交通事故で命を落とした男子高校生ー。
出会った死神の都合で、女の子として生き返ることに
なってしった彼は、あることを決断する。
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数百年前ー。
武士が、悲しそうな表情で
立っているー。
「---…お前は…死んだんだ」
死神は、
武士にそう告げた。
「へっ…ぎゃああああああ!?」
武士は悲鳴を上げた。
死神の、邪悪な姿を見てー
「--私は死んだ人間を死後の世界に
連れて行くためにここにいる」
死神は、緊張していたー。
この死神は、死神になったばかり。
この武士が、初めて自分が担当する人間だった。
心優しそうな武士だ
「---わわわ…わわわ…!」
武士はがたがたと震えているー。
死神は、ふと自分の手を見つめる。
”人間にとって、この姿は怖いのか”
とー。
しばらくして、ようやく落ち着いた武士は
悲しそうに呟いたー
「私は、、明日、、想いを伝えるつもりだったんだ
幼馴染のとある街娘にな…」
若くして事故に遭い、命を落としたこの武士。
明日には、意中の人に想いを伝えるつもりだったのだと言う。
「--もしも…」
武士は、あの世に行く直前、死神の方を
悲しそうに振り返った。
「もしも、次、生まれ変わることがあれば…
今度こそー
彼女に想いを伝えられるかな…?」
武士は、悔しそうに、そして悲しそうに、
そう呟いたー
死神はー
少し考えた後にこう答えた。
「---そうだな…きっと」
とー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
女の子になって生き返って
半月が経過したー
その間に、”康也”の葬儀などが行われて
奈那子や健司と共に、由梨になった自分も
参列した。
母や父が、涙していた。
康也は「自分が康也だ」と言いたかったが
それはしなかった。
母と父が、あんなにも、涙を流してくれるなんてー。
一方、
奈那子は、元気になるどころか
どんどん落ち込んでいるー。
康也の死が、かなりダメージに
なっているようだった。
「---…大丈夫?」
女の子としての振る舞いに
だいぶ慣れていた康也は、
由梨として、奈那子に声をかけた。
「---……大丈夫じゃない…」
奈那子は悲しそうにそう呟く。
「---」
康也は、こんな奈那子の姿を見たくなかった。
いつも、明るく元気で優しい奈那子。
しかし、今ではすっかりふさぎ込んでしまっているー。
「---そ、、その康也くんにだって
きっと、想いは伝わってると思うよ…
だ、、だから、元気を出して…」
自分が康也だと悟られてはならないー
なんとか、奈那子に元気を出してもらいたかったが
それは、出来なかったー。
「---由梨ちゃんには、何も分からないよ」
奈那子は吐き捨てるようにして言うと、
そのまま立ち去ってしまった。
「---…」
それからも、奈那子は、さらに元気を
無くしていったー。
康也の友人だった健司も
奈那子を励まそうとするが、
奈那子は聞く耳を持たない。
康也が思っていた以上に、
奈那子は康也のことを大切に思っていたのだった。
数日後ー。
「---う~ん!美味しい!」
蛇口を上に向けて、その水を飲んでいる由梨。
康也は、蛇口から水道水を出して飲むのが大好きだった。
周囲の生徒たちが、
物珍しい顔をして、由梨を見つめる。
「---…」
康也の友人だった健司が、その姿を見ながら
由梨に声をかけた。
「--ちょっと、いいか?」
とー。
健司に連れられて屋上に
やってきた由梨。
健司は、立ち止まると、呟いた。
「お前ーーー康也…じゃないよな?」
健司の言葉に、由梨はドキッとした。
「え…な、、なんで…?」
健司は、由梨の方をじーっとみると、
呟いた。
「---康也と、、、
行動が似てるんだよなぁ~?
蛇口から水飲むとことかさ…」
黙り込んでしまう由梨。
確かに、無意識のうちに男子時代の癖が
出ているー。
「--いや、ありえねぇけどよ…
でも、なんか、由梨ちゃん…
康也にそっくりだし、
転校していたタイミングがさ…
なんか、まるで、康也のやつが、生まれ変わるか何かして、
みたいな感じに感じるからさ」
健司が頭をかきながら言う。
そういえば、健司はオカルト系統の話が大好きだった気がする。
「ーーー何らかの理由で女の子になって
生き返った康也…
じゃないよな?」
的確すぎる健司の言葉に、
「そ、そ、そ、そ、そ、そんなことないよ!」と
由梨は慌てて呟いて、屋上から
立ち去ろうとする。
「なぁ…!」
屋上から立ち去ろうとした由梨の背中に健司は
声をかけた。
「もしも違ったら、
頭のおかしい男子だと思って聞き流してくれ」
健司がそこまで言うと、
さらに言葉をつづけた。
「けどさ…もしも、もしもお前が康也ならー
奈那子ちゃんに…ちゃんと伝えてやってくれよ…」
それだけ言うと、
健司は、もう何も言わなかった。
「---」
屋上から校舎内に戻った由梨は
迷っていたー
日に日に元気をなくしていく奈那子ー
このままで、いいのかー。
自分に何かできることはないのかー。
康也は、自分がこのまま由梨として生きるべきかー
それとも康也として死ぬべきか、
迷っていた。
”自分が康也だ”と言えば、
あの死神が、迎えに来るー。
・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー。
康也は、ある決意をしていたー。
「僕は、もう死んだんだ…」
鏡には、少女の悲しそうな表情。
このまま、
女の子として生きていくのも、悪くは無いー
けれどー
誰からも康也として扱ってもらえず、
誰にも気づいてもらえずー
このまま毎日もやもやした気持ちに
なるぐらいならー
康也は、スカートを身に着け、
いつものように、由梨としての姿を作ると、
そのまま学校に向かった。
いつもより、早い時間にー。
奈那子は、いつも早い時間に登校しているー
自分が早く登校すれば、二人きりになれる
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
猛ダッシュで学校にやってきた由梨は、
教室を覗く。
いつも通り、奈那子が先に学校に登校していた。
「---と、富川さん!」
その言葉に、奈那子は驚いて
教室の入り口の方を見た。
「あ、、、由梨ちゃん…早いね…おはよう」
奈那子が微笑む。
けれどー
その表情は、やつれているー。
奈那子にとって、
康也は本当に大事な存在だったのだろうー
時間の経過と共に奈那子が立ち直るどころか
心にぽっかり穴が開いてしまって
ますます元気を失っている感じだ。
「---」
由梨はそんな奈那子の表情を見て、
決心したー。
このままー
このまま女の子として偽りの人生を歩むー?
それでいいのか?と康也は思う。
目の前にいる大切な幼馴染が苦しんでいるのに
それを見てみぬふりをする?
優しい康也にそんなことできなかった。
「--僕だから…」
「--へ?」
奈那子が不思議そうな表情で首をかしげる。
由梨として生きる道を捨てる―
女の子の身体になって、生き返った人生を捨てるー
けれどもーー
康也は、意を決して叫んだ。
「実は僕、康也だからー」
とー
静まり返る教室。
「ど…どういうこと…?」
奈那子が驚いた表情で尋ねてくる。
「--ぼ、、僕、、交通事故にあって、
死んじゃったあと、変な世界で死神にあって、
それで…僕の身体はもう事故でぐちゃぐちゃで
そのままじゃ使えないからって
こうして女の子の身体に作り替えられて…」
早口で言い切る康也ー。
眼鏡をかけた可愛らしい少女である由梨が、
そのイメージとは真逆の雰囲気でそう言ったのを見て、
奈那子は微笑んだ。
「--あ、ありがとう、由梨ちゃんー。
わたしが落ち込んでるからって無理しなくてもー」
奈那子は、由梨が、奈那子を元気づけようと
自分は康也だ!と芝居をしていると思っている。
「違うよー!僕は康也だ!」
由梨は、前日にあったこと、
小さい頃からの出来事、思いだせる限り、
早口で叫んだ。
「--う、、嘘…?本当に…本当に康也なの?」
やっと信じて貰えたー。
由梨は、目から涙をこぼしながら頷く。
奈那子も目に涙を浮かべている。
「--富川さん…」
そこまで言って、康也は、事故に遭う前日に言われた
言葉を思い出す
「も~!なんで最近、他人行儀なの~?」
「---康也、わたしのこと、
奈那子ちゃんって呼んでたのに」
「あ、、、いや、、な、、奈那子ちゃん」
顔を真っ赤にしながらそう言って
さらに言葉をつづけた
「僕も…奈那子ちゃんのこと…大好きだったよ…
実は、事故に遭わなかったら、次の日に
告白するつもりだったんだ…」
その言葉に、奈那子は驚いた表情を浮かべるー
「---僕たち、両想いだったなんて」
そこまで言うと、由梨の身体が粒子のようになって砕け初めているのに気付く。
「あーーー…」
由梨の身体が砕け始めている。
康也は、その意味を悟る。
「---…もう、一つ…
ここでの出来事を誰かに告げたらー
私が即座にお前を迎えに行く…
いいな?
絶対に口外は無用だ」
死神の言葉を思い出す。
「--こ…康也!?」
奈那子が、由梨の身体を見ながら
目に涙を浮かべる。
「実はさ…、僕、生き返ったこととか、
自分が康也だってこととか、
絶対に言っちゃいけないって言われてたんだ
言ったら…迎えに行くって」
女の子になった康也はにっこりと笑っている。
「でもさ…
放っておけなかった…
辛そうな奈那子ちゃんを僕は見たくないー
やっぱりさ…奈那子ちゃんは、笑ってる方が
一番だよ」
下半身が砕けるように、消滅して、
粒子のようになって、消えていくー。
「---い…いやだ…康也!康也!」
叫ぶ奈那子。
そんな奈那子を見つめて、
康也は微笑んだー
「--お願いだよ。
元気出してー
僕はずっと、奈那子ちゃんのこと、見守ってるからー」
既に、顔の部分しかなくなってしまったー。
康也は最後に呟く。
「--最後に、、笑った顔、、見せて」
その言葉に
奈那子は涙を拭きながら、
微笑んで見せた
「康也…ありがとう…
約束する…わたし、、頑張るって…」
すぐに元気になるのは無理かもしれないー
けれどー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
!!
康也ははっとした。
この前、死んだときと同じ光景ー
そこに、、、死神がいた。
「うわあああああああああ!」
康也は叫んだ。
この前とは違い、
女子高生の姿ではないー
「--そんなに驚くな。
この前の姿は、お前の身体を再構築するのに
使ってしまったからな」
死神はそう言うと、呟いた。
「-----お前は、私との約束を破った」
死神が低い声で言う。
「---覚悟は、出来てる」
康也はそう呟いた。
例え、自分が死神に連れていかれてでもー
奈那子をー
元気づけたかった。
「---だがー」
死神は言う。
「私も、お前との約束を破るー」
ーー!?
康也は驚いて目を見開く。
死神の身体が、先ほどの康也と同じように、
粒子のようになって砕けていく。
「お前が約束を破ったら迎えに行くと約束したが
私はその約束を破るー
お前を連れて行くのはやめだー」
「--ど、どうして!?」
康也が叫ぶ。
死神は、康也の代わりに犠牲になろうとしている。
「----私は、死神失格だ」
死神は微笑む。
元々、死神になる際に”お前は優しすぎる”と言われていたー
いつか、こうなる気がしていた。
人間を勝手に生き返らせて、
さらには秘密を喋ったものを連れてすらいかないー。
死神の世界の禁忌を破ったこの死神に待つのは
永遠の無。
「--どうして、僕にそこまでしてくれるんだ!?」
康也が言うと、
「---お前は、覚えておらぬだろうがー」
死神は、そう呟いたー。
康也は、死神が初めてあの世に導いた武士の
生まれ変わりだー
あの時の武士の姿がだぶって見えたし、
顔も良く似ているー。
長い年月を経て、生まれ変わったのにー
また、想いを伝える前日に死んでしまうとは
つくづくついていないやつだー。
「もしも、次、生まれ変わることがあれば…
今度こそー
彼女に想いを伝えられるかな…?」
あの時、康也ー
康也の前世の武士はそう言った。
2度も、想いを告げられないなんてー
不幸すぎるー
死神は、康也に同情したー
最初に案内した死者だったからー
その想いも人一倍強かった。
完全に消滅する直前の死神に向かってー
前世の話を聞いた康也は、ふかぶかと頭を下げた。
「---かたじけない」
とー。
「--!?」
記憶が戻ったのか、と言いたげな死神に
康也は微笑んだ。
「いやぁ、前世が武士なら、前世の僕なら
こういったかなぁって」
笑う康也に向かって
死神は「ふ…」とだけ笑って、
そのまま消滅したー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ーーー!!
気付くと、そこは、教室だった。
「こ、、康也!?」
奈那子が目に涙を浮かべている。
「---あ、、、あれ、、僕…!?」
康也はーー
元の世界に戻ってきていた。
本来消えるハズだった自分の代わりに、
あの死神がー
「康也~~~!よかった~~~!」
目に涙を浮かべながら康也に抱き着く奈那子
「奈那子ちゃん…」
康也も目から涙をこぼしながら奈那子を抱きしめた。
「って…」
康也は呟く
「身体は女の子のままかよ!」
康也の身体は、女の子になったままだったー
康也は、公式上は由梨として生きて行かなくてはならないー
ガラッ!
奈那子と由梨が抱き合う教室に、
クラスメイトの新渡戸が何も知らずに入ってきた。
「---ゆ、、、百合百合~…」
二人が抱き合っているのを
先日に続いてみてしまった新渡戸は、
気まずそうに扉を閉めた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
後日ー。
休日の遊園地で、
楽しそうにイチャイチャする
二人の女子高生の姿があった。
由梨と奈那子ー
「も~!歩き方が女の子っぽくない~!」
奈那子が言う。
「だって~!僕は男だから!」
由梨が叫ぶ。
「--違う~!こら!”僕”はダメでしょ!」
奈那子が笑う。
「--僕は男だ~!」
由梨は、そう叫びながらも、その表情は
どこか嬉しそうだった。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
書くか書かないか迷った話だったのですが
こうして無事に書くことができました~☆
私は書く前に内容を頭の中で組み立てるのですが
完成までに、何回も内容が変わったり、
色々あった作品デス~笑
お読み下さりありがとうございました~!
コメント
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中身はそのままでも、肉体的には同性愛な百合エンドですね。
それにしても、リアルに考えるといくら好きな相手でも自分と同性になったら、普通はそのまま受け入れるのは無理な気がします。
奈那子は康也が女の子になっても、変わらず好きなままで、自然に受け入れてるみたいですから、奈那子は元々そういう性質があったんじゃないかと、疑わしいとこがありますね。
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> 中身はそのままでも、肉体的には同性愛な百合エンドですね。
>
> それにしても、リアルに考えるといくら好きな相手でも自分と同性になったら、普通はそのまま受け入れるのは無理な気がします。
>
> 奈那子は康也が女の子になっても、変わらず好きなままで、自然に受け入れてるみたいですから、奈那子は元々そういう性質があったんじゃないかと、疑わしいとこがありますね。
コメントありがとうございます~!
2人のこれからの関係は
”友達”なのか”恋人”なのかは
曖昧にしておきました~☆!
皆様のご想像に…という感じですネ!
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目頭が熱くなりました。ありがとうございます
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> 目頭が熱くなりました。ありがとうございます
コメントありがとうございます~☆
お楽しみ頂けて何よりデス!