他人の姿に変身できる力を持つおじさん。
彼には、気に入らない売れっ子アイドルがいた。
”変身おじさん”の次なるターゲットは、アイドルー。
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「---♪~」
俺はOLの姿のまま
がに股で街を歩く。
普通、女はこんな歩き方をしないと思うが
俺には関係ない。
この女がどう思われようと関係ないのだ。
”このあと、お昼の生放送では、
梨音ちゃんが出演してくれますよ~”
駅のビルに映し出されたテレビの音を聞いて
俺はその方向を睨んだー
”梨音”
今、人気のアイドルだ。
歌に、ドラマに、バラエティ番組ー
多方面から引っ張りだこの彼女。
まだ女子高生の年齢のくせに、
大人気の女だー。
とても控えめな性格で
そういうところも受けているようだが
俺は認めない。
俺はこのクソ女を絶対に認めない。
おじさんは認めないぞ!
ーーなぜ、俺が怒っているかって?
簡単なことだ。
以前、この梨音とかいうアイドルの特番で
俺が毎週楽しみにしているスポーツ番組が
放送中止になったことがある。
俺は、その時から、この女を”敵”だと決めている。
許せない。
そんなの逆恨みー?
そうかもしれない。
だが、
人間の恨みなんて、そんなものだろう?
些細なことで人は恨みを抱き、
些細なことで、人は他人を傷つける。
「--さて」
俺は、OL姿のまま昼の報道バラエティが
収録される建物の前に辿り着いた。
俺の目的は
梨音に変身して、ホンモノの梨音の代わりに
生放送に出演し、
生放送の場で、”ネオ梨音”を全国の視聴者に
見せつけることだ。
今晩からのニュース番組は
梨音の話題で持ちきりになるだろう。
そしてー
俺はそれを見つめながら
うまいメシを食うんだ。
「---よし」
建物から出てきた番組関係者と思われる
ギャルっぽい女に変身する。
「--」
まさか自分の姿に変身されているとも
夢に思わないそのギャル女は、
どこかへ歩いていく。
「うふふふふ~
わたし、侵入しちゃいま~す!」
胸のあたりに
カードがぶら下がっている。
やはり、番組関係者のようだー。
俺は、ふざけたモデル歩きをしながら
建物に入っていき、
難なくスタジオの付近まで歩いていく。
次はー
梨音の楽屋を見つけて、
マネージャーにでも変身するかー。
俺はそう思いながら
辺りを見回す。
「あ、すみません」
俺は近くにいたADっぽい男に声をかけた。
「-梨音ちゃんの楽屋ってどこでしたっけ?」
俺がわざとらしく愛想の良い声を出すと、
ADは首をかしげた。
俺は、他人の姿に変身することはできるが
その記憶をコピーすることはできない。
だからー適当に振る舞うことしかできないのだ。
「ーーそ、それは…」
ADがなかなか梨音の楽屋を教えてくれない。
「---ちょっと伝えに行かないといけないことがあるんで~!
早く教えて下さい!」
俺はイライラを隠そうともせずにそう呟いた。
しかし、ADは笑みを浮かべると
「あ、そういうことなら俺が伝えておくっす!」と
嬉しそうに立ち上がった。
違う。そうじゃない。
お前は黙って俺に梨音の楽屋を教えればいいんだ。
伝えておくっすじゃねぇよ、このタコ野郎。
「--…!」
ADが、驚いた表情で立ち尽くしている。
「--あ」
俺は、自分の心の声が外に出てしまっていたことに気付く。
このギャル女に俺の心の声を
喋らせてしまったー。
こうなったらもういい。
「おい!とっとと、梨音の楽屋はどこか吐けよ」
俺は、自分の姿お構いなしにADを壁ドンして脅すー
ADは口をパクパクしながら
俺の反対側を指さした。
「ふふふ~ど~も!」
俺はスキップしながらそちらの方向に向かっていく。
そしてー
ついに見つけた。
憎きアイドル・梨音の楽屋だ。
だがー
今、俺が変身しているこのギャルっぽい女の
立場が分からない。
梨音の楽屋に出入りできる立場なのかどうかも
分からないー。
だからー
俺は、待った。
「--!」
梨音の楽屋から誰かが出てくるー
「---♪~」
可愛らしいアイドル衣装に
優しそうな笑顔ー
梨音本人じゃないか。
俺の楽しみだったスポーツ番組を
潰した憎き、梨音だ。
「--」
俺は、周囲を見渡す。
梨音を尾行すると、
梨音は近くの女子トイレに入った。
「チャンス…!」
俺は、梨音に変身するのは
今しかないと判断して、
梨音の後から女子トイレに駆け込んだ。
まだ個室に入る前だった梨音は、
入ってきた俺と目が合って
軽く会釈した。
俺が本当の姿のまま
女子トイレに駆け込んだら梨音のやつは
悲鳴を上げただろうが、
今の俺はギャル女姿だから問題はない。
俺もにっこりとほほ笑んで会釈し返す。
ーー俺は、思わず邪悪な笑みを浮かべて
笑いだしそうになってしまった。
いや、ダメだー
まだ、笑うタイミングではない。
こらえるんだ。
俺は、梨音が個室に入るタイミングを待った。
トイレの個室ー
”変身”にはもってこいじゃねぇか。
梨音がトイレの個室の扉を開けるー
そしてー
「---うっしゃあああああああああ!」
俺はギャル女の姿のままそう叫んで、
梨音が入ろうとした個室に一緒に飛び込んだー
「きゃっ!?」
梨音が怯えた表情で俺の方を見る。
「くへへへへ~!
梨音ちゃん~?
最近ご活躍のようじゃねぇか~」
俺は憎しみを込めてそう言い放った。
梨音は、怯えた様子で
俺の方を見る。
「---ひ、、さ、、坂倉さん…!?」
梨音が震える声でそう呟く。
「坂倉ぁ?あぁ、この女の名前か」
俺はそう呟くと、
梨音の反応から、
このギャルっぽい女が
梨音のマネージャーなのではないかと思った。
だが、そんなことはどうでもいー
俺は、梨音の方を見つめるとー
そのまま梨音の姿に変身するー。
「---あ…あ…あぁああ…」
梨音は、がくがくと震えながらこちらを見ている。
この世の終わりを見つめるかのような
怯えっぷり。
当たり前と言えば当たり前だ。
後からトイレに入ってきた女が
自分の入った個室に乗り込んできてー
さらに、その女が自分の姿に変身したのだからー
「----な、、え…??」
梨音は言葉を失っているようだ。
「--ふふふふ~
梨音で~す☆!」
俺は可愛らしいポーズをホンモノの前で
決めてやった。
本物の梨音は言葉を失って声を
出すこともできないようだー。
「あ…あ、、あなたは…?」
梨音は、がくがく震えながら
やっと、そう声を振り絞った。
「え?わたし?わたしは梨音だよ~」
笑いながら俺はそう言い放つ。
「--これから生放送だよね~
くふふふ…
今日、わたし、みんなに”ネオ梨音ちゃん”を
見せてあげようと思って」
俺は嬉しそうに言う。
意味が分からず、ホンモノの梨音は震えている。
「---あ、、あ、、あの…」
梨音は、怯えながらも声を振り絞る。
俺は、その表情が気に入らなかった。
弱弱しく振る舞えば、可愛いと思ってもらえるとでも思っているのか?
「--俺がお前のふりをして
生放送に出るから、お前はここで黙って寝てろってんだよ」
俺はそう言うと、
梨音の姿で、梨音をグーで殴りつけた。
「ひっ、、や、、やめて」
怯える梨音。
俺は、笑いながら梨音に滅茶苦茶に乱暴した。
トイレの個室で梨音同士がエッチしている異様な光景。
俺は、梨音が気を失うまで徹底的に
梨音本人を痛めつけたー
そしてー
梨音は、ついに、トイレの個室の中で、
ぐったりとして気を失ってしまったー
もちろん、俺は人の命は奪わないー
ただ、ちょっと眠っていてもらうだけだ。
「---んふふふふふふふ」
アイドルの姿になった俺は
乱れた服装を整えながら、
鏡に向かって可愛らしいポーズを取ってみた。
「んぐふふふふふふふふ~」
俺は涎を垂らしながら
そのまま楽屋へと戻るのだった。
生放送の時間は近づいている。
報道バラエティ番組で
俺ー、いや、梨音は醜態をさらすのだ。
・・・・・・・・・・・・・
楽屋に戻った俺は自分の胸を
触ったり、髪のニオイを嗅いだりしながら
出番を待つ。
当然、俺にアイドルの経験もないし、
テレビ出演の経験もないから
こういう時にどうすれば良いのか
分からなくて困る。
「はぁ~あ…だりぃ」
胡坐をかいて、太もものあたりを
掻き毟る俺。
眠くなってきたー
アイドルが胡坐でふとももをかきながら、
大口をあけてあくびをしているー
くく、この子のファンが見たら
ファンは倒れちまうんじゃないか?
ま、そんなことはどうでもいい。
ガチャー
そうこうしているうちに扉が開いた
「あ、梨音ちゃん。
そろそろ出番よ」
入ってきた女は、
さっきまで俺が変身していたギャルっぽい格好の女だった。
やっぱりこいつがマネージャーだったのか?
さっきまで自分の姿を利用されていたとも知らずに
ギャル風の女は普通に振る舞っている。
「は~い!」
俺は元気よく返事をすると、
スタジオへと向かうのだった。
俺は、スタジオに向かいながら思う。
今頃、この女は、どうしてるかな?
そろそろ目を覚まして、
最高のショーを拝み始めているころだろうな…
・・・・・・・・・・・・・・・・
女子トイレ―
「ん…」
梨音は目を覚ます。
「--え!?」
梨音は自分の身体が、
お手洗いの個室に座った状態で
縛り付けられていることに気付く。
「え…!?えええ…?」
もがく梨音ー
そしてー
”今日は
来週にスタートを控えたドラマの
宣伝も兼ねて梨音ちゃんが
スタジオに来ています~”
「--!?」
梨音は、個室の脇に置かれている
小型のテレビを見つける。
そこにはー
自分が生放送で出演するはずの
報道バラエティ番組が放送されていた。
「え…!?」
自分が出演するはずだったその番組に、
”自分の姿をした何か”が
笑みを浮かべて出演している。
「よろしくお願いします☆」
元気よく挨拶をする梨音。
”変身おじさん”が梨音に
変身して生放送に出演している。
「ん…!?!?え…むぐ…!?」
梨音は自分の口も塞がれていることに気付く。
梨音は、もがきながら始まる生放送を見つめるのだったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
下らないニュースが流れて行く。
退屈だー。
梨音の番組の宣伝と、
主題歌にもなっている歌の生披露は
番組後半のようだ。
キャスターが原稿を読み、
現場との中継や、VTRなどが
使われて、番組は進んで行く。
俺は頬杖をつきながら大口で
あくびをした。
映っているかは分からないが、
梨音のこんな姿が全国に放送されていたら
梨音は…
くふふ…
俺は、足でもう片方の足をかきながら、
手で鼻をほじる。
アイドルが台無しだ。
「--ん」
周囲の出演者が俺の方を見ている。
くへへ…
人気アイドルのだらしない姿に
驚いている顔だな。
これからもっと驚くことになるぜ。
そして、番組は進む。
俺は髪をいじったり、
平気でくしゃみをしたり、
時折、片方の胸を揉んだりしながら
自分の出番を待った。
「それでは、梨音ちゃん、よろしくお願いします!」
来たー!
俺の出番だ!
「はい!」
俺は元気よく立ち上がった。
来週から始まるドラマの宣伝と
新曲の生披露。
俺はがに股でスタジオの中央まで
歩いていくと、カメラの方に向かって手を振った。
「--今、私のことをテレビで見て
ニヤニヤしてるみなさん!」
俺は笑顔で叫んだ。
「マジ、キモ~い!」
!?!?
スタジオ中が凍りつく。
「-ほら、そこのお前だよ!
わたしのことイヤらしい目でテレビ越しに
見て、ニヤニヤしてるんだろ?
うわぁ~きっも~!」
俺は喧嘩腰にテレビに向かって
話しかけた。
「--わたしさぁ~
ファンのみんなのこと
金づるにしか思ってないから」
周囲が青ざめていく。
だが、生放送ー
もう、手遅れだ。
「--あ、わたしのこと叩く?
炎上させる?
えへへへへへへ!」
俺はカメラの前でヤンキー座りをして、
カメラを睨みつけた。
「炎上上等だコラァ!」
俺は中指を突き立てて、
視聴者に喧嘩を売った。
可愛らしい梨音の声がスタジオ中に響き渡る。
「--新曲~?
聞きたいんだろ~?聞かせてやるよ!」
俺は、そう言うと、梨音の唄ではなく
俺の好きなヘビーメタルな曲を
激しく身体を動かしながら
熱唱し始めた。
「あははははははは!
ひははははははははは!」
”放送止めろ”の声が響き渡る。
「ひ~~ははははははははははは!」
俺はアイドル衣装を引き千切りながら
梨音の身体をカメラに向かって晒した。
そしてー
「じゃあな、クソども!」
と叫んで俺は唾を吐き捨てて
スタジオを後にするー
捕まっちゃまずい!
俺はトイレに駆け込むー。
梨音を縛った個室では、
梨音が生放送の惨状を見ていて、
泣きじゃくっていた。
「ぐへへへへへへ…
あとは頑張れよ」
俺はそう言うと、梨音をほどき、
そのまま、携帯用のテレビを回収するー
テレビのチャンネルを変えて、
その番組に映っていた適当な女に変身した俺は、
何食わぬ顔で女子トイレから出る。
番組スタッフや関係者が、女子トイレの前に集まる。
俺は、無関係な女として
その場から立ち去ったー
後日ー
梨音は芸能界から追放されたー
ドラマは放送延期ー
新曲は発売中止ー
あらゆる梨音関係のものは自粛となった。
「くくく…あ~ははははははは!」
俺は自宅でそのニュースを見ながら
大声で笑い続けたー
③へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
やりたい放題の変身おじさん…
その果てに待つものは…
続きは明日デス~
コメント
前話の被害者の女子高生もそうですけど、余りにもしょうもない理不尽な理由で人生壊されて気の毒すぎます。
この話は変身ものだけど、憑依の『狂っちゃえ』に近いものがありますね。
コメントありがとうございます~!
(たまたま作業中なので、返信が早いだけデス…笑)
理不尽に人生を壊されてしまうお話は
結構多いですネ…!