人々に憑依を繰り返す
凶悪犯罪者・”シーフ”
シーフとは何者なのか。
女性に憑依を繰り返す理由はー。
ついに深淵を覗き込むときがきたー。
-------------------------
「ーーーあはっ♡」
路地裏に追いつめられたランドセル姿の少女が不気味に微笑む。
「---止まれ!」
林吾の仲間・啓太が銃を構えながら言う。
ランドセル姿の少女は”シーフ”に憑依されているー。
「---憑依薬ってすごいよなぁ!
こんな小さくてかわいい子も、犯罪者に大変身だ!」
ランドセルの少女が挑発的に笑う。
啓太は、負けじとその症状を睨みつけながら言う。
「---その子を解放しろー」
啓太は、お決まりのセリフを口にした。
分かっているー。
こんなセリフを言ったって、
”シーフ”は無事に症状を解放しないー
解放するわけがないー
もしも、自分だったらー…
「--や~だね!」
ランドセル少女は幼い顔を歪ませながら
唾を吐き捨てたー。
「---」
その言葉を聞いた啓太は、
躊躇なく発砲したー。
動かなくなった少女を見つめながら
啓太は、淡々とその場を処理して
柳沢警視正に連絡を入れるー
心なしか、啓太の表情は、
どこか楽しそうだったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
同時刻ー
謹慎処分中の林吾は、
”ある男”をビルの屋上に
呼び出していたー。
”シーフ”…
林吾は、娘・里恵菜が憑依されたときのことを
思い出すー
もう、あれから5日だー
憑依された里恵菜の姿は、今でも脳裏に
焼き付いている-
里恵菜がー
母親の肉を食べているショッキングなシーンも…
そしてー
”里恵菜の箸の持ち方と使い方が、とても独特なものだ”ということもー。
里恵菜は普段、あんな箸の使い方はしないー
”かなり独特な”持ち方ー
あの持ち方をするのはー
林吾は目をつぶり、
居酒屋の光景を思い出すー
「--か~!女ってやっぱ怖いねぇ~」
「--何考えてるか、分かりやしねぇ」
高校時代の同級生・長野勇夫ー。
”相変わらず変な箸の持ち方だな”と、
林吾は、いつも勇夫のことを苦笑いしながら見ていたー
憑依された里恵菜の箸の持ち方はー
勇夫と全く同じだったー
「--林吾。急に呼び出して、どうした?」
屋上にやってきた勇夫が言う。
「---勇夫…」
林吾は、やってきた勇夫の方を見る。
逃げずにここにやってきたことで、
勇夫が”シーフ”である可能性は
少しだけ減った。
もしも勇夫が”シーフ”なら、
何となく呼び出された理由に察しがつくだろうし
ここにはこないはずだー。
林吾は、勇夫を疑いながらも、
勇夫がシーフであって欲しくない、
そう思っていたー
輝く夜景を見つめながら林吾は言う。
「勇夫…”シーフ”って知ってるか?」
単刀直入な問いだった。
知らないなら、知らないで、それでいい。
「---」
勇夫は答えない。
林吾は、夜景を悲しそうな目で
見つめながら、もう一度聞いた。
「--シーフ…知ってるか?」
さっきよりも、声のトーンを下げて。
勇夫は、
女子たちにいじめられていた過去を持つー。
こっぴどく女性に振られた過去を持つー。
勇夫はー女性を嫌っているー。
だからー
女性にばかり憑依していることも
説明がついてしまう。
「---シーフ?なんだそりゃ?」
沈黙を破るように、背後に立っている勇夫が答えた。
林吾は自虐的に笑った。
そして、振り向く。
「--勇夫…お前がシーフなんだろ?」
林吾は、そう呟いたー
「------」
勇夫は答えない。
しばしの沈黙ー。
ようやく、勇夫が口を開く。
「--どうして、分かった?」
勇夫の言葉に、林吾は心をえぐられるような
気持ちになった。
勇夫が、自分でシーフだと認めてしまったのだ。
「---ーー箸の持ち方…
いつも、お前に言ってたよな?
直した方がいいって。
あれでお前は墓穴を掘ったんだ」
林吾の言葉に、
勇夫は自虐的に笑みを浮かべた。
「はは…そういうことか」
里恵菜に憑依して
肉を食っているときに、
箸遣いを見られたのだろうー。
「---林吾…
お前はいつもいつも、俺の一歩先を
行っていた。
正直、俺はお前が羨ましかったよ」
勇夫は自虐的にそう呟いた。
「高校時代も、俺よりいつも成績は上だったし、
俺はいつもお前のおまけだった。
社会人になってからもそうだ。
お前はいつも、俺の上にいた」
勇夫の言葉に、林吾は首を振る。
「勇夫…」
勇夫は微笑んだ。
「でもな、俺は”力”を手に入れた。
憑依薬という力を。
俺は、お前を越えたんだー。
”シーフ”に翻弄されるお前を見てるのは
楽しかったよ。
くくく…
お前の苦しむ顔を見るのは、
とても楽しかった」
明確な敵意をむき出しにする勇夫ー。
林吾は、怒りの叫び声を下げた。
「---くふふ」
勇夫が光のようになって、姿を消す。
「--!?!?」
林吾が驚いて目を開く。
”これが、憑依の力なのか”
とー。
「--逃がすか!」
林吾が叫ぶ。
光になって消えた勇夫を探すために
屋上から駆け下りようとする林吾―。
しかしー
何者かがビルの屋上に上がってきたー
「--!?」
屋上に上がってきた、塾帰りの女子高生と
思われる少女がー
一直線に林吾の方めがけて走ってきた。
そしてー
林吾を蹴り飛ばす。
「--へへへっ!下から身体をゲットしてきたぜ!」
笑う女子高生。
「--勇夫!」
林吾は叫んだ。
ビルの下をちょうど歩いていた女子高生に憑依した
勇夫が、屋上に上がってきて、林吾を襲ったのだ。
「--どうだ!憑依薬の力!すごいだろ!」
真面目そうな女子高生が
狂ったような笑みを浮かべながら言う。
「---どんな女だって、
思いのまま!
悪さをさせるのも、俺の自由だ!」
女子高生が可愛らしい声で叫ぶー。
「--じ、、自分がしていること、、分かっているのか…!」
林吾が叫ぶ。
林吾の言葉を聞いた女子高生は笑う。
「分かってるさー
俺は女が嫌いなんだ。
そんな女どもをこうやって入れものにして、
好き放題する!
最高じゃないか!
憑依薬を手に入れた俺は、無敵だ!
怖いものなんて、何もない!」
女子高生がゲラゲラと笑うー
憑依された人間は、
一切抵抗できず
完全に身も心も支配されてしまい、
”それがどんなことであっても”
やらされてしまうー
「--憑依薬…」
林吾は呟く。
それが、”憑依の力の正体”かー。
とー。
しかし、林吾は同時にある考えに辿り着くー。
”薬”-?
憑依の力が薬で得られたものならば、
誰かが薬を作っているはずだー。
「--憑依薬…どこで手に入れた!?」
林吾が叫ぶ。
「---それをお前が知る必要はないぜ!」
そう叫ぶと、女子高生は、ナイフを持って
林吾に襲い掛かってきた。
「-ー死ねぇ!」
ナイフを狂ったように振るう女子高生。
「ははははっ!暴力と縁のないであろう
この子に、こんなことさせてる!
考えただけでゾクゾクしないか!?」
林吾にナイフを振るいながら笑う女子高生。
「--ふざけるな!
その子にだって、人生があるんだぞ!」
「しらねーよ!そんなもん!」
髪を振り乱しながら
林吾と戦いを続ける女子高生ー。
林吾が反撃しようとすると、
女子高生はバック転しながらそれを回避した。
スカートの中が丸見えになる。
「--チッ
昔から運動神経は良かったからな」
林吾が言うと、
女子高生は微笑んだ。
「--あぁ…興奮してきた…
女を乗っ取って
悪い事をしている瞬間…
ゾクゾクするぜぇ…ぐへへへへへ」
笑う女子高生ー
女子高生はニコニコしながら
自分の持ってきた鞄を探る。
「--ん~…
川上 星奈ちゃんか…
かわいそうに~」
女子高生・星奈はニヤニヤしながらそう言うと、
林吾のほうを見た。
「--星奈、これから人殺ししちゃう!うふっ♡」
そう言うと、星奈は再び林吾の方に向かって
ナイフを振り回してきたー
「くそっ!やめろ!」
林吾はなんとか星奈を乗っ取っている
勇夫を説得しようとしたー。
しかしー
星奈は本気で林吾を殺そうとしている。
足を引っ掛けられた林吾は、
地面に倒れてしまう。
必死に仰向けになり、起き上がろうとする
林吾を足で踏みつける星奈。
「ぐああああ…!」
悲鳴を上げる林吾を見ながら
星奈が笑う。
「暴力的な女子高生って興奮しない?
しかも、不良じゃなくて
わたし、優等生!あははははっ!」
星奈は林吾を踏みにじりながら
狂ったように笑い始めた。
「ひひひひひひひひひ!」
林吾を踏むのをやめると、
星奈は林吾の上に乗り、
ナイフを首筋に突き立てようとしてきたー。
可愛い女子高生に上に
乗られている状況を喜ぶ人間も
いるかもしれないが、
今は喜んでいる場合などではない。
「---勇夫!」
林吾は叫ぶー。
だが、勇夫にはもう言葉は
届きそうになかった。
勇夫は”シーフ”だ。
自分の家族を奪い、
これまでにたくさんの人間の命を奪ってきた、
恐るべき、相手だ。
「---くっそおおおおおおお!」
林吾はそう叫ぶと、
上に乗っといた星奈を突き飛ばした。
「ぐぇっ!」
星奈が変な声を出す。
そしてー
「動くな!」
林吾が星奈に銃を構える。
星奈は挑発的に笑った。
「撃てば?
ふふ…死ぬのはわたしだけだよ?」
星奈の言う通り―。
林吾がここで撃っても、
勇夫にとっての”入れ物”を壊すだけー
被害者である星奈が犠牲になり
勇夫はまた、別の身体に憑依して
悪さを続けるだけ。
この戦いに終わりはないー。
林吾がそう思っていた
そのときだったー。
「---!?」
星奈が突然倒れた。
そしてー
星奈の身体から光のようなものが
出てきて、勇夫が姿を現した。
「--俺の負けだ…」
勇夫はその場に座り込む。
「---な、なんだって?」
林吾には、勇夫の目的が
分からなかった。
いつものように、身体を使い捨てて
逃げればいいだけなのに、
どうして目の前に…?
「--俺さ…憑依薬を手に入れて、
憑依の力を手に入れたあとは、
最初は、女の身体でちょっとしたイタズラをしたり、
ちょっと困らせたり…
そういうことをして、俺の嫌いな女たちに
小さな復讐をしてたんだ」
勇夫が悲しそうに、夜景を見つめながら呟く。
「--でもさ、
こういう力があると、人はどんどんエスカレートしていく…
俺もさ、だんだんと乗っ取った女の身体で
やることがエスカレートしていってさ…
犯罪したり、自殺したり
そういうことをするようになってた。
いつでも好きなやつの身体を好き放題できるんだぜ?
そう思ったら、もう俺は歯止めが効かなくなってた」
勇夫の言葉に
林吾は銃を構えながら言う。
「勇夫…罪を償うんだ」
林吾の言葉に、勇夫は笑いながら首を振った。
「はは、バカ言え。
俺を逮捕しても無駄だ。
俺はいつでも霊体になって他人に憑依できる。
また俺の気が変われば、いつでも
他人に憑依できるんだ。
俺を止めるには、俺を殺すしかない」
勇夫が笑いながら、
林吾の方を見つめるー。
「---…なら、どうして、今、逃げようとしない?」
林吾は尋ねた。
勇夫がその気になれば
すぐにでも逃げられるのに、
勇夫は、林吾から逃げようとしないー。
「---…はは、自分でも分からねぇよ。
でも…俺は、お前に気付いてもらって、
お前にとめてほしかったのかもしれないな…」
そう呟くと、勇夫は林吾の方を見た。
「さぁ…俺を殺せ…
そうしないと、俺は止められないし、
俺自身でも、もう、自分にブレーキを掛けられねぇ
殺せ!」
勇夫が叫ぶ。
林吾は思うー
こいつは親友であると同時に
妻と妹を殺した張本人だー。
そして、今まで数々の女性をー。
ここで逃がせば一生後悔することになるー。
「---」
林吾が意を決して、銃を勇夫に向けたー
しかしー
「うっ…」
!?
倒れていた星奈が変な声を出す。
そしてー
次の瞬間、落ちていたナイフを拾って、
それを勇夫に突き刺した。
「--ぐふぅ!?」
勇夫が苦しそうな声を出す。
「--なっ」
驚く林吾。
星奈は狂ったように笑いながらそのまま走り出したー
「--お、おい!待て!」
林吾が星奈の方に銃を向ける。
しかしー
勇夫を刺した星奈は、笑いながら
ビルの屋上から両手を広げて、
そのままー飛び降りてしまったー。
「--!?!?」
林吾は、混乱しながら、倒れた勇夫の方に向かう。
「はは……
他の……”シーフ”の仕業だな…」
勇夫が苦しそうに息をしながら笑う。
「--なんだって?」
林吾は信じられない表情を浮かべる。
「---”シーフ”は俺だけじゃねぇ……
”憑依薬”を貰った人間はー
何人もいるー。
……はぁ…はぁ…
もう、、、止められねぇよ……」
勇夫の言葉に、
林吾は叫んだ。
「おい!どういうことだ!
お前が”シーフ”じゃないのか?
貰ったって誰に?」
その言葉を聞くと
勇夫は苦しそうに、
虚空を見つめながら呟いたー
「--おれは、、、シーフだ…
でも、、シーフは、、ひとりじゃない……
…お前も気をつけろよ…
憑依薬を手に入れたら
きっと、お前もーー
暴走するーー
この力があるとさ…
なんでも、、、できる気に…なっちまう…
へへ…」
勇夫は、こと切れたー。
「--……くそっ」
林吾は動かなくなった勇夫の死体を見ながら思うー
”シーフはひとりじゃない”
「---」
林吾は、女子高生・星奈が飛び降りた方向を見るー
あれは、確実に星奈本人の意思じゃないー。
”まだ他にもシーフがいる”
林吾は、意を決して、立ち上がった。
「--シーフども…
それに、憑依薬を渡している黒幕…
俺が全員ぶっ潰してやるー」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数日後ー
林吾の自宅に、
警察の特殊部隊がやってきたー。
”口封じ”のために、
何者かが差し向けた刺客ー。
だが、林吾はもう自宅にはいなかった。
”身の危険”を感じた林吾は
警察を辞め、
身を隠したー
”シーフ”は警察にも根付いているー
そう感じたからだ。
「------」
現場にやってきていた
柳沢警視正は、静かに微笑んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・
今日も、女性が豹変して
暴れ出したニュースが流れているー。
”シーフはひとりじゃない”
林吾は、そのニュースを見つめながら思うー。
勇夫が死んでからも、
林吾は、憑依された女性と何回か対峙したー。
そのとき、アイツは笑った。
”あんたもしぶといな…”
とー。
今まで自分が対峙してきた”シーフ”は
勇夫だけではなかったのだろうー
他にも、何人もいるー。
「----きゃああああああああ!」
背後から悲鳴が聞こえて林吾が振り返るー。
そこにはー
ナイフを持って暴れる、OLの姿があった。
「---」
林吾は、OLの方に向かって歩いていく。
”シーフ”
必ず、お前をー
いや、
お前たちを、叩き潰してみせるー
例え、それが
どれほど深い闇であってもー
俺は、闇の奥底まで覗き込んで
全てを、光で照らしてやるー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
憑依を使った犯罪者と戦うお話でした~!
憑依薬が犯罪に使われたら…
なんというかもう、お手上げですよネ…汗
お読み下さりありがとうございました~!
コメント