<憑依>他人の身体で飲む酒はうまいか?①~夜の時間~

彼には、
奇妙な日課があった。

それは、毎週末ー
”女性”と酒を飲むことー。

ただし、相手は毎週違うー。
そして、相手の女性は、憑依されているー。

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サラリーマンの
工藤 保志(くどう やすし)は
行きつけのおしゃれなバーで酒を飲んでいた。

「--ふぅ」

今日は週末ー。
保志は毎週末、このバーに酒を飲みに来る。
少し値段は高いが、
その値段に見合った居心地があるし、
独身の保志にとっては、
そのぐらいの出費は痛いものではなかった。

「おまたせ…!」

保志の背後から声がする。

保志が振り返ると、
そこには、ドレスを身に着けた妖艶な女性がいた。

20代前半だろうかー。
可愛らしさと、大人の女性の魅力が
混じったかのような、そんな女性だ。

「---うふふふふ…見とれちゃって」
女性が微笑む。

「--い、いや…そんな服装で来られたら
 男は、ドキッとするさ」

グラスを手にしながら保志が言うと、
女は微笑んだ。

「--名前はー」
保志がグラスを見つめながら言うと、
女は答えた。

「亜侑美ー」

と。

「そっか。じゃあ、”今日は”亜侑美と
 呼べばいいのかな?」

「--うん」

亜侑美は微笑んだ。

2人は”初対面”だ。
保志は、亜侑美と面識がないし、
何の接点もない。

がー
亜侑美は、保志に身体を密着させて
嬉しそうに飲み物を飲んでいる。

同じストローでドリンクを飲んだりー
保志の方を見て微笑んだりー

亜侑美は、保志に夢中、
という様子だ。

「---んふふふふ~♡」
酔ってきた亜侑美は、
嬉しそうな表情で保志に寄り掛かる。

そんな亜侑美にドキッとしながら
保志は呟いた。

「なぁ…」

保志は、口を開く。

「他人の身体で飲む酒はうまいか?」

とー。

「---」
その言葉に、亜侑美は、保志の方を見て
静かに微笑んだ。

「えぇ…もちろん♡」

と。

甘い声で言う亜侑美ー。

亜侑美はーーー
”憑依”されているー

保志と亜侑美は何の面識もないー

亜侑美はー
近くの会社で働く入社2年目のOL。

帰宅中に憑依されて身体を奪われて
友達との約束をすっぽかし、
銀行から貯金を下ろしてドレスを購入し、
ここに駆け付けたのだった。

「---その身体…
 亜侑美さんに、あんまり迷惑かけるなよ…?」

保志が言う。

保志は毎週週末、
このバーに来る。

そしてー
”憑依された女性”といつも、飲むー。

相手が憑依されていることは分かっているー
そして、少なからず憑依されている女性に
迷惑がかかっていることも分かっているー

急に体を奪われてー
こんな風に飲まされているなんて
思いもしないだろうし、困惑するだろう。

「この身体、お酒に弱い~
 はずれかな~」

亜侑美が自分の身体を
ペタペタと触りながら微笑む。

「---…じゃあ、今日はそろそろ帰ろうか」
保志がそう呟き、顔なじみのマスターに
代金を支払うと、席から立ち上がった。

亜侑美は先に店から出て行く。

「----いいんですか?」
いかにもバーのマスターという感じの雰囲気を持つ
マスターが言う。

「--…」
保志は黙り込む。

マスターも”保志の相手女性が憑依されている”ことを
知っている人間だー。

「--”結婚”のこと言わなくてー」
マスターの言葉に、
保志は「どういっていいか分からなくてー」と
呟いた。

・・・・・・・・・・・・・・

「それじゃあ~おっやすみ~♪ うふふふふぁ~」
すっかり酔った亜侑美が、ふらふらしながら
立ち去って行くー

「----」
保志はその亜侑美の後姿を見ながら思うー

”来週”も、また別の身体で、
会いに来るのだろうー。

今日、憑依された亜侑美もそうだしー
今までに憑依された女性たちもそうー

亜侑美に憑依している、保志の幼馴染は、
憑依した身体をそのまま奪ったり、殺したり、
人生台無しにするようなレベルのことはしないー

だがー
今日の亜侑美の場合も、
あんな格好させられている上に
ドレスも恐らく勝手に買ったのだろうー
亜侑美本人からすれば、大迷惑なのだー

それにー
「---」
保志は、まもなく結婚するー。

こういう風に”女性”と飲んでいること自体、
もう、良くないことなのだー。
それに”彼女”にもつたえないといけないー

亜侑美に憑依している彼女にもー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌週ー

保志は、いつものバーに足を運んだ。

保志はー
”彼女”に強く出ることができないー。

彼女が望むなら、あってやらなければならないー

何故ならー

「おまたせ~!」
ショートパンツ姿の、大人しそうな女性が
目に入る。

「今日はね、女子大生の身体だよ~!ふふふ」
嬉しそうに飛び跳ねる眼鏡女子。

「--どうどう?大人しい子に
 こういう格好させてみたの~!」

笑う彼女ー。

そんな彼女を見ながら
保志は”あの日”のことを思い出していたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

大学時代ー。

二人が、二十歳になってすぐの頃ー。

保志は、
幼馴染でもあり、彼女でも千奈(ちな)と
一緒にご飯を食べていた。

千奈は、とても優しい女性だったー。

大学を卒業したら、
一緒になろうー。

そう、約束もしていたー。

しかしー
ある日ー、
それは、壊れた。

突然のことだったー。

暴走する車にー
千奈は轢かれたー

本当は、保志が轢かれるはずだった。

だがー
咄嗟に暴走車に気付いた千奈が、
保志を突き飛ばしー
代わりに、千奈がー
千奈が身代わりになるカタチで、
事故に巻き込まれたのだった。

「----保志…」
ボロボロになった千奈は涙を流しながら呟いた。

「---もっといっしょに………いたかった…」

とー。

それから数年が経過したある日ー。
保志がバーで一人、飲んでいるとー
見知らぬ女性に声をかけられたー。

それがーーー
”千奈に憑依された女性”だったー。

最初は信じられるはずもなく、
イタズラかと思ったー

しかし、
千奈と自分しか絶対に知らないことを、
いくつも喋ってみせたー

それにー
”憑依”の力を目の当りに
させられてー
保志は信じざるを得なかった―。

死んだ千奈は、
保志に会いたいという強い想いから
この世に戻ってきたのだというー。

それから、保志は、
毎週、千奈と飲んでいるー。
毎週金曜日の夜だけー
千奈はこの世に戻ってくるー。

だが、千奈にはもう身体がない。
だから、毎週、千奈は、保志と飲むために
”他人の身体”に憑依するのだー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「……」
保志は、ショートパンツ姿の女子大生と飲みながら思うー

千奈には感謝しているし、
今も好きだー。

けれどー
このままでいいのか?とずっと思っているー。

毎週、誰かが千奈に憑依される。
人生壊すようなことはしないまでも、
こうして”望まぬ格好”をさせられて、
”望まぬ飲み”をさせられているー

保志は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

生前の千奈は優しかった。
おそらくは、今もそうだろうー。
保志のために一生懸命で、
色々な格好をしてくるのも、康史のためを
思ってだと思う。

今も昔も、保志が好き一心で、
行動しているのだろうー

だがー
”幽霊”になった千奈が
生前とまったく同じとは限らない。

もしも、結婚することを伝えたらー
千奈はどんな行動を起こすか分からないー。

だからこそー
言えなかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

保志は、それからも同じような日々を続けた。

そうこうしているうちに
仕事関係で出会った女性・恵麻(えま)との
結婚の日は近づいていたー

千奈が死んでから既に
5年以上が経過している。

浮気でも、何でもない。
千奈のことは今でも好きだ。

だが、それでも、だからと言って
ずっと独身でいなくてはいけない、
ということはないー

千奈はもう、この世にいないのだからー。

このことを伝えなくてはいけないー
それは、分かっている。

千奈のためにも、
恵麻のためにもー。

結婚は来月にまで迫っているー

「---ねぇ保志~、ホテルに行こうよ~!」
一緒に飲んでいる女性が、康史の腕に抱き着く。

保志はー
ホテルには絶対に行かないようにしていた。

今は婚約者がいるのもそうだし、
相手は千奈であって、千奈ではない。

身体は千奈ではないのだ。

だからー
ホテルには行かないようにしていた。

「--…そ、それはちょっと」
保志は、いつものようにはぐらかす。

「--…ふ~ん、ザンネン!」
気の強そうな女性がそう言う。

今日、千奈に憑依されている女性だ。
仕事帰りだった人に憑依したのだと言う。

千奈は、週末金曜日のこの時間以外は、
どこにいるのか分からない。

前に聞いてみたことがあるが、
”この時間だけ、この世に戻って来れる”
みたいなことを言っていた。

だから千奈は、保志に婚約者がいることを知らない。

「あ~~~酔って来ちゃった~!」
千奈に憑依されている女性が笑いながら上着を脱ぐ。

「--ふぅ~保志~♡」
保志の腕に抱き着く千奈。

千奈のことは今でも好きだー

でも、この現状は、
どうにかしなくてはならないー
千奈が他人の身体で酒を飲み―
自分が付き合うこの状況をー
どうにかしなくてはならない

「---千奈…」
保志がやっとの思いで口を開く。

今の状況を続けることは、
ふたりへの裏切りー。

千奈のためにも
恵麻のためにもー

「な…なんでも…ない」
保志は、言えなかったー

今日もー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌週ー

保志は、バーでマスターと話をしていた。

「俺…今日、言うことにしました」

そう言うと、マスターは「そうか…」と微笑んだ。

千奈がどんな反応をするかは分からない。

けれどー

言わなくてはならない。

「---おまたせ~!」
背後から、女性の声がする。

千奈だー。

保志は振り返る。

そしてー
目を疑った。

「え…恵麻!?」
保志の背後にいるのは恵麻だった。

婚約者の恵麻ー

20代中盤のー
美人で心優しそうな容姿のー
婚約者がそこにはいた。

しかもー
いつもとは違い、胸元を強調した
ミニかスカート姿でー
男を誘うような格好をしている。

「え…恵麻!?どうしてここに?」
保志は驚く。

早くしないと千奈が来てしまう。

千奈と恵麻が鉢合わせになったら、
それこそ修羅場になってしまう。

「---えま?」
恵麻が首をかしげた。

「あ~、この身体の名前ね!」
恵麻が笑いながら、隣に座る。

「ふふふふ~
 今日は保志を絶対にホテルに誘うんだから!」
恵麻が笑いながら
マスターにお酒を注文する。

「---」
マスターは気まずそうな表情を浮かべている。

「--…ま、、まさか、千奈なのか?」
保志は、震えながらそう尋ねた。

「うん!わたしだよ!」
恵麻は嬉しそうに微笑んだ。

「--今日はね、友達と遊びにいく約束をしてる
 この女の人に憑依したの~!」

笑いながら言う恵麻。

そして、恵麻は、
ミニスカートを触りながら笑った。

「地味な服装だったから、
 イメチェンしてきちゃった♡」

そんな恵麻に向かって、
保志は言った。

「ち…千奈…よく聞いてくれ」
保志は、恵麻の方を向く。

まさかこんなことになるとは。
偶然、自分の婚約者が
憑依対象になってしまうとはー。

「--お…俺…
 その人とー
 恵麻と…結婚するんだ」

保志がひと思いにそう呟くと、
恵麻の表情から笑顔がー消えた。

②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

他人の身体で飲んだり食べたりすると
味覚はどうなのかな~!
なんて、考えちゃいました笑

続きは明日デスー!

憑依<他人の身体で飲む酒はうまいか?>
憑依空間NEO

コメント

  1. ムクンクンクン より:

    SECRET: 0
    PASS: d32f0d486046a766611fda95337651b7
    立場を利用してダークパラダイス♪

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > 立場を利用してダークパラダイス♪

    ふふふ~
    それもまた面白いかもですネ~

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