<入れ替わり>正反対のふたり②~明暗~

お嬢様としての人生を手に入れた貧乏な男性。

貧乏な男性になってしまったお嬢様ー

ふたりは、手に入れた人生をどのように
使っていくのかー。

元に、戻ることはできるのかー。

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♪~

紗智の家のインターホンがなる。

応対したのは執事。

”どちら様でございましょうか”

執事の言葉に
潤一になってしまった紗智は、
怒りをメラメラさせながら呟く。

「--紗智さんの、
 スマホをお届けにきました」

落し物を拾った風を装う。

執事は少し考えたあとに
”どうぞ”と返事をした。

住み慣れた豪邸の敷地内に入る
潤一(紗智)

中に入ると
執事がやってきた。

すかさず、潤一(紗智)は言葉をかける。

「ねぇ、落ち着いて聞いて。

 わたし、紗智なの」

その言葉に、執事は再び失笑する。

「お嬢様は先ほどお帰りになられてますよ」

執事はそう答えた。

だが、そのリアクションは想定済みだ。

「生年月日はー」
潤一(紗智)は自分の個人情報を完璧に
語り始めた。

「--…!」
執事は驚いた表情を浮かべるー。

「あなたの本名は飯本 健次郎」
最後に、執事の本名を言う潤一(紗智)。

そしてー
つけ加えた。

「さっき帰ってきた、わたしの身体を奪った
 あいつに聞いてみて。
 答えられないはずだから」

潤一(紗智)が腕を組みながら言う。

そうー
答えられるはずがないー

生徒手帳とかで、一部の個人情報は
知っていても、
好きな食べ物だとか、執事の本名だとか
そんなことは、分かるはずもないー

だがー

「---警察をお呼びしましょうか?」
執事の返事は予想外のものだった。

「---は?」
潤一(紗智)は思わずそう口にした。

「な、何を言ってるの?
 わたしが紗智よ!
 今のでわかったでしょ!?」
ヒステリックに喚き散らす潤一(紗智)

しかし、執事は言った。

「--お嬢様のストーカーとなれば
 私どもも、お嬢様をお守りするため、
 強硬手段に出なくてはなりません」

返してもらった紗智のスマホを手に、
「110」に通報しようとする執事。

「ちょ、待ちなさい!」
潤一(紗智)は叫ぶ。

「あんた!わたしが分からないの!?
 何年の付き合いよ!?

 お父様に言って首にしてもらうわよ!」

大声で叫ぶ
潤一(紗智)。

「---お父様…ねぇ」
執事は呆れた様子で呟いた。

そして、ゆっくりと潤一(紗智)の方に
近づいてくると耳元でささやいた。

「---いい加減にしろ」

ーーと。

紗智が普段聞いたことのない
執事の荒々しい口調。

潤一(紗智)は気圧されてしまった。

「--これ以上、お嬢様に付き纏わないことですな」
執事はいつもの口調に戻ると、
そのまま屋敷の中へと戻って行った。

「--…わ、、わたしが紗智よ!」
大声で叫んだー

けれどー
もう、相手にしてもらえなかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

紗智(潤一)は
その様子を窓から見つめていたー

「--ほっ…」
ほっと一安心する紗智(潤一)。

執事がバカでよかった。

「--ふふふ…
 これで、わたしがおじょうさま~!」

鏡の方を見て
くるりと回転してみせる紗智(潤一)

髪の毛やスカートもそれに合わせて
ふわっ、とする。

「--んふふふふふふ♡」

それだけで幸せな気持ちになって
紗智(潤一)は嬉しそうに足を
ばたつかせた。

「--はぁぁ…綺麗な手~…」
自分の手を見つめる紗智(潤一)。

どうして、こんなに色白で
汚れひとつない手で居られるのだろうかー

「はぁぁ…思わず舐めたくなっちゃう」
紗智(潤一)ははぁはぁ言いながら
自分の手をペロペロと舐める。

最高だー!

紗智(潤一)はあまりの嬉しさに
その場でぴょんぴょん飛び跳ねた。

「--って、そういえば、なんだか
 トイレに行きたくなってきた…」
紗智(潤一)はそう思いながら、トイレを目指した。

「……」
紗智(潤一)はトイレに向かいながら
表情を曇らせて行くー。

「そういえば…
 女の子ってどうやってトイレするんだ?」

潤一は、ほとんどそういう知識がない。
座ってする、ぐらいしか知らない。

「---ま、、ま、、まぁ、なんとかなるさ!」
そう呟きながら紗智(潤一)はトイレに向かった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「---はぁ…こら!この!なによこれ!」

仕方がなく、
身分証明書を頼りに
ぼろアパートに帰宅した潤一(紗智)は
トイレで苦戦していた。

まるで生きているかのように
アレが大きくなってしまい、
トイレに狙いが定まらない。

「ど、どうしたらいいの!
 こら!静まりなさい!」

どすいて大きくなってしまうのかー

潤一(紗智)は、
それに怒りすら感じた。

無意識のうちに男の身体に
紗智の意識が興奮しているのが
原因なのだが、
紗智にはそんなこと、分からない。

「---あっ!」
そうこうしているうちに尿が
変な方向に飛んでしまう。

「--も~~~~~!」
潤一(紗智)が叫ぶ。

結果は惨敗ー

トイレを汚してしまった。

これも全て、
暴れまわる息子のせいだ。

潤一(紗智)は溜息をつきながら
トイレをふき取る。

「--…ってか、トイレ汚いわよ!
 ちゃんと掃除しなさいよ!」

自分の家にある
ぴかぴかのトイレと比べて潤一(紗智)は
あまりにも汚い潤一宅のトイレを見て
そう叫んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「--くそっ…的が定まらなかった…」
紗智(潤一)も
トイレで惨敗していた。

なんとも言えない感覚ー

男だったときとは、まるで違う。
上手く言葉に言い表すことができないが
コントロールが出来ない。

紗智になって、
息子の偉大さを知るのだった。

しかし…

「トイレ…綺麗だったなぁ、さすがお嬢様」

紗智(潤一)はそんなことを呟きながら
廊下を歩く。

それにしてもすさまじい豪邸だ。
こんなところで、こんなに可愛い身体で
生活しているなんて、
もはや、罪と言ってもいいだろうー。

「…そういえば、
 よく考えたら、俺、女の子のこと
 何も知らないな」

紗智(潤一)は思うー

トイレもそうだが、
メイクも、髪のお手入れも、
服の着こなし方も、学校生活も、
生理云々も、何も知らないー

「---…大丈夫か、俺?」

そんなことを心配しながら
紗智(潤一)は自分の部屋へと向かい、
また、自分の身体をなんとなく愛ではじめるのだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

”おい!井山”

スマホに電話がかかってきたー。

相手のあまりにも失礼な態度に
潤一(紗智)は腹を立てていた。

潤一のバイト先である
コンビニの店長だ。

”こっちはお願いしてるんだぞ!?”

店長が怒りの声をあげる。

今日は、潤一のバイトは休みだったが
欠員が出たとかで、
潤一に出てくるように店長が言っているのだ。

「--あら?お願いする態度かしら?」
潤一(紗智)は腹を立ててそう言った。

ついお嬢様口調になってしまう。

”なんだその態度は!”

店長が叫ぶ。

「---それはこっちの台詞よ!」

潤一(紗智)は言いかえした。

感情的になって、
もう身体が男であることも忘れてしまっている。

”おい!なんで女みたいな口調なんだ!?
 井山!キモいぞ!”

店長が叫ぶ。

「--あなたには関係ないでしょ!
 わたしだって好きでこうしてるんじゃないの!」

潤一(紗智)は
どうにでもなれ!と思いながら
大声で怒鳴った。

”な、なんだその言い方は…!”

店長は怒りをあらわにしていた。

しかしー
やがて、頭が冷えたのか、
店長は口調を落ち着かせてこういった。

”確かに頼み方がわるかった…
 ダメならダメで、仕方ない”

その言葉に潤一(紗智)は
少しイライラしながら答えた。

「あ~もう!いいわよ!行くから!
 どこのコンビニ!?」

潤一(紗智)の言葉に
店長は首をかしげながら、
コンビニの場所を伝えたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

紗智になった潤一は高校に登校していた。

お嬢様が揃う名門女子高。

「--ひ…ひぇぇ…」
紗智(潤一)は青ざめていた。

元々、女子がそれほど得意ではない
潤一にとって、ここは異世界でしかなかった。

「おっはよ~!」

突然背後から女子に声をかけられる紗智(潤一)。

「お、おは…」
振り返るなり紗智(潤一)は
その女子に抱き着かれた。

その子の胸や髪があたるー

「むぎゅっ!?」
思わず変な声を出してしまう紗智(潤一)

「紗智ったら今日もやわらか~い♪」
笑いながら言う女友達。

「---ひ、、ひぇ、、ひぇぇぇぇ…!?」
紗智(潤一)は
”いつもこんなことしてるのか~?”と
思いながら、なんだか気持ちイイ~と思いはじめていた。

教室に辿り着くと、
女子だらけの世界がそこには広がっていた。

やばいー
誰の名前も分からないー。

胡坐をかいている女子もいるし、
スカートの中が丸見えの女子もいる。
まるでおっさんのような言葉を吐く女子もいれば、
平気で耳をほじる女子もいるー

潤一が頭の中で考えている
”女子の姿”とは違っていたー

「--こ、こんなものなのか…?」
紗智(潤一)は戸惑いながら
自分の座席を探す。

しかし、分かるはずもなかった。

仕方がなく、大人しそうな眼鏡の女子に
「わ、わたしの座席、どこだっけ…?」と聞くと
眼鏡の女子は「へ…?」と不審そうな表情を
浮かべながら座席を教えてくれた。

「やばくね…?俺…?」

こんなんで、学校生活
乗り越えることができるのだろうか…。

そう思いながら紗智(潤一)は
おどおどしていたー。

しかしー
不思議なことに、
”なんとかなった”のだー。

周囲がやけに親切にしてくれて、
1日を乗り切ることができた。

下校するころには、
紗智(潤一)は、
”このまま俺は、いや、わたしは紗智になれる!”
と、謎の確信までしてしまっていた…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

入れ替わってから1週間ー。

元に戻る方法を探しながら
独身フリーターとしての生活を送る紗智。

入れ替わったことに満足しながら
お嬢様としての生活を送る潤一。

ふたりは、対照的だったー。

「---♪~!」
”欲しいもの”は父親におねだりすれば
何でも買ってもらうことができるー

そんな夢のような生活

紗智(潤一)は、
可愛らしい洋服を着てご機嫌だった。

そこに、執事がやってくる。

「---今日もご機嫌でございますな」
執事が笑う。

「あら、もちろんよ。
 毎日が楽しくって」
紗智(潤一)はそう答えた。

毎日が本当に楽しい。

幸い、潤一の身体になってしまった紗智は
何もしてこない。

ピーピーわめいてくるかと思ったが
そうではなかったー

おかげで楽しいお嬢様ライフを
送ることができている。

執事は、そんな楽しそうなお嬢様を見つめると、
少し微笑んで、そのまま立ち去ったー

・・・・・・・・・・・・・・

一方の潤一(紗智)は
早くも心が折れかかっていた。

「わたしが…どうしてこんな…?」

元に戻る方法を模索しつつ
コンビニバイトをする日々。

潤一(紗智)はいつものような
わがままが通用しないことに
苦しんでいたー

執事を顎で使い、
父親に何でも頼み、
屋敷のメイドたちに身の回りの世話をしてもらうー。

それが、できないー

なんて不便なのだろうー

と。

「--あぁぁぁ…
 このおっさん、むかつく!」

洗面台の鏡に映った潤一の顔を
殴りつける潤一(紗智)

自分をこんな目に遭わせたこの男を
許さないー。

そう思いながら、潤一(紗智)は
コンビニバイトの時間が近づいていることに
気付き、今日もバイトに向かうのだったー。

③へ続くー

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コメント

正反対の人生を送るふたりー。
最後はどうなってしまうのでしょうか。

続きは明日デス~

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