<TSF>君の居る夢~光の中の約束~

彼には、生まれたときから父親がいなかったー。

そんな彼が
ある日、目を覚ますと女子高生になっていて…?


本作は、アライズ様(@sinobunekota)が
Pixivで公開している「君の居る夢(こちら)」を、私(無名)がリメイクした作品デス!
(↑を見たことが無くてもお楽しみ頂けます)

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父親ー。

周りの子には、当たり前のように存在する、それが
彼にはいなかった。

龍宮 蒼太(たつみや そうた)ー
彼には、父親がいないー

けれど、それを特別不便に感じたことは無かったし、
母・幸枝(さちえ)も、精一杯の愛情を注ぎ、
蒼太が不便に思わないような暮らしをさせてくれたー。

彼は、そんな日常に満足していたー。

父の名前は、知らないー。

父の姿も、はっきりとは、分からない。

写真で少しだけ見せてもらったことはあるがー、
悲しい思いをさせないためだろうか。

父のことを、母は、あまり口にしなかった。

小さい頃に少しだけ、
”事故で死んだ”と教えてもらったことがあるー。

その事故がどんな事故だったのかは知らない。

ある日ー、
蒼太はいつものように帰宅した。

「--ただいま」
蒼太が母の幸枝にいつものように声をかける。

「おかえりなさい」
幸枝もいつものように、口を開く。

「---…」

どことなくー
最近は二人の間にすれ違いが生まれていた。

何故だろうか。
答えは分かっているー。

なんとなく、照れくさいからだ。

蒼太は思春期真っ最中ー
母である幸枝に感謝はしているのだが、
それを口にするのが、なんだか、恥ずかしいー

そんな年齢だった。

今日も、いつものような1日が過ぎてー
今日も、ベットに入るー

また明日、目覚まし時計が鳴って
学校に向かうー

おなじ日々の繰り返しー

に、なるはずだった。

しかしー

そうは、ならなかった。

「---ん!?」
身体に違和感を感じた蒼太は
慌てて起き上がる。

「-----え?!」

自分は、制服姿になっていたー。

しかも、女子高生のー。

「えええええええ~!?」
大声で叫ぶ蒼太。

その口から出たのも、当然、女の子としての声ー

蒼太はさらに驚いてしまう。

「な、なんだ、、スカートって…
 こんなスースーするのか…」

蒼太は足の部分が外の空気に触れることに、
何だかとても頼りなさを感じた。

例えるならばそう、ズボンを穿き忘れたかのような
気分だ。

スースーして落ち着かない。

見慣れない部屋ー

「なんだ…これ?」

夢か?と困惑する蒼太。

部屋には、写真が飾られているー。
女子高生と、その父親らしき人物が
一緒に映っていて、楽しそうに微笑んでいる。

「--だれだ…?」
蒼太は困惑するー

なんで自分が女子高生の身体に?

誰かと入れ替わるか何かしてしまったのだろうか。

それとも…

「いや、待て、これはたぶん夢だ」
蒼太はそう思った。

急に自分が女子高生の身体になるなんてありえない。
だから、これは夢だ。

そう自分に言い聞かせて、勝手に納得した蒼太は呟く。

「そうだ…夢なら、何をしても、怒られないよな…」

おもむろに自分の胸に手を触れる。

「うわぁ…柔らかい」
蒼太は思わずニヤニヤしてしまう。

夢にしてはやけにリアリティがある。

年頃の女の子らしい部屋を見渡し、姿見の
前に立ち、胸を揉みまくる蒼太。

「んんふぅぅぅ♡」
だんだん気持ちよくなってきた。

その時だったー。
部屋の扉が開いた。

「---そ…湊夏(そうか)?」

「え…」

両手で胸をわしづかみにした状態の蒼太の視線の先には、
蒼太の母親である幸枝の姿があった。

「え…ええええええええ!?」

蒼太は思わず叫んだ。

自分がなぜ、見ず知らずの女子高生になっているのか。
なぜ、その見ず知らずの女子高生の母親が
蒼太の母親の幸枝なのか?
そして、、湊夏とはなんだ?

「----き、、気づいたら、こんな身体になってて…
 えっと、その」

混乱する蒼太が、慌ててそう説明すると
幸枝はにっこり微笑んだ。

いつも、蒼太が見ている母親の幸枝と、
同じ姿だが、なんだか少しおしゃれだし、
明るく活気のある雰囲気に見えるー。

蒼太の知る幸枝は、元気がなくやつれた感じだー。

だが、今、目の前にいる母・幸枝は
ものすごくイキイキとしている。

「--寝起きで、寝惚けてるのね…
 胸を触ってニヤニヤしてるなんて、どうしたの?」

幸枝が微笑む。

「え、、、あ、、いや、、、え~っと…
 母さん…?俺って…?」

「--俺?ふふ…まだ寝惚けてるの?
 湊夏。学校から帰ってきて、疲れて寝ちゃったのね。」

「--え、いや…そうじゃなくて…」

困惑する蒼太。

これは何だ?
どうやら、入れ替わりではない。
母の雰囲気から察するに、
自分が女になっている。

蒼太ではなく、湊夏にー。

「--お~い、ちょっと来てくれ~!」

1階から声がする。

「は~い!」
幸枝が嬉しそうに返事をする。

男ー?

蒼太は疑問に思う。

「---今の声は?」
蒼太が聞くと、
幸枝は振り返った。

「--ええ?寝惚けすぎじゃない?
 決まってるでしょ?湊夏のお父さんよ」

お父さんー?

馬鹿なー。

蒼太の父は、死んでいるー
蒼太の父は、交通事故で、死んでいるー。

母が、そう言っていたー。

蒼太は夢―
かとも一瞬思ったが、
少し違う気がしたー

ここは…

「か、、、母さん…」
1階に下りて行こうとする母の幸枝に声をかける。

「---あ、、あの…
 かあさ、、いや、お母さんは、、
 お父さんのこと、好き…?」

なんとなく聞いてみたかった。

娘にそう聞かれた幸枝は答えた。

「もちろんよ。
 一生、一緒に人生を過ごしていくって
 決めた人だもの」

幸枝はとても幸せそうだった。

「…そっか」
蒼太は思うー

ここは、
”別次元の世界ではないか”とー。

夢にしてはリアリティがありすぎる。

”ちょっとだけ何かが違っていたらー”
の世界ー。

父親が死なずにー
息子ではなく娘が生まれた世界ー

そうなのではないかと、
蒼太は思った。

日付も同じ―
けれどー
母や、自分の運命は、違っていた世界ー。

下に降りると、
”父親”がそこにはいたー

「お、帰ったのか」

父親も会社から帰ってきたばかりのようだった。

蒼太は、どう反応していいのか分からず
「お、、おかえりなさい」と呟く。

父親は少し不思議そうな顔をするー。

ちょうど、母の幸枝が
ご近所さんに呼ばれたようで、家の外へと出ていくー。

スカートの感覚に落ち着かないまま
そわそわしながら、蒼太はふと、
”父親”の腕に大きな傷があるのに気付いた。」

「---え、、えっと、、おとうさん…」

”湊夏”として声をかける。

「ん?どうした?」
父は、湊夏の方を見る。

これが、自分の父親なのかー。

蒼太はそう思った。
女の体になっているからだろうか。
それとも、父親に見つめられているからだろうか。

ものすごく、ドキドキした。

「ちょっと…一緒におでかけ…しようぜ…じゃない、しない?」

ここで変な話をするのも気が引けた。
それに、父と子で、二人で出かける、ということを
経験してみたい。

蒼太はそんな風に思った。

「--珍しいな?最近は俺のこと嫌がるのに」
父は笑った。

年齢的には思春期だ。
”湊夏”はこの父のことを普段、避けているのだろう。

顔を赤らめて

「ま、、た、、たまにはね」

と、恥ずかしそうに蒼太は答えた。

父は微笑むと、
「よし、ちょっと待ってろ」と言って
そのまま仕度を始めるのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・

父は、限られた時間を使って
色々な場所に自分を連れて行ってくれた。

アイスクリームを食べさせてくれたりー

買い物をしたりー

ゲームコーナーで遊んだりー

何気ない父と娘の時間ー。

「--ふぅ。そろそろ晩御飯の時間だ。
 早く帰らないと怒られちゃうな」

父が笑うー。

クレーンゲームでぬいぐるみを取った父が、
そのぬいぐるみを眺めながら微笑んでいる。

「---その傷…」

父の腕にある傷を指さしながら
蒼太が聞くー

スカートがスースーして落ち着かない。
けど、今はそんなことよりも聞きたいことがあった。

「ん?これか?」
父が自分の傷を見ながら言った。

「これはーー
 そうだな…お前が生まれる前に、
 暴走車をよけようとして大事故に巻き込まれたことがあってな…」

父がその時を思い出しながら言う。

父は、既に妊娠していた母をかばったのだと言う。

そして、その時に出来た傷が、腕の傷なのだとかー。

「---…」
蒼太は思う。

この世界は、自分がいた世界とは別の世界ー

これが夢なのか
それともパラレルワールドと呼ばれる類のものなのかは分からない。

けれどー

自分の世界の”父”は、
その事故の際に死んだのだと、蒼太は思った

”父が事故で死んだ”ということは母から聞いている。

母である幸枝をかばった自分の世界の父は、
この世界の父とは違って、助からなかったのだとー。

「--ねぇ、、、お父さん」

一回呼んでみたかった

お父さんとー。

その響きを、蒼太は知らないからー

「ん?」
父が、ぬいぐるみをいじりながら笑う。

「もしも…もしも…
 私がお父さんの死んじゃった世界から
 来たって言ったら信じてくれる?」

父は、一瞬戸惑ったような表情を
浮かべていたがぼそっと
「そういうことか…」と呟いた。

「--わたし、、、いや、、、俺の世界では
 お父さん、いいや、父さんはその
 交通事故で死んでいて、
 俺は、母さんと二人きりなんだ…」

湊夏として喋るのをやめ、
蒼太として、男子高校生としての
口調で話しだすー。

父は、口を挟まずに静かに
その言葉を聞いている。

「---ーーそれでも不自由なんて
 ないと思ってた…でも…」

湊夏の目からふいに涙がこぼれる。

「ーー父さんのいる世界って…
 やっぱり、、、いいよな…」

涙をこぼしながら顔を上げようとするとー
父は湊夏を無言で抱きしめた。

「---ごめんな」

父が言う。
暖かい言葉だった。

「--そっちの世界のお前と幸枝に
 悲しい思いをさせてごめんな」

それだけ言うと、
父は、湊夏から離れた。

「---よし」

父が言う。

「今日は、一生分、お父さんが遊んでやるぞ」

その言葉に、蒼太は微笑んだ。

「---父さん…
 今日だけは、蒼太って呼んでもらってもいいかなー」

そう言うと、
父は頷いた。

「湊夏、、いや、、蒼太。
 お前の世界の俺の分まで、いっぱい遊んでやる」

微笑む父ー

父と蒼太は、夢のような時間を過ごしたー

そしてー

「---」

もう、おわりな気がした。
元の世界に自分が戻る時間が近づいている。

そう思った。

「--そっちの世界の母さんによろしくな」
父が言う。

「--うん」
蒼太が頷く。

父と娘は、
固い握手を交わした。

こっちの世界に、父はいないー
父の分まで、自分が母を守らなくてはいけないー

蒼太はそう決意する。

そしてー
最後に、一言だけ聞こうとした

「あのさー
 父さん…

 父さんの名前を、聞いてもいいかなー?」

その言葉を聞くと、
父は優しく微笑んだ。

「俺の名はーーー」

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

蒼太は、元の世界に戻っていた。

なぜ、急に異世界に飛ばされたのかは分からない。

けれど、
あの世界では自分は男ではなく女として生まれ
湊夏という名前で元気よく育っていた。

父は、交通事故では死なず、生きていたー
蒼太が父に会ったのは初めてだったが
とても良い”父”だったー
交通事故での生死を分けたのは何だったのか。
それは、分からない。

母は、父が生きているからか、とてもいきいきしていた。

「--おはよう」

母の幸枝と言葉を交わす蒼太。

そういえば、最近、あまりまともに言葉を
交わしてなかった。

そう思った蒼太は、学校に向かおうと玄関に
向かっていた足を止めて、
母の幸枝の方に向かった。

「母さん…いつも、ありがとな」

それだけ言うと、蒼太は
「何よ急に」と微笑む母の幸枝の方を見て、

「父さんが、よろしくって言ってたよ」

と優しく告げたー

その意味が伝わったかは分からない。

いや、恐らく伝わらないだろうー

でもー

”母さんのことを、頼んだぞ”

あっちの世界の父に、そう言われた。

こっちには”父”はいないー

だからー
自分が父さんの分も母を守って行かなくてはいけないー

蒼太は、そう決意したのだった。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

アライズ様との合作というかたちで、
アライズ様がPixivに上げているお話をベースに、
私なりの書き方で書いてみました!

冒頭にアライズ様の原作へのリンクも
貼っておいたので、ぜひそちらも読んでみて下さいネ~!

お読み下さりありがとうございました~!

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