になると、
怒りを爆発させて、
何度も何度も助手席の窓ガラスを
殴り始めた。
「--心無い煽り運転で、
全てを奪うー」
梨菜は怒り狂った様子で叫ぶ。
「--な、、何なんだお前は…」
金太郎は唖然とした様子で呟く。
「ーーふざけるな!ふざけるな!
ふっざけるな!」
梨菜が狂ったように怒りを爆発させながら
扉を思いきり殴りつけている。
梨菜は完全に男に支配され
男の意思に従って
怒りを爆発させていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
怒りが収まらないという様子で
荒い息をする梨菜。
その手には、血がついている。
血に気付いた梨菜は、
手をペロリと舐めると微笑んだー
「(くへっ…なんかエロいじゃねぇか)」
金太郎は、梨菜のいつも見れない姿に
ちょっと興奮しながらも、
今、自分が置かれている状況を思い出し
我にかえった。
とにかく、早くこの状況を
なんとかしなくてはならない。
金太郎は、チラリと次の
サービスエリアまでの距離を見る。
”俺を脅したって無駄だぜ”
金太郎は笑みを浮かべた。
次のサービスエリアで、
終わらせるー。
このおっさんが何を言おうが関係ない。
サービスエリアに入って急停車して、
梨菜をボコしてでも、
梨菜を解放してもらうー。
サービスエリアに入っちまえば
こちらのものだー。
車から飛び降りることもさせねぇ。
金太郎はそう考えながら
チラチラとサービスエリアまでの
残り距離を見る。
「---もう、二度と、煽り運転を
しないと誓えるか?」
梨菜は鬼のような形相で
金太郎を睨みながら
そう呟いた。
金太郎は答えない。
「誓えるかー?」
梨菜は叫んだ。
煽り運転によって
犠牲になる人をー
これ以上生み出してはならないー。
梨菜に憑依している男は、
人生をそれだけのために捧げてきた。
煽り運転を高速道路で見かける度に、
今までもこうして来たー
言ってもわからないやつには、
強引な手段を取るしかないー。
梨菜に憑依している男は、
そういう結論に辿り着いていた。
「ーー私はな…
煽り運転に家族を奪われた…」
梨菜は少し悲しそうな表情で呟く。
「--…」
金太郎は、梨菜の方を見る。
「---…私は妻と娘の死を知って
空っぽになった。廃人のようになった。
だがー。
ある日、憑依の力と出会って
私は決意した。
この力を、煽り運転を1つでも
減らすために使いたいー、と」
梨菜は、真剣な表情でそう語った。
いつもきつい性格の梨菜が
ある意味では、あまりしない表情だ。
「----」
金太郎は、話を真剣に聞いているー
ーーーフリをしていた。
「---運転の怖さが分かっただろう?」
梨菜は呟く。
高速道路で暴走することが
どんなに怖い事かー。
それが、この男にも少しは分かったはずだ、
と梨菜に憑依している男は思う。
「---…」
ニヤリ。
金太郎が笑みを浮かべた。
サービスエリアが見えてきた。
「--はっ!うっせ~んだよ!バカが!」
金太郎がサービスエリアの方にハンドルを切る。
そして、急ブレーキを踏む。
「----貴様!」
梨菜が叫ぶ。
「--へっ!俺の彼女に憑依なんかして
ただで済むと思うんじゃねぇぞ!」
サービエリア内に停車し、
梨菜の胸倉をつかみ、
金太郎は叫ぶ。
「梨菜を解放しやがれ!クソ野郎」
とー。
「---…」
胸倉をつかまれた梨菜は、
失笑した。
そして、梨菜は
金太郎に唾を吐き捨てた。
金太郎は梨菜を睨みつける。
計画通り。
もうこの男には何もできないー
あとは梨菜を取り戻すだけだー。
今のは、最後の悪あがきだろうー。
話に共感しているフリをし、
梨菜に憑依しているやつを油断させ、
車から飛び降りる隙を与えずに、
サービスエリアに突入して車を急停車させた。
金太郎は自分の作戦に
満足しながら梨菜を睨んだ。
「--そうかそうか、つまり君はそんなやつなんだな」
梨菜は失笑しながらそう呟いた。
「もういい、”いけ”」
言っても分からないやつには
何を言っても無駄だ。
梨菜に憑依している男は、
そう思っているー
これまでにも、
煽り運転をしていた人間に憑依したことは
何度もある。
自分たちが怖い目に遭って、
初めて煽り運転の過ちに気付いてくれる人もいれば、
金太郎のように、気づかないやつもいた。
そしてー
気付かないやつはーーーー
「---う…」
梨菜がうめき声をあげた。
「--梨菜!?だいじょうぶか!?」
金太郎が叫ぶ。
「あ…あれ…?わたし…?」
梨菜が不思議そうな顔で周囲を見渡す。
「梨菜!よかった!」
金太郎が笑みを浮かべて梨菜を抱きしめた。
あのトレンチコートの男も
諦めてくれたようだ。
”梨菜のふりをしているだけかもしれない”
そう思って、一応警戒したが
そんな様子はなかった。
「--わ、、わたし、何してたの?」
梨菜が舌打ちしながら言う。
金太郎は、梨菜が憑依されていたことを
説明すると、梨菜は
「はぁ?うっざ!ありえないんだけど!」と
怒りを露わにしていた。
いつもの、梨菜だ。
「ま、あのヤローも諦めたみたいだけどな」
金太郎は笑みを浮かべる。
「さすが金ちゃん!ありがと~!」
梨菜が笑いながら言うと
金太郎は「へっ!彼女を守るのが俺の仕事さ」と
かっこつけながら笑った。
サービスエリアで少し休憩した2人は、
再び車を走らせる。
「---さ、行こうぜ」
金太郎は笑みを浮かべて、
再び高速道路を走りだした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「----」
白い軽自動車の中では
トレンチコートの男が
意識を取り戻していたー
トレンチコートの男は
ため息をつくと、
車のエンジンをかけて
CDの再生を始めたー
”ワルキューレの騎行”が
大音量で流れ始める。
トレンチコートの男は
目をつぶって、呟いた。
”天に召されるがいい”
とー
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「はははははっ!それおかしいだろ」
「でしょ~!超うけるんだけど~!」
梨菜と金太郎が
ゲラゲラ笑いながら
高速道路を走行している。
乱暴な運転をしながら
むかついた車は容赦なく
煽って行く。
いつもの金太郎スタイルだ。
金太郎たちを乗せた
赤いスポーツカーは
周囲に迷惑をかけながら
走行を続けていたー
「--それでさ~」
金太郎が笑いながら
梨菜に話しかける。
その時だったー
「ン?」
金太郎が耳を澄ます。
何か、聞いたことのある
メロディーが聞こえてきた。
”ワルキューレの騎行”
「---?」
金太郎は首をかしげる。
「梨菜?なんか音楽聞こえないか?」
とー。
だが、梨菜は
「はぁ?聞えないよ~!」と
笑いながら答えた。
金太郎は、どんどん大音量になっていく
音に不気味さを感じながら前を見たー
この先に緩やかなカーブがある。
金太郎は音楽のことを気にしながらも
ハンドルを切ろうとした。
しかしー
「-----!?」
金太郎は表情を歪める。
手が、動かないー?
身体の自由が効かないー。
この先は、カーブ。
「お…おい…!?なんだよこりゃ!?」
金太郎は思わず叫んだ。
「---ど、どうしたの?」
助手席の彼女・梨菜も叫ぶ。
「お、、俺の身体が、、動かない…!ま、、まさか…」
金太郎は恐怖に歪んだ表情で叫ぶ。
「---ちょ、、ちょっと!冗談でしょ!
早くハンドル操作してよ!
この先カーブよ!」
梨菜が叫ぶ。
「わ、、分かってるよ!でも、身体が、、身体が
動かないんだ!」
金太郎は怒声混じりで叫んだ。
”貴様らに、改心のチャンスをやったが
貴様らは、それを無駄にした”
ーーー!?
梨菜の口から、男の声が漏れる。
「--えっ!?!?な、、なにこれ?!」
すかさず梨菜が恐怖を浮かべる。
「--やっぱお前の仕業か!
っおい!ふざけんな!!!
このままじゃ俺たちー!」
金太郎は梨菜に向かって
怒鳴り声を上げた。
梨菜もパニックになっている。
”---死ね”
冷たい声だったー。
この上なく、冷たい声ー。
まるで、
全てを憎悪しているかのようなー。
そんな、声だったー。
「----や、、やめろ!待ってくれ!おい!」
金太郎は狂ったように、悲鳴を上げる。
カーブはもう、目の前に迫っていたー
金太郎と梨菜の悲鳴ー
そして、それをかき消すように、事故の
激しい音が高速道路に響き渡ったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「----ふ~」
車内にかけていたBGMを止めると
トレンチコートの男は溜息をついた。
こんなことをしていても
むなしさは消えないー。
いくら、煽り運転をしている人間を
改心させようと、
改心しなかった人間を、
どんなに葬り去ったとしても、
むなしさが、消えることはないのだ。
いつまでも、むなしい日々は続く。
そう、これからも、永遠にー。
それでもー
こうでもしなければ、
彼は自分を保つことができなかった。
妻と、娘を煽り運転によって
失った悲しみで、
気が狂ってしまいそうだった。
「---…もう、私は
気が狂ってるのかもしれないな」
そう呟くと、彼は白い軽自動車の
エンジンをかけて、再び高速道路を
穏やかに走り始めたー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
何かと話題のあおり運転を
題材にした憑依小説でした!
煽っていると、
トレンチコートの男に
憑依されちゃうかも…?笑
お読み下さりありがとうございました~!
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