夜に豹変する彼女ー
彼女は、何者かに憑依されていた。
憑依されている彼女を前に、彼氏は…?
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「ど、、どういうことだ…?」
鉄平が言うと、
美穂はあざ笑うようにして、
自分の胸を触った。
「今、この子の身体はあたしのものってこと」
挑発的な笑みを浮かべる美穂。
「--い、、い、意味が分からないぞ!」
鉄平が叫ぶ。
”憑依”なんてこと、信じられるはずがなかった。
鉄平は、そういったジャンルに興味のない
高校生男子だったし、
特撮モノとかで、ヒロインが操られたりするお話は
見たことがあるけれど、
そんなことが現実で起こるとは思えない。
「---だから、言ってるでしょ?
あたしがこの女に憑依して、
身体も心も自由に操ってるの」
美穂が笑う。
「---な、、な、、そ、そんなこと…」
鉄平は混乱するー
いや、
騙されるなー
これは演技だ。
憑依なんてありえない。
「--美穂!そうやって俺をからかっているのか!」
鉄平が叫ぶ。
美穂は失笑した。
そしてー
鉄平の急所を蹴りつけた。
「ぐあっ!?!?」
鉄平は驚いてその場に
蹲ってしまう。
「この女がこんなことすると本気で
思ってんの?
かわいそ~!」
美穂が倒れた鉄平を見下すようにして笑う
「あたしに乗っ取られてるだけなのに
彼女のことそーやって疑っちゃうんだ?
あはは!ウケる~!」
美穂がきゃはははと笑っている。
鉄平は苦しみながら顔を上げた。
「ほ、、本当に、、美穂じゃないのか…」
鉄平の言葉に美穂は髪をいじりながら答えた。
「そうよ。あたしは由美。
身体は美穂ちゃんのものだけどね」
美穂が腕を組みながら言う。
「ど、、ど、、どういうことなんだ…!
教えてくれ!」
鉄平が叫ぶと、
美穂はスマホの時計を見ながら言った。
「--ま、いいわ。教えてあげる」
「…あたしはね、、事故に遭って死んだの。
少し前にね…
暴走した車に轢かれて、
一瞬だった。
でもねー。
奇跡が起きた。
あたしが気付いた時には、
病院で死んでいるあたしの身体とー
それを空中に浮かびながら
見つめているあたしだったー」
美穂が、過去を思い出しながら呟く。
「--ーーすぐに分かった。
自分が死んだんだって。
そう思った瞬間、自分の身体…っていうのかな?
宙に浮いている自分がどんどん
薄くなっていることに気付いたの。
あたしはその時初めて思った
”死にたくない”って。
もう死んでるのに、おかしな話でしょ?」
美穂が自虐的な笑みを浮かべる。
そしてー
続けた。
「よく、幽霊が人に憑りつく、みたいな話あるじゃん?
あんたも知ってるでしょ?
あたしは慌てて近くの誰かに
憑りつこうとしたの。
そうすれば消えずに済むって。
そう思ったの。
それでー
たまたま風邪で病院に来てたこの女にー
一番近くにいたこの子に憑依したのー
ふふ…偶然近くにいた子を選んだんだけど、
可愛いし、あたしってばラッキーよね」
美穂は、そこまで言い終えると笑った。
「--…ふ、、ふざけるな…
み、、美穂をどうするつもりだ?」
鉄平が言うと、
美穂はニヤリと笑う。
「--どうするって?
決まってるじゃない。
あたしがこの身体を貰うのよ。
あたしには大切な人もいるし、
まだ消えるわけにはいかないの。
でも、今、この女のことを完全に
乗っ取って、姿を消したら
この女の親が騒ぐでしょ?
だからこの女が大学生になって
一人暮らしできるようになるまで
こうして夜だけ、身体を
自由に使わせてもらってるのよ」
美穂の言葉に
鉄平は食い下がる。
「ふざけるな!
お、、お前に、美穂の人生を奪う資格はない!」
鉄平がそう言いきると、
美穂は笑う。
「--あはははは!
奪われるほうが悪いのよ!
この身体はもう、あたしの身体!
悔しかったら、取り返してみなさいよ!」
自分の心臓のあたりをつつきながら美穂は笑う。
「く、、くそっ…美穂!目を覚ませ!」
鉄平は叫ぶ。
しかし、その言葉は美穂には届かないー。
「-ーー無駄よ。
この女の記憶をちょっといじって、
いつも、夜までちゃんと勉強してる記憶を
刷り込んでるー。
朝方にはいつも変えるし、
この子は何も気づかないわ」
鉄平はその言葉を聞いて思うー
”夜、勉強してるー”
美穂はそう言っていた。
こういうことだったのかー
と鉄平は憤りを感じて、
美穂を睨んだ。
「--ふ、、ふざけるな!
美穂は俺の彼女だ…!
お前なんかに、、好き勝手させない!」
鉄平が叫ぶ。
「--……」
美穂は舌打ちした。
”面倒くさいやつ”
美穂に憑依している由美はそう思ったー
美穂が女子大生になるまで待ってから、
由美にとっての彼氏である和哉と
一緒に暮らす。
そのつもりだったー。
だがー。
こんなやつにばれてしまうなんて。
「--……あんたさ」
美穂が鉄平の方に近づいてきて
顔を近づける。
普段の美穂なら絶対ありえない距離に
鉄平はドキドキしてしまう。
「ウザい」
美穂はそう言うと、
鉄平をバカにするようにして、
そのまま立ち去ってしまった。
「--く、、くそっ!どうすれば…」
鉄平は困惑するー。
美穂の後を追って、
あのガラの悪い男たちと
対決するかー?
いや、それじゃ意味がない。
美穂を取り戻すことはできないー
鉄平は、昼間が勝負だ、
とそう思いながら
自宅へと戻った。
「---」
美穂は信じないだろうー
夜に自分が操られているなんてー
だがー
「---」
鉄平は少しだけ笑みを浮かべたー
父が前に会社の用事で買ったけれど
ロクに使っていないボイスレコーダーを
こっそり持ってきていたのだー
今の会話を、録音したー。
口調は違うが、口調はどう考えても美穂だし、
これを聞かせれば、美穂も信じてくれるー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
「うそ…」
空き教室で、昨日の出来事を伝えると
美穂は、目に涙を浮かべた。
「ほ、、本当なんだ…
俺も、、信じられないけどー」
ボイスレコーダーからは
昨日の夜の美穂と鉄平の会話が聞こえている。
「わ…わたし…どうすれば?」
困惑する美穂。
その身体は震えているー
「---だいじょうぶ」
鉄平が美穂に手を触れる。
「---美穂が、この女に操られるのは
夜だけだー。
その時、なんとかできれば―」
放課後ー
鉄平は、美穂と共に、美穂の家に向かうー
鉄平と美穂は意を決して
美穂の両親にそのことを打ち明ける。
両親も最初は信じなかったが
鉄平がボイスレコーダーを聞かせ、
さらに説得を続けることで、
ようやく信じてくれたー。
「---…さて」
夜20時ー
鉄平は美穂の部屋にいた。
「--まさかこんな形で美穂の家におじゃまするなんて」
鉄平が笑う。
美穂も「そうね…」と苦笑いする。
ちょっと不安そうな美穂を見て、鉄平は笑った。
「あ、お、俺、草食系だから何もしないから!」
鉄平が言うと、
美穂は「ふふ、分かってる」と笑みを浮かべたー
いつも”由美”が美穂に憑依しているのはー
21時前後だと思われるー
LINEの返事が途絶えるのが
そのタイミングだからだー
どこか別の場所から由美が来るのかー
美穂の中に由美がずっと潜んでいるのかー
はっきりしたことは分からないー
けどー。
鉄平は決意していたー
”外”には行かせないー。
美穂に憑依している由美に
”好きにはさせない”と分からせれば、
由美も美穂の身体をあきらめるのではないか―。
鉄平はそう思ったー
「---…こわい…」
美穂が怯えた表情で言う。
「大丈夫だから…俺が必ず…」
鉄平が美穂の方を見て言う。
誰だって、
自分が好き勝手知らないうちに
乗っ取られているなんて知ったら怖いだろう。
怖がる美穂を見て、
鉄平は改めて決意したー。
美穂を必ず守るー、と。
21時―
「---……鉄平…」
美穂が涙を浮かべながら
ブルブルと震える。
「美穂…俺が必ず守るから…」
鉄平が美穂の方をまっすぐ見つめて言う。
美穂は、「うん…」と少しだけ笑みを浮かべると
次の瞬間、ビクンと震えて、
そのまま動かなくなってしまったー
「み、、美穂…」
鉄平がまるで時が止まったかのように
そのままになっている美穂を見つめて、声をかける。
そしてー
「はぁ~~~~」
美穂が突然面倒臭そうに声を出した。
「--早くこの女の身体を完全にあたしのものに…」
そこまで言いかけて美穂は鉄平の方を見つめる。
「---!!あんた、何でここに!?」
美穂が驚いた声を出す。
「--美穂の身体を好きにさせるわけにはいかねぇ!
美穂から出てけ!」
鉄平が叫ぶ。
「--はぁ?あたしの邪魔をするつもり?」
美穂がうんざりした様子で言う。
「あぁ。美穂の身体は絶対に好きにさせない。
今日から毎日、俺と、美穂の両親が
日替わりで美穂のことを見張る!」
鉄平が言うと、
美穂は舌打ちした。
「どきな。
あたし、今日、和哉とヤるんだからさ。」
美穂が言う。
「--ふざけるな!
それは美穂の身体だぞ!」
鉄平が怒りの形相で叫ぶと、
美穂は胸のあたりを触りながら笑う
「今はあたしの身体だ!」
ーーと。
美穂は鉄平を無視して、
部屋に隠している派手な服を引っ張り出すと、
そのままそれに着替えようとする。
「--行かせるか!」
鉄平が美穂を押さえる。
しかしー
美穂が鉄平のことを
グーで殴りつけた。
「ぐあっ!」
思わず吹き飛ばされる鉄平。
「--あのさ、あんたうぜぇんだけど?
邪魔しないで!」
美穂はそう言いながら服を脱ぎ捨てて
派手な格好に着替える。
「ふざけるな!」
頬を押さえながら鉄平は再び美穂の方に向かう。
美穂は躊躇なく、鉄平を再び殴りつけると、
殴る、蹴るの暴行を繰り返した。
「きゃはははは!女のあたしに
一方的に殴られちゃって!
和哉とは大違いね!」
美穂が愉快そうに笑うー
しかし、それでも鉄平は美穂の方に向かった。
顔から血を流しながら
怒りの形相で美穂を押し倒す。
「--わっ!?」
仰向けになった美穂が、上に馬乗りになった
鉄平を見つめるー
「---美穂の身体で、、夜遊びなんてさせない」
鉄平が怒りの形相で叫ぶ。
その気迫に、美穂に憑依している由美は
初めてビクッとしてしまった。
「---な、、何なんだよ…」
美穂が不愉快そうに言う。
「--お前が美穂の身体を勝手に
使うなら、
何度でも、何度でも、こうやってお前を止めてやる!
お前はもう、和哉とかいう男には会えない!
美穂の身体にいる限りな!」
鉄平がそう言って
美穂を睨みつける。
美穂も負けじと鉄平を睨んでいるー
がー
2分ぐらい経過しただろうかー
美穂が、呆れたように鼻で笑った。
「めんどうくせー男」
美穂はそう言うと、
さらに続ける。
「あんたみたいのと毎日顔合せるとか
マジ勘弁…
もういいわ、こいつの身体は返してあげる」
美穂がイライラした様子で呟いた。
鉄平の気迫を見て、
美穂に憑依している由美は
こいつは何度でも邪魔をしてくる、と判断した。
そうなればー
大学生に美穂がなっても
邪魔してくるかもしれないー
そうなったら、美穂の身体を
完全に乗っ取るのも難しくなるし、
鉄平は両親にもつたえたみたいだから
美穂の両親にばれないようにしてきたのも無駄になる
「あんたのせいで台無し…!」
美穂は鉄平をありったけの敵意を込めて
睨みつけると、そのまま気を失った。
「--美穂…!美穂!」
鉄平が美穂の名前を呼ぶー
「う…」
すぐに、美穂は目を覚ました。
そして、
鉄平の方を見て、美穂は
涙を流しながら、鉄平に抱き着いた。
「鉄平…」
鉄平は、「もう大丈夫だよ…」と
美穂にやさしく微笑んだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
翌日の夜も、鉄平は美穂の部屋に行った。
だがー
美穂が憑依されることはなかった。
次の日もー
その、次の日もー
LINEのやり取りも9時以降も続くようになったし、
夜に屋根から出て行くこともなくなった。
美穂の両親も、ちゃんと美穂のことをチェックしー
美穂が、憑依されることはなくなったことを確認したー
「--いや~本当によかった」
あれから1か月ー
鉄平は美穂と笑いながら話をしていた。
「--うん。鉄平のおかげ。ありがとう」
美穂が控えめに微笑む。
「--いや、最初はびっくりしたけどさ、
でも、俺がなんとかしなくちゃって」
鉄平が言うと、
美穂は嬉しそうに微笑むのだったー
美穂に憑依していた由美がどこに行ったのかは
分からないー
もしかしたら別の誰かが犠牲になっているかもしれないー
けれどー
鉄平には、そこまで守ることはできないー
「これで…これで良かったんだ」
鉄平はそう呟くと、
大事な美穂の方を見て微笑んだー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「は~~~~」
夜ー
自宅で美穂は微笑む。
「--あぁぁぁ~エッチしたい~」
じたばたする美穂。
そしてー
スマホを手に微笑むー
連絡相手は和哉ー。
”大学に入るまで、
待っててくれる?”
美穂はそう連絡を入れる。
和哉は
”いくらでも待つぜ”と美穂に返信したー
「ふふふふ…」
美穂は微笑む。
「バカな男…」
美穂はーー
”完全に乗っ取られて”しまっていたー。
消えたように見せかけたのは、演技ー。
実際には、鉄平に邪魔をされたあの日から、
美穂の身体を完全に乗っ取って、
夜だけではなく、昼間も由美が
美穂の身も心も操っているー。
このまま
美穂が元に戻ったと鉄平に思い込ませて
高校を卒業し、大学入学を機に
だんだんと自然消滅するつもりだー
「んふふふ…
”俺が必ず守るから?”」
美穂があざ笑うようにして呟くー
美穂本人の意識はー
あの日の夜からずっと乗っ取られたままー
表には一度も出てきていない。
「守れてないじゃ~ん!
超うけるんだけど!
きゃはははははははは!」
美穂は一人笑いはじめると、
そのまま一人エッチを初めてしまったー
鉄平は気付いていないー
美穂が完全に乗っ取られて
記憶も何もかも奪われてしまったことをー
「高校卒業までは、
恋愛ごっこ、楽しませてあげる…ふふふふふ」
美穂は、悪い笑顔を浮かべて、そう呟いた
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数年後―
大学生になった鉄平は思う。
「最近、美穂からの連絡が減ったな…
忙しいのかな…?」
高校卒業まで彼氏彼女の関係が続いていた。
今も、別れているわけではない。
だが、大学生になって一人暮らしを始めた美穂は、
次第に連絡をくれなくなり、
会うこともなくなっていたー
鉄平は知らないー
美穂が、由美という女に憑依され続けていて、
今は、毎日和哉とエッチ三昧の日々を送っていることをー
・・・・・・・・・・・・・・・・
「あはははは♡ きゃあああ♡」
美穂が網タイツ姿で、和哉と抱き合って
満面の笑みを浮かべているー
「---あぁぁぁ…かずやぁ♡」
甘い声で嬉しそうに微笑む美穂は、
とても、幸せそうだったー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
助けたつもりが
完全に乗っ取られてしまいました…!
お読み下さりありがとうございました~!
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