彼氏の謙介に告白されたあの日からー
莉那は幸せだった。
まるで、夢を見ているかのようにー
”憑依された側”の行方を描くお話…!
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”この会話、何度もしているよね?”
莉那は一緒に歩く奈江に、そう尋ねた。
おかしいー
10月29日から先に進んでいないー
謙介に告白された10月29日を
何度も繰り返している。
しかも、謙介の姿が見当たらないー
「---」
奈江は微笑んだ。
「---初めてだよ」
とー。
「--え?」
莉那は奈江の方を見る。
初めてなわけないー
この会話はー
もう、”100回以上”はしているー
いつも何故だか、幸せな気分に包まれて
気付かなかったけどー
もう、この会話はー
いや、”10月29日”はー
何百回も繰り返されているー
まるでー
夢を繰り返し見ているかのようにー
”夢が夢であることに気付けない”
それと、同じような感覚。
「う、、嘘よ!わ、、わたし、何度も何度も
同じ日を繰り返してる!」
莉那が叫ぶ。
しかし、奈江は
「そんなことないよ」と微笑んだ。
「--莉那、疲れてるんだよ。
落ち着いて」
奈江が莉那を抱きしめる。
「あぁぁあ…」
莉那は突然幸せな気持ちでいっぱいになる。
「---……」
不安が、消えて行くー
そう、何もかもーーー
「-----」
だがー
莉那は我に返った
「離して!」
莉那は奈江を振り払う。
だめだー
このままだと
”この世界”に閉じ込められるー
莉那はそんな感じがしたー
これから何百回、いや、何千回、何万回と
”これ”を繰り返すことになってしまう。
莉那は慌てて逃げ出した。
莉那は、消えそうになる”疑念”を忘れないように
今までのことを思いだす。
謙介に告白されたあの日ー
いやー
そもそも、自分は、謙介のことなんて、
好きじゃなかったー
”気持ち悪い”とさえ思っていたー
今まで気づかなかった。
どうして”好き”と思っていたのかー?
あの日ー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
10月29日 昼休みー
クラスメイトの鍵原 謙介に呼び出された莉那は
空き教室へと足を運んだ。
謙介は、いつもクラスの端っこにいる生徒で
独り言が激しく、クスクスと一人で笑っていることもあり、
気味悪がられている。
「なぁ…俺さ…」
謙介がニヤニヤしながら言う。
莉那は、正直、謙介のことを”気持ち悪い”
そう思っていたー
だが、呼び出されたのを無視するのも
悪い気がして話だけでも聞こう、と
莉那は空き教室へやってきたのだった。
「--莉那ちゃんのこと、好きなんだよ くく」
謙介が笑う。
突然”莉那ちゃん”と馴れ馴れしく呼ばれたことに
莉那はさらに気味悪いと感じる。
「--そ、、それって、告白…?」
莉那が念の為確認すると
謙介は「くふふふ…そうだよ…莉那ちゃんのおっぱい、揉みたいなぁ」と笑った。
ゾクっとした。
背筋が凍るような悪寒。
「ご、ごめん、わたし、彼氏とか今、募集してないんだ」
莉那は、彼氏を欲していない風を
装って、穏便に済ませようとしたー
しかしー
「--言うと思ったよ」
謙介が笑った。
「でもさー
これからはその身体、俺のために
捧げてもらうよ」
謙介が不気味な薬のようなものを飲みこむ。
「---!?」
莉那は驚く。
目の前にいる謙介が、煙のようになった。
「--くはははは!ネットで手に入れた憑依薬!
今日から俺が莉那ちゃんだ!」
そう叫ぶと、謙介は莉那の方に向かって
突進してきたー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「----!!!」
莉那は表情を歪めていたー
「---……あ、、あれから…あれから…?」
あんな大事な出来事を
どうして自分は忘れていたのか―
そしてー
あれからー、
自分はどうしたのか。
”憑依”って何なのかー。
そしてー
自分の時間は、その日で止まっているー
10月29日を繰り返しているー
この偽りの”10月29日”には
謙介の姿がないー
そして、何もかもが上手くいくー。
おかしいー
莉那は考える。
「何が起こっているの…?」
”謙介に告白されたあと”の
記憶がはっきりしないー
自分が10月29日を繰り返すようになったのは、
あの時からだと思うー
朝起きて、
奈江と話してー
先生に褒められてー
晩御飯はオムレツでー
そんな日を繰り返している。
何の疑問も感じずにー
「----」
莉那は、”時々見る夢”を思い出す。
急に目を覚ますと、
自分がエッチな格好をしていたり、
エッチなことをしている夢ー
やけにリアリティがある、あの夢ー
しかも、夢の中の日付は、
どんどん進んでいるー
「---!!!!」
莉那は表情を歪めた。
まさかー
”あっちが現実ー!?”
莉那はそう思った。
”憑依”
”今日から俺が莉那ちゃんだ”
そのワード…。
もしかすると、謙介に、自分の身体は
好き放題されていて、
乗っ取られている自分は
こうして”夢”を見させられ続けているー
そんな、仮説が莉那の頭をよぎった。
そうだとしたらー
「んあぁぁあああっ♡」
突然ゾクっとして莉那は
思わずその場で喘いでしまう。
最近、急にこういうことがあるのはー
エッチなことをさせられているからー
ゾクゾクゾクゾクー
莉那の身体と脳に快感が
溢れるー
「--あ」
莉那はふと、思い出した。
「学校、行かなくちゃー」
莉那は、今まで自分が考えていたことを忘れてー
また、夢の流れに飲み込まれてしまったー
・・・・
「--あ、そうだ、わたし、先生に呼び出されてるんだった」
昼休みー
先生に呼び出されていることを思いだし、
莉那は職員室に向かう。
いつものように、褒められるー
けど、
今の莉那は、それを不思議に思っていないー
「やった♪褒められちゃった」
目指している大学に、行けるかもしれないー
「--あ、莉那!」
友達の奈江が笑いながら近づいてくる。
「先生の話、なんだった?」
奈江にそう聞かれて、莉那は嬉しそうに
先生に褒められたことを告げるのだった。
繰り返すー
繰り返すー
何度もーーー
何度もーーーーーー
・・・・・・・・・・・・・・・
「------!!!」
莉那が飛び起きたー
見知らぬ男と抱き合って
キスをしているー
「きゃああああああああああああ!?」
叫ぶ莉那。
その男を突き飛ばすー
「---!?!?!?」
莉那はカレンダーを見て驚くー
”2025年ー”
ーー!?
「嘘…?」
莉那は、”久しぶり”に思い出したー
そうだー
わたし…、”10月29日”を何度も何度も繰り返してー
莉那は慌ててホテルから飛び出したー
街並みが変っているー
そもそもここは、どこだー
”--あぁ~まだいたのか”
頭の中に声が響き渡る。
謙介の声だ。
”ーーーイッちまって、あまりに気持ちよくて
意識がはじけとんでたぜ”
謙介が笑う。
「--か、、鍵原くん…!?
わ、、わたし…!?」
莉那が叫ぶ。
”お前の身体は俺のものだ
もう、5年以上経ったかな?くくく”
謙介の言葉-
莉那は目に涙を浮かべる。
こっちのー
”たまに見るエッチな夢”だと思ってたほうが
”現実”だったー
10月29日のあの日、
自分は謙介に身体を奪われて
いいように使われているのだー
「---わ、、わたしの身体で、何してるのよ!」
莉那が叫ぶ。
”気にするなって。
あ、そうそう、聞きたいんだけど、
憑依されてる間ってどんな気分?
なんか夢でも見てんの?それとも、無?”
謙介が笑う。
「--た、、助けて…!
も、、、もう嫌だ!助けて…!
わ、わたしの身体を返して!」
莉那は自分の身体が”大人”になっていることに気付くー
2019年10月29日ー
あの日から憑依され続けて、
さっき見たカレンダーは”2025年”
高校時代も大学時代も飛び越えたことになるー
”いやだね”
謙介が笑う
そしてー
”おやすみ”
と謙介が呟いた
「ひぅっ!?」
目に涙を浮かべていた莉那は
再び謙介に完全に支配されて、笑みを浮かべた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
莉那は目を覚ましたー
何だか、怖い夢を見ていた気がするー。
10月29日ー
「はぁ~…どんな夢見たんだったけな~」
莉那は苦笑いする。
莉那は気付いていないー。
これこそが”夢”なのだとー
本当の自分は、身体を乗っ取られてー
謙介に好き勝手されていることをー。
もう既に、何年も経過しているー
けど、
莉那の時間は謙介に憑依された
10月29日で止まっているー
幸せなことばかりが起きるのはー
”夢”だからー
憑依されて好き勝手されているという
過酷な現実に耐える為に、脳が、
必死に幸せな夢を見せているー
そして、そこから抜け出せないー
人間は、死ぬ間際に、
死の恐怖から逃れる為
脳が特別な物質を出して、
幸せな光景を見せるー
とも、言われている。
莉那はー
そんな状態が永遠に続いているのかもしれないー
「--最近、莉那、すっごくご機嫌だよね」
莉那の友達の奈江が笑う。
「--え?そうかな~」
莉那の言葉に、奈江が「何かいいことあったんでしょ~」と微笑んだ。
いいことはあったー
彼氏が出来たことだー。
「実は…」と、莉那は彼氏が出来たことを
奈江に告げる。
奈江は少し驚いたあとに
「おめでとう」
と微笑んだー。
最近は、いいことばかりー。
昼休みー
「--あ、そうだ、わたし、先生に呼び出されてるんだった」
昼休みー
先生に呼び出されていることを思いだし、
莉那は職員室に向かう。
進路相談に関することで、褒められた莉那は
より上機嫌になっていた。
「やった♪褒められちゃった」
何度も何度も繰り返しているこの光景ー
夢が10月29日から先に進まないのはー
その日に憑依されて、
”その先”が莉那の人生には、ないからなのかもしれないー
「--あ、莉那!」
友達の奈江が笑いながら近づいてくる。
「先生の話、なんだった?」
奈江にそう聞かれて、莉那は嬉しそうに
先生に褒められたことを告げるのだった。
・・・・・・・・・・
「ただいま~」
帰宅する莉那。
今日も弟が出迎えてくれるー。
「ねぇねぇお母さん~!
今日の晩御飯は何~?」
莉那が、台所に居た母に聞くと、
母は、笑いながら、オムレツだと答えた。
莉那の大好物だった。
「やったぁ~♪」
嬉しそうに自分の部屋に向かっていく莉那ー。
しかし、莉那は立ち止まる。
”あれー?”
時々、莉那は我に返る。
けれどー
そのたびに、脳がそれを忘れさせようとする。
過酷な現実を思いだせば、莉那の精神が
耐えられないからー
「あなたは、何も気にしなくていいのよ」
母親が優しく笑う。
莉那の不安が急速に取り払われて
莉那は笑みを浮かべて部屋へと戻った。
繰り返すー。
何度もー
何度もー
10月29日をー
100回ー
1000回ー
3000回ー
現実世界では、莉那は30歳を超えていたー。
謙介に憑依され続ける莉那ー
夜の街でさんざん遊びつくしたー
やがてー
莉那の身体の美貌も失われていくー
「チッ…もうそろそろ捨てるか」
莉那は微笑んだー
最近は、薬まで初めてしまい、
莉那の身体はもうボロボロだった。
”どうせ、自分の身体じゃないし”
謙介はそう思っていたー
”そろそろ憑依から抜け出すか”
謙介はそんな風に考えながら
不気味な笑みを浮かべたー
莉那はー
見続けるー
夢をー。
やがてー
「----あ…」
莉那は、ふと目を覚ます。
ボロボロの格好で、廃虚のような場所で
座り込んでいる自分ー
何が、起きたのか、
わからないー。
莉那は36歳になっていたー
謙介は、莉那の身体を捨てて、
別の少女に憑依したー
「あ…れ…?」
10年以上も憑依され続けた莉那は、
もう何が何だか分からなかった
「う…あ」
そしてー
莉那は、現実から目を背けたー。
莉那は、その場で目をつぶる。
・・・・・・・・・
「ただいま~」
帰宅する莉那。
今日も弟が出迎えてくれるー。
「ねぇねぇお母さん~!
今日の晩御飯は何~?」
莉那が、台所に居た母に聞くと、
母は、笑いながら、オムレツだと答えた。
莉那の大好物だった。
「やったぁ~♪」
嬉しそうに自分の部屋に向かっていく莉那ー。
「---あれ?」
莉那は、ふと自分の部屋が
いつもとは違い、光に包まれていることに気付くー
「--なんだろ?」
莉那は不思議に思いながら、
自分の部屋へと足を踏み入れたー
”もう、おわりー”
莉那の身体が死を迎えようとしていたー
もう、夢も、終わりー
部屋の中には、
夢のような遊園地が広がっていた。
「わぁぁぁぁぁ!」
嬉しそうに微笑む莉那。
遊園地の中を走り回る莉那はー
そのまま光に包まれて、
何も分からなくなったーーー
・・・・・・・・・・・・・・・
「---大丈夫ですか?」
通行人が、
ほぼ全裸の状態で、廃虚に座り込んでいる莉那を見つける。
30代後半の女性だろうかー
通行人の呼びかけにも、莉那は応じない。
しかし、突然
虚ろな目で莉那は笑みを浮かべた
「わぁぁぁぁぁ!」
まるでー
子供が遊園地にやってきたかのような目ー
通行人は”普通じゃない”と感じて救急車を呼んだー
しかし、
救急車が到着した時には、
既にー
莉那は笑みを浮かべたままー
息絶えていたー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
憑依されてしまった少女視点のお話でした~!
ずっと夢の中…
気付いたら…
怖いですネ…!
お読み下さりありがとうございました!
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