<憑依>真夜中のわたし③~対面~(完)

”自分に憑依している人間は誰なのか”

気になってしまった花帆は、
会えないか、どうか、
それを聞いてみたー

そして、その答えは…

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”会えませんかー”

そう言われた真夜中の花帆は
困惑していたー

「--まいったな」
綺麗な髪を掻き毟る花帆。

どうすればいいのだろう、と
花帆に憑依している者は思うー

「---…」

花帆は難しい表情をする。
左手では胸を触っているが
今日は全然気持ちよく感じないー

それどころではないぐらい、
”会おう”と言われたことに悩んでいるー

正直ー

花帆のことが気になっては来ているー

彼は、
花帆だけではなく
今までにも数人の女性をこうして
真夜中にこっそり憑依し、
乗っ取ってきた。

そして、飽きると、
また別のターゲットを見つけてーを
繰り返している。

花帆にもそろそろ飽きてきた頃にー
花帆に声をかけられたのだー

気付かれたのは初めてー。

それ以降、憑依している者は、
花帆に魅かれていたー。

乗っ取られている人間と
乗っ取っている人間ー

互いに魅かれているなんて
こんなおかしな関係、
絶対に他ではないことだと、
そう思いながら、彼は返事のメッセージを作るー

「---わかりましたー
 会いましょうー」

とー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

”わかりました、会いましょう”

その言葉に
花帆はドキッとしたー

ついに、自分に憑依している人間と
会うことになるー

”来週の土曜日の夜ー
 俺が、そちらに行きます”

映像の中の花帆は、
そう言って、悲しそうな表情を浮かべたー。

「---逮捕されるとか
 思ってるのかな~」

花帆が苦笑いしながら呟く。

最初は、どうにかしようと思っていたー

だが、最近はそうは思っていないー
人の身体を勝手に使っておきながら
妙に礼儀正しい”彼”のことを
いつしか花帆は好きになってしまっていたー

仕事が忙しくて竜一と会えない、
というのもあるー

けれどー
それ以上に”憑依している彼”のことが
好きになり始めていたー

「う~ん…これって…浮気なのかな…」
花帆は苦笑いするー

普通なら浮気だがー
この場合は、どうなのだろうー

けど、
少なくとも竜一が良いカオをしないことは
簡単に想像できたし、
花帆も言うつもりはなかったー

「--土曜日…」
カレンダーに〇をする花帆。

花帆はドキドキを隠せなかったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「な~んか、最近、嬉しそうね」
会社の先輩・松恵が花帆の分の
お茶を手渡しながら笑う。

「え、、え…そうですか?」
花帆が戸惑いながら言うと、
松恵は微笑んだ

「さては…
 彼氏の竜一くんとゴールイン間近なのね?」

松恵は微笑む。

「-ーわたしも、結婚前はソワソワしてたし、
 花帆ちゃんの気持ち、分かるのよ~

 頑張ってね!」

松恵はそう言うと、
自分のデスクの方に戻って言った。

「ちょ~っと、違うんだけどなぁ…」
花帆は苦笑いしながら微笑んだ。

花帆の頭の中はー
竜一ではなく、
”憑依している彼”で頭がいっぱいだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そしてー

土曜日がやってきたー

”明日ですね…”

昨日の夜ー
花帆はいつものように憑依されていたー

そして、その時に撮影された映像ー

それを、花帆は見ていた。

セーラー服姿で、エッチしたのか、
真夜中の花帆は、セーラー服姿で
ビデオメッセージを残していた

”--夏帆さんを、驚かせてしまったら
 ごめんなさい、と先に謝っておきますね…”

映像の中の自分が
緊張した様子で言うー

”いやぁ…花帆さんのこと、
 散々乗っ取って、誰よりも花帆さんの身体のことは
 知ってるけどー
 花帆さんのことは全く知らないー
 緊張しますね…”

映像の中の花帆が顔を赤らめているー

そして、時計を見ると
”あ、セーラー服のまま寝るわけにはいきませんね…
 そろそろ片づけて寝る準備しますので、失礼します~!

 あ、明日の23時ー。 
 楽しみにしてますよ”

それで、映像は途切れたー

ドキドキー
花帆は、映像を見終えると、
時計を見たー

22時30分ー。

もうすぐ、もうすぐ、
”彼”がやってくるー

顔も、
名前もー
何も知らないー

”彼”がー。

22時40分ー
22時45分ー
22時50分ー

短いようで、とても長い時間ー

花帆は”彼”が来るのを
待ちわびていたー

そしてー

ガチャ…

「---!!」
花帆は、玄関の扉が開くのに、気づいたー。

「--」
花帆が唾を飲み込むー

緊張が極限まで
高まるー

そこにー

入ってきたのはー

「---竜一!?」
花帆は驚いて声をあげた。

「---か、、花帆!」
部屋に入ってきたのは
彼氏である竜一だった。

最近はほとんど会えていない
竜一が、どうしてこのタイミングでー?

花帆は、時計を見るー

53分ー。

竜一が”憑依している彼”なのー?
花帆はそう思いながら口を開いた

「竜一…もしかして…?」

しかしー
違ったー

竜一は口を開く

「花帆!金を貸してくれ…!」

とー。

「--ギャンブルで金を使い込んじまってよぉ…
 頼むよ!すぐに返すから!」

竜一は焦った様子だった。

「--ど、どういうこと!?」
花帆は驚くー

あと5分で
”彼”が来てしまうー

これじゃ、修羅場になっちゃうー、
と。

しかもー
竜一の言っていることも気になる。

ギャンブルとはー?

「--花帆、俺、実は仕事なんかしてねぇんだよ!
 就職してすぐに仕事は辞めた!
 ずっとずっと、黙ってて悪かった!」

竜一はそこまで言うと、
部屋の中を乱暴に物色し始めた

「金…金はどこだ?
 花帆、金を貸してくれ!」

竜一が狂ったように叫ぶ。

「ちょ、ちょっと、どういうことなの!?」
花帆が聞き返すと、
竜一は言った。

「キャバクラで、女に金つぎ込んでたら
 だまし取られてよ…
 ギャンブルで取り返そうとしたら
 大失敗で、借金が…」

竜一の言葉に
花帆は唖然としたー

”仕事はとっくにやめているー?”
”キャバクラ―?”
”ギャンブル―?”

「ちょ…竜一!」
花帆が叫ぶと、
竜一が大声で怒鳴り声を上げた。

「--金を貸せっつってんだよ!」
竜一が叫ぶー

「ひっ!?」
花帆は思わずびっくりしてしまう。

「--俺がお前と付き合ってやってるのは
 どうしてだか分かるか?
 金を出してくれるし、
 あとは、身体がエッチだからだよ…くへへ」

竜一が笑う。

よく考えたら酒臭い。

「竜一…」
花帆も花帆で
”憑依している彼”と浮気じみたことを
していたから竜一を強く責めることはできない気がしたー

しかしー
それでも、竜一の本性を知り、
花帆は酷く幻滅していたー

「--おい!金はどこだ!」
竜一が叫ぶ。

「--や、、やめてよ!」
花帆が叫び返す。

しかし、竜一は止まらない。

「ーー彼氏の俺が困ってんだろうが!
 金をよこせ!」
大声でそう叫ぶと、
竜一は部屋のものを次々と投げ始めた。

「ちょっと!!やめて!」
花帆が竜一を止めようとすると、
竜一は花帆を殴りつけたー

「--邪魔するんじゃねぇ!」

部屋の辱に飛ばされる花帆ー。

「--金、金、金!」
狂ったように怒鳴り声をあげながら
部屋のものを投げつける竜一ー

23:00---

竜一は、花帆が”人”と会う約束をしているのを知らないー
花帆も、突然のことに、”彼”と会うことを
忘れていたー

閉じていたはずの部屋の扉が開いているー

「--くっそ…」
部屋で暴れまわった竜一が
金を見つけられないことにいら立ち、
花帆のほうを見つめる。

そして、花帆の胸倉をつかむ。

「--!?」

竜一は、驚くー

花帆に、逆に腕を掴まれていたー

「---調子に乗ってんじゃねぇよ」

そう呟いたのは、花帆だった。

いつも、穏やかな可愛らしい声の花帆が
低く、怒りを感じさせる声で
そう言い放ったのだった。

「---な…」
竜一が驚く。

花帆は立ち上がると、
竜一を鋭い目つきで睨みつける。

「な…な…なんだよ!?」
竜一は、弱いものには強気で、
強いものには弱気な性格。

とたんに腰が引けた態度で
花帆を見つめる。

花帆は、「テメェ調子乗ってんじゃねぇぞ!」
と大声で怒鳴った。

「--ひっ!」

壁際に追いつめられた竜一は
花帆に壁ドンされて、震え上がるー

花帆はー
23時に会う約束をしていた”彼”に
憑依されていたー

「--テメェ、花帆に何してたんだ?あぁ?」

怒りに震えている声―

「--な、、なんだって?」
竜一が聞き返す。

今、花帆は、自分のことを
別人のように言わなかっただろうか。

「---二度と花帆に近づくな」
花帆が、脅す口調でそう告げる。

「---な、な、、何言ってるんだお前は!」
竜一は、豹変した花帆に向かって
そう叫ぶー

しかしー

「---?!」
竜一は、真っ青になるー

花帆の背中からー
この世のものとは思えぬー
黒い煙のようなものが
巻き上がったー

花帆が目を真っ赤に光らせて言うー

「---次、花帆に近づいたら
 俺がお前を呪い殺すー」

花帆と、黒い煙が
同時にそう言い放った。

「---ひっ……ひぃぃぃぃぃぃっ!?」
竜一は慌てて
部屋の外へと飛び出し、
そして、二度と花帆の前に姿を現すことは無かった。

「---ふん」
花帆は竜一の出て行った方を見つめると、
鏡で自分の姿を見つめたー

「花帆さんーー…」
自分の姿を愛おしそうに見つめると、
鏡の花帆に向かって、ゆっくりとキスをし、
そして、自分を抱きしめはじめたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ん…」

朝ー
小鳥のさえずりが聞こえるー

花帆が、目を覚ますと、
そこには、いつもの光景があったー

「--あ、、、あれ…?」

花帆は、昨日の夜のことを思いだすー

23時ー。
”彼”と会う約束をしていて、
その直前に酔った竜一が乱入してきてー

部屋が荒らされてー。

けれどー。
そのあとの記憶がないー

そしてー
部屋は綺麗に片づけられているー

「--あれ…」
花帆がゆっくりと立ち上がるとー
そこには、いつものようにUSBメモリーが置かれていた。

”花帆に憑依している誰か”が
映像を記録したのだろうー

花帆はそれを再生するー

すると、いつものように
”真夜中の花帆”が、映像に映し出されたー

”花帆さん。
 ごめんなさいー。

 あなたの彼氏を、、俺は追い払ってしまった。
 花帆さんが殴られているのを見て
 居てもたってもいられず、憑依して…
 そして…”

映像の中の花帆が悲しそうに言うー

花帆は、その映像を見ながら、
竜一のことはもう構わない、と思っていたー

もう、彼とうまくやっていくことはできないだろうー

”…俺は…”

映像の中の花帆がそう言うと、
信じられないことが起きたー

花帆の身体から、人型の
黒い煙のようなものが姿を現したー

「---!!」

映像を見ながら花帆は驚くー

”俺はーーー
 人生うまく行かずに、
 自分で命を絶った男なんですよ”

花帆に憑依している黒い人型の”亡霊”と
花帆は同時にそう口にしたー

”人生に絶望して、命を絶ってー
 成仏できなくて、
 こうして女性に憑依しては欲望を満たしていたー
 それだけの男なんです。

 ま、小心者なんで、大したことは
 できませんでしたけどね”

映像の中の花帆がそう言って笑うー

「---嘘…」
花帆は映像を見ながら驚く。

自分に憑依していたのは
”生きている人間”ではなく
”既に死んでいる人間”だったのだー。

成仏できない幽霊と、
自分は会おうとしていたのだったー

”けどー…
 花帆さんに出会えてよかったー”

「---え…」
花帆は映像を見ながら不思議そうな顔をするー

”これで、やっと、成仏できそうですー。
 生まれてから、死ぬまで、俺はずっと
 女性に蔑まれてきた
 母にも、妹にも、です。

 ま、外見が良くなかったので、仕方ないのかもですけどね”

映像の中の花帆が頭をかきながらそう言うと、
カメラの方を見てしっかりと呟いた。

”--勝手に人の身体を使ったのに、
 花帆さんは、とても優しかったー。

 初めて、人の優しさに触れた気がしました…
 
 これで、、、俺も、、、もう、思い残すことはありません”

「--え、、ちょ、、ちょっと!」
花帆は映像に向かって声をかける

「ひ、、人の身体勝手に使っておいて、
 一人で満足して、、いなくならないでよ!」

花帆は叫ぶー

しかしー
相手は映像ー

その言葉は、届かないー

”あなたとは、生きているうちに会いたかった…

 ありがとうー
 そして、お幸せにー”

映像は、そこで、途切れたー。

「---」
花帆の目からは、知らぬうちに涙がこぼれていたー。

翌日ー

その翌日もー

花帆は、憑依されなかったー。

映像を用意したけれどー
それを、見られている様子もなかったー

花帆はー
まるで、失恋したかのような日々を送っていたー

竜一とも音信不通ー

もちろん、憑依していた”彼”ともー

「--はぁ…」
まるで抜け殻のような日々を送る花帆ー

花帆は、毎日、毎日、
用意した映像を机の上に置いて寝ていたー

しかしー
それが見られている様子もなく、
返事が来ることもなかったー

1か月ー

2か月ー

やがて、花帆も次第に立ち直り、
元の明るく元気なOLに
戻りつつあったー

”彼”への返事は、今も
机の上に置いてあるー

けれどー
そのことも、だんだんと忘れて行っていたー

「----…」

半年がたったころ、
花帆は、”彼”への返事を片づけることを決意したー

「もう、いなんだものね…」
花帆は悲しそうに微笑む。

そしてー

「---前を向いて、生きなくちゃね…」

花帆はそう呟くと、
机の上に置いていた彼への返事を
片づけてー

前を向いて生きることを
改めて決意するのだったー

”---今度こそ、成仏できます”

その夜ー

彼は、花帆の様子を空中から見つめていた。

まだ、成仏していなかった。
花帆のことが心配で、
毎晩5分だけ、花帆の様子を見に来ていたー

彼はー
花帆からの返事を、見ていたー

あのあとすぐにー。

”行かないで”

と、泣きながら叫んでいたー。

その映像を見た”彼”は
返事をしなかったー

何故かー。

返事をすれば、
花帆がいつまでも自分のことから
離れられない、そう判断したからだー

花帆は、
映像の中で
”一度ぐらい、直接会いたい”と
そう言っていたー

けどー
自分はもう死んでいるー

会うわけにはいかないー

そう思った。

あれから半年ー
今日、花帆は、亡霊である自分への返事を
録画したUSBメモリを処分していたー

ようやく、”亡霊”への思いを
断ち切ることができたのだろうー

”ありがとうございましたー”

亡霊の男は、寝ている花帆に
ふかぶかと頭を下げると、
静かに姿を消したー

もう、未練はないー

”本当に、ありがとうー”

彼は、そう呟いて、姿を消したー

「~~~…どういたしまして…」

花帆は、目をつぶったままそう呟いたー

寝言かーー

それともーー

それは、彼女にしか、分からないー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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真夜中の不思議な憑依モノ…でした~!
私の中では珍しい作風?かもですネ~!

お読み下さりありがとうございました!!

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憑依<真夜中のわたし>

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