<入れ替わり>本当の闇

いじめっ子の気の強いお嬢様と、
いじめられっ子の少女ー。

しかし、2人の間には誰も知らない”闇”があったー。

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「あんたうざいんだけど!」

お嬢様育ちで
ワガママな女子高生・北本 藤香(きたもと ふじか)が
クラスメイトの女子生徒にきつい言葉を投げかける。

「ご…ごめん…」

気弱そうな眼鏡の女子生徒
中松 里佳子(なかまつ りかこ)がおびえた表情で言う。

「--そうやってウジウジしてるの、うざいのよ!」
藤香の怒りはさらにエスカレートする。

クラスメイトたちはその様子に気付いているものの、
見てみぬふりをしている。

藤香が陰険な性格の持ち主であることを知っていたし、
藤香には取り巻きもいるから、
そのターゲットになりたくない、という思いが
クラスメイトたちにはあったのだった。

藤香のいじめが終わる。

落ち込んだ様子で
自分の座席に戻ってくる里佳子。

「--大丈夫か?」
里佳子の幼馴染である厳太(げんた)が
声をかける。

「う、、、うん」
里佳子は泣きそうになりながら厳太の方を見たー

「そ、そんな顔するなって」
厳太は、藤香の方をちらっと見ながら
里佳子を慰める。

どうにかしてやりたいー

里佳子とは小学生のころからの付き合いだ。
どうにかしてやりたいがー

厳太はーー
ビビりだった。

だから、気の強いお嬢様である藤香に
直接何かを言うようなことはできなかった。

けれどー
それでも、里佳子のことは助けてあげたかった。

怯えた表情の里佳子を見て、
厳太は里佳子の頭を撫でる。

「--元気出せよ!ハンバーガーおごってやるから、な!」
その言葉に、里佳子は少しだけ微笑む。

里佳子は小柄ながらハンバーガーが大好きだった。

こうして何かあると、厳太にいつも
ハンバーガーを食べさせてもらっている。

「・・・・・・・・・」
その様子をいじめっ子の藤香が
じーっと見つめていた。

・・・・・・・・・・・・・

なんとかして藤香をこらしめる方法はないのか。

夜ー。

厳太は自宅でスマホをいじりながら
いじめっ子へのささやかな仕返しの方法を探していた。

もちろん、藤香をどうこうしてやろう、というつもりはないが、
ちょっとした懲らしめ…程度のことをしてやろうと、
そう、考えていたー

「ん…?」

ふと、ネットを眺めていた厳太の目に、
ある広告が入ったー。

”人の身体を入れ替える 入れ替わり薬”

「---!?」
入れ替わりだって?
厳太はそんな風に思いながら、
「はは、んなわけあるかよ」と
呟いたものの、
どうしても気になって、その広告を見つめたー

そしてー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日。

朝から藤香が嫌味を言っている。
里佳子はいつものように、怯えた様子だ。

クラスメイトたちはヒソヒソと藤香の悪口を言っている。

けれど、陰険な藤香とその取り巻きに
手を出されるのが嫌で
誰も、里佳子を助けようとはしない。

落ち込んだ様子で座席に戻ってくる里佳子。

厳太はすかさず声をかける。

「大丈夫か…?」
と。

「うん…」
里佳子はいつものように落ち込んだ様子で
そう返事をした。

なんとかしてあげたい。

そうは思っているものの、
藤香にガツンと言ってやることは厳太にはできないー

「なぁ…里佳子…」
厳太は、里佳子に対して
昨日ネットで見つけた”入れ替わり薬”の話をした。

「それを手にいれてさ、身体を入れ替えて
 北本さんにいじめられる辛さって言うのを
 味あわせてあげるなんて、どうだ?」

厳太はー
藤香と里佳子を入れ替えて、
立場を逆転させて
懲らしめてやる方法を提案したー。

がー
里佳子の反応は思いのほか薄かった。

入れ替わり薬に驚くと思っていたが、
そんなこともなく、
厳太の提案にも乗り気じゃなさそうだった。

「---い、、いいよ…」
里佳子が遠慮ぎみに言った。

「で…でもよぉ、このままじゃ、里佳子も辛いだろ?」
厳太がそう言うと、
里佳子は優しく微笑んだ。

「--だいじょうぶ…厳太君がいれば…だいじょうぶだから…」

里佳子の言葉に厳太は
嬉しい気持ちでいっぱいになったー。

里佳子は思った以上に
自分のことを頼りにしてくれている。

そうだー
入れ替わり薬なんて必要ないんだ。

里佳子の側にこうして居てあげるだけでも、
里佳子の力になることは、できる。

厳太は
「--里佳子…頑張ろうな」と
優しく呟いた。

その様子を遠目から
いじめっ子の藤香が不愉快そうに
見つめていた…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

放課後。

厳太は背後から藤香に声をかけられた。

「--ち、ちょっと話があるんだけど」
藤香はキョロキョロしながら厳太を
近くの空き教室に誘い込む。

「…な、、なんだよ急に」
厳太は内心ひやひやしていた。

里佳子と親しくしていることで、
何か言われるのではないかと
そう思ったからだ。

陰険な藤香に目をつけられると面倒くさい。

藤香と、その友人の一人である、
これまたネチネチと面倒くさい女子・彩夏が、
厳太の方を見つめている。

「---入れ替わり薬…
 さっき、里佳子と話をしてたわよね?」
藤香が言う。

「--え、あ、いや…」
厳太はとっさに誤魔化そうとしたが
藤香はさっきの話を聞いていたようだ。

誤魔化せそうな空気ではない。

「どうやったら、手に入るの?」
藤香が言う。

「--な、なんだって?」
厳太は不思議そうな顔をしたー。

藤香が入れ替わり薬を手に入れて何に使うつもりだ?

いや、こいつのことだ。
ロクなことには使わないー

「お…お前になんか教えるわけねーだろ!」
厳太が言う。

藤香は
「いいから教えてよ!」と叫ぶ。

何故だかとっても必死だ。

「---藤香」
隣にいた藤香の友人・彩夏が藤香を止める。

「聞いても無駄よ、いこっ」
友達の彩夏に言われた藤香はしばらく考えるような仕草を
見せた後に、悲しそうな表情をして立ち去って行った。

一人空き教室に残された厳太は呟く。

「あいつになんて入れ替わり薬のこと教えたら
 ロクなことにならねぇよ…」

藤香が入れ替わり薬を何に使おうとしているかは
分からない。

それでも、藤香に入れ替わり薬を渡すわけにはいかない。
陰険でワガママな奴のことだ。
ロクなことにはならないー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日 放課後ー

藤香は今日も不機嫌そうな様子で下校しようとしていたー。

取り巻きの女子生徒は何人かいるものの、
基本的に藤香はクラスメイトたちから
避けられ気味だ。

いじめられっ子とは違うー
だが、避けられている。

みんな、陰険な藤香たちのターゲットになりたくないのだ。

「---…!」
昇降口付近の廊下を歩いていた藤香の前に
いじめられっ子の里佳子が姿を現した。

「----…」
藤香は、里佳子の姿を見つけると
静かにうなずき、
里佳子の後についていくー

里佳子が人の気配のない校舎裏にやってくると
口を開いた

「--ふふふ…」

里佳子が不気味な笑みを浮かべる。

いつも里佳子をいじめている藤香が
とたんに弱弱しい表情を浮かべたー

「---誰も、気づかないみたいね…」
里佳子がにやりと笑った。

「---そ、、そろそろ…返してーーー」
藤香が泣きそうになりながら呟いた

「--わたしの…からだー」

藤香の言葉を聞いて、里佳子は笑ったー

「嫌よ…
 あたしはね…この身体が気に入ったの…
 もう返さない…

 あんたはずっと、その身体でー
 あたしとして…
 ううん、藤香として生きていくのよ」

里佳子が普段見せない
強気な口調で言うと
藤香は「そ…そんな…」と目に涙を浮かべた。

クラスメイトたちは知らないー

”いじめっ子・藤香”と
”いじめられっ子・里佳子”の本当の闇をー

彼女たちはー
1か月前にー”入れ替わって”いたー。

「あたし、厳太のこと好きだったのに、
 厳太はあんたに夢中で、あたしのことなんか
 見向きもしてくれなかった。

 だからー
 奪ったのよ
 あんたの身体ー

 ふふふ…
 これで厳太はあたしのものよ」

里佳子が笑うー

1か月前ー
いじめっ子・藤香は密かに好意を寄せていた
厳太に遠回しに告白したことがある。

しかし、その際に厳太に
苦笑いされた上に、
冗談はよしてくれー
と言われてしまった。

厳太はいじめられっ子・里佳子のことが好きだったからだー。

そのことに気付いた藤香は、入れ替わり薬を
ネットで手に入れたー

そしてー
里佳子を空き教室に呼び出しー
入れ替わったのだったー

それからはー
お互いの記憶を読み取りながら、
お互い、本人として振る舞ってきたー。

藤香の身体になった里佳子は、藤香として、
里佳子の身体になった藤香は、里佳子としてー
この1か月間過ごしてきたー

藤香の指示で、
表向きは藤香(里佳子)が、里佳子(藤香)をいじめているー

が、裏ではー

里佳子になった藤香が、藤香になった里佳子を支配しているー

「あんたはこれからもあたしとして生きていくのよ」
里佳子が腕を組みながら笑う。

いつも、クラスメイトたちに見せている姿とは
真逆の姿ー
当たり前だー。

中身が、入れ替わっているのだから…

「い…いやだ…身体を…返して!」
藤香が泣き叫ぶ。

いつもの姿とはー
真逆の藤香。

「---この身体はあたしのものよ!
 あんたはこれからも、みんなの前では
 あたしをいじめて、高飛車なお嬢様を
 演じてなさい!あははははははは!」

里佳子は笑いながら立ち去って行く。

「--分かってるわよね?
 もしも逆らったら、あんたの家族、滅茶苦茶にしてあげるから…」

里佳子はそう言うと、
にやりと微笑んで、立ち去って行った。

もちろんー
藤香になってしまった里佳子は、
里佳子になった藤香にばれないように、
助けを求めようとしたー

けれどー
藤香の友人である
取り巻きの一人ー彩夏ー。

彼女は入れ替わりのことを知っていて、
藤香(里佳子)を見張っているー

何かおかしな行動があれば、すぐに
彩夏は里佳子(藤香)に知らせてしまうー

入れ替わり薬の話をしていた厳太を見て
なんとか入手方法を知ろうとして、
厳太を呼び出したが、
それも、彩夏を通じて、里佳子(藤香)に
伝わってしまった。

だからー
助けを求めることもできないー

家族を人質に取られたも同然の状態の
里佳子には、なすすべもなかったのだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

後日。

里佳子(藤香)は楽しそうに
厳太と話をしている。

「俺が守ってやるからな」
厳太が優しく笑うー。

そんな様子を遠くから見ながら
藤香(里佳子)は涙を流すのだったー。

クラスメイトたちは、気づかない。
藤香と里佳子の本当の姿にー

2人が入れ替わっているという”本当の闇”にー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

ちょっと変わった入れ替わりモノでした…!

入れ替わっていると分かる部分が
少ないので、予定表にずっと載せたまま
保留にしていた作品ですが、
せっかくなので、今回、書いてみました!

お読み下さりありがとうございました~!

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コメント

  1. 匿名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    これは面白い趣向ですね〜♪
    真実を知った上で読み直して心情を想像するとゾクゾクきます!

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > これは面白い趣向ですね〜♪
    > 真実を知った上で読み直して心情を想像するとゾクゾクきます!

    コメントありがとうございます~!
    ちょっと変わったお話にしてみました~!