<憑依>憑依犯罪③~深き闇~(完)

人々に憑依を繰り返す
凶悪犯罪者・”シーフ”

シーフとは何者なのか。
女性に憑依を繰り返す理由はー。

ついに深淵を覗き込むときがきたー。

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「ーーーあはっ♡」

路地裏に追いつめられたランドセル姿の少女が不気味に微笑む。

「---止まれ!」
林吾の仲間・啓太が銃を構えながら言う。

ランドセル姿の少女は”シーフ”に憑依されているー。

「---憑依薬ってすごいよなぁ!
 こんな小さくてかわいい子も、犯罪者に大変身だ!」

ランドセルの少女が挑発的に笑う。

啓太は、負けじとその症状を睨みつけながら言う。

「---その子を解放しろー」

啓太は、お決まりのセリフを口にした。

分かっているー。
こんなセリフを言ったって、
”シーフ”は無事に症状を解放しないー

解放するわけがないー

もしも、自分だったらー…

「--や~だね!」
ランドセル少女は幼い顔を歪ませながら
唾を吐き捨てたー。

「---」
その言葉を聞いた啓太は、
躊躇なく発砲したー。

動かなくなった少女を見つめながら
啓太は、淡々とその場を処理して
柳沢警視正に連絡を入れるー

心なしか、啓太の表情は、
どこか楽しそうだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

同時刻ー

謹慎処分中の林吾は、
”ある男”をビルの屋上に
呼び出していたー。

”シーフ”…

林吾は、娘・里恵菜が憑依されたときのことを
思い出すー

もう、あれから5日だー
憑依された里恵菜の姿は、今でも脳裏に
焼き付いている-

里恵菜がー
母親の肉を食べているショッキングなシーンも…

そしてー
”里恵菜の箸の持ち方と使い方が、とても独特なものだ”ということもー。

里恵菜は普段、あんな箸の使い方はしないー

”かなり独特な”持ち方ー

あの持ち方をするのはー

林吾は目をつぶり、
居酒屋の光景を思い出すー

「--か~!女ってやっぱ怖いねぇ~」
「--何考えてるか、分かりやしねぇ」

高校時代の同級生・長野勇夫ー。

”相変わらず変な箸の持ち方だな”と、
林吾は、いつも勇夫のことを苦笑いしながら見ていたー

憑依された里恵菜の箸の持ち方はー
勇夫と全く同じだったー

「--林吾。急に呼び出して、どうした?」
屋上にやってきた勇夫が言う。

「---勇夫…」
林吾は、やってきた勇夫の方を見る。

逃げずにここにやってきたことで、
勇夫が”シーフ”である可能性は
少しだけ減った。

もしも勇夫が”シーフ”なら、
何となく呼び出された理由に察しがつくだろうし
ここにはこないはずだー。

林吾は、勇夫を疑いながらも、
勇夫がシーフであって欲しくない、
そう思っていたー

輝く夜景を見つめながら林吾は言う。

「勇夫…”シーフ”って知ってるか?」
単刀直入な問いだった。

知らないなら、知らないで、それでいい。

「---」
勇夫は答えない。

林吾は、夜景を悲しそうな目で
見つめながら、もう一度聞いた。

「--シーフ…知ってるか?」
さっきよりも、声のトーンを下げて。

勇夫は、
女子たちにいじめられていた過去を持つー。
こっぴどく女性に振られた過去を持つー。
勇夫はー女性を嫌っているー。

だからー
女性にばかり憑依していることも
説明がついてしまう。

「---シーフ?なんだそりゃ?」
沈黙を破るように、背後に立っている勇夫が答えた。

林吾は自虐的に笑った。

そして、振り向く。

「--勇夫…お前がシーフなんだろ?」
林吾は、そう呟いたー

「------」
勇夫は答えない。

しばしの沈黙ー。

ようやく、勇夫が口を開く。

「--どうして、分かった?」
勇夫の言葉に、林吾は心をえぐられるような
気持ちになった。

勇夫が、自分でシーフだと認めてしまったのだ。

「---ーー箸の持ち方…
 いつも、お前に言ってたよな?
 直した方がいいって。

 あれでお前は墓穴を掘ったんだ」

林吾の言葉に、
勇夫は自虐的に笑みを浮かべた。

「はは…そういうことか」

里恵菜に憑依して
肉を食っているときに、
箸遣いを見られたのだろうー。

「---林吾…
 お前はいつもいつも、俺の一歩先を
 行っていた。

 正直、俺はお前が羨ましかったよ」

勇夫は自虐的にそう呟いた。

「高校時代も、俺よりいつも成績は上だったし、
 俺はいつもお前のおまけだった。
 社会人になってからもそうだ。
 お前はいつも、俺の上にいた」

勇夫の言葉に、林吾は首を振る。

「勇夫…」

勇夫は微笑んだ。

「でもな、俺は”力”を手に入れた。
 憑依薬という力を。
 俺は、お前を越えたんだー。

 ”シーフ”に翻弄されるお前を見てるのは
 楽しかったよ。
 
 くくく…
 お前の苦しむ顔を見るのは、
 とても楽しかった」

明確な敵意をむき出しにする勇夫ー。

林吾は、怒りの叫び声を下げた。

「---くふふ」
勇夫が光のようになって、姿を消す。

「--!?!?」
林吾が驚いて目を開く。

”これが、憑依の力なのか”

とー。

「--逃がすか!」
林吾が叫ぶ。

光になって消えた勇夫を探すために
屋上から駆け下りようとする林吾―。

しかしー
何者かがビルの屋上に上がってきたー

「--!?」

屋上に上がってきた、塾帰りの女子高生と
思われる少女がー
一直線に林吾の方めがけて走ってきた。

そしてー
林吾を蹴り飛ばす。

「--へへへっ!下から身体をゲットしてきたぜ!」

笑う女子高生。

「--勇夫!」
林吾は叫んだ。

ビルの下をちょうど歩いていた女子高生に憑依した
勇夫が、屋上に上がってきて、林吾を襲ったのだ。

「--どうだ!憑依薬の力!すごいだろ!」
真面目そうな女子高生が
狂ったような笑みを浮かべながら言う。

「---どんな女だって、
 思いのまま!
 悪さをさせるのも、俺の自由だ!」

女子高生が可愛らしい声で叫ぶー。

「--じ、、自分がしていること、、分かっているのか…!」

林吾が叫ぶ。

林吾の言葉を聞いた女子高生は笑う。

「分かってるさー
 俺は女が嫌いなんだ。

 そんな女どもをこうやって入れものにして、
 好き放題する!
 最高じゃないか!

 憑依薬を手に入れた俺は、無敵だ!
 怖いものなんて、何もない!」

女子高生がゲラゲラと笑うー

憑依された人間は、
一切抵抗できず
完全に身も心も支配されてしまい、
”それがどんなことであっても”
やらされてしまうー

「--憑依薬…」
林吾は呟く。

それが、”憑依の力の正体”かー。

とー。

しかし、林吾は同時にある考えに辿り着くー。

”薬”-?

憑依の力が薬で得られたものならば、
誰かが薬を作っているはずだー。

「--憑依薬…どこで手に入れた!?」
林吾が叫ぶ。

「---それをお前が知る必要はないぜ!」
そう叫ぶと、女子高生は、ナイフを持って
林吾に襲い掛かってきた。

「-ー死ねぇ!」
ナイフを狂ったように振るう女子高生。

「ははははっ!暴力と縁のないであろう
 この子に、こんなことさせてる!
 考えただけでゾクゾクしないか!?」

林吾にナイフを振るいながら笑う女子高生。

「--ふざけるな!
 その子にだって、人生があるんだぞ!」

「しらねーよ!そんなもん!」

髪を振り乱しながら
林吾と戦いを続ける女子高生ー。

林吾が反撃しようとすると、
女子高生はバック転しながらそれを回避した。

スカートの中が丸見えになる。

「--チッ
 昔から運動神経は良かったからな」

林吾が言うと、
女子高生は微笑んだ。

「--あぁ…興奮してきた…
 女を乗っ取って
 悪い事をしている瞬間…
 ゾクゾクするぜぇ…ぐへへへへへ」

笑う女子高生ー

女子高生はニコニコしながら
自分の持ってきた鞄を探る。

「--ん~…
 川上 星奈ちゃんか…
 かわいそうに~」

女子高生・星奈はニヤニヤしながらそう言うと、
林吾のほうを見た。

「--星奈、これから人殺ししちゃう!うふっ♡」

そう言うと、星奈は再び林吾の方に向かって
ナイフを振り回してきたー

「くそっ!やめろ!」
林吾はなんとか星奈を乗っ取っている
勇夫を説得しようとしたー。

しかしー
星奈は本気で林吾を殺そうとしている。

足を引っ掛けられた林吾は、
地面に倒れてしまう。

必死に仰向けになり、起き上がろうとする
林吾を足で踏みつける星奈。

「ぐああああ…!」
悲鳴を上げる林吾を見ながら
星奈が笑う。

「暴力的な女子高生って興奮しない?
 しかも、不良じゃなくて
 わたし、優等生!あははははっ!」

星奈は林吾を踏みにじりながら
狂ったように笑い始めた。

「ひひひひひひひひひ!」
林吾を踏むのをやめると、
星奈は林吾の上に乗り、
ナイフを首筋に突き立てようとしてきたー。

可愛い女子高生に上に
乗られている状況を喜ぶ人間も
いるかもしれないが、
今は喜んでいる場合などではない。

「---勇夫!」
林吾は叫ぶー。

だが、勇夫にはもう言葉は
届きそうになかった。

勇夫は”シーフ”だ。

自分の家族を奪い、
これまでにたくさんの人間の命を奪ってきた、
恐るべき、相手だ。

「---くっそおおおおおおお!」
林吾はそう叫ぶと、
上に乗っといた星奈を突き飛ばした。

「ぐぇっ!」
星奈が変な声を出す。

そしてー

「動くな!」
林吾が星奈に銃を構える。

星奈は挑発的に笑った。

「撃てば?
 ふふ…死ぬのはわたしだけだよ?」

星奈の言う通り―。
林吾がここで撃っても、
勇夫にとっての”入れ物”を壊すだけー

被害者である星奈が犠牲になり
勇夫はまた、別の身体に憑依して
悪さを続けるだけ。

この戦いに終わりはないー。

林吾がそう思っていた
そのときだったー。

「---!?」
星奈が突然倒れた。

そしてー
星奈の身体から光のようなものが
出てきて、勇夫が姿を現した。

「--俺の負けだ…」
勇夫はその場に座り込む。

「---な、なんだって?」
林吾には、勇夫の目的が
分からなかった。

いつものように、身体を使い捨てて
逃げればいいだけなのに、
どうして目の前に…?

「--俺さ…憑依薬を手に入れて、
 憑依の力を手に入れたあとは、
 最初は、女の身体でちょっとしたイタズラをしたり、
 ちょっと困らせたり…
 そういうことをして、俺の嫌いな女たちに
 小さな復讐をしてたんだ」

勇夫が悲しそうに、夜景を見つめながら呟く。

「--でもさ、
 こういう力があると、人はどんどんエスカレートしていく…

 俺もさ、だんだんと乗っ取った女の身体で
 やることがエスカレートしていってさ…
 犯罪したり、自殺したり
 そういうことをするようになってた。

 いつでも好きなやつの身体を好き放題できるんだぜ?
 そう思ったら、もう俺は歯止めが効かなくなってた」

勇夫の言葉に
林吾は銃を構えながら言う。

「勇夫…罪を償うんだ」

林吾の言葉に、勇夫は笑いながら首を振った。

「はは、バカ言え。
 俺を逮捕しても無駄だ。
 俺はいつでも霊体になって他人に憑依できる。

 また俺の気が変われば、いつでも
 他人に憑依できるんだ。

 俺を止めるには、俺を殺すしかない」

勇夫が笑いながら、
林吾の方を見つめるー。

「---…なら、どうして、今、逃げようとしない?」
林吾は尋ねた。

勇夫がその気になれば
すぐにでも逃げられるのに、
勇夫は、林吾から逃げようとしないー。

「---…はは、自分でも分からねぇよ。
 でも…俺は、お前に気付いてもらって、
 お前にとめてほしかったのかもしれないな…」

そう呟くと、勇夫は林吾の方を見た。

「さぁ…俺を殺せ…
 そうしないと、俺は止められないし、
 俺自身でも、もう、自分にブレーキを掛けられねぇ

 殺せ!」

勇夫が叫ぶ。

林吾は思うー
こいつは親友であると同時に
妻と妹を殺した張本人だー。
そして、今まで数々の女性をー。

ここで逃がせば一生後悔することになるー。

「---」
林吾が意を決して、銃を勇夫に向けたー

しかしー

「うっ…」

!?

倒れていた星奈が変な声を出す。

そしてー
次の瞬間、落ちていたナイフを拾って、
それを勇夫に突き刺した。

「--ぐふぅ!?」
勇夫が苦しそうな声を出す。

「--なっ」
驚く林吾。

星奈は狂ったように笑いながらそのまま走り出したー

「--お、おい!待て!」
林吾が星奈の方に銃を向ける。

しかしー
勇夫を刺した星奈は、笑いながら
ビルの屋上から両手を広げて、
そのままー飛び降りてしまったー。

「--!?!?」
林吾は、混乱しながら、倒れた勇夫の方に向かう。

「はは……
 他の……”シーフ”の仕業だな…」

勇夫が苦しそうに息をしながら笑う。

「--なんだって?」
林吾は信じられない表情を浮かべる。

「---”シーフ”は俺だけじゃねぇ……
 
 ”憑依薬”を貰った人間はー
 何人もいるー。

 ……はぁ…はぁ…

 もう、、、止められねぇよ……」

勇夫の言葉に、
林吾は叫んだ。

「おい!どういうことだ!
 お前が”シーフ”じゃないのか?

 貰ったって誰に?」

その言葉を聞くと
勇夫は苦しそうに、
虚空を見つめながら呟いたー

「--おれは、、、シーフだ…
 でも、、シーフは、、ひとりじゃない……

 …お前も気をつけろよ…
 憑依薬を手に入れたら

 きっと、お前もーー
 暴走するーー

 この力があるとさ…
 なんでも、、、できる気に…なっちまう…
 へへ…」

勇夫は、こと切れたー。

「--……くそっ」
林吾は動かなくなった勇夫の死体を見ながら思うー

”シーフはひとりじゃない”

「---」
林吾は、女子高生・星奈が飛び降りた方向を見るー

あれは、確実に星奈本人の意思じゃないー。
”まだ他にもシーフがいる”

林吾は、意を決して、立ち上がった。

「--シーフども…
 それに、憑依薬を渡している黒幕…
 俺が全員ぶっ潰してやるー」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

数日後ー

林吾の自宅に、
警察の特殊部隊がやってきたー。

”口封じ”のために、
何者かが差し向けた刺客ー。

だが、林吾はもう自宅にはいなかった。

”身の危険”を感じた林吾は
警察を辞め、
身を隠したー

”シーフ”は警察にも根付いているー
そう感じたからだ。

「------」
現場にやってきていた
柳沢警視正は、静かに微笑んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・

今日も、女性が豹変して
暴れ出したニュースが流れているー。

”シーフはひとりじゃない”

林吾は、そのニュースを見つめながら思うー。

勇夫が死んでからも、
林吾は、憑依された女性と何回か対峙したー。

そのとき、アイツは笑った。

”あんたもしぶといな…”

とー。

今まで自分が対峙してきた”シーフ”は
勇夫だけではなかったのだろうー

他にも、何人もいるー。

「----きゃああああああああ!」
背後から悲鳴が聞こえて林吾が振り返るー。

そこにはー
ナイフを持って暴れる、OLの姿があった。

「---」
林吾は、OLの方に向かって歩いていく。

”シーフ”
必ず、お前をー

いや、
お前たちを、叩き潰してみせるー

例え、それが
どれほど深い闇であってもー
俺は、闇の奥底まで覗き込んで
全てを、光で照らしてやるー。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

憑依を使った犯罪者と戦うお話でした~!

憑依薬が犯罪に使われたら…
なんというかもう、お手上げですよネ…汗

お読み下さりありがとうございました~!

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憑依<憑依犯罪>

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