彼には、生まれたときから父親がいなかったー。
そんな彼が
ある日、目を覚ますと女子高生になっていて…?
※
本作は、アライズ様(@sinobunekota)が
Pixivで公開している「君の居る夢(こちら)」を、私(無名)がリメイクした作品デス!
(↑を見たことが無くてもお楽しみ頂けます)
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父親ー。
周りの子には、当たり前のように存在する、それが
彼にはいなかった。
龍宮 蒼太(たつみや そうた)ー
彼には、父親がいないー
けれど、それを特別不便に感じたことは無かったし、
母・幸枝(さちえ)も、精一杯の愛情を注ぎ、
蒼太が不便に思わないような暮らしをさせてくれたー。
彼は、そんな日常に満足していたー。
父の名前は、知らないー。
父の姿も、はっきりとは、分からない。
写真で少しだけ見せてもらったことはあるがー、
悲しい思いをさせないためだろうか。
父のことを、母は、あまり口にしなかった。
小さい頃に少しだけ、
”事故で死んだ”と教えてもらったことがあるー。
その事故がどんな事故だったのかは知らない。
ある日ー、
蒼太はいつものように帰宅した。
「--ただいま」
蒼太が母の幸枝にいつものように声をかける。
「おかえりなさい」
幸枝もいつものように、口を開く。
「---…」
どことなくー
最近は二人の間にすれ違いが生まれていた。
何故だろうか。
答えは分かっているー。
なんとなく、照れくさいからだ。
蒼太は思春期真っ最中ー
母である幸枝に感謝はしているのだが、
それを口にするのが、なんだか、恥ずかしいー
そんな年齢だった。
今日も、いつものような1日が過ぎてー
今日も、ベットに入るー
また明日、目覚まし時計が鳴って
学校に向かうー
おなじ日々の繰り返しー
に、なるはずだった。
しかしー
そうは、ならなかった。
「---ん!?」
身体に違和感を感じた蒼太は
慌てて起き上がる。
「-----え?!」
自分は、制服姿になっていたー。
しかも、女子高生のー。
「えええええええ~!?」
大声で叫ぶ蒼太。
その口から出たのも、当然、女の子としての声ー
蒼太はさらに驚いてしまう。
「な、なんだ、、スカートって…
こんなスースーするのか…」
蒼太は足の部分が外の空気に触れることに、
何だかとても頼りなさを感じた。
例えるならばそう、ズボンを穿き忘れたかのような
気分だ。
スースーして落ち着かない。
見慣れない部屋ー
「なんだ…これ?」
夢か?と困惑する蒼太。
部屋には、写真が飾られているー。
女子高生と、その父親らしき人物が
一緒に映っていて、楽しそうに微笑んでいる。
「--だれだ…?」
蒼太は困惑するー
なんで自分が女子高生の身体に?
誰かと入れ替わるか何かしてしまったのだろうか。
それとも…
「いや、待て、これはたぶん夢だ」
蒼太はそう思った。
急に自分が女子高生の身体になるなんてありえない。
だから、これは夢だ。
そう自分に言い聞かせて、勝手に納得した蒼太は呟く。
「そうだ…夢なら、何をしても、怒られないよな…」
おもむろに自分の胸に手を触れる。
「うわぁ…柔らかい」
蒼太は思わずニヤニヤしてしまう。
夢にしてはやけにリアリティがある。
年頃の女の子らしい部屋を見渡し、姿見の
前に立ち、胸を揉みまくる蒼太。
「んんふぅぅぅ♡」
だんだん気持ちよくなってきた。
その時だったー。
部屋の扉が開いた。
「---そ…湊夏(そうか)?」
「え…」
両手で胸をわしづかみにした状態の蒼太の視線の先には、
蒼太の母親である幸枝の姿があった。
「え…ええええええええ!?」
蒼太は思わず叫んだ。
自分がなぜ、見ず知らずの女子高生になっているのか。
なぜ、その見ず知らずの女子高生の母親が
蒼太の母親の幸枝なのか?
そして、、湊夏とはなんだ?
「----き、、気づいたら、こんな身体になってて…
えっと、その」
混乱する蒼太が、慌ててそう説明すると
幸枝はにっこり微笑んだ。
いつも、蒼太が見ている母親の幸枝と、
同じ姿だが、なんだか少しおしゃれだし、
明るく活気のある雰囲気に見えるー。
蒼太の知る幸枝は、元気がなくやつれた感じだー。
だが、今、目の前にいる母・幸枝は
ものすごくイキイキとしている。
「--寝起きで、寝惚けてるのね…
胸を触ってニヤニヤしてるなんて、どうしたの?」
幸枝が微笑む。
「え、、、あ、、いや、、、え~っと…
母さん…?俺って…?」
「--俺?ふふ…まだ寝惚けてるの?
湊夏。学校から帰ってきて、疲れて寝ちゃったのね。」
「--え、いや…そうじゃなくて…」
困惑する蒼太。
これは何だ?
どうやら、入れ替わりではない。
母の雰囲気から察するに、
自分が女になっている。
蒼太ではなく、湊夏にー。
「--お~い、ちょっと来てくれ~!」
1階から声がする。
「は~い!」
幸枝が嬉しそうに返事をする。
男ー?
蒼太は疑問に思う。
「---今の声は?」
蒼太が聞くと、
幸枝は振り返った。
「--ええ?寝惚けすぎじゃない?
決まってるでしょ?湊夏のお父さんよ」
お父さんー?
馬鹿なー。
蒼太の父は、死んでいるー
蒼太の父は、交通事故で、死んでいるー。
母が、そう言っていたー。
蒼太は夢―
かとも一瞬思ったが、
少し違う気がしたー
ここは…
「か、、、母さん…」
1階に下りて行こうとする母の幸枝に声をかける。
「---あ、、あの…
かあさ、、いや、お母さんは、、
お父さんのこと、好き…?」
なんとなく聞いてみたかった。
娘にそう聞かれた幸枝は答えた。
「もちろんよ。
一生、一緒に人生を過ごしていくって
決めた人だもの」
幸枝はとても幸せそうだった。
「…そっか」
蒼太は思うー
ここは、
”別次元の世界ではないか”とー。
夢にしてはリアリティがありすぎる。
”ちょっとだけ何かが違っていたらー”
の世界ー。
父親が死なずにー
息子ではなく娘が生まれた世界ー
そうなのではないかと、
蒼太は思った。
日付も同じ―
けれどー
母や、自分の運命は、違っていた世界ー。
下に降りると、
”父親”がそこにはいたー
「お、帰ったのか」
父親も会社から帰ってきたばかりのようだった。
蒼太は、どう反応していいのか分からず
「お、、おかえりなさい」と呟く。
父親は少し不思議そうな顔をするー。
ちょうど、母の幸枝が
ご近所さんに呼ばれたようで、家の外へと出ていくー。
スカートの感覚に落ち着かないまま
そわそわしながら、蒼太はふと、
”父親”の腕に大きな傷があるのに気付いた。」
「---え、、えっと、、おとうさん…」
”湊夏”として声をかける。
「ん?どうした?」
父は、湊夏の方を見る。
これが、自分の父親なのかー。
蒼太はそう思った。
女の体になっているからだろうか。
それとも、父親に見つめられているからだろうか。
ものすごく、ドキドキした。
「ちょっと…一緒におでかけ…しようぜ…じゃない、しない?」
ここで変な話をするのも気が引けた。
それに、父と子で、二人で出かける、ということを
経験してみたい。
蒼太はそんな風に思った。
「--珍しいな?最近は俺のこと嫌がるのに」
父は笑った。
年齢的には思春期だ。
”湊夏”はこの父のことを普段、避けているのだろう。
顔を赤らめて
「ま、、た、、たまにはね」
と、恥ずかしそうに蒼太は答えた。
父は微笑むと、
「よし、ちょっと待ってろ」と言って
そのまま仕度を始めるのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・
父は、限られた時間を使って
色々な場所に自分を連れて行ってくれた。
アイスクリームを食べさせてくれたりー
買い物をしたりー
ゲームコーナーで遊んだりー
何気ない父と娘の時間ー。
「--ふぅ。そろそろ晩御飯の時間だ。
早く帰らないと怒られちゃうな」
父が笑うー。
クレーンゲームでぬいぐるみを取った父が、
そのぬいぐるみを眺めながら微笑んでいる。
「---その傷…」
父の腕にある傷を指さしながら
蒼太が聞くー
スカートがスースーして落ち着かない。
けど、今はそんなことよりも聞きたいことがあった。
「ん?これか?」
父が自分の傷を見ながら言った。
「これはーー
そうだな…お前が生まれる前に、
暴走車をよけようとして大事故に巻き込まれたことがあってな…」
父がその時を思い出しながら言う。
父は、既に妊娠していた母をかばったのだと言う。
そして、その時に出来た傷が、腕の傷なのだとかー。
「---…」
蒼太は思う。
この世界は、自分がいた世界とは別の世界ー
これが夢なのか
それともパラレルワールドと呼ばれる類のものなのかは分からない。
けれどー
自分の世界の”父”は、
その事故の際に死んだのだと、蒼太は思った
”父が事故で死んだ”ということは母から聞いている。
母である幸枝をかばった自分の世界の父は、
この世界の父とは違って、助からなかったのだとー。
「--ねぇ、、、お父さん」
一回呼んでみたかった
お父さんとー。
その響きを、蒼太は知らないからー
「ん?」
父が、ぬいぐるみをいじりながら笑う。
「もしも…もしも…
私がお父さんの死んじゃった世界から
来たって言ったら信じてくれる?」
父は、一瞬戸惑ったような表情を
浮かべていたがぼそっと
「そういうことか…」と呟いた。
「--わたし、、、いや、、、俺の世界では
お父さん、いいや、父さんはその
交通事故で死んでいて、
俺は、母さんと二人きりなんだ…」
湊夏として喋るのをやめ、
蒼太として、男子高校生としての
口調で話しだすー。
父は、口を挟まずに静かに
その言葉を聞いている。
「---ーーそれでも不自由なんて
ないと思ってた…でも…」
湊夏の目からふいに涙がこぼれる。
「ーー父さんのいる世界って…
やっぱり、、、いいよな…」
涙をこぼしながら顔を上げようとするとー
父は湊夏を無言で抱きしめた。
「---ごめんな」
父が言う。
暖かい言葉だった。
「--そっちの世界のお前と幸枝に
悲しい思いをさせてごめんな」
それだけ言うと、
父は、湊夏から離れた。
「---よし」
父が言う。
「今日は、一生分、お父さんが遊んでやるぞ」
その言葉に、蒼太は微笑んだ。
「---父さん…
今日だけは、蒼太って呼んでもらってもいいかなー」
そう言うと、
父は頷いた。
「湊夏、、いや、、蒼太。
お前の世界の俺の分まで、いっぱい遊んでやる」
微笑む父ー
父と蒼太は、夢のような時間を過ごしたー
そしてー
「---」
もう、おわりな気がした。
元の世界に自分が戻る時間が近づいている。
そう思った。
「--そっちの世界の母さんによろしくな」
父が言う。
「--うん」
蒼太が頷く。
父と娘は、
固い握手を交わした。
こっちの世界に、父はいないー
父の分まで、自分が母を守らなくてはいけないー
蒼太はそう決意する。
そしてー
最後に、一言だけ聞こうとした
「あのさー
父さん…
父さんの名前を、聞いてもいいかなー?」
その言葉を聞くと、
父は優しく微笑んだ。
「俺の名はーーー」
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
蒼太は、元の世界に戻っていた。
なぜ、急に異世界に飛ばされたのかは分からない。
けれど、
あの世界では自分は男ではなく女として生まれ
湊夏という名前で元気よく育っていた。
父は、交通事故では死なず、生きていたー
蒼太が父に会ったのは初めてだったが
とても良い”父”だったー
交通事故での生死を分けたのは何だったのか。
それは、分からない。
母は、父が生きているからか、とてもいきいきしていた。
「--おはよう」
母の幸枝と言葉を交わす蒼太。
そういえば、最近、あまりまともに言葉を
交わしてなかった。
そう思った蒼太は、学校に向かおうと玄関に
向かっていた足を止めて、
母の幸枝の方に向かった。
「母さん…いつも、ありがとな」
それだけ言うと、蒼太は
「何よ急に」と微笑む母の幸枝の方を見て、
「父さんが、よろしくって言ってたよ」
と優しく告げたー
その意味が伝わったかは分からない。
いや、恐らく伝わらないだろうー
でもー
”母さんのことを、頼んだぞ”
あっちの世界の父に、そう言われた。
こっちには”父”はいないー
だからー
自分が父さんの分も母を守って行かなくてはいけないー
蒼太は、そう決意したのだった。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
アライズ様との合作というかたちで、
アライズ様がPixivに上げているお話をベースに、
私なりの書き方で書いてみました!
冒頭にアライズ様の原作へのリンクも
貼っておいたので、ぜひそちらも読んでみて下さいネ~!
お読み下さりありがとうございました~!
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