<憑依>優等生の夜①~豹変~

彼女は、真面目で大人しく
恥ずかしがり屋…

そんな彼女が、夜の街で別人のような振る舞いを
しているという噂を聞き…?

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竹松 美穂(たけまつ みほ)は、
真面目で、恥ずかしがり屋で、大人しい生徒ー

そんな彼女に惹かれて、同級生の
増村 鉄平(ますむら てっぺい)は
美穂に告白。

美穂は赤面していたが、
お互い真面目な性格同士ー。
嫌われてはいなかったのだろうー

鉄平の告白を受け入れて、
二人はカップルになったのだったー

カップルになってからも、
美穂はとても恥ずかしがり屋で、
エッチはしたことないし、キスもしたことがない。

けれども、鉄平は、それで十分だった。
美穂が自分のことを信頼してくれているのは
よく分かっている。

人には、誰にだってペースというものがある。

だからー
急がせるつもりはないし、
そもそも鉄平自身も奥手だから
エッチがどうこうよりも
ゆっくり仲良くしていきたかった。

「--なんか、眠そうだね」
鉄平が笑いながら言うと、
美穂が「うん…遅くまで勉強してるから…」と
苦笑いした。

「--あんまり、無理しすぎないようにな?」
鉄平が言うと、
美穂は「ありがとう」と嬉しそうに微笑んだ。

「---」

ふと、教室の廊下側に目をやると
中学時代からの友人、
寛治(かんじ)が、”話がある”と言わんばかりに
手招きしていた。
高校に入ってからは、クラスが一緒になることはなく、
こうして昼休みにお互いの教室を
行き来することはいつもの光景だった。

「あ、ちょっとごめん」
鉄平は美穂に断りを入れて、
寛治の方に向かう。

「どうしたんだよ?」
鉄平が言うと、
寛治が、教室の中にいる美穂の方を見て
「ちょっとさ…」と
呟いた。

鉄平は、寛治が美穂の方を
気にしていることに気付き、
美穂に聞かれたくない話なのだろう、と悟り、
「ちょっと歩くか」と呟く。

廊下を歩きながら、
鉄平が「で?」と話の先を促すと
寛治はようやく口を開いた。

「お前の彼女の美穂ちゃんだけどさ…」

寛治が言いにくそうにしている。

「--なんだよ?気にしなくていいよ、
 言ってくれ」

鉄平が先を促す。

浮気?
いや、それはない。

とにかく、話を聞かなくては
何も、進まない。

「ーーー昨日、友達とカラオケに
 行ってて遅くなっちゃってさ…」

寛治が言う。
そして、意を決したよういに続きを口にしたー

「---帰りに、サラリーマンに絡んでる
 ガラの悪いやつらがいて…
 その中にいたんだよ」

「いた?誰が?」

鉄平が聞き返すと
寛治は少し躊躇したあとに答えた。

「---美穂ちゃんがいたんだよ…
 そのガラの悪いグループの中に」

「--!?」

鉄平は驚く。

美穂は夜に街を歩くような子じゃないと思うし、
そもそもガラの悪いグループと絡むような
子でもないと思うー

「---…見間違えだろ?」
鉄平が言うと、
寛治は首を振った。

「派手な格好してたけど、
 あれは美穂ちゃんだよ…
 間違いない」

寛治は自信満々に言う。

「---どうして、そう言いきれるんだよ」
鉄平が言うと、
寛治は、「いや、、そう言われてもよ…
雰囲気でそうとしか思えないんだよ」と反論する。

そしてー
スマホを取り出すと
スマホの写真を見せたー

寛治が慌てて撮影したのだと言うその写真には、
派手な女が映っていたー

少し遠目で、
笑みを浮かべたその女はー

言われてみれば確かに美穂に見えた。

鉄平も少し心配になる。

しかしー
その考えをすぐに振り払った。

「いや、、美穂はこんなことしないよー」
鉄平はそう言って
スマホを寛治に返す。

「他人の空似だろ」
鉄平が笑うと
寛治は頭をかきながら呟いた。

「まぁ、お前がそう思うなら
 あとは何も言わないけどよ…

 でも、気をつけろよ…」

それだけ言うと寛治はそのまま
自分の教室へと戻って行った。

「美穂…」
鉄平は”他人の空似だろ”などと言いながら
不安で不安で仕方がなかった。

・・・・・・・・・・・・・・・・

放課後ー

「あのさー」
鉄平が口を開く。

一緒に下校している美穂が、
「なぁに?」と笑いながら言う。

「美穂ってさ、夜、LINEとかしてないみたいだけど
 勉強に超集中!って感じなのかな?」

鉄平が尋ねる。

そういえば、美穂は、夜の9時前後から
LINEの返事がいつもなくなる。

鉄平は、美穂がいつも”夜、勉強している”と
言っていたから、それでLINEを確認しないように
しているのだろうと考えていた。

しかしー
寛治からの話を聞いたあとでは、
不安になっていたー

LINEの返事がないのはー
もしかすると…

「--うん~
 勉強に集中しちゃって、そのまま眠くなっちゃう感じかな!」

美穂が少し恥ずかしそうに笑うー

鉄平はその表情を見るー

嘘をついている様子はないー
動揺も全く感じられないー

もしも、
もしもこれで、美穂が嘘をついているなら
大した悪女だ。

鉄平はそう思いながら笑う。

「--そっか。
 頑張り屋さんなんだな」

美穂の方を向いて笑うと、
美穂も優しく微笑んだ。

・・・・・・・・・・・・・

美穂が、夜の街で
ガラの悪いやつらと遊んでいるなんえあり得ないー。

そもそも、美穂が夜に外をほっつき
歩いていたら、両親も何かを言うだろうー

でもー

”今日は、遅くなる”
鉄平は、スマホで親にそう連絡すると、美穂の家の
回りに待機していたー

美穂の家の周囲には、人の気配があまりない。
ポツンとした場所に建っている。

ーー20時50分ー

美穂のLINEの既読がつかなくなるのは、
いつも大体21時前後ー

もしも…
もしも美穂が、夜の街で好き放題しているなら
この時間あたりに家を出て行くはずだー。

部屋の明りが消えるー。

「ーー…勉強モードに入ったってことかな」

美穂の部屋は、前に家にお邪魔したとき、
2階だったのを覚えている。

今、明りが消えたのが、
美穂の部屋だったはずだー

「---」
時計を見る鉄平。

21:05-。

いつも、LINEの既読がつかなくなる時間ー

「やっぱ、勉強に集中ってことだよな」
鉄平が呟く。

同時に、彼女の美穂を疑ったことを
恥ずかしく思ったー。

頑張り屋で真面目な美穂が
夜の街で、ガラの悪い連中と付き合って、
一般人に絡むようなことを
するはずがないじゃないか。

鉄平はそう思いながら
苦笑いして、
美穂の家に背を向けて帰ろうとしたー

しかしー

ガラッ

「--!?」
鉄平が振り返るー

するとー
2階の部屋の窓から、美穂が出てきたー

ミニスカート姿の、
普段見ないような派手な格好でー。

「え…!?」
鉄平は思わず身を隠した。

美穂は周囲をキョロキョロすると
屋根を静かに歩き、
そしてーちょうどのぼりやすくなっている
部分から、地面に飛び降りた。

「---」
きついメイクをした美穂が
周囲を睨むようにして見つめると、
そのまま家から離れていく。

「み…美穂…!?」
鉄平は「嘘だ」と思いながらも、
美穂のあとをつけていくー

あり得ないー。

けどー。
2階から飛び降りているのならー
両親が気付かない可能性もあるー

夜、娘が寝ている、あるいは勉強していると
思っていれば、一度も部屋を覗かない可能性は
充分にあるー

「---…美穂…」
鉄平は、繁華街の方に向かっていく美穂を
心配しながら見つめる。

歩き方まで別人のようだー。

「え?あ、うん、
 今から行く行く~

 え?マジで?
 あはははははははっ
 うける~!」

美穂が別人のような口調で
誰かとスマホで話し始めた。

「--マジかよ…」
尾行しながら鉄平は思わず
そう呟いてしまった。

普段真面目な美穂にこんな裏があるなんて…

やがて美穂は繁華街の裏路地に入ると、
ガラの悪い男3人組と合流した。

そのうちの一人と、美穂は抱き合い、
いきなり激しいキスをし始めた。

「あぁぁ~和哉(かずや)~♡」

「---由美(ゆみ)」

抱き合いながら美穂と和哉と呼ばれた男が
嬉しそうに名前を呼びあう。

「由美ー?」
物陰から二人の姿を見ながら
鉄平は不思議そうな表情を浮かべる。

「偽名か…」

自宅から出てきたし、美穂に双子の姉や妹は
いないはずだから、今、男と抱き合っていたのは
美穂に違いない。

だがー
由美とは何だ?

鉄平は混乱しながら
二人の様子を見つめる。

美穂は、和哉から煙草を受け取り、
それに火をつける。

「--お、、おい!」
思わず鉄平はそう叫びそうになったが
心の中でその叫びを抑えた。

美穂はまだ高校生だー
それなのにー

「--早く、その身体を完全に奪えよ。
 俺、もう待ちきれないぜ?」

和哉が言う。

美穂は微笑む。

「--ふふふ…あたしだってそうしたいわ
 でも、仕方ないでしょ?
 急にこの女が消えたら、騒ぎになるから」

美穂が腕を組みながら言う。

「---チッ、まぁ、それもそれだな」

和哉が言う。
回りの2人の男も言う。

「--でもまさか、
 こんな風に他人に憑依できるなんて思わなかった。

 しかも、超カワイイ子じゃん!
 ふふふ…」

美穂が自分のことを他人のように言う。

「だな。最高だぜ!」
和哉がまた、美穂を抱きしめた。

しばらくキスし合うと、
美穂は和哉から離れて微笑む

「こいつが高校卒業したら
 大学に進学する名目で一人暮らし
 始めるからさ、

 そしたら、和哉とずっと一緒になれる…」

美穂が言うと、
和哉が「あぁ、もう少しの辛抱だな」と笑うー

「ーーふふふ、それまでは夜だけのお楽しみね」

美穂はうっとりした表情で微笑んだー

「~~~~~」
鉄平は言葉を失い、その場を離れた。

浮気ー?

いや、違うー
憑依ー?
由美ー?

どういうことだ?

鉄平は困惑しながら自分の家に戻るのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

昼休みに、鉄平は美穂に大事な話があると言って
美穂を空き教室に呼び出した。

「---話って?」
美穂が優しく微笑みながら空き教室に入ってくる。

いつもの、優しい美穂だ。

昨日の派手な美穂を思い出して
鉄平は少しドキっとしてしまう。

「--昨日さ、、夜、たまたま街に居たんだけどさ」
鉄平がそこまで行って
美穂の様子を見るー

だが、美穂の表情には、動揺一つ浮かんでいない。

「---…」
鉄平は、その反応を不思議に思いながら続ける。

「美穂を街中で見かけた気がするんだけど…
 あれは人違いかな?
 美穂かな~って思いつつ
 声かけるのやめちゃったけど」

鉄平は思い切ってそう言い放った。

すると、美穂は笑った。

「---う~ん、人違いかな~」

と。

「--わたし、昨日ずっと、数学の勉強してたし、
 1時過ぎには寝たから、街に行ってないもん」

笑う美穂。

「--そ、、、そっか」
鉄平も笑うー

あっけにとられる。
まさか、ここまで真面目に否定
されるとは思わなかった。

”いやいや、屋根から飛び降りて
 街に行ったでしょ”
と突っ込みたくなったが、
突っ込むことはできなかった。

「あれ…?話ってそれだけ?」
美穂が不思議そうに笑う。

「え、、あ、、、あ、うん!そう、それだけ!
 ごめんな」

鉄平はそう言って、
空き教室から立ち去った。

平然と嘘をつかれたー

そのことをショックに思いながら、
鉄平は足早に自分の教室へと戻って行くー。

こうなったら、夜、現場を押さえるしかないー。

・・・・・・・・・・・・

夜ー

美穂は自宅で勉強を続けていた。

9時ー

「---」
勉強していた美穂が突然ピクンと震える。

「---ふふ」
美穂は、突然教科書を閉じて
笑みを浮かべて立ち上がるー。

「---和哉…」
うっとりとした表情で、服を脱ぐと、
引き出しの奥の方に隠してある
派手な服装を取り出し、
それに着替える。

化粧をし、
おしゃれをして、
今日も、窓を開けて屋根から降りる。

「--ーふふ…真面目に生きちゃってバカみたい」

美穂はそう呟くと、
そのまま夜の街に向かう。

♪~

スマホが鳴る。

知らない番号ー

”美穂”にとってはー

だがー
今の美穂にとっては
大切な人からの電話―

美穂がそれに出ようとする。

「---美穂!」
背後から声を掛けられる。

だが、美穂は反応しない。
そのまま電話に出ようとするー

「みーー、、、い、、いや、由美!」

背後から、”自分の名前”を呼ばれた。
電話に出ようとしていた手を止めて
振り返る美穂。

「---あん?」
美穂が不機嫌そうに振り返ると、
そこには彼氏の鉄平がいたー。

「-----誰?」
美穂は不機嫌そうに言う。

「--だ、誰って…
 お、、、俺だよ!鉄平だよ!」

鉄平がそう叫ぶと、
美穂は、鼻で笑った。

「…あぁ、この女の彼氏ね…」

美穂はそう言うと、
不気味な笑みを浮かべた。

「--美穂…
 どういうことなんだ…?」

鉄平は美穂の方に
近づいてそう呟いた。

「昼間は、勉強してるって、言ってたよな!?
 それに、由美って、どういうことだ?」

鉄平が困惑しながら叫ぶと、
美穂は笑った。

「---ふふ、
 あたしはね…美穂じゃないの…

 今、この女は、あたしに身体を乗っ取られてるの」

「--!?」

あまりに突拍子のない言葉に
鉄平は言葉を失った…

②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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憑依されてしまった彼女を前に、
彼氏はどうするのでしょうか…!?

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