<入れ替わり>正反対のふたり③~未来~(完)

入れ替わってから1か月が経過したー。

お嬢様ライフを満喫する潤一。

ギリギリの生活に苦しむ紗智ー。

そして…

--------------------—-

「---…あぁ…」

潤一(紗智)は疲れ果てた様子で給料明細を見つめた。

涙がこぼれてくるー。

お嬢様の紗智と
フリーターの潤一が入れ替わって1か月ー。

紗智は、元に戻る方法を探しながらも
潤一として必死に働いた。

働かなければお金が手に入らないからだー。

最初のうちは
ネットで入れ替わりについて探ったり、
自分の屋敷に顔を出して門前払いされたり、
夜は男の身体の”調査”をしたりもしていたが
最近はそれもしなくなってしまっていた。

コンビニバイトに行って
疲れ果てて帰ってきて、寝るー。

それの繰り返しだ。

週5日勤務のコンビニバイトと
週2回の倉庫のバイトー
働き慣れていない紗智にとっては
地獄だったー

「はぁ…」
そしてー
これだけ働いたのにも関わらず
潤一(紗智)の給料明細は寂しいものだった。

「たったのこれだけ…」
潤一(紗智)は唖然とする。

こんなに働いて、これだけなのかー?
安すぎはしないか?

そう思ったー。

しかも、コンビニバイトでは店長や
後輩の女子大生バイトに嫌味を言われたりする始末。

みんな、優しくない。

こういうハードモードな人生もあるのだと
紗智は思い知らされていた。

「はぁ……つらい…」
鏡で自分の姿を見る潤一(紗智)ー

鏡は、割れているー。

潤一の姿を見て、
腹を立てて殴った時に割れたのだー

だが、修理するお金もないー

ごはんは、
1日1食にしているー

そんな余裕が、ないからだ。

潤一(紗智)には持病があり、
その薬を貰わなくてはいけないー。

お金の節約のために最初は無視していたが
死にそうな想いをしたので、
食べ物を削って病院に行っている。

そう、
金が、ないー。

「---うぅぅぅぅ…」
潤一(紗智)は、部屋の中で一人
泣きだしてしまったー

どん底の生活ー

もちろん、世の中には”もっとどん底”の人間は
充分にいるー。

しかしー
わがままに育った紗智にとっては
今のこの状況も、十分、どん底であった。

これ以上ないぐらいにー

執事や、
メイドたちや、
お父様がいることが
どんなにありがたいことだったのかー

潤一(紗智)は
身を持って、それを思い知らされたー

「---…」

♪~~~

潤一のスマホが鳴る。

潤一(紗智)は、
虚ろな目でスマホを手に取った。

また、コンビニの店長からだろうかー。

そう思いながらスマホを見ると、
その番号は知ってるような
知らないような番号ー

ため息をつきながら電話に出ると、
相手は紗智のよく知る相手だったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ごちそうさま~!」

嬉しそうに廊下をスキップする紗智(潤一)

今日の食事も豪華だった。

お嬢様暮らしは最高だ。
だいぶ、この暮らしにも慣れてきたし、
周囲のメイドたちや執事も優しいー

こんな、天国のような世界があるなんてー

しかも
夜は女の身体を遊びたい放題だー。

もちろん、この身体で生きて行くつもりだから
そんな無理はできないけれど、
まさか自分が女の子とエッチなことー

いやー
自分自身が女の子になって
エッチなことをする人生だなんて思わなかった。

「--ふふふふ~
 今日もおっぱい揉み揉みしちゃお~!」

胸を触り始めながら
ニヤニヤする紗智(潤一)。

そこに、部屋をノックする音が聞こえた。

”お嬢様、よろしいでしょうか”

執事の声だ。

「ぶふぉぉ!?」
胸を揉んでいた紗智(潤一)は
慌てて身なりを整えると
「え、えぇ」と答えた。

執事が部屋に入ってくる。

執事は
「お客様です」とだけ呟いて、
ついてくるように促した。

「--お客様?」
紗智(潤一)は首をかしげる。

誰だろう?

とー。

まだこの身体になってから1か月ー。
紗智になった潤一が知らないことも
たくさんあるだろうー

紗智にとってかかわりのある誰かが
来たのだろうー

そう思って、紗智は、のどかな雰囲気の応接間に入って行くー

すると、そこにはー

”潤一”がいたー

「--!?!?!?」
紗智(潤一)は驚く。

応接間には、2個のティーカップが
置かれている。

先に部屋に入っていた潤一(紗智)も
驚いた表情を浮かべたー

「--ど、どうしてここに」
紗智(潤一)は思わずそう口にしてしまう。

すると、潤一(紗智)は疲れ果てた様子で答えた。

「執事に、スマホで呼ばれたの」
潤一(紗智)は”入れ替わり”の原因でもある
人間を目の前にしても、
もう怒る気力もなくしていた。

そしてー
その部屋に執事が入ってくる。

紗智(潤一)の方を見て微笑む執事。

「さ、お座り下さい
 お嬢様ーー

 いやーーー
 井山 潤一様」

執事の言葉に紗智(潤一)はドキッとする。

潤一(紗智)も驚いた表情を浮かべる。

「な、、な、、何を言ってるのかしら?
 わ、わたしは紗智よ!」

紗智(潤一)はすぐにそう叫んだ。
せっかく手に入れたお嬢様の人生ー
返すわけにはいかない。

「---」

だが、執事は無言で紗智を見つめた。

穏やかな笑みー。

しかしー
”黙って座れ”と言わんばかりの
迫力があったー

「--……」
紗智(潤一)は観念した様子で座る。

「ど…どういうこと?」
潤一(紗智)が言う。

その目は希望に満ちている。

もしかしたら、
元の身体に戻れるかもしれないー、と。

執事は答えた。

「実は、お二人が入れ替わったことはー
 最初の日に分かっていました」

執事はそう答えた。

二人の様子を見て、すぐに気付いたのだと言う。

入れ替わりなんて、と最初は思ったが
二人の仕草を見て、その日のうちに、執事は
気付いていた。

「--わ、、わかってくれていたの!?」
潤一(紗智)が叫ぶと
執事は頷いた。

「十何年とお嬢様を見てきて
 おりますから…」

と、執事は笑いながら言う。

紗智(潤一)は、手を震わせていたー

”ふざけるな!お嬢様ライフは俺のものだ”

そう思いながら
ティーカップを握る手を震わせていた。

「--お二人が入れ替わっていることに気付いた私は
 すぐにお二人を元に戻す方法を調べました。

 そしてー
 方法は既に見つけております」

執事はそう言うと
”入れ替わり薬”と書かれた容器を二人に見せた。

二人が入れ替わって1週間で、
執事はそれを手に入れたのだと言う。

「だ、、だったら何で今まで!」
潤一(紗智)が叫ぶー。

入れ替わってから既に1か月が経過している。

入れ替わって1週間で”元に戻る方法”を
見つけていた執事は、4週間もお嬢様を
放置していたことになる。

「--お嬢様の教育に、ちょうどいいと
 思ったからでございます」

執事は頭を下げた。

「え…」
紗智(潤一)は困惑するー。

執事は続けるー

紗智のあまりにも我儘な態度に
父も、メイドも手を焼いていたのだという。
もちろん、執事もー。

どうしようかと考えていたところ、
偶然、紗智と潤一が入れ替わった。

潤一の境遇をただちに調べた執事は
”ちょうどいい機会”だと考えた。

紗智に、その日暮らしの生活を経験させることで、
自分を見つめ直す機会を与えよう―

と。

結果ー
1か月が経過した今、
潤一になった紗智は変わったー。

執事は、仕草を見ていて、そう感じていた。

コンビニの店長には金を渡して
潤一になった紗智の様子を報告してもらっていた。

そしてー
学校にも金を渡して
紗智は記憶喪失だということにしてもらっていた。
紗智になった潤一が
記憶がないのに”なんとなく学校生活を乗り越えた”のは
そのためだー。

「……そう…」

入れ替わり前なら潤一(紗智)は怒っていたかもしれない。

けれどー。
今の潤一(紗智)は
怒らなかった。

この1か月間で色々な経験をしたからだ。

「--…わたし、迷惑をかけていたのね」
潤一(紗智)が言う。

「----いえ、迷惑ではございません。
 お嬢様を正すのも、私どもの役目ですから」
執事は頭を下げた。

そして、入れ替わり薬を手にする。

「--でも、、、確かにいい経験だったわ」
潤一(紗智)が言う。

自分の恵まれた環境が当たり前だと思っていた。

けどー
そうじゃなかった。

潤一になってみて、紗智は
はじめてそれを理解することができたー。

それにー
潤一のように頑張っても頑張っても
浮かばれない人がいることも、理解できた。

それだけでも、とても大きな収穫だ。

「---この薬をお互いに飲めば、
 元の身体に戻れます」
執事は2つのグラスに入れ替わり薬を注いだ。

「---ありがとう」
潤一(紗智)は微笑んだー。

しかしー

「おいおいおいおいおいおい!ふざけるな!」
紗智(潤一)は
歪んだ表情で叫んだ。

「この身体はもう俺のものだ!
 今更返せだ!?ふざけるな!
 俺はお嬢様の教育係じゃないぞ!?
 俺にまたあのみじめな生活に戻れってのか!」

鬼のような形相で叫ぶ紗智(潤一)

「--あなた様には感謝しております」
執事は言った。

所詮他人事のような発言。

紗智(潤一)は怒り狂った様子で
机を蹴り飛ばした。

「--ふざけるな!俺が紗智…
 いや、わたしが紗智よ!
 
 この身体を返してたまるものですか…!
 ふふふふ…あはははははははは」

自分の身体をベタベタと触る紗智(潤一)。

はぁはぁ言いながら
顔を真っ赤にしている。

怒りー
焦りー
快感ー

あらゆる感情に
押しつぶされそうになるー

「--ひははははははははは!
 俺がお嬢様だ!」

紗智(潤一)が叫ぶ。

「---失礼」
執事が紗智(潤一)に近寄ると、
突然、柔道の技を決めた執事は、
無理やり紗智に入れ替わり薬を飲ませるのだったー

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・

「やっぱり、自分の身体って最高ね!」

紗智が嬉しそうに言う。

「---お帰りなさいませ お嬢様」
執事が頭を下げる。

「う…」
潤一は、意識を取り戻したー。

元の身体に戻ってしまった。

また、あのその日ぐらしの日々が始まる。
もう、おわりだー。
今度こそ、折れない枝にロープを
くくりつけて…。

嬉しそうにしている紗智と執事を見ながら
潤一は歩き出すー。

屋敷の外に向かってー

やはり、自分の人生なんて、所詮こんなものだ。

「--待ちなさい」
紗智がそんな潤一に声をかけた。

「---?」
潤一は、振り返る。

「--あなた…わたしにとんだ迷惑をかけてくれたわね?
 それに、わたしの身体を好き放題したみたいだし」

紗智が言う。

潤一は思ったー。

”あぁ、ここで犯罪者扱いされるのか”

とー。

しかしー

「---責任とって、あなたには
 この屋敷で働いてもらうわ」

紗智の言葉に、潤一は首をかしげた。

「--へ?」
潤一がイマイチ理解していないようなので
紗智はもう一度叫んだ。

「あなたには、ここで働いてもらう。

 あんなに働いているのに、あんなお給料なんて
 ありえないでしょ?
 わたしの身体を知った罰。
 あなたはここで働きなさい」

素直じゃない紗智の言葉ー。

紗智は、潤一の苦しい生活に同情したー。
同時になんとかできないかどうか、
考えていたー。

元に戻った後、
あの生活に戻れば潤一はー。

だから、潤一が入れ替わる前に執事と相談した。

そしてー

「---あなたさえ良ければ、
 我々と共に、この屋敷で働きませんか?
 何なら、住みこみも可能ですぞ?」

執事が言う。

潤一は「こ、こんな俺を…こんな俺を…雇ってくれるのか?」

と、呟く。

紗智と執事は優しく微笑んで、頷いたー

「偶然から始まったことだけどー
 こうして出会ったのもきっと何かの縁よ。
 あなたさえ、良ければ」

紗智が手を差し伸べる。
潤一は、少し涙ぐみながら、その手を掴んだー。

「--あ、でも、勘違いしないでね」
紗智が笑う。

「--よくある物語みたいに、恋愛感情に
 発展したりすることはないから

 あくまでも、お嬢様のわたしと
 使用人のあなた…ね?」

その言葉に、
潤一は苦笑いしながら頷いた。

「わかってますよ…お嬢様!」

とー。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

最後は丸く収まるエンドでした!

私の書く入れ替わりモノは
比較的ダークな終わり方か、
入れ替わったまま終わるものが多い気がしますが
今回はちゃんと元に戻れて
ダークじゃない終わり方にしてみました!

お読み下さりありがとうございました~

コメント

  1. 黒憑 より:

    SECRET: 0
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    こういうシチュってダーク展開がほとんどですしそれも勿論興奮しますけど、今回のお話の終わり方個人的に物凄く好きです。
    何回も読みたいなって思える良いお話でした。

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > こういうシチュってダーク展開がほとんどですしそれも勿論興奮しますけど、今回のお話の終わり方個人的に物凄く好きです。
    > 何回も読みたいなって思える良いお話でした。

    コメントありがとうございます~!
    ダークじゃない終わり方の方が
    後味は良くなりますよネ☆!

  3. 三流 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    両者円満なラストは心温まりますね!

  4. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > 両者円満なラストは心温まりますね!

    コメントありがとうございます~☆
    ハッピーエンドは、後味の良さが魅力ですよネ~☆