彼女を守りたいー。
そんな彼氏の想いは次第に暴走していくー
そして、その先に待つものは…?
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「---はぁ…疲れた~」
帰宅した紗智は、
疲れた様子で部屋に座り込む。
”・・・・・・・”
良哉は、紗智がお風呂に入ることに
気付いて、目を閉じる。
”だめだだめだだめだ”
例え、死んで、こうして紗智に憑依しているとは言え、
紗智のシャワーを覗くことなんて許されないー
「---はぁ~…」
しかしー
紗智は、お風呂に入るのも
辛そうなほどに疲れていた。
彼氏の良哉の死ー。
意識が飛んでいることへの不安ー。
錦上から告白されたことの不安ー。
”仕方ないな…”
良哉は、よし!と呟いて、
紗智の身体を乗っ取った。
「--ちゃんと、俺が代わりに洗ってやるからな!」
紗智はニヤリとして、そう言うと、
服を脱いで、浴室へと入って行った。
「うぉっ!やっぱいい身体してるなぁ~」
紗智はぐふふふふ、と笑いながら
何かローションでも塗るかのように
自分の身体をこするようにして触っている
「あぁぁ…紗智~」
紗智は顔を真っ赤にして
自分の身体をベタベタと触るー。
身体を洗うことも忘れて、
あちらこちら触りつづける紗智。
「はぁぁぁ~綺麗な髪だなぁ~」
紗智は髪のニオイを嗅ぎながら
ゾクゾクして、震えていたー。
「あぁぁ…やばい、紗智の身体が興奮してきた」
紗智は、自分が興奮してきたことに気付くと、
やっと、髪を洗いはじめた。
「はぁぁぁ~興奮が止まらない~」
紗智はくふふふふ、と笑い続けながら
なんとか、入浴を済ませたのだったー
「--!?」
紗智は、ハッとする。
気付いたときにはー
入浴を終えて、部屋に座り込んでいる状態だったー
「え…なにこれ…?」
紗智は、恐怖の表情を浮かべたー
自分は、浴室に入ろうとしていたはずー
しかしー
今ー
自分は、入浴を終えて
良い香りを漂わせて
部屋に座っている。
「え……」
紗智は困惑していた。
”--ちゃんと、綺麗に洗っておいたからね”
良哉は、紗智の中でにっこりと微笑んだ。
不安そうにしている紗智。
紗智は、ため息をつく。
「わたし、どうしちゃったんだろ…」
とー。
そういえばー
死んだはずの良哉から手紙が
来るなんてありえないー
まさかあれは
無意識のうちに自分で書いたのではないかと、
紗智はそんな不安も抱きはじめていた。
「--と、とにかく…勉強しなくちゃ」
紗智は、とある試験に向けて
勉強していたー
机に向かう紗智。
”勉強…よ~し!俺が代わってあげるか!”
良哉が親切心からそう叫ぶと、
「ひぅっ!?」と紗智が声を上げて、
笑みを浮かべた。
「紗智のためなら、
俺はなんでもできるぞ!」
そう叫ぶ紗智。
立ち上がってがに股で歩きながら
冷蔵庫から適当な飲み物を取り出すと、
あくびをしながら椅子に座った。
「ふ~!勉強するか!」
紗智はそう叫ぶと、
良哉に乗っ取られたまま勉強を
始めるのだったー
・・・・・・・・・・・・・・・・
翌朝―
紗智は、落ち込んでいたー
昨日からー
記憶が飛ぶ。
どうしてだろうー?
「---……」
しかもー
昨日の夜は勉強する前に寝落ちしたと
自分では思っていたのに
何故かテキストは進んでいたー。
自分の筆跡で…。
「--夢遊病…?」
紗智は不安そうに呟く。
自分は、良哉が死んだショックから
立ち直れないあまり
夢遊病か、二重人格かなにかに
なってしまったのではないか、と
そんな不安を感じるー。
「---と、とにかく、大学行かなくちゃ」
紗智は、格好を整えると、
そのまま大学に向かった。
大学ではー
意識が飛ぶことはなかった。
紗智は帰宅して、
”昨日は疲れていただけかな”と呟くー
”お~!”
良哉は、紗智の中で呟いた。
”こうした方がいいな”
大学内でもー
紗智が嫌いな教授の授業をー
良哉が紗智の身体を乗っ取って
代わってあげたー
ただー
昨日から紗智が意識を飛ぶことを
不安に思っていることに気付いた良哉は
紗智に身体を返す前に、
記憶をいじる方法を見つけて、
良哉が紗智を乗っ取っている間も
違和感を感じないように
してあげたのだった。
そんなことできるのか?と
最初、良哉は思っていたが
なんとかなるものだ。
こうして、できてしまった。
”紗智…お前のことは俺が絶対守るからな”
良哉は、自分が早く死んでしまった分も
しっかりと紗智を守ると決意して微笑む。
”紗智…愛してるよ”
良哉がそう言うと、
紗智も「紗智…愛してるよ」と呟いた。
次第に
自分の影響が強まっていることにー
良哉は気付いていなかったー
・・・・・・・・・・・・・・・
数日後ー
大学のサークルで飲みがあったー。
”変な男によりつかれたら大変だ”
そう考えた良哉は、紗智を乗っ取って
紗智の代わりに飲みに参加した。
「紗智ちゃん…そういえば、もう大丈夫なの?」
仲間の一人が、紗智にそう尋ねた。
「え?」
紗智が不思議そうに返事をする。
「ほら、彼氏さん…
病気で亡くなったんでしょ?」
その言葉に、紗智はにっこりとほほ笑んだ。
「大丈夫…
良哉はわたしを守ってくれるから…」
良哉は、紗智にそう言わせて、
自分が紗智にそう言わせているという
快感を味わっていたー
「はぁ~」
少し飲みすぎてふらふらになってしまった紗智は、
そのまま家へと帰宅した。
「♪~」
ご機嫌そうに、良哉が好きだった
ロックバンドの歌を口ずさんでいる紗智ー。
「こんなべろべろの状態じゃ、紗智も辛いだろうからな~
俺が代わってやるか~」
紗智はそう言いながら、
スマホを開き、
良哉の好きなロックバンドの歌を流し始める。
大音量で音を流しながら
大声で歌を熱唱して、
髪を振り乱しながら首を振っている紗智。
紗智はー
こんなバンドに興味はなかったが
今は良哉に支配されていてノリノリだった。
「イェ~イ♡」
紗智はご機嫌そうにバンドの歌を
熱唱し続けたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌朝…。
「--あれ…」
紗智が目を覚ますー
部屋は乱れているー
自分も下着姿のまま寝ていたようだ―
「え…」
紗智は、混乱したー
昨日の記憶が、ほとんどない。
サークルの集まりがあったはずなのにー
それに参加した記憶もー
”酔った良哉は、
紗智の記憶を調整するのを
忘れてしまっていたー”
「--え…」
紗智はふとスマホに目をやる。
音が流れているー
流れていたのはー
良哉が生前好きだった、ロックバンドの曲。
酔った良哉は、後片付けも忘れて
寝てしまったのだったー
「---嘘…?」
自分のスマホでその曲を
ループ再生させていたことに驚く紗智。
「わ、、わたし…え…ど、、どうなってるの…?」
紗智は恐怖に身を震わした。
何かが起きているー
ふと、少し前の書置きを思い出すー
”いつでも紗智を守るから”
死んだ良哉からの書置きー
まさかー
「り…良哉!?いるの!?」
紗智が叫ぶ。
”---ん?”
紗智の中で寝ていた良哉が目を覚ます。
「り、、良哉、もしかして
わ、、わたしに憑りついたりしてる?」
憑依などということは信じられないー
けれどー
最近のおかしな状況からー
紗智はそう思わざるを得なかった。
しかし、良哉から返事はない。
良哉は、紗智のその言葉を聞いている。
だが、良哉から紗智に語りかけることはできず、
会話をすることはできなかった。
「も、、もしも…もしも、そうなら、、 や、、やめて!」
紗智が誰もいない部屋を見渡しながら叫ぶ。
「--わ、、わたし…良哉のこと、
今でも好きだけど…!
でも…!」
もしも良哉に身体を自由に動かされているのであれば、
それはそれで気味が悪い。
怯えている紗智の感情を
紗智に憑依している良哉は、感じていた。
”紗智が怖がっているー”
とー。
「---ひぅっ!?」
紗智はビクンと震えた。
そしてー
「だいじょうぶ、、怖くないよ…」
紗智は、鏡を見つめながら
自分で自分の頭を撫でた。
「紗智が怖くないように、してあげなくちゃな」
そう言うと、
紗智は笑ったままぴくぴくと震えはじめた
紗智が怖がらないように
記憶を書き換えてあげないといけないー
・・・・・・・・・・・・・・・・
大学は面倒だろうー。
良哉は、紗智のためを思って
大学での行動は、全部自分が
替わってあげることにした。
「--♪~」
「--最近、紗智、ご機嫌だよね?
何かあったの~?」
友達が尋ねてくる。
最近の紗智はすごくおしゃれになった。
そしてー
最近の紗智はとてもご機嫌になった
「--え~?
好きな人の役に立てるって幸せでしょ?」
紗智が嬉しそうに言う。
「好きな人…?」
友達は少し首をかしげた。
”紗智の好きな人”である
良哉は、少し前に病死したはずだ。
また、新しい人が出来たのだろうか。
「---んふふふふ」
紗智は、満面の笑みで歩きはじめる。
”紗智のために
もっともっとおしゃれをしなくちゃな。
紗智が、低く見られるなんて我慢できない”
良哉は、紗智をもっともっと可愛くするために
おしゃれにお金をかけたー
半月もした頃には、
元々美人だった紗智は、もっと美人になっていた。
「はぁ~…」
ため息をつく紗智。
最近、なんだか自分が変だー。
何が変だか分からないー
けれどー
自分が自分でいる時間が
とても短くなっている気がするー
「--」
何かー
何か大切なことを思い出せないー
紗智は不安になるー
しかしー
”紗智が不安を感じてるな…
だいじょうぶだよ、紗智”
そう呟くと、良哉は再び
紗智の意識を乗っ取った。
「---紗智のためなら、俺はなんだってするんだ…」
鏡に向かって、紗智は怪しい笑みを浮かべたー
大学は面倒だろうー
バイトは面倒だろうー
勉強は面倒だろうー
疲れているだろうー。
今や、1日の大半を、良哉が紗智を
乗っ取るようになっていたー。
だがー
ある日ー
「---……助けて…」
紗智が呟いた。
”…?”
紗智が不安を感じないように、
記憶は上手く調整しているー
それなのに、紗智はそう呟いた。
「--良哉…なんでしょ…?
わ、、、わたしのためを思ってなのかもしれないけど…
もう、、やめて…!」
紗智が、一人、涙を流しながら呟いた。
”さ、、紗智…?”
紗智は、良哉に記憶をいじられながらも
さすがに自分の状況がおかしいと気付き、
良哉に助けを求めたー
このままでは、完全に自分が自分ではなくなってしまうー
そう、思ってー
「--わたしの身体で好き勝手してるんでしょ…?
どうしてそんなことするの…!?」
紗智が問い詰めるような口調で言う。
”どうしてって…?
俺は、紗智のために…
どうしてそんな悲しい顔をするんだ…!?”
良哉は呟く。
その言葉は、紗智には聞こえていない。
けれど、紗智は続けた。
「--ねぇ、、わたしに何かしてるなら、
お願い、もう、やめて!」
紗智は薄々感づいている。
良哉が自分に憑依して、身体を好き勝手
していることにー。
”俺は、お前を助けてやろうと思って…”
良哉は呟く。
しかし紗智は震えながら言った。
「助けて…お願い…
わたし…わたしを消さないで…」
紗智は泣きながら嘆願するー
自分の身に何が起こっているのかもよくわからないー
良哉の目的もわからないー
自分は良哉に完全に乗り移られてしまうー
そんな恐怖から、紗智は泣きながら言った
「お願い!もう成仏して!!」
とー。
その言葉に、
良哉は静かに微笑んだ。
”紗智…怖い思いをさせてごめんな”
良哉は、
紗智の叫びを聞いて、
強く心を痛めた。
”紗智に、こんな怖い思いをさせるなんて、
俺も、彼氏としてまだまだだな”
その言葉は紗智には届いていないー
けれどー
紗智の気持ちを考えてみれば
確かにそうだった。
意識が飛んでいることを
不思議に思わないように
上手く記憶をいじったつもりだったが、
やっぱり、記憶をいじられていても、
不思議に感じるのも無理はないだろうー
1週間のほとんどを良哉に乗っ取られているのだからー。
”ごめんな…”
良哉は申し訳なさそうに呟いた。
彼女に怖い思いをさせるなんて…
「--良哉…わたし、良哉のこと、今でも大好き…
でもね…こんなの間違ってる…」
紗智がぼそっと呟いた。
その言葉を聞いていた良哉も、”そうだな”と呟いたー
そしてー
”もう安心して”
良哉は呟いたー
”もう二度と、紗智を怖がらせるようなことはしないー”
そう言うとー
良哉は黙り込んだー。
泣いていた紗智が
泣き止むー
しばらくの静寂ー
そしてー
「…う、、、うふふ…ふふふふふふふふふ…」
目に涙を浮かべたまま紗智が笑い始めた。
「あは、あははははははは~!
最初からこうすれば良かったんだ!」
紗智が歪んだ笑みを浮かべる。
「--紗智を怖がらせるなんて、俺はダメな彼氏だよ…
そうだよ!紗智の苦しみを全部、俺が引き受けて
あげなくちゃいけなかったんだ…!」
そう言うと、
紗智は自分の身体を撫でまわしながら呟いた。
「もうだいじょうぶだよ~
紗智~うふふふ…
俺が、、ぜ~んぶ、引き受けるから
もう、何も怖くないよ~
うふふふふふふ♡」
紗智は笑うー
そうだー
最初からこうすれば良かったー
こうすれば、紗智は怖がる必要はなくなるー
紗智の苦しみを全部引き受けてあげることができるー
「--いつまでも、一緒だよ、紗智…」
紗智を完全に乗っ取った良哉は、
自分の身体になった紗智の身体を
嬉しそうに抱きしめた…
「--ぜんぶ、お前のためなんだ、紗智…」
紗智は、そう呟くとー
立ち上がったー
紗智…お前は俺が永遠に守るよー。
永遠にー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
彼氏の愛が歪んで、
全部乗っ取られちゃいました…!
本人が良かれと思って
やっているところがまた怖いですネ~!
お読み下さりありがとうございました☆!
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